最後の恋は神さまとでしたR

明智 颯茄

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宇宙船がやってきただす/3

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 宝石のように異様に輝く黄緑色の瞳はどこまでも純真で、不浄という言葉がないこの世界では、彼の描いている絵は芸術作品でしかなかった。

 浮遊を取り入れた体位を絵で表現したい。それが男の望みであるのだが、女の綺麗な曲線と一緒に描こうとすると、どうにもうまくいかなかった。それでも、実現できる構図を考えようとしたが、

「空間を歪め――」
「お兄ちゃん!」

 幼い声が真下の地面から響いた。

「何?」

 聞き返す声色は何の感情もなく、無機質という言葉が一番合っていた。

焉貴これたかお兄ちゃん、いつものやって!」

 今度は違う弟が声を張り上げた。今書いていた絵をスケッチブックから破いて、地面へ放り投げる。大人の絵を――。

「やんない。絵描いてるから」

 小さな兄弟たちが紙を拾いに行こうとするが、焉貴は止めるどころか、気にした様子もない。

「何描いたの?」
「何に見えんの?」

 兄は十歳にもならない弟たちに聞いてみた。しかし、彼の心は至って清く正しい大人のものだった。弟や妹たちは感嘆の吐息をもらす。

「ウサギさんがお餅ついてる~!」
「可愛い!」
「おいしそう!」

 反応がおかしかったが、それはいつものことで、焉貴はただ短くうなづいた。

「そう」

 神様はランダムなのかと、彼は思った。法則性がないのだ。まぶしい青空を見上げ、問いかける。

「今日はウサギに見せて、明日何にすんの?」

 大人の話は子供にはどうやっても漏洩しない。今みたいに別のものに変えられてしまう。話をしていても、別の話になる。行為を目の前でしたとしても、なかったことになっているのだ。

 これがこの世界の常識。大人も子供もそれほど気を使わず、生きてゆけるのだ。芸術作品も規制を受けることなく、自由に表現できる。

 今日はウサギの餅つきだったというデータにして、焉貴は山吹色をしたボブ髪の中にある頭脳にしまった。

 ブラウザのタブを切り替えるようにデジタルに、兄は次へと進もうとしたが、抗議の声が下からたくさん上がった。

「お兄ちゃ~ん!」
「自分で飛んでください」

 時々丁寧語になる兄とは長い付き合いで、子供たちは地面の上でぴょんぴょん飛び跳ね出した。

「えぇ~~!」
「登れないから、お願いしてるんでしょ!」
「そうそう。僕たちじゃ小さいから、そこまで高く飛べないの!」

 浮遊の能力は案外、小さいうちに手に入れられるものだが、神さまにも霊層がある。心が澄んでいるほど、経験を多く積んでいるほど、高い場所へと登れる。長く生きている兄には弟たちは叶わないのだ。

「お前たち、手離しちゃうじゃん?」

 高い場所へ連れていってもらって、手を離す弟たち。重力が十五分の一。しかも、ケガをしない死なない世界。

 だが、多少の痛みはある。兄の意見はもっともだった。

「…………」

 兄一人に言い負かされてしまった弟たちだったが、人数がいれば知恵は出てくるもので、一人が大きい声で言い返した。

「離してないけど、離れちゃうんだもん!」
「そうだ、そうだ!」

 鉛筆でデッサンをしていた両手を止め、焉貴は動じることなく、いつも通り問題を出した。

「その力何て言うの?」

 弟たちは顔を見合わせて、嬉しそうに微笑み、

「せ~の!」

 一人の掛け声に合わせて、綺麗な青空に子供たちの大きな声が飛び出した。

「遠心力!」
「はい、正解です! 願いを叶えて差し上げます!」

 焉貴は右手をサッと斜めに上げて、そのまま降りてくるのではなく、パレットやバケツと一緒に地面へ瞬間移動した。

 白のはだけたシャツとピンクの細身のズボン。一年中裸足というラフな格好の、兄に子供たちが走り寄る。

「やった~!」

 その数ざっと五十人ほど。縁側でコンドルと話している父とお茶菓子を持って出てきた母を、焉貴は眺める。

(ほんと、うちの両親仲良いよね)

 弟と妹たちが次から次へと生まれてきて、夫婦円満だと大きな息子にはよくわかっていた。穏やかな農家で、焉貴の長い腕は伸ばされる。

「ほら、つかまって」

 小さな手が、白いシャツをしっかりと握る。

「は~い!」
「次、僕!」
「私!」

 次々に数珠つながりになってゆく弟と妹たち。焉貴は黙ってしばらく見ていたが、

「ちょちょちょちょっ!」
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