159 / 243
おまけはまだ愛している/3
しおりを挟む
おまけであろうとも、妻の過去を、神の力で追ってゆく。また一枚紙をめくる。
「火炎不動明王、国の情報メディア監督期間、民間との折衝役。花梨輪、妻」
ゲームソフトをしまい、また別のものを取り出す。これをプレイしている倫礼の心の声が聞こえてくる。
「――もっとゴツいイメージかと思ったら、優しい人なんだね。でも、ちょっと個性的な価値観かな? っていうか、天然ボケ? だね」
神様の名前やデータを吸収してゆくのが楽しくて仕方がない日々。倫礼の笑顔は今よりもずっと自然だったが、それは無知であるが故のものだった。
そして、また一枚めくる。
「独健、聖輝隊の聖獣隊、特殊任務。陽和師、妻」
一度しまったゲームソフトをもう一度取り出した。鮮やかな緑色の短髪を持つキャラクターを見つめる。
「俺がモデルになったものと同じものに出ている……」
神の悪戯か何かなのか、奇妙なキャスティングで、よくよく見れば、夕霧命という男もモデルで出ていた。ゲーム画面を見つめながら、お菓子をつまんでいる倫礼が浮かぶ。
「――ふ~ん、女性を守ろうとする、優しいタイプ。ん~、ちょっと好みじゃないかな?」
そして、蓮は同じページで身近な人の名前を見つけた。
「明智 光秀、聖獣隊、特殊任務……」
そこでもう一度、独健がモデルになっているキャラクターを凝視しながら、
「ん? 父上は今現在、聖輝隊だ。だいぶ昔のものか?」
また同じページを見ると、今度は違う名前が目に入った。
「張飛、聖獣隊……」
彼のモデルになっているゲームソフトはどこにもなかった。人をバッサバサ斬るゲームが得意ではないと言って、見逃したのだ。
「――もめた? 自分の国と比べて? 熱い人だなぁ~」
孔明がパーティー会場で見た場面を人から聞いて、倫礼が困惑している姿が浮かび上がった。ゲームソフトを置いて、蓮は綺麗な唇を指先でなぞる。
「聖獣隊は……なくなったと学校で習ったが……? まだ存在しているのか?」
邪神界を知らない世代の、蓮は平和な世界の中で生まれ生きている。鋭利なスミレ色の瞳をあちこちにやっていたが、倫礼の記憶と足して結論にたどり着いた。
「これは、十年以上も前に書いたものだ」
もう一度よく見ようとすると、夫は妻の本棚から、この名前をとうとう見つけてしまった。
「光命……」
おまけの倫礼から大量の記憶がなだれ込んできて、守護神は人間の女の過去に簡単にたどり着いた。
「俺が生まれる前に、おまけが好きになった男。人間ではなくて、神だ」
嫉妬心を持たない神の世界で暮らす蓮は、激しい怒りに駆られた。
「なぜ、俺と結婚した?」
おまけの倫礼が己の気持ちに嘘をついていることが許せなかった。己に誠実でないことが許せなかった。断りたいのなら、断ればよかったのだと問い詰めたくなった。
静かに眠っている倫礼の寝顔を両手で触れられないながらもつかんで、心の中に呼びかけて無理やり起こしてやろうと思った。
しかし、蓮の手は彼女の頬に届く前にふと止まった。おまけは自身の気持ちに嘘をまったくついていないと感じ取って。
代替えとか、妥協とか、そんなのではなく、蓮のことを素直に好きになったのだ。もう、彼女は光命を忘れているのだ、健在意識では。心の奥底には残っていても、もう意識して覚えていないのだ。
眠っている肉体がまだ奇跡来だったころの、コウと話した内容が蓮にも聞こえてくる。全体の流れがつながらない、途切れ途切れのまま。
「綺麗な名前だね。現代的だ。光なんて」
「神さまの名前だぞ。呼び捨てにするな」
「そうだね。じゃあ、光命さん」
まるで映画を見ているように、倫礼の記憶は進んでいき、決定的な話がコウからもたらされた。
「彼女ができた!」
「あぁ、そうか……」
「いや~! なかなか彼女ができなかったが、やっぱり運命の出会いというものはあるんだな。人それぞれ出会う時期などは違うから、光命は少し遅かっただけなのかもしれないな」
「そうだよね。光命さんだって大人だもんね、彼女ができるよね」
「そうだ。どうした?」
「いや……。よかったなって。光命さんが幸せになることができて」
「だろう? 母親に似てる人を彼女に選んだらしいぞ。かなりの天然ボケで、罠を張って悪戯しては喜んでるそうだ。結婚するのも時間の問題だろうな」
「そうか。光命さんはそういう女の人が好きだったんだね。みんな結婚してたもんね。だから、光命さんもすぐにするね」
どんな存在にも聞こえないように、おまけの倫礼は感情を自分の中へ閉じ込めて、泣くこともせず、ただひたすら耐えた。
たとえ神であろうとも、人間本人が手を伸ばさないのなら、叶える必要などない。一生懸命手を伸ばして、願っているからこそ、どんな存在でも応えてあげたくなるものだ。
倫礼が望んでいないのならと蓮は思い、鼻でバカにしたようにわざと笑った。
「ふんっ! 所詮運命じゃなかったんだな。あきらめたから、今まで想いもしなかったし、口にもしなかったんだな」
うんうんと何度もうなずきながら、忘れ去られた古い資料を瞬間移動で本棚へ戻した。そして、もう一度寝顔を見ようとすると、守護神――結婚をした夫には伝わってしまった。
「火炎不動明王、国の情報メディア監督期間、民間との折衝役。花梨輪、妻」
ゲームソフトをしまい、また別のものを取り出す。これをプレイしている倫礼の心の声が聞こえてくる。
「――もっとゴツいイメージかと思ったら、優しい人なんだね。でも、ちょっと個性的な価値観かな? っていうか、天然ボケ? だね」
神様の名前やデータを吸収してゆくのが楽しくて仕方がない日々。倫礼の笑顔は今よりもずっと自然だったが、それは無知であるが故のものだった。
そして、また一枚めくる。
「独健、聖輝隊の聖獣隊、特殊任務。陽和師、妻」
一度しまったゲームソフトをもう一度取り出した。鮮やかな緑色の短髪を持つキャラクターを見つめる。
「俺がモデルになったものと同じものに出ている……」
神の悪戯か何かなのか、奇妙なキャスティングで、よくよく見れば、夕霧命という男もモデルで出ていた。ゲーム画面を見つめながら、お菓子をつまんでいる倫礼が浮かぶ。
「――ふ~ん、女性を守ろうとする、優しいタイプ。ん~、ちょっと好みじゃないかな?」
そして、蓮は同じページで身近な人の名前を見つけた。
「明智 光秀、聖獣隊、特殊任務……」
そこでもう一度、独健がモデルになっているキャラクターを凝視しながら、
「ん? 父上は今現在、聖輝隊だ。だいぶ昔のものか?」
また同じページを見ると、今度は違う名前が目に入った。
「張飛、聖獣隊……」
彼のモデルになっているゲームソフトはどこにもなかった。人をバッサバサ斬るゲームが得意ではないと言って、見逃したのだ。
「――もめた? 自分の国と比べて? 熱い人だなぁ~」
孔明がパーティー会場で見た場面を人から聞いて、倫礼が困惑している姿が浮かび上がった。ゲームソフトを置いて、蓮は綺麗な唇を指先でなぞる。
「聖獣隊は……なくなったと学校で習ったが……? まだ存在しているのか?」
邪神界を知らない世代の、蓮は平和な世界の中で生まれ生きている。鋭利なスミレ色の瞳をあちこちにやっていたが、倫礼の記憶と足して結論にたどり着いた。
「これは、十年以上も前に書いたものだ」
もう一度よく見ようとすると、夫は妻の本棚から、この名前をとうとう見つけてしまった。
「光命……」
おまけの倫礼から大量の記憶がなだれ込んできて、守護神は人間の女の過去に簡単にたどり着いた。
「俺が生まれる前に、おまけが好きになった男。人間ではなくて、神だ」
嫉妬心を持たない神の世界で暮らす蓮は、激しい怒りに駆られた。
「なぜ、俺と結婚した?」
おまけの倫礼が己の気持ちに嘘をついていることが許せなかった。己に誠実でないことが許せなかった。断りたいのなら、断ればよかったのだと問い詰めたくなった。
静かに眠っている倫礼の寝顔を両手で触れられないながらもつかんで、心の中に呼びかけて無理やり起こしてやろうと思った。
しかし、蓮の手は彼女の頬に届く前にふと止まった。おまけは自身の気持ちに嘘をまったくついていないと感じ取って。
代替えとか、妥協とか、そんなのではなく、蓮のことを素直に好きになったのだ。もう、彼女は光命を忘れているのだ、健在意識では。心の奥底には残っていても、もう意識して覚えていないのだ。
眠っている肉体がまだ奇跡来だったころの、コウと話した内容が蓮にも聞こえてくる。全体の流れがつながらない、途切れ途切れのまま。
「綺麗な名前だね。現代的だ。光なんて」
「神さまの名前だぞ。呼び捨てにするな」
「そうだね。じゃあ、光命さん」
まるで映画を見ているように、倫礼の記憶は進んでいき、決定的な話がコウからもたらされた。
「彼女ができた!」
「あぁ、そうか……」
「いや~! なかなか彼女ができなかったが、やっぱり運命の出会いというものはあるんだな。人それぞれ出会う時期などは違うから、光命は少し遅かっただけなのかもしれないな」
「そうだよね。光命さんだって大人だもんね、彼女ができるよね」
「そうだ。どうした?」
「いや……。よかったなって。光命さんが幸せになることができて」
「だろう? 母親に似てる人を彼女に選んだらしいぞ。かなりの天然ボケで、罠を張って悪戯しては喜んでるそうだ。結婚するのも時間の問題だろうな」
「そうか。光命さんはそういう女の人が好きだったんだね。みんな結婚してたもんね。だから、光命さんもすぐにするね」
どんな存在にも聞こえないように、おまけの倫礼は感情を自分の中へ閉じ込めて、泣くこともせず、ただひたすら耐えた。
たとえ神であろうとも、人間本人が手を伸ばさないのなら、叶える必要などない。一生懸命手を伸ばして、願っているからこそ、どんな存在でも応えてあげたくなるものだ。
倫礼が望んでいないのならと蓮は思い、鼻でバカにしたようにわざと笑った。
「ふんっ! 所詮運命じゃなかったんだな。あきらめたから、今まで想いもしなかったし、口にもしなかったんだな」
うんうんと何度もうなずきながら、忘れ去られた古い資料を瞬間移動で本棚へ戻した。そして、もう一度寝顔を見ようとすると、守護神――結婚をした夫には伝わってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです
珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。
その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。
冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い
森本イチカ
恋愛
妹じゃなくて、女として見て欲しい。
14歳年下の凛子は幼馴染の優にずっと片想いしていた。
やっと社会人になり、社長である優と少しでも近づけたと思っていた矢先、優がお見合いをしている事を知る凛子。
女としてみて欲しくて迫るが拒まれてーー
★短編ですが長編に変更可能です。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる