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最後の恋は神さまとでした
愛には愛を持って/3
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知らない女だったが、倫礼はすぐに誰だかわかった。
「覚師さんですね?」
「そうさ。小説書いてくれてたんだったね。光から聞いたよ」
「それは私じゃなくて、他の人が書いて――!」
そこで、おまけの倫礼はピカンとひらめいた。
「わかった!」
「何だい? 急に大声なんか出して」
「どうして、こんなに次々に結婚するんだろうって思ったけど、そういうことか」
ふむふむとうなずいている妻の考えていることは、光命には手に取るようによくわかっていた。
「えぇ」
魂を交換しただけあって、他人よりは数段分かりやすくなっているのだ。倫礼は頭を突然下げた。
「ありがとうございます。光さん。そして、夕霧さんに覚師さんもです」
「構わん」
「あんた、話が早いね」
細かい説明はしていないのに、人間の女にはよく伝わったと思い、覚師はうれしくなった。倫礼は納得したことを口にする。
「倫さんと知礼さんはホテルに缶詰。蓮はコンサートツアーで留守。そうなると、私を守護するのは光さんだけ」
「えぇ、ですが、私は守護の資格を取るために、来週から研修へ二週間出かけてしまいます。さらには彼らは守護の資格を持っています。ですから、彼らと結婚するのです」
光命が急いで結婚を申し込んだのはこういうことであった。おまけの記憶の中にあった、夕霧命と覚師の職業を現実に並べる。
「夕霧さんは躾隊。覚師さんは学校の先生。定時で帰れて、長期不在もなしだから、私の守護は安心ってことですね?」
「えぇ」
霊感を持っている妻が寂しくならないように、迷わないようにという、夫の配慮だった。倫礼はまた頭を下げた。
「お気遣い、本当にありがとうございます」
「ってことだからさ、よろしく頼むよ」
「はい」
覚師に粋に言われて、倫礼は素直にうなずいた。
「子供の面倒はこっちで見るから安心しな」
「はい、ありがとうございます」
覚師はサバサバとした性格で、とても付き合いやすい妻だった。
*
そして翌日。夕霧命は道場へやってきていた。今は趣味で習っている武道。下が紺に上が白の袴に着替えて、木刀を小脇に抱えている。
「師匠、お話があります」
「何かの?」
年老いた声がのんびりと向けられた。
「この度、男と結婚しました」
「……ディーバさんとか?」
師匠は珍しく驚くかと思っていたが、夕霧は少し調子抜けした。
「師匠、驚かないんですか?」
「驚くも何も、あれだけニュースでやっとるからの~。お主の顔もちょっと映っとったわ。全国に顔は知れ渡っとる」
「そうですか」
人気アーティストの結婚は世間に知れ渡り始めていた。
「お主、いつもじっと座っておるから保守的か思っとったが……」師匠は顔を下へ向け、夕霧命の腰前をじっと見つめた。「そういうところはハイカラじゃったんじゃな」
夕霧命は握った拳を唇に当てて噛みしめるように笑った。
「くくく……。師匠、ハイカラは死語です」
師匠は腰で両手を組んで、背の高い夕霧命を下から眺めた。
「よい結婚をしたの」
「ありがとうございます」
「よい結婚をしたの~!」
思いっきり意味ありげに、師匠は弟子にもう一度言った。夕霧命は真顔に戻る。
「どのような意味ですか?」
「お主知らぬようじゃな? 地球に妻が一人おるであろう?」
「師匠はご存知だったんですか?」
「話したことはあらぬが、あの人間はワシの名前は知っとるぞ」
今も本棚に挟んである神様名簿に、師匠の名前は載っているが、おまけの倫礼は健在意識で忘れているのだった。
世の中狭いものだと、夕霧命は思った。
「知らんかった……」
「結婚はお主のためでもあったのかも知れんの」
「俺のため?」
師匠の言っている意味がわからず、夕霧命は不思議そうな顔をした。
「家に帰ればわかる。今日はもう帰れ」
夫婦水いらず。こんな時くらい、修行は休め。師匠は夕霧命から離れていき、一人残されて弟子は少しぼんやりしていたが、言われた通り道場を後にした。
*
家に帰って、おまけの倫礼の元へ行くなり、妻は飛びつくように話しかけてきた。
「あぁっ! 夕霧さん、いいところにきました。合気って、普通触れたら相手の重心を奪って、肩甲骨まわりで気の流れを回してかけるじゃないですか?」
「そうだ」
興奮気味に次々と話す妻の前で、夕霧命は落ち着き払って話を聞いている。
「離れてても、地面とか床でつながってたらかけられるじゃないですか? その時も重心は肩甲骨まわりで回すんですか?」
「師匠が言っていたのは、このことだったのか……」
夕霧命は目を細めて微笑んだ。
「覚師さんですね?」
「そうさ。小説書いてくれてたんだったね。光から聞いたよ」
「それは私じゃなくて、他の人が書いて――!」
そこで、おまけの倫礼はピカンとひらめいた。
「わかった!」
「何だい? 急に大声なんか出して」
「どうして、こんなに次々に結婚するんだろうって思ったけど、そういうことか」
ふむふむとうなずいている妻の考えていることは、光命には手に取るようによくわかっていた。
「えぇ」
魂を交換しただけあって、他人よりは数段分かりやすくなっているのだ。倫礼は頭を突然下げた。
「ありがとうございます。光さん。そして、夕霧さんに覚師さんもです」
「構わん」
「あんた、話が早いね」
細かい説明はしていないのに、人間の女にはよく伝わったと思い、覚師はうれしくなった。倫礼は納得したことを口にする。
「倫さんと知礼さんはホテルに缶詰。蓮はコンサートツアーで留守。そうなると、私を守護するのは光さんだけ」
「えぇ、ですが、私は守護の資格を取るために、来週から研修へ二週間出かけてしまいます。さらには彼らは守護の資格を持っています。ですから、彼らと結婚するのです」
光命が急いで結婚を申し込んだのはこういうことであった。おまけの記憶の中にあった、夕霧命と覚師の職業を現実に並べる。
「夕霧さんは躾隊。覚師さんは学校の先生。定時で帰れて、長期不在もなしだから、私の守護は安心ってことですね?」
「えぇ」
霊感を持っている妻が寂しくならないように、迷わないようにという、夫の配慮だった。倫礼はまた頭を下げた。
「お気遣い、本当にありがとうございます」
「ってことだからさ、よろしく頼むよ」
「はい」
覚師に粋に言われて、倫礼は素直にうなずいた。
「子供の面倒はこっちで見るから安心しな」
「はい、ありがとうございます」
覚師はサバサバとした性格で、とても付き合いやすい妻だった。
*
そして翌日。夕霧命は道場へやってきていた。今は趣味で習っている武道。下が紺に上が白の袴に着替えて、木刀を小脇に抱えている。
「師匠、お話があります」
「何かの?」
年老いた声がのんびりと向けられた。
「この度、男と結婚しました」
「……ディーバさんとか?」
師匠は珍しく驚くかと思っていたが、夕霧は少し調子抜けした。
「師匠、驚かないんですか?」
「驚くも何も、あれだけニュースでやっとるからの~。お主の顔もちょっと映っとったわ。全国に顔は知れ渡っとる」
「そうですか」
人気アーティストの結婚は世間に知れ渡り始めていた。
「お主、いつもじっと座っておるから保守的か思っとったが……」師匠は顔を下へ向け、夕霧命の腰前をじっと見つめた。「そういうところはハイカラじゃったんじゃな」
夕霧命は握った拳を唇に当てて噛みしめるように笑った。
「くくく……。師匠、ハイカラは死語です」
師匠は腰で両手を組んで、背の高い夕霧命を下から眺めた。
「よい結婚をしたの」
「ありがとうございます」
「よい結婚をしたの~!」
思いっきり意味ありげに、師匠は弟子にもう一度言った。夕霧命は真顔に戻る。
「どのような意味ですか?」
「お主知らぬようじゃな? 地球に妻が一人おるであろう?」
「師匠はご存知だったんですか?」
「話したことはあらぬが、あの人間はワシの名前は知っとるぞ」
今も本棚に挟んである神様名簿に、師匠の名前は載っているが、おまけの倫礼は健在意識で忘れているのだった。
世の中狭いものだと、夕霧命は思った。
「知らんかった……」
「結婚はお主のためでもあったのかも知れんの」
「俺のため?」
師匠の言っている意味がわからず、夕霧命は不思議そうな顔をした。
「家に帰ればわかる。今日はもう帰れ」
夫婦水いらず。こんな時くらい、修行は休め。師匠は夕霧命から離れていき、一人残されて弟子は少しぼんやりしていたが、言われた通り道場を後にした。
*
家に帰って、おまけの倫礼の元へ行くなり、妻は飛びつくように話しかけてきた。
「あぁっ! 夕霧さん、いいところにきました。合気って、普通触れたら相手の重心を奪って、肩甲骨まわりで気の流れを回してかけるじゃないですか?」
「そうだ」
興奮気味に次々と話す妻の前で、夕霧命は落ち着き払って話を聞いている。
「離れてても、地面とか床でつながってたらかけられるじゃないですか? その時も重心は肩甲骨まわりで回すんですか?」
「師匠が言っていたのは、このことだったのか……」
夕霧命は目を細めて微笑んだ。
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