470 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Sacred Dagger/5
しおりを挟む
天使の聖なる光の影響で悪霊の力が少しだけ弱まり、死霊の手錠から崇剛の両手首は解放され、床へ足がストンとついた。
神父はそれを見逃さず、足元で縦に突き刺さったままになっていたダガーを横蹴りし、反動で天井へ刃先が反転した。
浮かんだところを、ロングブーツを履いた足の甲へ柄を乗せ、慣れた感じで軽く持ち上げ、
「っ!」
天へ向かって、一直線を力強く描くジェットノズルのように、自分の右手に飛び上がってきたダガーの柄を素早くつかみ、無事に再参戦させた。すぐさま悪霊を一人斬り裂く。
「ウワーッッ!!」
悲鳴が上がる。迫りくる白い透き通った手をダガーで斬り、時には壁に向かって投げつけて磔にしてゆく。
戦闘中の神父。
と、
何もしない天使。
どちらも男性なのに、綺麗な顔立ちと丁寧な物腰で中性的。だが今は、長い髪が色気という川を背中でたゆたわせ、ふたりとも女性的な雰囲気だった。
百八十七センチの瑠璃色をした貴族服。
と、
二メートル超えの聖なる白いローブ。
それらは背中合わせで、余暇をともに楽しむ貴族みたいな出で立ちで、悪霊たちと対峙する。
聖霊師と天使のまわりには、悪霊が不浄の渦潮をなしていた。神父は影を聖なるダガーで着実に魂から追い出しながら、優雅に天使とおしゃべりを楽しむ。
「なぜ、神は私の守護をあなたに任せたのでしょうね?」
が、ひどく皮肉まじりだった。対する天使は怒りもせず、ニコニコの笑みで平然と言い返す。
「あなたと私の楽園かもしれませんよ~?」
「どちらから、そちらの言葉にたどり着かれたのですか?」
「神の御心かもしれませんね~?」
「なぜ、わざと返答をずらして返されるのですか?」
「そちらのほうが、崇剛が死ぬ可能性が高いと思いましてね?」
「無慈悲極まりありませんね、ラジュ天使は。正神界の天使とはとても思えませんよ」
「おや~? 手厳しいですね、崇剛は。うふふふっ」
とどめを刺さないまま、ふたりの言葉の掛け合いは続いてゆく。
生きようとしている崇剛だけは、手足がきちんと動いていたが、運動には向かない彼の息は少しずつ上がってきて、ギブアップ寸前だった。
未だに穢れが払われない古い聖堂を、冷静な水色の瞳いっぱいに映して、背後にいる無慈悲な天使に乞う。
「そろそろ浄化していただけませんか?」
さっきから壁に磔にした悪霊は、魂から黒い影が浮き上がっているだけで、この場から消え去って――地獄に落ちていない。
千里眼は見極める力だけで、浄化の能力は秘めていないのだった。
「仕方がありませんね~。シャァァァァーーッッ!!!!」
喧嘩している猫が発する威嚇のような声を、ラジュは突如上げ、真っ白な聖なる光に旧聖堂は一斉に包まれた。悪霊たちは波を受ける砂浜のように、さーっと消え去ってゆく。
たくさんの魂が浄化される余波に耐えられず、崇剛は目を右腕で覆った。手に持っているダガーが床へ力なく落ち、そのまま両膝は脱力したようにそこへ打ちつけられた。
申し訳なさそうに差し込む陽光だけになると、上質なシルクのブラウスは前から床へどさりと倒れた。その背中に向かって、ラジュはおどけたように言う。
「おや~? 霊体も気絶するんですね。そちらを確かめてみたかったんです~」
ラジュは完全に、崇剛をモルモットにしていた。天使は永遠の世界で生きている。病気も怪我もない。だからこそ、死という恐怖を知らず、純粋なまでに残酷だった。
ラジュが右手を軽く上げると、白いローブの袖は揺れて、崇剛の霊体は一瞬にして肉体へと戻った。人を気絶するまで追い込んでおいて、ラジュはわざとらしく困った顔をする。
「天使の私では、崇剛の肉体には触れられませんからね。屋敷まで運べません。どうのようにしましょうか~?」
金髪天使は人差し指をこめかみに当てて、考える振りをする。
「乙葉 涼介を呼ぶのが一番妥当でしょうか? ですが、あの者は私を見ることはできませんからね~。瞬もできませんね~。瑠璃は眠っていますし……」
倒れたままの崇剛の神経質な横顔を、二メートル超えの長身で見下ろし、ラジュは首を傾げた。
「しかしなぜ、崇剛はこちらの場所にきては、このように気絶するを繰り返すのでしょうか?」
廃墟などに行けば淀んだ空気が漂い、悪霊がいる可能性が非常に高い。勝利をつかみたいはずの崇剛。それなのに、わざわざ足を運んでしまうのだった。
神父はそれを見逃さず、足元で縦に突き刺さったままになっていたダガーを横蹴りし、反動で天井へ刃先が反転した。
浮かんだところを、ロングブーツを履いた足の甲へ柄を乗せ、慣れた感じで軽く持ち上げ、
「っ!」
天へ向かって、一直線を力強く描くジェットノズルのように、自分の右手に飛び上がってきたダガーの柄を素早くつかみ、無事に再参戦させた。すぐさま悪霊を一人斬り裂く。
「ウワーッッ!!」
悲鳴が上がる。迫りくる白い透き通った手をダガーで斬り、時には壁に向かって投げつけて磔にしてゆく。
戦闘中の神父。
と、
何もしない天使。
どちらも男性なのに、綺麗な顔立ちと丁寧な物腰で中性的。だが今は、長い髪が色気という川を背中でたゆたわせ、ふたりとも女性的な雰囲気だった。
百八十七センチの瑠璃色をした貴族服。
と、
二メートル超えの聖なる白いローブ。
それらは背中合わせで、余暇をともに楽しむ貴族みたいな出で立ちで、悪霊たちと対峙する。
聖霊師と天使のまわりには、悪霊が不浄の渦潮をなしていた。神父は影を聖なるダガーで着実に魂から追い出しながら、優雅に天使とおしゃべりを楽しむ。
「なぜ、神は私の守護をあなたに任せたのでしょうね?」
が、ひどく皮肉まじりだった。対する天使は怒りもせず、ニコニコの笑みで平然と言い返す。
「あなたと私の楽園かもしれませんよ~?」
「どちらから、そちらの言葉にたどり着かれたのですか?」
「神の御心かもしれませんね~?」
「なぜ、わざと返答をずらして返されるのですか?」
「そちらのほうが、崇剛が死ぬ可能性が高いと思いましてね?」
「無慈悲極まりありませんね、ラジュ天使は。正神界の天使とはとても思えませんよ」
「おや~? 手厳しいですね、崇剛は。うふふふっ」
とどめを刺さないまま、ふたりの言葉の掛け合いは続いてゆく。
生きようとしている崇剛だけは、手足がきちんと動いていたが、運動には向かない彼の息は少しずつ上がってきて、ギブアップ寸前だった。
未だに穢れが払われない古い聖堂を、冷静な水色の瞳いっぱいに映して、背後にいる無慈悲な天使に乞う。
「そろそろ浄化していただけませんか?」
さっきから壁に磔にした悪霊は、魂から黒い影が浮き上がっているだけで、この場から消え去って――地獄に落ちていない。
千里眼は見極める力だけで、浄化の能力は秘めていないのだった。
「仕方がありませんね~。シャァァァァーーッッ!!!!」
喧嘩している猫が発する威嚇のような声を、ラジュは突如上げ、真っ白な聖なる光に旧聖堂は一斉に包まれた。悪霊たちは波を受ける砂浜のように、さーっと消え去ってゆく。
たくさんの魂が浄化される余波に耐えられず、崇剛は目を右腕で覆った。手に持っているダガーが床へ力なく落ち、そのまま両膝は脱力したようにそこへ打ちつけられた。
申し訳なさそうに差し込む陽光だけになると、上質なシルクのブラウスは前から床へどさりと倒れた。その背中に向かって、ラジュはおどけたように言う。
「おや~? 霊体も気絶するんですね。そちらを確かめてみたかったんです~」
ラジュは完全に、崇剛をモルモットにしていた。天使は永遠の世界で生きている。病気も怪我もない。だからこそ、死という恐怖を知らず、純粋なまでに残酷だった。
ラジュが右手を軽く上げると、白いローブの袖は揺れて、崇剛の霊体は一瞬にして肉体へと戻った。人を気絶するまで追い込んでおいて、ラジュはわざとらしく困った顔をする。
「天使の私では、崇剛の肉体には触れられませんからね。屋敷まで運べません。どうのようにしましょうか~?」
金髪天使は人差し指をこめかみに当てて、考える振りをする。
「乙葉 涼介を呼ぶのが一番妥当でしょうか? ですが、あの者は私を見ることはできませんからね~。瞬もできませんね~。瑠璃は眠っていますし……」
倒れたままの崇剛の神経質な横顔を、二メートル超えの長身で見下ろし、ラジュは首を傾げた。
「しかしなぜ、崇剛はこちらの場所にきては、このように気絶するを繰り返すのでしょうか?」
廃墟などに行けば淀んだ空気が漂い、悪霊がいる可能性が非常に高い。勝利をつかみたいはずの崇剛。それなのに、わざわざ足を運んでしまうのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
67
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる