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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
優雅な主人は罠がお好き/3
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真剣な眼差しで注意してきた男の名は、乙葉 涼介、二十八歳。崇剛の執事でありコック。崇剛とは対照的に体育会系で、かなりの感覚人間。
直感がよく働き、ラジュ天使からそれをよく受けて、崇剛の危機を救いにくる。
崇剛の元を訪れた最初の患者で、あることから助けてもらい、息子と一緒に住み込みで、ベルダージュ荘で執事とコックをすることとなった。
はつらつさと優しさがトレードマーク。ただ左薬指の細いシルバーリングが、過去の悲劇で憂いを秘めていた。
崇剛に恩義を感じており、立場以上に彼をいつも気遣っている。趣味は畑での野菜作りと料理。
苦手な会話は男性同士の恋愛――BL系。崇剛に懺悔と称して、その手の話を意図的に振られ、しどろもどろする場面が多々あり。
開け放たれた窓から、黄色の蝶がひらひらと舞い込んできた。サイドテーブルに置かれた三日月が横へ寝転がるような、二本足で立っている独特の瓶に、リボンを添えるように止まった。
酔眼朦朧な世界の海中で、遊泳を楽しんでいる琥珀色をしたブランデー。正確にはコニャックを、冷静な水色の瞳の端に映したまま、執事の言った言葉から極めて重要なことに手をかけた。
涼介が私にブランデーを飲ませたという可能性は上がり、97.76%――
崇剛は心の中で、優雅に降参のポーズを取った。
(困った人ですね、あなたは)
主人がさっきにらんだ通り、執事は手違いを起こしていたようだったが、まずそれには触れず、ゆっくりと起き上がった。崇剛の着ているシルクのブラウスで窓から差し込む春の優しい陽光が遊びまわる。
(十四時三十八分二十五秒)
策略家の中で涼介を叱る方法が組み立てられてゆくが、とりあえずは、主人は助けれくれた執事に対して素直に謝罪した。
「そちらはまた、迷惑をかけてしまいましたね」
崇剛は思う。話せば話すほど、自身の情報は漏洩すると。教会へ行ったと自分で言ってしまった執事の言葉から、ラジュが天啓を涼介に与えたという可能性は、以前のデータと足して百パーセント近くまで跳ね上がってしまった。
そんなこととも知らず、珍しく素直に謝ってきた策略的な主人に、負担をかけまいと思って、涼介は何気なく話題を変えた。
「お前今日は、フォーティーワンだ。それでチャラにしてやる」
ダーツの矢を投げる仕草をした。崇剛は何を言っているのかすぐに理解して、サイドテーブルのすぐ近くに立つ涼介に優雅な笑みを向けた。
「えぇ、構いませんよ」
試合開始前にする挨拶を早々と交わす。グーに握った拳がベッドと床の境界線上で軽くぶつかり合った。
「どうして、何度も教会へ行くんだ?」
心配しているような執事の前で、主人はまだかすれが残る声でもっともらしく言った。
「神から与えられた千里眼を持つ私の宿命です。ですから、この身を削ってでも悪霊を誘き出し、一人でも多く正神界へと戻るように浄化しているだけです」
そう答える崇剛の心のうちは、
私は断定的な言動は決して取りません。
なぜなら、相手に手の内を知られることとなり、負ける可能性が上がってしまいますからね――
冷徹なまでに合理主義者の彼は、常に言動は二つ以上の理由から起こしていた。
回りくどい崇剛とは違って、正直な涼介。主人が罠を平然と張り巡らすのを毎日まざまざと見せつけられていて、執事は額に手のひらを当てて、盛大にため息をついて、いつもの口癖が出た。
「この、へりくつ神父……」
いつだって主人は平然と嘘をつくのだ。他にも理由があるのだろうと、涼介は気づいていたが、怪我人を追求するのも気が引けた。
順調な回復を見せているような崇剛だったが、神経質な手で瞳を覆って、中性的な唇からはかなげな声がもれた。
「――めまいが少し残っているみたいです」
ブランデーの瓶へ視線を落としたが、執事から見えないところで、冷静な水色の瞳には悪戯好きな少年とまったく同じ光が微かに宿った。
直感がよく働き、ラジュ天使からそれをよく受けて、崇剛の危機を救いにくる。
崇剛の元を訪れた最初の患者で、あることから助けてもらい、息子と一緒に住み込みで、ベルダージュ荘で執事とコックをすることとなった。
はつらつさと優しさがトレードマーク。ただ左薬指の細いシルバーリングが、過去の悲劇で憂いを秘めていた。
崇剛に恩義を感じており、立場以上に彼をいつも気遣っている。趣味は畑での野菜作りと料理。
苦手な会話は男性同士の恋愛――BL系。崇剛に懺悔と称して、その手の話を意図的に振られ、しどろもどろする場面が多々あり。
開け放たれた窓から、黄色の蝶がひらひらと舞い込んできた。サイドテーブルに置かれた三日月が横へ寝転がるような、二本足で立っている独特の瓶に、リボンを添えるように止まった。
酔眼朦朧な世界の海中で、遊泳を楽しんでいる琥珀色をしたブランデー。正確にはコニャックを、冷静な水色の瞳の端に映したまま、執事の言った言葉から極めて重要なことに手をかけた。
涼介が私にブランデーを飲ませたという可能性は上がり、97.76%――
崇剛は心の中で、優雅に降参のポーズを取った。
(困った人ですね、あなたは)
主人がさっきにらんだ通り、執事は手違いを起こしていたようだったが、まずそれには触れず、ゆっくりと起き上がった。崇剛の着ているシルクのブラウスで窓から差し込む春の優しい陽光が遊びまわる。
(十四時三十八分二十五秒)
策略家の中で涼介を叱る方法が組み立てられてゆくが、とりあえずは、主人は助けれくれた執事に対して素直に謝罪した。
「そちらはまた、迷惑をかけてしまいましたね」
崇剛は思う。話せば話すほど、自身の情報は漏洩すると。教会へ行ったと自分で言ってしまった執事の言葉から、ラジュが天啓を涼介に与えたという可能性は、以前のデータと足して百パーセント近くまで跳ね上がってしまった。
そんなこととも知らず、珍しく素直に謝ってきた策略的な主人に、負担をかけまいと思って、涼介は何気なく話題を変えた。
「お前今日は、フォーティーワンだ。それでチャラにしてやる」
ダーツの矢を投げる仕草をした。崇剛は何を言っているのかすぐに理解して、サイドテーブルのすぐ近くに立つ涼介に優雅な笑みを向けた。
「えぇ、構いませんよ」
試合開始前にする挨拶を早々と交わす。グーに握った拳がベッドと床の境界線上で軽くぶつかり合った。
「どうして、何度も教会へ行くんだ?」
心配しているような執事の前で、主人はまだかすれが残る声でもっともらしく言った。
「神から与えられた千里眼を持つ私の宿命です。ですから、この身を削ってでも悪霊を誘き出し、一人でも多く正神界へと戻るように浄化しているだけです」
そう答える崇剛の心のうちは、
私は断定的な言動は決して取りません。
なぜなら、相手に手の内を知られることとなり、負ける可能性が上がってしまいますからね――
冷徹なまでに合理主義者の彼は、常に言動は二つ以上の理由から起こしていた。
回りくどい崇剛とは違って、正直な涼介。主人が罠を平然と張り巡らすのを毎日まざまざと見せつけられていて、執事は額に手のひらを当てて、盛大にため息をついて、いつもの口癖が出た。
「この、へりくつ神父……」
いつだって主人は平然と嘘をつくのだ。他にも理由があるのだろうと、涼介は気づいていたが、怪我人を追求するのも気が引けた。
順調な回復を見せているような崇剛だったが、神経質な手で瞳を覆って、中性的な唇からはかなげな声がもれた。
「――めまいが少し残っているみたいです」
ブランデーの瓶へ視線を落としたが、執事から見えないところで、冷静な水色の瞳には悪戯好きな少年とまったく同じ光が微かに宿った。
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