時限爆弾ケーキ

明智 颯茄

文字の大きさ
6 / 15

お題に答えて/2

しおりを挟む
 今は時限爆弾が作動中のために、この騒動を家に持ち込んだ夫が、歩く17禁を軽く補足する。

「君は仲良しというひとくくりで、大人の話まで同じように扱うので、そちらのようになっているだけではないんですか~?」

 仲良く話をする。
 と、
 大人の情事。

 が同レベル。いくら初の、バイセクシャル複数婚をしている明智家でも、異例の夫。焉貴が話すと、二言目には17禁ワードが登場する始末。

「そう。俺何でも言っちゃうの。俺のペニ◯、手コ◯してボッ◯させて、とかさ」

 焉貴はいつもこうなのだ。しかし、色欲はそこに存在しない。純真無垢で言ってくる。子供の心を持っている大人――ミラクル風雲児なのである。

 麦茶を飲んでいた夫が、高校の数学教師に聞く。

「生徒の前では言わないだろう?」
「それやっちゃったら、教師じゃないでしょ」

 焉貴先生、きちんと仕事をしていた。だが、問題はそこではなかったのだ。颯茄がツッコミ。

「っていうか、聞こえないシステムになってるじゃないですか!」
「そう、この世界は、ガキにはどうやっても、大人の話は聞こえないの~」

 聞かせたくないのなら、聞こえないシステムを開発してしまえ。が、銀河帝国の基本的な考え方で、子供は大人の話を知らないし、大人のそういう場面に出くわしても、何もないことになっているようだ。素晴らしい技術である。

 全員が、焉貴の純真無垢なR17にやられて、ため息をついた。

「じゃあ、セクハラいらない……」

 時間を伸ばしているっぽい感が漂っていたが、とにかく妻は全員の話を聞きたいのである。ささっと気持ちを入れ替えて、

「次、お願いします」

 ケーキがテーブルの上を横滑りした。

 ニコニコのまぶたに隠れていて見えない、ヴァイオレットの邪悪で誘迷ゆうめいな瞳。月のような綺麗な顔。鮮やかで濃いピンク――マゼンダ色の髪は腰まであり、上品に首の後ろでリボンで結ばれている。凛とした澄んだ儚げで丸みのある女性的なのに、しっかり男性の声でゆるゆる~っと話してきた。

「僕は月命るなすのみことと申します~。職業はカエル女装です~」

 進みやしない。時限爆弾を家に持ち込んだだけはある、夫だった。どんな職業だと、妻が心の奥底で思っていると、焉貴からもさすがに待ったの声がかかった。

「ちょちょっ! お前、またわざと失敗してんだけど……」

 ――またわざと失敗。

 危険な香りが思いっきりする月命。そうなると、この時限爆弾ケーキは、破滅への序曲をやはり本当に踏んでいるようだ。明智家、いや首都のある惑星が吹っ飛ぶのだ。

 皇帝陛下から、明智家は全て処罰の対象になるであろう。それなのに、夕霧命は落ち着き払って、まっすぐ質問した。

「それは何だ?」
「俺っちはわかるっすよ」

 人懐っこそうな瞳をしている夫は、うんうんと大きくうなずいた。

 細いシルバーのブレスレットを、ニコニコしている夫の右隣で触っている夫が、のんびりと日向ぼっこみたいに言う。

るなすが変身しちゃったみたいだね」

 ここで普通に対応しては、夫たちに負けなのである。颯茄は平常を装って、話をこっちへ持っていった。

「それはこう言うんじゃないんですか?」
「どのようにですか?」

 本人に聞き返されて、妻は修正を加えた。

「女装ガエル……こっちの方がしっくりくる」
「じゃあ、それ採用しちゃいます!」

 焉貴がハイテンションで、右手をパッと上に向かって上げると、妻はこうしめくくった。

「じゃあ、女装ガエルさんの職業が、月命です!」

 巧妙に入れ替えられた言葉。誰も何も言わず、先へ進もうとする。

「じゃあ、次だ」

 颯茄から一人間を挟んで、鼻声の夫が戸惑い気味に意見してきた。

「……逆だと思うんだが、これを誰も突っ込まないってことは、月の罠なのか?」

 とにかく、絶対に違うのだ、名前と職業が逆になっているのもそうだが、女装ガエルという職は、いくら帝国でもないのである。それなのに、爆発という恐怖心が先に進ませようとするのだ。

 ニコニコ微笑んでいるからこそ、怖さが増す不気味な含み笑いが聞こえてきた。

「うふふふっ」
「怖っ! い、今のはなかったことにしてくれ」

 鼻声の男は両手で肩をさすりながら、プルプルッと首を横に振って逃げようとしが、できなかった。

 この人を人とも思わず、残虐な遊びに酔いしれる中世ヨーロッパの貴族――

 の異名を持つ夫が一気に殺すのではなく、言葉にするのもおぞましい数々の責め苦を味合わせた上で、下から火であぶり殺すように、地獄への招待状を送ってきた。

「見逃して差し上げますが、君は僕に、こちらで貸しが十五個です~」
「あとで何されるか……か、考えるのも怖すぎる!」

 颯茄の近くでいつもの悲鳴が上がると、間延びした声が斜め向かいから聞こえてきた。

「ボクの番~?」
「言っちゃってください!」

 焉貴のハイテンションなまだら模様の声が響くと、ケーキがさっと移動した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

処理中です...