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2章
2ー6
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「おまえはなんでそういうこと言っちゃうかなあっ? 北村のことも考えて発言しろよ」
年上らしく説教したつもりだが、青はどうでもよさそうに「あいつのことなんか知るか」と漫画を本棚の横に置いた。
ズカズカとベッドまで距離を詰め、上から見下ろしてくる。顔の部分が影になり、より強張って見えた。まるで怒っているような表情。ちょっと怖い。怯みかけたものの、叶太は気を取り直して再び枕を投げつけた。
けれど当然のように枕をキャッチされてしまう。また投げ返されるだろうか。両手を胸の前に置いて受け止める体勢に入ると、青は脱力しながら枕をベッドの上にボスッと置いた。「はあ」と頭を下に垂れさせ、叶太の隣に座る。二人分の体重を乗せたベッドが沈む。
まるでボクシング選手が試合に敗れたときのような体勢だった。青は言葉を換えて、
「好きって言われたのか? 北村に」
と静かに聞いてきた。
もう言い逃れはできない。ごめん、北村。
叶太は心の中で北村に謝ってから、「うん」と答えた。
「叶太は? 北村のことどう思ってんの」
「どうって……」
「好きなの?」
「いや、それはない」
そう言った瞬間、青の目がわずかに揺れた。ちょっとだけホッとしたように見えたような気がしたが、あえて指摘するほどのことでもないと思った。叶太は続ける。
「だって急に言われてもさ、そういう風には見れなくない? 向こうは男だけど、オレが好きなのは女の子だし」
一瞬黙った青が「そっか」と気のない返事をする。
「断るときは、ちゃんと叶太も誠意見せろよ。向こうもかなり勇気出して、おまえに気持ち伝えたと思うから」
「え、オレ断るって言ってないけど」
自分のことを指で差すと、青は「は?」と怪訝そうに眉を歪ませた。
「好きじゃないって言ったじゃん。だったら断る以外に選択肢ねえだろ」
「返事はまだ聞かれてないっていうか、なんかあとでいいんだって」
「は? どういうこと?」
青の眉間のしわが濃くなる。イライラしているようだ。
「まずは先輩後輩として付き合ってみて、北村のことを知ってから、アリかナシか返事すればいいんだって」
「北村がそう言ったのか?」
「うん。そうだけど」
叶太が答えると、青は啞然とした様子で口をハクハクさせた。いつも余裕ぶっているくせに、こいつでもこんな顔をするんだなと意外だった。
「断れ。今すぐ断れ」
食い気味に言われ、叶太はむっとした。
「は、なんでそんなこと青に強制されなきゃなんないの」
「どうせ叶太は男を好きになるはずない。北村の傷が浅いうちに断れ」
決めつけられるような口ぶりに、叶太の中で火がついた。
「さっきから断れ断れって、おまえはオレのなんなんだよ。オレだってこれから北村のこと好きになるかもしれないのに、まだわかんねえじゃん。そもそもおまえになんの権利があんの?」
その瞬間、青がハッとする。
「それは……っ」
下唇をぎゅっと噛み、目線を下にやった。
どうせ好きになれるはずがないと断言されると、こっちだってムキになりたくもなる。北村の気持ちが真摯なものであることは、直接告白された自分が一番わかっている。もちろん、勇気を出して告白してくれたことも痛いほどに伝わった。
だからこそ、そんな大事なことに対して第三者の青が軽々しく「断れ」なんて言うのは間違っていると思った。投げやりのように言ってほしくなかった。憎たらしい幼なじみだけど、青のことは兄弟のように思っているからだ。
青は𠮟られた子どものように背中を丸める。いつも青には年上の威厳を見せてやりたいと思っているけど、いざ縮こまられると調子が狂った。
叶太はポンポンと労いの気持ちを込めて、自分よりでかい幼なじみの肩を叩いた。
「とにかく、おまえが友達の心配してるってことはわかったよ」
「……」
「じゃあこうしよ。オレが北村のこと傷つけたら殴っていいから」
なんなら友達思いな青の一面を見ることができて嬉しかったまである。青のためにも、北村とはちゃんと向き合わないといけないなと改めて背筋が伸びた。
青は長い沈黙のあと、「……殴れるわけねえじゃん」と弱々しく言った。
「いつも殴る殴るって言うくせに、急に弱気か~?」
笑いながら相手の口癖を指摘すると、青は目を伏せたまま「帰る」と一言。立ち上がったと思ったら、そのままドアから部屋を出て行ってしまった。
「あ、漫画忘れて――」
叶太の声が階段を降る足音にかき消される。本棚の隅には、青が置いていった漫画の表紙がエアコンの風に揺れていた。
年上らしく説教したつもりだが、青はどうでもよさそうに「あいつのことなんか知るか」と漫画を本棚の横に置いた。
ズカズカとベッドまで距離を詰め、上から見下ろしてくる。顔の部分が影になり、より強張って見えた。まるで怒っているような表情。ちょっと怖い。怯みかけたものの、叶太は気を取り直して再び枕を投げつけた。
けれど当然のように枕をキャッチされてしまう。また投げ返されるだろうか。両手を胸の前に置いて受け止める体勢に入ると、青は脱力しながら枕をベッドの上にボスッと置いた。「はあ」と頭を下に垂れさせ、叶太の隣に座る。二人分の体重を乗せたベッドが沈む。
まるでボクシング選手が試合に敗れたときのような体勢だった。青は言葉を換えて、
「好きって言われたのか? 北村に」
と静かに聞いてきた。
もう言い逃れはできない。ごめん、北村。
叶太は心の中で北村に謝ってから、「うん」と答えた。
「叶太は? 北村のことどう思ってんの」
「どうって……」
「好きなの?」
「いや、それはない」
そう言った瞬間、青の目がわずかに揺れた。ちょっとだけホッとしたように見えたような気がしたが、あえて指摘するほどのことでもないと思った。叶太は続ける。
「だって急に言われてもさ、そういう風には見れなくない? 向こうは男だけど、オレが好きなのは女の子だし」
一瞬黙った青が「そっか」と気のない返事をする。
「断るときは、ちゃんと叶太も誠意見せろよ。向こうもかなり勇気出して、おまえに気持ち伝えたと思うから」
「え、オレ断るって言ってないけど」
自分のことを指で差すと、青は「は?」と怪訝そうに眉を歪ませた。
「好きじゃないって言ったじゃん。だったら断る以外に選択肢ねえだろ」
「返事はまだ聞かれてないっていうか、なんかあとでいいんだって」
「は? どういうこと?」
青の眉間のしわが濃くなる。イライラしているようだ。
「まずは先輩後輩として付き合ってみて、北村のことを知ってから、アリかナシか返事すればいいんだって」
「北村がそう言ったのか?」
「うん。そうだけど」
叶太が答えると、青は啞然とした様子で口をハクハクさせた。いつも余裕ぶっているくせに、こいつでもこんな顔をするんだなと意外だった。
「断れ。今すぐ断れ」
食い気味に言われ、叶太はむっとした。
「は、なんでそんなこと青に強制されなきゃなんないの」
「どうせ叶太は男を好きになるはずない。北村の傷が浅いうちに断れ」
決めつけられるような口ぶりに、叶太の中で火がついた。
「さっきから断れ断れって、おまえはオレのなんなんだよ。オレだってこれから北村のこと好きになるかもしれないのに、まだわかんねえじゃん。そもそもおまえになんの権利があんの?」
その瞬間、青がハッとする。
「それは……っ」
下唇をぎゅっと噛み、目線を下にやった。
どうせ好きになれるはずがないと断言されると、こっちだってムキになりたくもなる。北村の気持ちが真摯なものであることは、直接告白された自分が一番わかっている。もちろん、勇気を出して告白してくれたことも痛いほどに伝わった。
だからこそ、そんな大事なことに対して第三者の青が軽々しく「断れ」なんて言うのは間違っていると思った。投げやりのように言ってほしくなかった。憎たらしい幼なじみだけど、青のことは兄弟のように思っているからだ。
青は𠮟られた子どものように背中を丸める。いつも青には年上の威厳を見せてやりたいと思っているけど、いざ縮こまられると調子が狂った。
叶太はポンポンと労いの気持ちを込めて、自分よりでかい幼なじみの肩を叩いた。
「とにかく、おまえが友達の心配してるってことはわかったよ」
「……」
「じゃあこうしよ。オレが北村のこと傷つけたら殴っていいから」
なんなら友達思いな青の一面を見ることができて嬉しかったまである。青のためにも、北村とはちゃんと向き合わないといけないなと改めて背筋が伸びた。
青は長い沈黙のあと、「……殴れるわけねえじゃん」と弱々しく言った。
「いつも殴る殴るって言うくせに、急に弱気か~?」
笑いながら相手の口癖を指摘すると、青は目を伏せたまま「帰る」と一言。立ち上がったと思ったら、そのままドアから部屋を出て行ってしまった。
「あ、漫画忘れて――」
叶太の声が階段を降る足音にかき消される。本棚の隅には、青が置いていった漫画の表紙がエアコンの風に揺れていた。
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