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8章
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しおりを挟む「うまくいってないんですね。先輩が言いたくなさそうなので、あまり詳しくは聞きませんけど」
はあ、と肩を落とし、北村がボヤる。
自分を振った相手の失恋話だ。ざまあみろと思わないのかな。そう思ったが、逆に吹っ切れているからこそ、こういった態度になれるのかもしれない。
「ごめん。心配してくれたのに」
「誰でも心配すると思いますよ。椿先輩のその痩せこけた顔を見たら」
「そんなにオレひどい顔してんの?」
「してますね」
北村は間髪入れずに断言した。
新学期に入り、好きな人――青に彼女ができたこと。それが悔しくて悲しくて、本人に八つ当たりしてしまったこと。
さすがにそれらを一から十まで説明するのはしんどいし、自分の説明能力的に難しいと思った。でも北村は自身の時間とクーポンとポイントを使ってまで、励まそうとしてくれたのだ。何も説明しないわけにはいかないよな。
「まあいろいろあって……今は自己嫌悪モードに入ってるっていうかさ」
かなり端折りながら自身の現状を説明しようとすると、北村の後ろで出入口の自動ドアが開いた。
外から男女のカップルが店内に入ってくる。叶太たちと同じ学校の制服だったので、自然と目がいってしまった。二人の顔を見た瞬間、叶太の頭からサーッと血の気が引いた。
「私はマンゴーシェイクにするけど、青くんはどうする?」
レジの最後尾に並んだ高校生カップル。それは間違いなく、青と詩乃だった。
詩乃が青の名前を出したことで気になったのか、北村が後ろを向いて店内に目を向けた。
「あ、五十嵐だ」
北村の声に、先に反応したのは青だ。詩乃と店内に入ってきた直後は無表情だった男の顔。それがこちらに向けられた瞬間、目の下がピクリと反応した。
青の隣にいる詩乃が、叶太たちを見る。北村に「だれ?」という目をしつつ、クラスメイトである叶太を見つけたと同時に、愛嬌のある笑顔がぱっと咲いた。
「え~偶然だね~」
手をひらひらさせながら、叶太たちのテーブル席に近づいてくる。もう片方の手は青の手と繋がれている。目に入った瞬間、刺すような痛みが胸を襲った。
「あ、君は二年なんだ。もしかして青くんのお友達?」
北村のネクタイの色を見た詩乃が、口元に人差し指を置く。
「はい。同クラの北村です」
律儀に自己紹介する北村に、詩乃は「もしかして体育委員の?」と目を大きくさせる。
「そうです。町田先輩も去年体育委員でしたよね」
「そうそう。でも私全然役に立たなくて~。去年の体育祭のときは余計なこと言ってごめんね?」
「そんなことないですよ。むしろ助かりました。女子がいてくれないと、どうしても男目線の案しか出てこないので」
北村と詩乃には体育委員という共通点があるらしく、叶太と青を置いて早速交流が始まっている。
かく言う自分たちは先週の木曜日、学校の階段で叶太が一方的に青を責め立てた以来の対面だ。気まずくて、お互い目を逸らし合うことしかできなかった。
体育委員の話はキリのいいところで終わったらしい。詩乃が「そうだ」と顔の前で両手をパチンと鳴らした。
「私たちこれからドリンク買うんだけど、もしよかったら一緒に座ってもいい?」
そう言って詩乃が指差したのは叶太と北村が座っている四人席だ。現在くっついているテーブルを離せば二人席がもう一つできるが、詩乃はあえて「一緒に」と言った。席を離して座るのではなく、四人席のまま相席するつもりらしい。
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