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8章
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詩乃の大胆さに苦笑交じりだった北村が「せっかくだから僕たちもいただきましょうか」と言ってくる。
北村には悪いが、好きなやつが目の前で彼女とイチャイチャしている光景を見てしまったら、なおさら食欲なんて湧かない。買ってきてくれたハンバーガーのセットは持って帰ってもらおうと思った。
「いいよ。北村が食べな」
「え、でも……」
「やっぱり夏バテはきついな~」
笑顔を貼り付けるが、北村には叶太の元気がない理由――それが『好きな人』であることは知られている。北村が余計なことを言わないようにするため、話題を変えたい。叶太はポテトを一本つまんで差し出した。
「ほら、北村も『あーん』は?」
「えっ、あっ、えっ?」
北村はわかりやすく挙動不審になる。オロオロする相手を見て、叶太はしまったと反省した。
自分的にはあくまで子ども相手にそうするつもりでやったことだけど、そうだった。そう遠くない過去に自分は北村を振っている。そんな相手からいきなり「あーん」をされて、戸惑わないわけがないのだ。
北村に差し出した手を引っ込めるかどうか迷っていた次の瞬間、テーブルの下からドンッと衝撃が突き上げてきた。「キャッ」と詩乃が小さな悲鳴を上げる。
一瞬地震かと思ったが、犯人はすぐに判明した。
「……悪い。脚組み替えようとしたら、ぶつかった」
ボソッと自己申告したのは青だ。叶太の斜め前の席でチラッと頭を上げ、叶太を睨みつけてくる。今日初めて交わした視線は、見るからにキレていた。
昔からずっと一緒にいた幼なじみだ。青の表情から見える感情も、今わざとテーブルを蹴ったことも。そのどちらもが手に取るようにわかった。
なんで自分がこのタイミングでキレられなくちゃいけないんだ? まあ、この前八つ当たりした自分が言うのもなんだけど……。居心地が猛烈に悪くなる。気まずさに拍車がかかる。
居ても立っても居られなくなり、叶太は「ちょっとトイレ」と席を立った。
「えっ、大丈夫ですか?」
心配してくれる北村に「大丈夫大丈夫」と空元気を見せ、そそくさとその場から離れる。
向かった先のトイレで一人になった瞬間、叶太は洗面台に手をついた。重くなった頭を前へと倒す。洗面器の排水口に「はあ……」とため息をこぼすと、ドッと疲労感が肩にのしかかった。
青と詩乃の姿をあのままずっと見ていたら、嫉妬でどんどん不機嫌になっていく気がした。気持ちを立て直してから戻ろう。戻ったあとはすぐに店を出て帰ろう。
叶太はもう一度大きく肩で息を吐く。胸の内側を侵食する嫉妬の感情を、腹の底に無理やり押し込めた。
ようやくいくらか落ち着き、トイレから出ようとしたときだった。
トイレのドアが開き、誰かが入ってくる。鏡越しにドアの前に立つ人物と目が合う。
「……っ」
瞬間、鏡の中の自分が眉根に皺を寄せた。自分しかいないトイレにあとから入ってきたのは、青だった。
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