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魔術師が依頼受け付けます
見る目が変わるep5
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今回の事の顛末。
空穂ちゃんはまだ死んだことに気がついていない、浮遊霊の類いだと僕は考えていた。浮遊霊は自分が死んでいることを、もうすでに霊体になっていることに気付かず現世を彷徨っている例のことを指す。その場合生前行っていた行動をプログラムされたように忠実に行うのだが空穂ちゃんには自由意志があり、浮遊霊の類の何かだと認識していた。特定の場所にとどまるということもないため地縛霊でもない。
そして今、来栖さんによって空穂ちゃんは自分が死んでいることを伝えられた。
通説通りならばそれを理解した瞬間、昇天や成仏したり概念の変化が起こるはずだが、空穂ちゃんには何も起こらない。勉強の為にヨーロッパの方に行っていたとき、あちらでもゴーストの件に首を突っ込まされた事があった。現代日本の幽霊はなんというか、『自分自身の未練を解消した時にあの世へいける』と考えられているが、あちらでは幽霊は『死者が残された現世のもの未練を断ち切った時に消え去る』と考えていた。これは僕たちの世界だけの話かもしれないが。
空穂ちゃんが本当に何かしらの霊だったとして、本来の願いは元の自分に戻ることだったと思う。それこそ誰にも見てもらえないと言っていた彼女は皆から認識してもらえる、それこそ生きていた時と同じような状況に戻りたかったのが願い。しかしそれは絶対に叶わないものであった。どんなに科学が進んだ時代でも、どんなに魔法や魔術が進んだ時代でも、死んだものを生前と同じように復活・再生させることはできないのである。生と死の境界線をぐちゃぐちゃにすることに他ならず、あちらの者とこちらのものが互いに干渉しあってしまう為に禁忌とされている。
今の空穂ちゃんの願いは何なのだろうか。自分がもう死んでいると言うことを伝えられ、微かに感じていたその事実が明確なものになった。叶えられない願いを捨てても変容しない形質をみるに、彼女には別の大きな意志があるのかもしれない。
「今、空穂ちゃんって何かしたいことある?」
「したいこと?だってもう死んでるって……」
「いやいや、何いってんのさ。死んだのは二週間くらい前だよ?そこからの二週間僕のところで色々やってくれたじゃん。死んでいるからって何もできないわけじゃないよ」
僕がそういうと、空穂ちゃんは会話に入れない来栖さんの方をちらりと見て、小さな声で呟く。
「えっと……新しい友達がほしい」
「友達?」
「多分もうほとんど誰からも認識できないんだって今分かっちゃった。でも、私のことを見てくれる人は大事にしたいし、それを守りたいとも思う。特に、社長以外で始めて私を見てくれた愛美は守りたいし友達になりたい」
少し恥ずかしそうに空穂ちゃんはいう。それを聞いていた来栖さんは恥ずかしがることもなく空穂ちゃんの顔をしっかりと見ていた。空穂ちゃんの手は少し震えている。女子高生の手が震えているからと言ってそれを指摘したり、勝手に手に触れたりはできない。セクハラで訴えられたら溜まったのじゃない。でも隣に座っている来栖さんは違う。僕が出来ない、震える空穂ちゃんの手を取り強く握った。話すだけじゃなく触れることもできるのか。
「私たち、友達に」
来栖さんがたった一言。その言葉で空穂ちゃんは泣きそうになるがすぐに泣くのを我慢し笑った。そういえば空穂ちゃんの笑った顔、始めて見たかもしれない。今回の依頼?というか相談事は無事解決。
・
「社長から何かされそうになったら私が守ってあげる」
唐突に空穂ちゃんは僕の名前を出す。
「えっ、何で僕?」
「だって愛美可愛いし」
「いや、そうじゃなくて。何でまた会うこと前提なの?」
急に変なことを言い出す空穂ちゃん。それよりも僕が女子高生に何かをするという前提で話すのはやめてほしい。人が聞いていれば勘違いされるかもしれない。この建物には僕たち以外の人間もいるのだから。
「私は死んでるからアルバイトのお金要らないし、それなら二人でバイトして愛美に使ってもらったほうがいいかなって」
「え、なにそれ聞いてない。私ここでバイトするの?」
僕も聞いていない。来栖さんも聞いていないと言っている。空穂ちゃんには猪突猛進なところがあるがそれが良い方にも悪い方にも発揮される。今回は悪い方。それよりも来栖さんのことなのに空穂ちゃんが勝手に決めていいのだろうか。
「いや、それ決めるの僕だし、来栖さんだから。でも空穂ちゃんの給料どうするかなって悩んでたし来栖さんがいいなら僕は別にいいけど」
「私は変なことに巻き込まれたのを解決してもらったので全然構わないんですが……」
意外と肯定的な来栖さんに僕は驚く。この子、今朝の出来事なのに目のことを自分の中で処理できていたり、空穂ちゃんのことを死んでいると分かってても接していたり、意外と器が大きいのかもしれない。そうして僕たちは二人揃って空穂ちゃんの方を見る。ニヤニヤして僕たち二人の顔を交互に見ていく。最後に両手を叩いた。音はなっていないのだが。
「決まりだね」
「来栖さんはお母さんのこともあるだろうし来たい時に来てくれればいいからね。入院してるんでしょ?」
「いえ、もう回復してるのですぐ退院です」
「そう、じゃあ一応こちらから渡す書類準備しておくね。何でも屋をやってるけど不信感極まりないだろうからさ」
守護する性質を持った来栖さんの目に見られた空穂ちゃんにその性質が移ったのか、はたまた彼女の考えの変化が浮遊霊であった彼女の形質も変化させたのか。神の力って現実の理が関係ないから嫌になる。
今気づいたが、空穂ちゃんは『守りたい』と言った。彼女の性質の変化、来栖さんの神の力に当てられたことによる変化、どちらでもいいのだが彼女の願いは何かを守ると言うことに変化したのだろう。そうなると浮遊霊や地縛霊なのどの存在ではない。
「あー、守護霊かー」
日本における守護霊は意思をの持つものを守ろうとする霊のこと。基本的には対象から距離を取ることが出来ない。対象との距離が離れれば離れるほど繋がりが薄くなり、守護霊側が対象を守ることが出来なくなる。北欧の方では守護霊は守護天使といい、こちらの概念がキリスト教化したものが存在している。日本と北欧では意味合いやその形質が違ってくるのだ。魔術や魔法が日本と北欧では違うように。こちらの魔力とあちらの魔力も違うように。
基本的にルーン文字を書き込むときは魔力ペンを使っている。普通に彫るよりも僕の魔力を通すことで運命をたぐり寄せるイメージの具現化がしやすいからだ。そのペンは北欧の方の学校へ通っていたときに貰った。つまり僕の魔力を使っているがそれを出している魔道具の魔力は向こうのものとなる。
そのルーンが刻まれた石を空穂ちゃんは毎日持っていた。その結果、北欧魔力が混ざりあった可能性もある。
僕の知っている守護霊と同じような存在は『フュルギャ』という勉強していたときに先生から教えてもらった。動物の姿をとると言われていて実際に見たこともある。流石に動物と言えど人間の姿になっているものは見たことがなかった。フュルギャも人の守護をする所謂守護霊だが、日本のものと違い常に対象のそばにいるわけではなかった。その代わり、危険が近付くと必ずそこにいた。
「もしかして、空穂ちゃんが変な霊になったのって僕のせい?」
僕が空穂ちゃんにルーンを持たせて色々やらせたからどんどん空穂ちゃんが日本における霊の概念からズレていってしまったのかもしれない。あくまで仮定であるが、やっちまった感がぬぐえない。
「何、一人で言ってるんですかー。私たちもう帰りますね」
「あ、うん。気をつけてね」
「お邪魔しました」
そう言って空穂ちゃんと愛美ちゃんは扉から出ていった。
いや、あの子今日仕事してないぞ。
・
「お母さんか……」
「どうしたの?」
私たちは今日のことを思い出しながら無言で歩いていた。少し気恥ずかしい気持ちがあるかもしれない。あの場では色々なことを正直に話しすぎたかもしれない。思い出すと頬が熱くなる気がする。その静寂を破るように私は声を出す。
「いや、私、こんなになってからお母さんの顔もお父さんの顔も見てないんだよね。家には帰ってるだけどほぼいないの。部屋にあった写真だけ持ってきてるけど……」
「そう、なんだね」
自分の不幸自慢をしたいわけではなく、ただなんとなく知ってもらいたかっただけだった。その会話とも言えないような短いやりとりだけで終わってしまった。それ以上聞いてもいいのか、そう考えていそうな愛美を見ながら優しい子だなと。
とりあえず今日は愛美の家に行くことにした。話したいことも沢山ある。愛美の家は学校からは近いが事務所からは少し遠い。そこに向かうには街を通り抜け、しばらく歩かなければならない。私は、死んでからどんなに動いても身体的に疲れることはなかったことを思い出す。意外と何でも出るのかもしれないし、今度試してみよう。
少し古びたアパートが見え、そこを通ろうとした時、私は見知った顔を見つけた。見知った顔、私が生まれてから十数年間、毎日のように見ていた顔。多分私の人生の中で一番私のことを考えてくれていたであろう人の顔。
「え、あれお母さん」
「ちょっとまって空穂ちゃん!」
久しぶりにその顔を見た瞬間私は駆け出してしまった。自分が見えていないということも考えられないくらい全力で。勢いよく走り出した私を見て後ろから愛美が追ってくる。愛美の呼びかけにも応えずお母さんの元へ向かう。
「空穂?」
「あ、いえすみません。えっと、鏑木さんのお母さんですよね。空穂ちゃんの友達の来栖です」
愛美が私の名前を呼んだことに反応したお母さんは私の方を見る。しかし目線は私では無く愛美の方を見ている。やっぱり私のことが見えてはないないみたいだ。
「来栖さん……。その制服空穂と同じ学校の」
久しぶりに聞いたお母さんの声に私は泣きそうになる。でも何でお母さんはこのアパートから出てきたのだろう。最近家に帰っていないようだけど。愛美の近くに寄り、耳元でその旨を聞いてもらうことにする。
「えっと、ここで何を」
「今から家に帰るの。ちょっといろいろあって」
「何かあったんですか?」
愛美は私が態々言わなくても私が気になっていることを聞いてくれた。普通、友達の親にこんなにグイグイ質問できないと思う。器が大きいのかもしれない。
「知らない子に言うのはおかしいかもしれないんだけど」
お母さんはそう前置きをして話し出す。知らない子に聞かれて話してしまうくらい、誰かに何かを話したかったのかもしれない。
「あの子が死んだって聞かされて最初は嘘だと信じたかった。でも死体を確認しに言ったときすぐに分かった。私が十何年も育てた子供だもの、分からないはずがなかった。」
「その日は夫と泣いたわ。その時、一瞬空穂の気配を感じた気がしたのよ。でもそれっきり」
「その後からかしら、消したはずの家の電気が付いていたり、誰もいないはずの空穂の部屋の扉が閉まる音がしたり、テレビが勝手についたり。そんな心霊現象が多発するようになったの。それで怖くて一旦家には必要なとき以外帰らないようにしてるの。なんだか空穂がいるように感じて、それもまた帰りたくない理由の一つかもね」
「それ、私だ。暗くて見えないから電気つけたり、部屋で寝てるから出入りするし、一回だけテレビつけた時にお母さんが驚いたのはそういうことだったんだ」
「空穂ちゃん……」
愛美の口からは呆れの声。ただ、お母さんには私が友達として何か思うことがあるように感じたみたいだ。
「ごめんなさい。いきなりそんなこと言われても困るわよね。来栖さん。空穂の友達でいてくれてありがとう。空穂はきっと喜んでるわ」
「はい。分かります。空穂ちゃんは今も喜んでます。それにお母さんのこともお父さんも元気でいてほしいと思ってます」
「そう……」
「ね、愛美一つ言ってほしいんだけど。」
私は愛美に伝える。変に反応されると困るから伝えたいことだけを伝え、それをお母さんに言ってもらう。なんだか最後の挨拶みたいで悲しくなるがお母さんにもお父さんにも悲しい思いをしてほしいわけじゃない。
「愛美ちゃんからお母さんに伝言があるみたいです。『明日、リビングに入って家族写真がテーブルの上にあったら、私は今幸せです』って伝えてほしいと」
「あなた、何を言って……」
それはそうだろう。いきなり、娘が今そこにいるかのような話をされたら不思議に思う。
「それだけです。失礼します」
深く突っ込まれたら余計なことを言ってしまいそうなので足早にその場を去る。お母さんはその場で立ち止まり呆然としていた。もしかして私のことが見えているかもしれない、なんてそんな奇跡的なことを考える事はもうない。死んだ今、死んでもなお心が生きていることだけが奇跡的なことで偶然起こったことである。ただ、私は友達や大切な人を守れればそれでいい。お母さんたちの心も少しは守れたかな。
・
「あー、お母さんもお父さんも家に帰ってこなかったのは私が理由かー。よくよく考えたら娘が死んでから家で心霊現象起こったら帰れないかー」
帰り道。空穂ちゃんはそう言って夕焼け空を見つめました。今日はまだお母さんが家にいないので空穂ちゃんには私の家に泊まってもらいます。行く当てもないので、明日からは事務所の社長さんに相談するとかなんとか。
「心霊現象が起こった時の空穂ちゃんはまだ……」
「普通に生きてると思ってたからね。過ぎたことは仕方ないしこれから先のことを考えよう」
何か吹っ切れたのか前向きな言葉を言う空穂ちゃん。元来こういう性格の女の子だったと改めて思い出した。
・
今日は色々な事があった。一日だけで今までの生き方とこれからの生き方が変わるくらいの出来事。心が救われるということを体感したようだ。今日確信に変わった私が死んだという事実。死んだあとは、本当に辛かった。今まで生きてきた時間よりも圧倒的に短い二週間という期間なのに人生で一番長く感じた。しかし、今日たった一人と出会ったことでそれに変化が訪れた。友達、今までだって沢山いた。それでも今日できた新しい友達は特別に思えた。出会った経緯は普通ではない。幽霊である私と謎の目を持つ少女。人間の世界から外れた者同士の邂逅。特殊な出会いだからこそ特別な友達だと私は思える。死んだことによって出会えた友達。
そういえば私ってどうやって死んだのだろう。
空穂ちゃんはまだ死んだことに気がついていない、浮遊霊の類いだと僕は考えていた。浮遊霊は自分が死んでいることを、もうすでに霊体になっていることに気付かず現世を彷徨っている例のことを指す。その場合生前行っていた行動をプログラムされたように忠実に行うのだが空穂ちゃんには自由意志があり、浮遊霊の類の何かだと認識していた。特定の場所にとどまるということもないため地縛霊でもない。
そして今、来栖さんによって空穂ちゃんは自分が死んでいることを伝えられた。
通説通りならばそれを理解した瞬間、昇天や成仏したり概念の変化が起こるはずだが、空穂ちゃんには何も起こらない。勉強の為にヨーロッパの方に行っていたとき、あちらでもゴーストの件に首を突っ込まされた事があった。現代日本の幽霊はなんというか、『自分自身の未練を解消した時にあの世へいける』と考えられているが、あちらでは幽霊は『死者が残された現世のもの未練を断ち切った時に消え去る』と考えていた。これは僕たちの世界だけの話かもしれないが。
空穂ちゃんが本当に何かしらの霊だったとして、本来の願いは元の自分に戻ることだったと思う。それこそ誰にも見てもらえないと言っていた彼女は皆から認識してもらえる、それこそ生きていた時と同じような状況に戻りたかったのが願い。しかしそれは絶対に叶わないものであった。どんなに科学が進んだ時代でも、どんなに魔法や魔術が進んだ時代でも、死んだものを生前と同じように復活・再生させることはできないのである。生と死の境界線をぐちゃぐちゃにすることに他ならず、あちらの者とこちらのものが互いに干渉しあってしまう為に禁忌とされている。
今の空穂ちゃんの願いは何なのだろうか。自分がもう死んでいると言うことを伝えられ、微かに感じていたその事実が明確なものになった。叶えられない願いを捨てても変容しない形質をみるに、彼女には別の大きな意志があるのかもしれない。
「今、空穂ちゃんって何かしたいことある?」
「したいこと?だってもう死んでるって……」
「いやいや、何いってんのさ。死んだのは二週間くらい前だよ?そこからの二週間僕のところで色々やってくれたじゃん。死んでいるからって何もできないわけじゃないよ」
僕がそういうと、空穂ちゃんは会話に入れない来栖さんの方をちらりと見て、小さな声で呟く。
「えっと……新しい友達がほしい」
「友達?」
「多分もうほとんど誰からも認識できないんだって今分かっちゃった。でも、私のことを見てくれる人は大事にしたいし、それを守りたいとも思う。特に、社長以外で始めて私を見てくれた愛美は守りたいし友達になりたい」
少し恥ずかしそうに空穂ちゃんはいう。それを聞いていた来栖さんは恥ずかしがることもなく空穂ちゃんの顔をしっかりと見ていた。空穂ちゃんの手は少し震えている。女子高生の手が震えているからと言ってそれを指摘したり、勝手に手に触れたりはできない。セクハラで訴えられたら溜まったのじゃない。でも隣に座っている来栖さんは違う。僕が出来ない、震える空穂ちゃんの手を取り強く握った。話すだけじゃなく触れることもできるのか。
「私たち、友達に」
来栖さんがたった一言。その言葉で空穂ちゃんは泣きそうになるがすぐに泣くのを我慢し笑った。そういえば空穂ちゃんの笑った顔、始めて見たかもしれない。今回の依頼?というか相談事は無事解決。
・
「社長から何かされそうになったら私が守ってあげる」
唐突に空穂ちゃんは僕の名前を出す。
「えっ、何で僕?」
「だって愛美可愛いし」
「いや、そうじゃなくて。何でまた会うこと前提なの?」
急に変なことを言い出す空穂ちゃん。それよりも僕が女子高生に何かをするという前提で話すのはやめてほしい。人が聞いていれば勘違いされるかもしれない。この建物には僕たち以外の人間もいるのだから。
「私は死んでるからアルバイトのお金要らないし、それなら二人でバイトして愛美に使ってもらったほうがいいかなって」
「え、なにそれ聞いてない。私ここでバイトするの?」
僕も聞いていない。来栖さんも聞いていないと言っている。空穂ちゃんには猪突猛進なところがあるがそれが良い方にも悪い方にも発揮される。今回は悪い方。それよりも来栖さんのことなのに空穂ちゃんが勝手に決めていいのだろうか。
「いや、それ決めるの僕だし、来栖さんだから。でも空穂ちゃんの給料どうするかなって悩んでたし来栖さんがいいなら僕は別にいいけど」
「私は変なことに巻き込まれたのを解決してもらったので全然構わないんですが……」
意外と肯定的な来栖さんに僕は驚く。この子、今朝の出来事なのに目のことを自分の中で処理できていたり、空穂ちゃんのことを死んでいると分かってても接していたり、意外と器が大きいのかもしれない。そうして僕たちは二人揃って空穂ちゃんの方を見る。ニヤニヤして僕たち二人の顔を交互に見ていく。最後に両手を叩いた。音はなっていないのだが。
「決まりだね」
「来栖さんはお母さんのこともあるだろうし来たい時に来てくれればいいからね。入院してるんでしょ?」
「いえ、もう回復してるのですぐ退院です」
「そう、じゃあ一応こちらから渡す書類準備しておくね。何でも屋をやってるけど不信感極まりないだろうからさ」
守護する性質を持った来栖さんの目に見られた空穂ちゃんにその性質が移ったのか、はたまた彼女の考えの変化が浮遊霊であった彼女の形質も変化させたのか。神の力って現実の理が関係ないから嫌になる。
今気づいたが、空穂ちゃんは『守りたい』と言った。彼女の性質の変化、来栖さんの神の力に当てられたことによる変化、どちらでもいいのだが彼女の願いは何かを守ると言うことに変化したのだろう。そうなると浮遊霊や地縛霊なのどの存在ではない。
「あー、守護霊かー」
日本における守護霊は意思をの持つものを守ろうとする霊のこと。基本的には対象から距離を取ることが出来ない。対象との距離が離れれば離れるほど繋がりが薄くなり、守護霊側が対象を守ることが出来なくなる。北欧の方では守護霊は守護天使といい、こちらの概念がキリスト教化したものが存在している。日本と北欧では意味合いやその形質が違ってくるのだ。魔術や魔法が日本と北欧では違うように。こちらの魔力とあちらの魔力も違うように。
基本的にルーン文字を書き込むときは魔力ペンを使っている。普通に彫るよりも僕の魔力を通すことで運命をたぐり寄せるイメージの具現化がしやすいからだ。そのペンは北欧の方の学校へ通っていたときに貰った。つまり僕の魔力を使っているがそれを出している魔道具の魔力は向こうのものとなる。
そのルーンが刻まれた石を空穂ちゃんは毎日持っていた。その結果、北欧魔力が混ざりあった可能性もある。
僕の知っている守護霊と同じような存在は『フュルギャ』という勉強していたときに先生から教えてもらった。動物の姿をとると言われていて実際に見たこともある。流石に動物と言えど人間の姿になっているものは見たことがなかった。フュルギャも人の守護をする所謂守護霊だが、日本のものと違い常に対象のそばにいるわけではなかった。その代わり、危険が近付くと必ずそこにいた。
「もしかして、空穂ちゃんが変な霊になったのって僕のせい?」
僕が空穂ちゃんにルーンを持たせて色々やらせたからどんどん空穂ちゃんが日本における霊の概念からズレていってしまったのかもしれない。あくまで仮定であるが、やっちまった感がぬぐえない。
「何、一人で言ってるんですかー。私たちもう帰りますね」
「あ、うん。気をつけてね」
「お邪魔しました」
そう言って空穂ちゃんと愛美ちゃんは扉から出ていった。
いや、あの子今日仕事してないぞ。
・
「お母さんか……」
「どうしたの?」
私たちは今日のことを思い出しながら無言で歩いていた。少し気恥ずかしい気持ちがあるかもしれない。あの場では色々なことを正直に話しすぎたかもしれない。思い出すと頬が熱くなる気がする。その静寂を破るように私は声を出す。
「いや、私、こんなになってからお母さんの顔もお父さんの顔も見てないんだよね。家には帰ってるだけどほぼいないの。部屋にあった写真だけ持ってきてるけど……」
「そう、なんだね」
自分の不幸自慢をしたいわけではなく、ただなんとなく知ってもらいたかっただけだった。その会話とも言えないような短いやりとりだけで終わってしまった。それ以上聞いてもいいのか、そう考えていそうな愛美を見ながら優しい子だなと。
とりあえず今日は愛美の家に行くことにした。話したいことも沢山ある。愛美の家は学校からは近いが事務所からは少し遠い。そこに向かうには街を通り抜け、しばらく歩かなければならない。私は、死んでからどんなに動いても身体的に疲れることはなかったことを思い出す。意外と何でも出るのかもしれないし、今度試してみよう。
少し古びたアパートが見え、そこを通ろうとした時、私は見知った顔を見つけた。見知った顔、私が生まれてから十数年間、毎日のように見ていた顔。多分私の人生の中で一番私のことを考えてくれていたであろう人の顔。
「え、あれお母さん」
「ちょっとまって空穂ちゃん!」
久しぶりにその顔を見た瞬間私は駆け出してしまった。自分が見えていないということも考えられないくらい全力で。勢いよく走り出した私を見て後ろから愛美が追ってくる。愛美の呼びかけにも応えずお母さんの元へ向かう。
「空穂?」
「あ、いえすみません。えっと、鏑木さんのお母さんですよね。空穂ちゃんの友達の来栖です」
愛美が私の名前を呼んだことに反応したお母さんは私の方を見る。しかし目線は私では無く愛美の方を見ている。やっぱり私のことが見えてはないないみたいだ。
「来栖さん……。その制服空穂と同じ学校の」
久しぶりに聞いたお母さんの声に私は泣きそうになる。でも何でお母さんはこのアパートから出てきたのだろう。最近家に帰っていないようだけど。愛美の近くに寄り、耳元でその旨を聞いてもらうことにする。
「えっと、ここで何を」
「今から家に帰るの。ちょっといろいろあって」
「何かあったんですか?」
愛美は私が態々言わなくても私が気になっていることを聞いてくれた。普通、友達の親にこんなにグイグイ質問できないと思う。器が大きいのかもしれない。
「知らない子に言うのはおかしいかもしれないんだけど」
お母さんはそう前置きをして話し出す。知らない子に聞かれて話してしまうくらい、誰かに何かを話したかったのかもしれない。
「あの子が死んだって聞かされて最初は嘘だと信じたかった。でも死体を確認しに言ったときすぐに分かった。私が十何年も育てた子供だもの、分からないはずがなかった。」
「その日は夫と泣いたわ。その時、一瞬空穂の気配を感じた気がしたのよ。でもそれっきり」
「その後からかしら、消したはずの家の電気が付いていたり、誰もいないはずの空穂の部屋の扉が閉まる音がしたり、テレビが勝手についたり。そんな心霊現象が多発するようになったの。それで怖くて一旦家には必要なとき以外帰らないようにしてるの。なんだか空穂がいるように感じて、それもまた帰りたくない理由の一つかもね」
「それ、私だ。暗くて見えないから電気つけたり、部屋で寝てるから出入りするし、一回だけテレビつけた時にお母さんが驚いたのはそういうことだったんだ」
「空穂ちゃん……」
愛美の口からは呆れの声。ただ、お母さんには私が友達として何か思うことがあるように感じたみたいだ。
「ごめんなさい。いきなりそんなこと言われても困るわよね。来栖さん。空穂の友達でいてくれてありがとう。空穂はきっと喜んでるわ」
「はい。分かります。空穂ちゃんは今も喜んでます。それにお母さんのこともお父さんも元気でいてほしいと思ってます」
「そう……」
「ね、愛美一つ言ってほしいんだけど。」
私は愛美に伝える。変に反応されると困るから伝えたいことだけを伝え、それをお母さんに言ってもらう。なんだか最後の挨拶みたいで悲しくなるがお母さんにもお父さんにも悲しい思いをしてほしいわけじゃない。
「愛美ちゃんからお母さんに伝言があるみたいです。『明日、リビングに入って家族写真がテーブルの上にあったら、私は今幸せです』って伝えてほしいと」
「あなた、何を言って……」
それはそうだろう。いきなり、娘が今そこにいるかのような話をされたら不思議に思う。
「それだけです。失礼します」
深く突っ込まれたら余計なことを言ってしまいそうなので足早にその場を去る。お母さんはその場で立ち止まり呆然としていた。もしかして私のことが見えているかもしれない、なんてそんな奇跡的なことを考える事はもうない。死んだ今、死んでもなお心が生きていることだけが奇跡的なことで偶然起こったことである。ただ、私は友達や大切な人を守れればそれでいい。お母さんたちの心も少しは守れたかな。
・
「あー、お母さんもお父さんも家に帰ってこなかったのは私が理由かー。よくよく考えたら娘が死んでから家で心霊現象起こったら帰れないかー」
帰り道。空穂ちゃんはそう言って夕焼け空を見つめました。今日はまだお母さんが家にいないので空穂ちゃんには私の家に泊まってもらいます。行く当てもないので、明日からは事務所の社長さんに相談するとかなんとか。
「心霊現象が起こった時の空穂ちゃんはまだ……」
「普通に生きてると思ってたからね。過ぎたことは仕方ないしこれから先のことを考えよう」
何か吹っ切れたのか前向きな言葉を言う空穂ちゃん。元来こういう性格の女の子だったと改めて思い出した。
・
今日は色々な事があった。一日だけで今までの生き方とこれからの生き方が変わるくらいの出来事。心が救われるということを体感したようだ。今日確信に変わった私が死んだという事実。死んだあとは、本当に辛かった。今まで生きてきた時間よりも圧倒的に短い二週間という期間なのに人生で一番長く感じた。しかし、今日たった一人と出会ったことでそれに変化が訪れた。友達、今までだって沢山いた。それでも今日できた新しい友達は特別に思えた。出会った経緯は普通ではない。幽霊である私と謎の目を持つ少女。人間の世界から外れた者同士の邂逅。特殊な出会いだからこそ特別な友達だと私は思える。死んだことによって出会えた友達。
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