魔術会社サークル〜オカルト依頼をなんでも解決。魔術、妖怪、悪魔、都市伝説、なんでも相談してください〜

ペンギンの回り道

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魔術師が依頼受け付けます

あくまで占いep4

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次の日。

『こんにちは。始めまして。てけてけです。占い師さんはお久しぶりです』

 『てけてけ』は車椅子に乗ったまま、一人で事務所に来た。扉はどうしたのか、二階にある事務所までどうやって、など本来なら考えるべき事が沢山あるが目の前の存在を視認したとき、そのような思考は中断せざるをえなかった。この場所には僕とてけてけ、そしてゲティがいる。ゲティは『一昨日振りだな』と、軽く挨拶をしていた。
 この部屋には魔術が効かない、と噂される『てけてけ』に対しての少しでも抵抗しようと事務所にルーンを仕掛けた。今回使ったのは『Þ(ソーン)』のルーン。これは自分自身に対してお守り、という意味を持たせることができる。そしてなにかあった時のためにも、『ᛚ(ラグズ(直感))』のルーンも持っている。確かゲティは始めて見たとき『変な雰囲気がした』程度の事を言っていた。しかし眼の前にして分かる。変な雰囲気程度のものではないと僕の直感が告げている。たぶん、『Þ(ソーン)』のルーン文字では対応できない。

「どうも、この会社の社長です。お話を伺わせていただければと」
「貴方が魔術師の。お噂はかねがね」

 この街で普通に生きている場合、僕の噂を聞くということは無いだろう。それは僕が魔術師と言うことを知っているのは同業者しかない。同業者が態々『てけてけ』に僕の正体を教えるとも考えにくい。しかし、僕の正体が知られている。

 「こちらも貴方のお噂は聞いてますよ。何でも魔術が効かないだとか。こちらの事を知っているようですし困りました。どちらで私の事を?」
「噂のないところに煙は立ちません。その逆で煙のあるところには噂があるのです。どこで知ったか、と言われると困りますね。街中を移動している時に聞こえてきたのです。『何でも屋サークルって名前で魔術師やってる奴が依頼を集めてるからそこに頼むといい』と」

 多分同業者だ。外で堂々と話すとは何事かと思うかもしれないが気を隠すなら林の中、人を隠すならば人の中ということだ。それに大きな声で話したりオーバーアクションを取ったりしない場合、人は誰かが電話で話している内容まで聞いたりすることはない。

「では何故、魔術が効かないなんて噂を?」

「いきなり、消滅なんてされたら嫌ですもの。私がその噂を流しました」

 『てけてけ』は上半身を使い、手を広げジェスチャーを含めながら僕に説明をする。

「噂というのは私が一人で話していても広まりません。直接誰かに話しても、その人が広める確証はありません。ただ噂が広がるのは第三者からなのです。私は車椅子に座って移動しています。それを見た優しい人は手助けをしてくれます。その時に私は噂を流しました。そして話している会話は断片的に第三者にも聞かれます。そこから噂は『誰かに聞いた話』として広まって行くわけです」

 店からトイレットペーパーがなくなったり、少し昔では人の噂で銀行が潰れたこともあった。そういうものは誰かと誰かの会話、その会話が憶測であったり否定の会話であっても話を途中までしか聞かない人が勘違いして広めることで起こる事象である。それをてけてけは自ら起こしたのだ。


「私は都市伝説として存在している身。都市伝説とは人間の想像、空想から出来上がり、そして肉付けされる存在。人間が『てけてけという存在はこう』と思えば思うほど、私はそのような噂通りになっていくのです。幸いにもこの街には力が多くありますので」

 自分という存在を都合よく作り上げるためにてけてけは噂を流した。下半身がないというのが『てけてけ』という存在を形作っているものであるためそこには干渉出来ないのが直感的に分かったのだろう。そうでなければ下半身を見つけられるような都合のいい噂を流すことだってできたはずだ。彼女の依頼は下半身を探し出してほしいというものだった。取り戻すのではなく、見つけてほしいでもなく。

「なるほど。それで依頼というのは、貴方の下半身を探してほしい、ということであってますか?」
「はい」

 何故、探し出すなのか。それはこの都市伝説の女に聞いていいことなのだろうか。そこがトリガーになって変化したり形質が変わったりするのではないだろうか。調べた限り、『てけてけ』は憎悪の妖怪らしい。寒い地方で列車に引かれて半身になった女が誰からも助けられず、寒さにより血液が凍ることで止血され死ねず苦しんだ者が『てけてけ』になったとされている。実際にはそのような寒さはないとかそれでは止血されないとか矛盾する話はあるがそれは科学的な話。大事なのはそう言う噂によって生まれた妖怪がいるということなのだ。
 僕は覚悟を決めて彼女に聞く。

「何故、探し出して欲しいのですか」
「『てけてけ』というものはこの姿になる前から知っていました。下半身が無くなり、それを助けてくれなかった人への憎悪で人間を襲う妖怪だと。しかし私は心が壊れて、元々死にたかったのです。自殺をしたかったのです。そして電車に引かれ、おそらく上半身と下半身が切断され無事死ねたのでしょう。そのはずなのに私は意識を取り戻しました。上半身だけ。その時には現場はもう片付いており、自分の下半身はありませんでした。どうせ死ぬなら、壊れた心に対して体は綺麗に死にたい。私は人間への憎悪などありません。ただ、私の下半身を探してほしいだけです。そして今度こそちゃんと死にたいのです」

 彼女は『てけてけ』ではあるが、調べた『てけてけ』とは存在の理由が違った。『てけてけ』は助けられなかったことに対しての恨みから憎悪に変化し、人に危害を加えることを存在の理由にしていたが、彼女はただ自分が人間だった時のまま死にたかっただけなのだ。身体が半分になってしまったことで『てけてけ』という噂の概念が彼女に入り、その存在が変化してしまったのだろう。『てけてけ』は上半身しかない女、上半身しかない女は『てけてけ』。彼女は、人間特有の変な解釈の想像が生み出してしまった妖怪なのかもしれない。

「ゲティ、占って」

 彼女は、救いを求めてここに来た。下半身見つけることで自分が『てけてけ』として終わると言うことが分かっているのだろう。人間としてはもう死んでいる。ただ妖怪として生きている、それがもう生きる理由のなくなった彼女には意味のないこと。死んでも尚、死にたいと思っている。それならば、ゲティのほうがこの依頼に適している。幽霊だと怖がらずに最初からゲティがやっていればと思わなくもない。
 
 僕はゲティに彼女の下半身を探すのを頼んだ。ゲティは日本語ではない何かの言語を喋り、召喚術を行使する。
 普段は『ウァサゴ』のように見える人には見えるような状態で悪魔を召喚することはない。この街には、偶に魔力の感知が出来る一般人がいるため見えてしまうとまずいからである。基本的にはワニのぬいぐるみ自体にその悪魔の能力だけを召喚している。そうすることで不思議な力を感じるぬいぐるみと認識される程度に済ませているらしい。
 今回もゲティは『ウァサゴ』本体を呼び出すわけではなく、ワニを通して通信する魔術を行使したのだった。ワニのぬいぐるみをてけてけの方へ向け、なにやら色々聞いている様子。何を喋っているのかは分からないが、下半身の在り処を聞いているのだろう。そして一通り話し終わったのか、ゲティは持っていたワニの人形を机に置いた。

「結果はどうだった?」
「ああ、占ったが、悪魔曰く、彼女自体がこの世からの失せ物。現世界から亡くなったもの。下半身は一応現実に残っている。燃やされて灰になった状態だがね。それこそ現世界と裏世界に跨る存在の失せ物を繋げるできない。だそうだ」

 依頼、というものはその目的のものが存在する時に成り立つもの。目的のものが存在しない場合、ただ徒労に終わる。例外として、"存在しないこと"を証明するための依頼もある。今回の依頼は『下半身を探してほしい』というもの。ゲティの回答で、下半身を探すことは出来た。それが『てけてけ』にとってほしかった答えかどうかは分からない。
 彼女の依頼は探すことだったが、彼女の願いはちゃんと死にたいというものだった。今の彼女には魔法が効かない。そして都市伝説になった対象を成仏させるということができるかも分からない。彼女に下半身を戻し、死なせてあげるという願いを叶えることはできなかった。


「依頼は解決するだけではなく、解決できなかったという答えが出ることもあります」

 僕は『てけてけ』へのフォローのように言葉を紡いだ。何も解決していないからこそ、言わなければならないことだった。

「そうですか。もう私の下半身ないのですね。それなら私は、どうやって消えればいいのですか?お二方は私を消滅させることなどできますか?一度は死んだ身、死んだあとに別の存在として生き続けるというのも辛いものがあります」

 空穂ちゃんは死んでも尚、生きる理由を見つけて生き続けている。それがいつまで続くかは分からないが、今の空穂ちゃんは幽霊として生きている。『てけてけ』は自分が自分ではない存在として生きていくのが辛いと言う。分かります、などと安易なことは言えない。僕もゲティも、死にそうな思いはしてきているが死んではいないのだ。

「本来なら出来ますが、貴方の流した噂『魔術が効かない』というもののせいで僕もゲティも魔術で解決することが難しく……」

 そう伝えると『てけてけ』は『足を救われましたね』と呟く。彼女に足はないので多分『てけてけ』ジョークだと思う。半ば諦めてしまっているかのようなジョークに僕は奥歯を噛み締める。全ての依頼を完遂できるとも、相談者を救えるとも思っていない。寧ろ、この世界ではできない事も多々ある。そういう時には怒られるか、笑って許されるかが多い。ただ、悲しそうにされるという事がとても堪える。自分の無力さを一番痛感させられるのだ。
 もとよりこの依頼の完遂は最初からできないものだった。『てけてけ』の求めるものがこの世に存在していないから。ただ死にたいと言う『てけてけ』を殺してあげることすらも出来ない自分の無力さがとても辛い。

 僕は膝の上で拳を握る。
 そんな僕の肩をゲティは軽くはたく。

「社長がそんな顔をすんな。依頼者の前だぞ。それに私ならできるかもしれん」
「魔術効かないんだよ?」
「直接の魔術は、な」

 ゲティは魔術の詠唱を始める。先ほどまでとは違う、しかしゲティに持ってきているのはワニのぬいぐるみだけ。ウァサゴには『てけてけ』をどうにかする事はできなさそうだが何をしようとしているのだろうか。
 詠唱が終わり、ゲティが自分の身体にある魔法陣とワニのぬいぐるみにある魔法陣を魔力で繋げ召喚術を試みる。

「顕現せよ、29軍団を率いる侯爵よ。我が名に於いて命じる――」
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