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ACT2 ようこそ、鳥羽差市へ
第9話 おとなりさん
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……!! 「……!!」
出てきたのは、黒いローブで全身を包んだ人物。
じっとこちらを見てくるその様子は、昨日、ワタシたちを裏側の世界に連れて行ったあの少女を思い出す。
…… 「……」
黒いローブの人物はじっとこちらを見ると、口を開いた。
「なあ、新しく引っ越してきた、お隣さんかい?」
そのローブの人物は男の人の声で、親しそうに話しかけてきた。
どう答えればいいんだろうと迷っていると、マウが大きな耳をローブの人物に向けていた。
「……もしかして、“ナルサ”さん!?」
……マウ、知っているの?
「こ、この人、ナルサさんだよ!! 里井 奈留佐!! 紋章ファッションデザイナー兼動画投稿者のナルサさん!! 会ったのは初めてだけど、この声は確かに動画のままだよ!!」
マウがすごく、興奮している。
鼻をすごい速さで動かしながら、おなかのバックパックの紋章から……サイン色紙とサインペンを取り出した。
いつの間に入れてたの。
「あ、あ、ああ、あああ、あ、あののの」
体を震わせながらサイン色紙とサインペンを差し出すマウに対して、ローブの人物……ナルサさんは心よく会釈してそれを受け取り、何かを書き始めた。
「ま、まさかナルサさんと出会えるなんて……」
ナルサさんの名前が書かれたサイン色紙を抱きしめて、すっかりほっぺたを桃色にするマウ。
でも、ワタシは紋章ファッションデザイナーってよく分からない。どうすごいんだろう……
「あ、イザホ、もしかして戸惑ってる?」
……と思ったら、マウがいつも通りに様子をうかがってくれた。うん。この人のこと、よくわからなくて……
「あ、あの……今日も紋章を着けているんだよね? 紋章デザイナーのこと、説明したいけど……よかったら、イザホによく見せてもらうこと……できる?」
もじもじしながら頼み込むマウに対して、ナルサさんはワタシの顔をじっと見てきた。
「イザホ……君の名前かい?」
戸惑いながらうなずくと、ナルサさんはゆっくりとフードを下ろし始めた。
「紋章ファッションデザイナー、一言で言えば……“姿の紋章”を使ったファッションを提案するデザイナーって言えばしっくりくるかな」
ナルサさんの顔は、真っ黒で、眼球の代わりに青い触覚が生えていた。
顔立ちや長い髪の毛は、女性のようだ。
姿の紋章のことならワタシも知っている。
Tシャツの形をした、埋め込んだ対象の姿を変える能力を持つ紋章だ。
衣服に付けるとその見た目を変えることができる。人間の肌に埋め込むと、その人自身の外見が変わる。
「今日は女の子のような見た目をしているけど、中身はオッサンだからな」
ナルサさんは触覚を出し入れしながら、笑みを浮かべていた。
「ナルサさんは、普段の生活でも自身の作品で身をまとっているんだ。ちなみに、今の姿は“化け物バックパッカースタイル”。今年出たばっかりの新作なんだよね」
よくわからないことを解説しているマウに対してナルサさんは「よく知っているな」と感心している。
その後、ワタシに右手を差し伸べた。
よく見ると、背中には黒いバックパックが背負われている。
「そういうわけで、オレは変なお隣さんってことになるが、懲りずに仲良くしてくれよな」
……なんだか、悪い人ではなさそう。
目が触覚なせいか、下を見ているような気がするけど、マウの知っている人だからだいじょうぶだよね。
ワタシは小さな右手でナルサさんの腕を握って、握手をすることにした。
「あ、そうだ」
ナルサさんは突然、扉の方に顔を向けた。
あの扉は……1002号室だ。
「このマンションは防音設備が整っているからだいじょうぶとは思うけど、あそこの住民はそっとしてほしい。ちょっと落ち込んでいるから」
ちょっと真面目な話になったのか、ナルサさんは肩を上げて、下ろした。
「……君の姿の紋章、なかなかいいな。ちゃんと着こなしている」
ワタシの上半身をじっと見ると「それじゃあ、またな」と階段へと立ち去って行ってしまった。
マウはまた、サイン色紙を抱きしめて、ほっぺたを桃色にしていた。
「ああ……まさか引っ越した部屋の隣が、ナルサさんの住む部屋だなんて……ねえイザホ、ボクたちの新生活の場所をここにして、やっぱり正解だったね」
うーん、なにか違うような気がするけど……
まあ、マウが喜んでいるならそれでいっか。
それにしても、ナルサさん……ワタシが姿の紋章でこの姿になっていると勘違いしているみたい。
そもそも姿の紋章は、今の技術では衣服と人間しか姿を変えることができない。それは死体であるワタシも例外じゃない。
姿の紋章が存在していなかったら、ワタシが人間じゃないってことはすぐに知られていたよね。だって、他と比べて左腕が大きくて、逆に右足が小さいから。
別に知られてもいいけど、言いふらすのもちょっとね。
さて、早く美味しいお店を管理人さんから聞きに行こう。
1004号室のカギをかけた後、ワタシはまだサイン色紙を抱きしめているマウの背中をそっとたたいた。
出てきたのは、黒いローブで全身を包んだ人物。
じっとこちらを見てくるその様子は、昨日、ワタシたちを裏側の世界に連れて行ったあの少女を思い出す。
…… 「……」
黒いローブの人物はじっとこちらを見ると、口を開いた。
「なあ、新しく引っ越してきた、お隣さんかい?」
そのローブの人物は男の人の声で、親しそうに話しかけてきた。
どう答えればいいんだろうと迷っていると、マウが大きな耳をローブの人物に向けていた。
「……もしかして、“ナルサ”さん!?」
……マウ、知っているの?
「こ、この人、ナルサさんだよ!! 里井 奈留佐!! 紋章ファッションデザイナー兼動画投稿者のナルサさん!! 会ったのは初めてだけど、この声は確かに動画のままだよ!!」
マウがすごく、興奮している。
鼻をすごい速さで動かしながら、おなかのバックパックの紋章から……サイン色紙とサインペンを取り出した。
いつの間に入れてたの。
「あ、あ、ああ、あああ、あ、あののの」
体を震わせながらサイン色紙とサインペンを差し出すマウに対して、ローブの人物……ナルサさんは心よく会釈してそれを受け取り、何かを書き始めた。
「ま、まさかナルサさんと出会えるなんて……」
ナルサさんの名前が書かれたサイン色紙を抱きしめて、すっかりほっぺたを桃色にするマウ。
でも、ワタシは紋章ファッションデザイナーってよく分からない。どうすごいんだろう……
「あ、イザホ、もしかして戸惑ってる?」
……と思ったら、マウがいつも通りに様子をうかがってくれた。うん。この人のこと、よくわからなくて……
「あ、あの……今日も紋章を着けているんだよね? 紋章デザイナーのこと、説明したいけど……よかったら、イザホによく見せてもらうこと……できる?」
もじもじしながら頼み込むマウに対して、ナルサさんはワタシの顔をじっと見てきた。
「イザホ……君の名前かい?」
戸惑いながらうなずくと、ナルサさんはゆっくりとフードを下ろし始めた。
「紋章ファッションデザイナー、一言で言えば……“姿の紋章”を使ったファッションを提案するデザイナーって言えばしっくりくるかな」
ナルサさんの顔は、真っ黒で、眼球の代わりに青い触覚が生えていた。
顔立ちや長い髪の毛は、女性のようだ。
姿の紋章のことならワタシも知っている。
Tシャツの形をした、埋め込んだ対象の姿を変える能力を持つ紋章だ。
衣服に付けるとその見た目を変えることができる。人間の肌に埋め込むと、その人自身の外見が変わる。
「今日は女の子のような見た目をしているけど、中身はオッサンだからな」
ナルサさんは触覚を出し入れしながら、笑みを浮かべていた。
「ナルサさんは、普段の生活でも自身の作品で身をまとっているんだ。ちなみに、今の姿は“化け物バックパッカースタイル”。今年出たばっかりの新作なんだよね」
よくわからないことを解説しているマウに対してナルサさんは「よく知っているな」と感心している。
その後、ワタシに右手を差し伸べた。
よく見ると、背中には黒いバックパックが背負われている。
「そういうわけで、オレは変なお隣さんってことになるが、懲りずに仲良くしてくれよな」
……なんだか、悪い人ではなさそう。
目が触覚なせいか、下を見ているような気がするけど、マウの知っている人だからだいじょうぶだよね。
ワタシは小さな右手でナルサさんの腕を握って、握手をすることにした。
「あ、そうだ」
ナルサさんは突然、扉の方に顔を向けた。
あの扉は……1002号室だ。
「このマンションは防音設備が整っているからだいじょうぶとは思うけど、あそこの住民はそっとしてほしい。ちょっと落ち込んでいるから」
ちょっと真面目な話になったのか、ナルサさんは肩を上げて、下ろした。
「……君の姿の紋章、なかなかいいな。ちゃんと着こなしている」
ワタシの上半身をじっと見ると「それじゃあ、またな」と階段へと立ち去って行ってしまった。
マウはまた、サイン色紙を抱きしめて、ほっぺたを桃色にしていた。
「ああ……まさか引っ越した部屋の隣が、ナルサさんの住む部屋だなんて……ねえイザホ、ボクたちの新生活の場所をここにして、やっぱり正解だったね」
うーん、なにか違うような気がするけど……
まあ、マウが喜んでいるならそれでいっか。
それにしても、ナルサさん……ワタシが姿の紋章でこの姿になっていると勘違いしているみたい。
そもそも姿の紋章は、今の技術では衣服と人間しか姿を変えることができない。それは死体であるワタシも例外じゃない。
姿の紋章が存在していなかったら、ワタシが人間じゃないってことはすぐに知られていたよね。だって、他と比べて左腕が大きくて、逆に右足が小さいから。
別に知られてもいいけど、言いふらすのもちょっとね。
さて、早く美味しいお店を管理人さんから聞きに行こう。
1004号室のカギをかけた後、ワタシはまだサイン色紙を抱きしめているマウの背中をそっとたたいた。
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