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FILE1 廃墟の化け物
第一話「......噂は本当だった、と言っていいのかな」
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「はあ......これだけで済んだ......と言っていいのかなあ......」
木に真正面から激突した車を外から眺めて、私はため息をつく。風は頭のポニーテールを揺らしつつ、カミソリ負けした顎の僅かな傷の中に侵入する。
暑い日差しが差し込む森に囲まれて直接に続くアスファルト。その脇で煙を出している愛車の前輪の姿は見えない。いまだに転がっていて制限スピードを破っていなければいいのだが。
「電話しないといけないよなあ......めんどくさいけど」
私はいつものように独り言を連発しながら、ポケットに忍ばせている折り畳み式携帯電話を取り出す。携帯にぶら下がる小判を持つホタルのキーホルダーの光が揺れる。
「ふう、こんなもんかな......あとは迎えが来るまで待っているだけど......」
招きホタルのキーホルダー付き携帯をしまい、この後の時間を潰せそうなところがあるか確かめる。なかったらノートパソコンでも開こうかな。
「......ん? あれは......」
自動販売機だ。ちょうど愛車の反対側にある。
「......よし、ひとまずリフレッシュとするか」
よい子はしてはいけない行為だけど、横断歩道なしの横断をして自販機の前に立つ。百円玉二枚を入れて、黄土色の液体が入ったペットボトルの下のボタンを押すと、ペットボトルとお釣の落ちる音がする。
「......これを飲むのも久しぶりだよなあ」
お釣を回収した後にペットボトルを手にとってラベルを見る。
"一島町の美味しいカフェオレ"
ここ、"一島町"は個人的には田舎臭さを残す街という印象に思う。車はよく通るし、信号機やコンビニも至るところにある。交通機関もそこそこ快適であろう。それでも人口は多いとは言えない。ネットで調べたところ、過疎化が絶賛進行中である。
そんな街にも、かつてはどこの誰もが注目した時期があった。28の私が生まれるよりも2年前だから......今から30年前からだったかな。夜の一島町の上空に複数の飛行物体......いわゆるUFOが通過した。それも、急に現れて急に消えていくという不可解な飛び方で。街の外にいた好奇心旺盛な人たちは一島町に集まり、街の住民たちはここぞとばかりに商売をしていた。変な形をした饅頭や不気味に光るキーホルダーとか、変な物を品物にね。
しばらくすると、その興奮も冷めきってしまった。あれ以来UFOが空に現れることはなく、外からきた人々は一島町から離れていった。
このカフェオレのラベルには、一つの島が写っている。この一島町のビーチから見える孤島......その名もズバリ"一島"だ。ありがちだが、この街の名前の由来になっている。UFO騒動の時には関係があるんじゃないかとも言われていた。今ではここが観光名所の代表みたいなものだ。
蓋を開けて、中身の液体を口に流す。コーヒーの苦味が、まろやかなミルクに包まれて喉を通る。この街で暮らす知り合いから送られて飲んでみた時から、私はこの味の虜になった。
「この味をペットボトルで飲めるのなら、この街で暮らすのも悪くはないかな」
ペットボトルの蓋を閉めてまた独り言。よく友人から独り言が多いと言われている。
よく考えれば、これが私と一島町を繋げたと言っても過言ではない気がする。このカフェオレから一島町を知った私は、ネットで一島町について調べるようになった。そして......"ある噂"を聞いた時、私は今日のための準備をしていた。
「助けてー!!」
どこからか子供の声が聞こえたような気がした。ふと横を見てみると、小学生ぐらいの男の子がこちらに走って来る。
「どうした? 変質者でもいた?」
私は頭に浮かんだ笑えない冗談を入れて男の子に尋ねる。
「おじさん! カナちゃんを助けて!! お化けに拐われちゃった!!」
男の子は私の話を無視して必死に叫ぶ。変質者じゃあ少し難し過ぎたかな?
......ちょっと待てよ、お化け?
「お化けに拐われた......どんなお化けだった?」
男の子から詳しい事情を聞くことにしよう。
「うん......真っ白で......顔に変なものついている......女の人のお化け......」
「どこで会った?」
「あっちの......廃墟......カナちゃんと一緒に遊びにいったら......急にお化けが現れて......逃げていたらはぐれちゃって......廃墟に戻ろうとしたら......お化けがカナちゃんを抱えて走っていたの......」
......やはりか。
「わかった。おじさんが助けにいくよ」
「本当!? 本当に!?」
「ああ本当さ。それよりも君はここを離れたほうがいいよ。車に跳ねられちゃうからね」
男の子は頷くと、道路の橋を走って行った。
「......噂は本当だった、と言っていいのかな」
私は車のトランクにしまいこんでいたデジタルカメラとノートパソコンの入った袋を取り出しながら、ここに来るきっかけとなった噂を思い出す。
"一島町の外れにある廃墟に化け物が暮らしている"
あくまでも噂だけど、その化け物は言葉を話し、近くに物を落とすとそれを拾って廃墟に溜め込むらしい。実際に目を会わせた目撃者の体験談によると、かすれたような声で言葉を話していたという。
これとは別の件ではあるが、私も似たような経験をしたことがある。それに加えて、Webライターとしての好奇心が重なり、噂を確かめるためにこの街に来たのだ。
と言っても、今すぐ廃墟に行くことはできなそうだ。パトカーやレッカー車の迎えを無視して勝手に行動すれば、何言われるかわからない。
私は、無惨な姿となった愛車をもう一度眺める。
事故が起きる直前、私が運転していると急に女の子が飛び出した。ブレーキが間に合わず、慌ててハンドルを回した時、真っ白なシルエットが女の子の腕を掴んだ。
木に激突した後、都合よ......奇跡的に体は無事だと判断した私は車の外に出る。女の子たちは消えていた。
そして、愛車の姿を見て独り言を呟いたのだった。
木に真正面から激突した車を外から眺めて、私はため息をつく。風は頭のポニーテールを揺らしつつ、カミソリ負けした顎の僅かな傷の中に侵入する。
暑い日差しが差し込む森に囲まれて直接に続くアスファルト。その脇で煙を出している愛車の前輪の姿は見えない。いまだに転がっていて制限スピードを破っていなければいいのだが。
「電話しないといけないよなあ......めんどくさいけど」
私はいつものように独り言を連発しながら、ポケットに忍ばせている折り畳み式携帯電話を取り出す。携帯にぶら下がる小判を持つホタルのキーホルダーの光が揺れる。
「ふう、こんなもんかな......あとは迎えが来るまで待っているだけど......」
招きホタルのキーホルダー付き携帯をしまい、この後の時間を潰せそうなところがあるか確かめる。なかったらノートパソコンでも開こうかな。
「......ん? あれは......」
自動販売機だ。ちょうど愛車の反対側にある。
「......よし、ひとまずリフレッシュとするか」
よい子はしてはいけない行為だけど、横断歩道なしの横断をして自販機の前に立つ。百円玉二枚を入れて、黄土色の液体が入ったペットボトルの下のボタンを押すと、ペットボトルとお釣の落ちる音がする。
「......これを飲むのも久しぶりだよなあ」
お釣を回収した後にペットボトルを手にとってラベルを見る。
"一島町の美味しいカフェオレ"
ここ、"一島町"は個人的には田舎臭さを残す街という印象に思う。車はよく通るし、信号機やコンビニも至るところにある。交通機関もそこそこ快適であろう。それでも人口は多いとは言えない。ネットで調べたところ、過疎化が絶賛進行中である。
そんな街にも、かつてはどこの誰もが注目した時期があった。28の私が生まれるよりも2年前だから......今から30年前からだったかな。夜の一島町の上空に複数の飛行物体......いわゆるUFOが通過した。それも、急に現れて急に消えていくという不可解な飛び方で。街の外にいた好奇心旺盛な人たちは一島町に集まり、街の住民たちはここぞとばかりに商売をしていた。変な形をした饅頭や不気味に光るキーホルダーとか、変な物を品物にね。
しばらくすると、その興奮も冷めきってしまった。あれ以来UFOが空に現れることはなく、外からきた人々は一島町から離れていった。
このカフェオレのラベルには、一つの島が写っている。この一島町のビーチから見える孤島......その名もズバリ"一島"だ。ありがちだが、この街の名前の由来になっている。UFO騒動の時には関係があるんじゃないかとも言われていた。今ではここが観光名所の代表みたいなものだ。
蓋を開けて、中身の液体を口に流す。コーヒーの苦味が、まろやかなミルクに包まれて喉を通る。この街で暮らす知り合いから送られて飲んでみた時から、私はこの味の虜になった。
「この味をペットボトルで飲めるのなら、この街で暮らすのも悪くはないかな」
ペットボトルの蓋を閉めてまた独り言。よく友人から独り言が多いと言われている。
よく考えれば、これが私と一島町を繋げたと言っても過言ではない気がする。このカフェオレから一島町を知った私は、ネットで一島町について調べるようになった。そして......"ある噂"を聞いた時、私は今日のための準備をしていた。
「助けてー!!」
どこからか子供の声が聞こえたような気がした。ふと横を見てみると、小学生ぐらいの男の子がこちらに走って来る。
「どうした? 変質者でもいた?」
私は頭に浮かんだ笑えない冗談を入れて男の子に尋ねる。
「おじさん! カナちゃんを助けて!! お化けに拐われちゃった!!」
男の子は私の話を無視して必死に叫ぶ。変質者じゃあ少し難し過ぎたかな?
......ちょっと待てよ、お化け?
「お化けに拐われた......どんなお化けだった?」
男の子から詳しい事情を聞くことにしよう。
「うん......真っ白で......顔に変なものついている......女の人のお化け......」
「どこで会った?」
「あっちの......廃墟......カナちゃんと一緒に遊びにいったら......急にお化けが現れて......逃げていたらはぐれちゃって......廃墟に戻ろうとしたら......お化けがカナちゃんを抱えて走っていたの......」
......やはりか。
「わかった。おじさんが助けにいくよ」
「本当!? 本当に!?」
「ああ本当さ。それよりも君はここを離れたほうがいいよ。車に跳ねられちゃうからね」
男の子は頷くと、道路の橋を走って行った。
「......噂は本当だった、と言っていいのかな」
私は車のトランクにしまいこんでいたデジタルカメラとノートパソコンの入った袋を取り出しながら、ここに来るきっかけとなった噂を思い出す。
"一島町の外れにある廃墟に化け物が暮らしている"
あくまでも噂だけど、その化け物は言葉を話し、近くに物を落とすとそれを拾って廃墟に溜め込むらしい。実際に目を会わせた目撃者の体験談によると、かすれたような声で言葉を話していたという。
これとは別の件ではあるが、私も似たような経験をしたことがある。それに加えて、Webライターとしての好奇心が重なり、噂を確かめるためにこの街に来たのだ。
と言っても、今すぐ廃墟に行くことはできなそうだ。パトカーやレッカー車の迎えを無視して勝手に行動すれば、何言われるかわからない。
私は、無惨な姿となった愛車をもう一度眺める。
事故が起きる直前、私が運転していると急に女の子が飛び出した。ブレーキが間に合わず、慌ててハンドルを回した時、真っ白なシルエットが女の子の腕を掴んだ。
木に激突した後、都合よ......奇跡的に体は無事だと判断した私は車の外に出る。女の子たちは消えていた。
そして、愛車の姿を見て独り言を呟いたのだった。
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