上宮俊の化け物取材記録~妙な記者精神を持つWebライターの変化賛歌~

オロボ46

文字の大きさ
5 / 18
FILE2 訳あり物件

第四話「俺と柄子は決して離れないさ」

しおりを挟む
「まさか本当に一島町に暮らすことになろうとはね」
トンネルの中を新たな愛車を滑走させながら、上機嫌に呟いてみる。トンネルを抜けると、朝日が車の中の私を照らしてくる。もうそろそろ車のライトは消していいだろう。

 季節の移り変わりによって赤く染まった紅葉が、高速道路に撒き散らしている。それを新たな愛車はいとも呆気なく踏んでゆきながらスピードを上げる。
「もしもこれが映画だとしたら、この辺りで主題歌入るんだろうなあ」

 その主題歌をリクエストするなら、軽いノリでありながら壮大な展開を期待出来る歌にしてほしい。これから向かう一島町には、きっとそれに見合う展開が待っているはずなのだから。



 サービスエリアで愛車を停めて、車の外で大きく伸びをする。やはり長距離を運転するのは疲れるね。
「さて、腹ごしらえといきますか」
腕時計を確認すると7時。引っ越し業者との待ち合わせの時間にも十分間に合うだろう。私はサービスエリアの建物に向かって歩き始める。

「この"鍋焼き冷や麦"って本当に美味しいよねえ!」
「ああ。きっと、柄子エスと一緒に食べるからこんなに美味しいのさ」
「やだもう獲濡エヌったら!」
朝からカップルが席についてイチャイチャしている。なぜこんな朝早くからサービスエリアでイチャついているんだろう。もしかして、駆け落ち? いや、それならもっと深刻そうな表情のはず。あの二人は幸せで周りが見えていない表情だ。
 まあいいや。それよりも私が興味があるのは、二人が食べている"鍋焼き冷や麦"だ。

 そんなわけで、鍋焼き冷や麦を注文してみた。カウンターから受け取った鍋を乗せたお盆を慎重に運ぶ。
 カップルから離れた席に置き、私も座る。鍋の蓋を取ると、解放された湯気が屋根に向かって羽ばたき始める。鍋の中にはそうめんよりも太く、うどんよりは細い冷や麦が生卵やニラたちと共に待っている。
 蓮華れんげでスープをすくい、口の中に運ぶ。うん、一般的な鍋焼きうどんと同じ、めんつゆがベースのようだ。次に冷や麦を橋で掴み、口の中に滑らす。後はズルズルッと吸う......うん、結構いける!

 別のとこのご当地グルメで、鍋焼きラーメンというの食べたことはある。それと比べると、この鍋焼き冷や麦は鍋焼きうどんの感覚がより多く残っている。だけど、この麺の細さと柔らかさで、ちゃんと差別化を取れていることも確かだ。
 それにしても......この鍋焼き冷や麦、一島町名物らしいが、イマイチ知名度がないなあ......私だってサービスエリアで見かけるまでは存在すら知らなかったからなあ。
 一息ついたら、これをネタに記事を書いてみようか。私だって一応Webライターだから、少しでもPR出来るだろう。まあ、タダ働きは嫌だから、こちらから売り込むか誰かからか依頼を受ける必要があるけど。

「次のニュースです。二週間前に一島町で起きた男性の失踪事件ですが......」
設置されているテレビがニュースを伝える。二週間前に起きた失踪事件。実は最近の一島町では珍しくない出来事になろうとしている。



 UFO騒動の興奮が覚めてからしばらく経ったころから、一島町を中心に失踪事件がよく起きるようになった。頻繁に起こることなく年に数回と、他の町で暮らす人間が疑問に思わない程度に一人ずつ消えている。
 三ヶ月前に私が一島町の観光から帰ってきた後に調べたことだけど......最近はオカルトファンの皆さまの中でも少数の間だけ、奇妙な噂が広がっているらしい。

 一島町で失踪した人間は、化け物のような姿になる。

 私にとっては、いい引っ越しの理由が出来たんだけどね。私は一島町から離れた県にある街で、おばさんの家に厄介になっていた。だけどこのおばさんが結構うるさくてねえ......自立して一人暮らしするか、お嫁さんを見つけてくるまで心配だわあと同じ言葉を繰り返していたのだ。今年はお見合い写真を見せて来るようになったし。
 もちろん私は結婚なんて嫌だった。家族の失踪からの一種のトラウマなのか、あるいは親の縛りが緩くなったことでより自由を求めるようになっていたのか。はっきりとした理由はよくわからないけど、結婚するぐらいなら外国に失踪したほうがましだ。
 そんな時に送られてきた友人の手紙と"一島町の美味しいカフェオレ"は本当に助け船だったと思っている。よく住むのも悪くないなと呟いていたのも理由があるのだ。



「ねえ獲濡......私怖い......もしも獲濡が消えちゃったらと思うと......」
「ハハッ、柄子は本当に怖がりだなあ! 安心しろ、俺と柄子は決して離れないさ」
「そうね。私はSであなたはN。一度くっついた磁石は永遠に離れないわ」
自販機から買った一島町のカフェオレを飲んでいると、例のカップルが私の前をイチャイチャしながら通り過ぎていった。
「......二人にとっては、片割れが失踪することが最も恐ろしいことだろうな」
少し恨めしげに呟きながら、カップルの後ろ姿を眺める。彼らもあのニュースを見たのだろう。まさか一島町で暮らしているとは思わないけど。

 この失踪事件がただの引っ越しの理由づけではない。私の記者としての好奇心が、三ヶ月前の出来事と結び付き、一島町へと向かわせたのだ。

"ウン......私......昔ハ人間ダッタヨウナ......気ガスルノ......昔ノコトナンカ......全然覚エテナイノニ......"

 廃墟で出会ったあの子の声を思い出す。そして、私の小学六年の思い出と結び付けると、しっくりと来るパズルの土台が出来上がるのだ。



 化け物のような姿になった元人間が、他の人間に見られないために姿を眩ます......その結果、元人間が姿を消すことになる。



 再び高速道路を飛ばしながらも、私の頭の中には先ほどの仮説が飛び回っている。たとえ間違っていても、この仮説が合っていることを確めなければ。こういう図々しい私の性格が、Webライターとしての職業に多分合っているんじゃあないかな。

 もしもこれが映画なら、ここでタイトルロゴを出してほしい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...