化け物バックパッカー

オロボ46

文字の大きさ
21 / 162

化け物バックパッカー、化け物発明家と出会う。[1]

しおりを挟む
 


「コンナ姿デモ、問題ナイサ」



 雨音の響く暗闇の中で、ひとりがつぶやいた。
 人間とは思えない、奇妙な声。あいつの声だ。



「問題あるだろう。俺は平気だが、突然変異症で変化したその姿を他人に見られてみろ、あっという間に大騒ぎになるぞ」



 もうひとりが反論する。
 老人のような声。客人であろう。



坂春サカハルクン、モウ少シソノボケタ頭ヲ活用シタマエ。君ハ数学ノ文章問題ヲ2秒デ飛バシテイルヨウナモノダゾ」



 何かをあさるような音。



「なんだ、ハロウィーンの余り物か?」
「確カニソノ使イ方モデキルガ、モット有効的ナ効果ガアル。着テミロ」



 奇妙な声が言うと、なにやらゴソゴソと衣服を着るような音が聞こえてくる。



「……ただの中から外の様子が見えるローブじゃないか。不思議と暑くないが」
「モットフードヲ深ク被リタマエ。ホラ、姿ノホトンドヲ隠セテイルゾ」



「……余計怪しいだろ、これ」
「ワガママイウナヨ、姿ヲ隠スニハソノ形ガ一番ナンダゼ」




 声はなかなか止まらなかった。
 話が盛り上がっているんだろう。まるで旧友の再会のように。
 本当に、楽しそうに。



「ナア坂春、コレヲ見知ラヌ変異体ニ与エテクレ。ソシテ1日ダケ一緒ニ付キ添ッテ、使イ心地ヲ聞イテキテクレナイカ」



「……報酬は?」



「友人ノオツカイニ金ヲカケルナラ、研究所ノ設備ニ使イタイ」



 奇妙な声にあきれるように、老人のため息が聞こえる。
 それに続いて、奇妙な声の笑い声が響いた。



「ソンナ暗クジメジメシタ見方ヲ変エルチャンスカモシレナイゾ?」






 男は、毛布を投げ出した。



 窓から差し込む光が、男を照らしていた。





 Chapter1 バックパッカーと変異体





「懐かしいところだな……」

 人気のない田舎道に立つ、一件の家。
 その前にふたりの人影が立ち止まっていた。

「“坂春さかはる”サン、来タコトガアルノ?」

 ひとりは、黒いローブを見に包んだ人物だ。
 フードを被っていて顔が見えないが、そのシルエットは女性のような形をしている。その声を他人が聞くと、寒気を感じそうなほどの奇妙な声をしている。
 背中には、黒いバックパックが背負われている。

「ああ、ちょっと雨宿りさせてもらうつもりが、そのまま一晩泊まらせてもらったことがある。ここの家主が発明家でな、その発明品に興味をそそられたんだ」

 もうひとりは、黄色いダウンジャケットを身にに包んだ老人だ。
 “坂春”と呼ばれたその老人は懐かしむように目を閉じているが、顔が怖い。

「ハツメイヒンッテナニ?」
 ローブを着た人物が首をかしげる。
「新しい便利な道具だ。あいつは、主に“変異体”の役にたつものを発明していたな」
「変異体ノ役ニ立ツモノ……タトエバドンナノ?」
「“タビアゲハ”、おまえが着ているものだ」
 タビアゲハと呼ばれた人物は、自分の着ているローブのを見て、
「コレ?」
 と両手を肩まであげて、坂春の方向に体を向けた。



 ガチャ

「ア……」「……!?」

 玄関の扉が開かれ、誰かが出てきた。

 その誰かは、30代ほどの年齢の男で、眼鏡をかけている。
 男は家の前にいるふたりを、不思議そうなのか、はたまたうっとうしいようなのか、にらんでいた。
 タビアゲハは坂春の後ろに隠れるように移動し、坂春は男を見つめながら右手を震わせていた。

 その手は、人差し指を立て、それを男に向ける。

「あんた……どうして人間に戻っているんだ!?」

 その声で思い出したのだろうか、
 男は目を見開くと、「ああ……」と静かに驚いた。
「君は……坂春か。久しぶりだな」
「質問に答えてくれ! なぜ人間に戻っている!?」
 坂春は叫んだ。起こるはずのない現象に戸惑っているかのように。
「僕の発明に不可能はない。そのことぐらい、君はわかっているだろう」
「いったいどうしたらそうなったんだ!?」
「それは言えないな。他人に勝手にマネされては困るのでね」
 男は鼻で笑う。坂春はそれでもまだ納得ができないのか、首をかしげた。
 その様子を見ていたタビアゲハは、坂春の肩をつつき、声が男に聞こえないように耳元でささやく。
「アノ人ガ……ハツメイカ……サン?」
「ああ……俺が合ったころは変異体だったはずだ。だがあの男は、あいつが写真で見せてくれた、あいつが人間だったころの姿をしている……」

 男の視線は、坂春からタビアゲハに移った。
「お嬢さん、そのローブの使い心地はいかがかな?」
「……」
 タビアゲハはすぐに黙り込み、坂春の後ろに隠れた。
「心配する必要はないさ、僕は変異体のために研究をしている。そのローブも僕の発明品のひとつなのさ」
 男の言葉を聞いたタビアゲハは、確認するように坂春の表情を見つめる。
 坂春がタビアゲハを見てうなずくと、タビアゲハは恐る恐る前に出た。
「コレッテ……アナタガ?」
「ああ、もしよかったら発明品を見てみないか? それに、わざわざ来てもらった君には人間に戻る方法……教えてあげてもいいけどね」
「……坂春サン、私……ハツメイヒンニ興味ガアルンダケド……」

「……わかった、少し邪魔させてもらおう。おまえにも聞きたいことがあるからな」





 Chapter2 影と触覚





 暗闇の中に、光が入りこむ。

 その光から、3つの人影が現れる。

 光はだんだんと細くなり、扉の閉まる音とともに、部屋は再び暗闇に包まれる。

 ごつん

 その部屋は完全な暗闇ではなかった。

 窓の前に設置されたカーテンは、ほんの少しの光を取り入れていたのだ。

 ごつん

 その部屋に置かれている何かが、独特なシルエットを作っていた。

 その中を、3つの影が通っていく。

 ごつん

 ……先ほどから、何かがぶつかる音が聞こえている。

「いててて……」
「坂春サン、コレデ3回目ダケド……」
「このごちゃごちゃした機材も相変わらずだな。ぶつけた場所がまったく一緒だ。これで照明のスイッチが向こう側にあるなんてな」
「そんなことは気にする必要はない。むしろ面白いだろう」
「タシカニ」
「確かにってなあ……タビアゲハ、こんな暗闇でも見えるのか?」
「ウン、タブンコノ触覚ノオカゲダト思ウ」
「はあ、人間でいることも不便かもな……」

 ごつん

 坂春、本日4回目の激突。

「いっつ……今度はくぐるのか……まったく、バリアフリーのなっていない研究所だ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...