73 / 162
★化け物運び屋、仲間を見つける。【3】
しおりを挟む階段を上がってきたのは、警官の服装をした男女だ。
「確かに、ここから声が聞こえたけど……ん?」
警官のひとりの女性は、廊下に落ちている新聞紙に包まれた本を拾い上げた。
その下には、黒い液体が落ちている。その液体に男性の警官がひと差し指で触れる。
「これは変異体の血……それに、この壁の傷……やはり、ここに逃げ込んだみたいだな」
「しかし、なんか変だなこの本。片方だけ8つ穴が空いているし……興味が湧いちゃうな」
本を開こうとする警官を、もうひとりが「おい」と呼び止める。
「僕たちは空き家を荒らしに来ているわけじゃないぞ」
「あ、そっか。ここに住んでいた人、たしか行方不明になっていたっけ。かってに人の物を見るのも極力避けたほうがいっか」
「それもそうだが、見ている間に変異体に逃げられたらどうするんだ」
「……それもそっか」
女性警官はあっという間に興味を失い、本を後ろに放り投げた。
本は階段へと落ち、階段の角にぶつかりながら1階へと落ちていく。
その後、警官は二手に別れて、2階の部屋を調べ、その後1階へと移動して変異体を探した。
しばらくした後、ふたりは1階のリビングで合流した。
「そっちはいたか?」
「ううん、全然。やっぱり逃げちゃったかも」
「……仕方ない。とりあえず帰って報告するしかないか」
Chapter5 キツネの娘
♦
「いたたたた……」
本の変異体の中の図書館にて、鏡の中の男の子は頭を抱えてうずくまった。
「ダイジョウブデスカ?」
そんな彼に、鬼の変異体は心配するように声をかける。
「うん……階段のあちこちにぶつかって……痛かった……」
男の子の声は、もはや涙声だ。
机の上に置いてある、この空間の出口とも言える本。その隣には黒い液体の付いたガラスの破片、さらに隣にはキツネの変異体が座って図書館のあちこちを眺めていた。胸の傷は、もう消えていた。
「ネエ……ココ、ドウナッテイルノ……天井高スギナイ? トイウカ、アンタタチ、誰?」
昨日の様子とは違い、図書館の天井の高さが大幅に延長されていた。今となっては、15m。今、体育座りをしている鬼の変異体が立っても全然問題はない。
少年はもう慣れたのか、椅子に腰掛けて足を組んでいる。
「ああ、ここは本の格好をした変異体の中。そんであの鏡の中にいるヤツが本の変異体が人間だったころの姿で、この鬼のおっさんは……さっきの家の元住人だ」
「……ナンダカヨクワカラナイケド、一応変異体ナノヨネ? アナタ以外」
まだ疑心暗鬼なキツネの変異体に、少年は笑みを絶やさなかった。
「だいじょうぶだって。俺はこう見えて、“化け物運び屋”なんだぜ」
「化ケ物運ビ屋?」
「変異体は人間から隠れて暮らしているだろ。だから、他の友人に物を渡したくても渡せにいけないことだってある。そんなやつから荷物を預かり、それを届ける相手に届ける。それが化け物運び屋だ。俺はまだ新入りみたいなもんだが、いくつか変異体の巣に入ったこともあるぜ」
「……」
キツネの変異体は緊張をほぐすように肩を上げ、ため息とともに下ろした。
「……少ナクトモ、警察ミタイニ殺シニクルワケジャアナイノネ」
気を許してもらえたと判断したのか、少年はサムズアップとドヤ顔のコンポを決める。
そのタイミングで、鬼の変異体はキツネの変異体の方を見た。
「失礼デスガ、アナタハドウシテ警察ニ追イカケラレテイタノデスカ?」
「エット……チョットイロイロアッテネ……」
キツネの変異体は立ち上がると、3人から目を背けるように後ろを振り向いた。
「アタシネ、神社ノ住職ノ娘ダッタノ。コノ姿ニナッテカラハイロイロアッタケド、最終的ニハオ父サント暮ラスコトガ出来タ」
「最終的ニイタルマデハ、オ聞キシナイコトニシマショウ。ソノ後ハ?」
「アル日、神社ニイルトコロヲ子供タチニ見ラレテ、オ父サント神社ヲ離レルコトニナッタワ。ソレデ、ココノ近クノホテルニ泊マルコトニシタンダケド……」
キツネの変異体はうつむいて瞳を閉じる。
「……ダケド、オ父サンハ変異体ニ対スル耐性ヲ持タナカッタ。今マデ無理シテ、アタシト合ッテイタケド……ホテルノ中デ、ツイニ頭ガオカシクナッテ……部屋カラ飛ビ降リテ、死ンジャッタ」
「……」「……」「……」
「ダカラ、警察ガアタシヲ追イカケテクルノ。オ父サンヲ殺シタ、凶暴ナ変異体トシテ」
3人は、かける言葉が見つからなかった。
キツネの変異体は振り返り、作り笑いを見せた。
「デモ、アナタタチノオカゲデ助カッタワ。モウアタシハダイジョウブ。ドコカデ安全ナトコロニ隠レルカラ……」
少年はうつむき、何かを決心したようにうなずいた。
「なあ……もしよか――」
「ねえお姉ちゃん、僕と運び屋のお兄ちゃんと一緒にいかない?」
少年が話しかけるよりも、鏡の中の男の子が早く、はっきりと言葉で伝えた。
「エ!?」「……」
「ちょ……ちょっとタンマ!」
その言葉にもっとも戸惑ったのは、少年だった。
「……だめ?」
鏡の中の男の子は、まるでお菓子を静かにねだるような瞳で少年を見ていた。
「いや! 全然かまわねえ! というか、俺がそれを言おうとしていた! だけどよお?! おまえが来るって聞いてねえけど!?」
「だって、変異体の巣とかよくわからないところより……お兄ちゃんと一緒のほうが楽しそうだもん」
「うん! 俺もそう思う! おまえを連れて行くのも迷惑どころかむしろ歓迎だぜ! だけどよお! あれ! あれ! あれが……」
「依頼ノコトデスカ?」
半分パニック状態になっていた少年に、鬼の変異体が助け船を出す。
「そう! それ! あのじいさんの依頼は大丈夫かよ!?」
「たぶん大丈夫。あのおじいちゃん、僕の心配をして変異体に届けるように言っていたと思うから。お兄ちゃんと一緒なら、おじいちゃんも安心すると思うよ」
男の子の言葉に、少年はようやく落ち着きを取り戻した。
「それならいいけどよお……あそこの変異体の巣はどう言えばいいものか……」
「ア、ソレニツイテナノデスガ……」
鬼の変異体は、少し恥ずかしそうに頭をかく。
「ナカナカ言イ出セナカッタノデスガ、実ハアノ変異体ノ巣ハ、モウ満員デシテ」
「まじか」「……」「……サッキカラナンノ話ヲシテイルノ?」
「ツイデト言ッテハナンデスガ、邪魔ニナラナケレバ私モ連レテ行ッテクレマセンカ? 変異体ノ巣ノ門番ハ別ノ候補ガイマスシ、ナニヨリモ、狭イ工場ヨリハコチラノ方ガ快適デスシ」
少年は3人――鏡の中の男の子、座って4mの鬼の変異体、身長30cmのキツネの変異体――を見て、笑みを浮かべた。
「それじゃあ、俺たちは……一緒に旅をする――」
「仲間ってことだな」「仲間だね」「仲間デスナ」「仲間ッテコトデイイノネ」
♦
Chapter6 仲間を連れて
山道の道路を、少年はバイクで来た道を駆け抜けていく。
目的地は、工場にある変異体の巣。
そこにかつて暮らしていた者が、
そして、そこに住む予定だった者が、
自分たちとともに旅立つことを伝えるため、少年はバイクを走らせる。
リアバッグの中に詰まっている、3人の仲間のことを思い浮かべながら。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる