83 / 162
化け物バックパッカーと変異体ハンター、それと化け物ぬいぐるみ店の店主に化け物運び屋、あと商人、それぞれ初詣に行く。【6】
しおりを挟む山奥の神社の賽銭箱。
そこへ、銀色の小銭が1枚、シワだらけの指によって飛んできた。
小銭が落ちる音が聞こえてくると、
屋根から垂れているヒモを、黒い手がつかむ。
鈴の音が響き渡ると思うと、
パン パン
ふたつの手を合わせる音が重なった。
「……タビアゲハ、今年は何か願い事をしたのか?」
神社に向かって礼をした後、ひとりの老人……坂春は、隣に立っているタビアゲハにたずねる。
「ウウン。神様ニ聞イテモライタイ願イ事、ウマク見ツカラナカッタカラ。坂春サンハドンナ願イ事ヲシタノ?」
「それは個人秘密だ。まあ、何も願わなかったおまえなら、俺の顔を見て察しているだろうな」
後ろの石階段ではなく、横に向かい歩いて行く坂春の背中を見て、タビアゲハは口元に一差し指を当てて首をかしげる。
「ナンカ……ドコカデ同ジヨウナコトガアッタヨウナ……」
坂春は振り返り、手招きをした。
「タビアゲハ、早くこっちにこい」
「ア、ウン。スグニ行ク」
テーブルの上に設置された、“おみくじ”と書かれた小さな赤い自販機。
その前に立つ坂春の元に、タビアゲハが走ってきた。
「坂春サン、ソレッテ?」
赤い自販機を指さすタビアゲハに、坂春は財布を取り出し始める。
「おみくじだ。占いみたいなものでな、その日が……今日の場合はその年の運勢がどんなものなのか、書かれているんだ」
「ウンセイッテ……運ガイイノカ悪イノカッテコトデショ? 何ガ書イテアッタラ運ガイイノ?」
「大吉が1番だ。それにつづいて吉・中吉・小吉、1番最悪なのが凶だ。まあ、たとえ凶が出たとしても、不幸な年だと決まるわけじゃあないがな」
坂春は100円硬貨を自販機の投入口に入れた。
取り出し口に、折りたたまれた紙が落ちた。
別の神社のおみくじの自販機では、学生服の少年がおみくじの紙を開封していた。
「――おっしゃあ大吉ぃぃぃっ!! やっぱり初詣といったらおみくじだよな!」
「チョット静カニ喜ビナサイヨ! 凶ヲ引イタ人ガ聞イタラドウスルノ!?」
崖に立つ神社で、大森と晴海は黙っておみくじの内容を読んでいた。
「……晴海先輩、どうでした?」
「凶だったよお。その様子じゃあ、大森さんも同じみたいだねえ」
「はあ……なんか今年最初のおみくじが凶だったら、あまりいい1年には思えないですよね……」
「それを信じるなら、今頃あたしたちは崖を登り切れていないと思うんだけどねえ」
墓地の近くにある神社で、我輩はおみくじを引いた。
「末吉……隠し事に注意……なんだか、1年というより1日の運勢である」
教会の出口に設置された箱に、真理と兄は互いに手を入れた。
「教会でもおみくじはするのね」
「ああ、ただ、大吉とか凶とかは書いていないんだね」
「代わりに書かれたこの祈りの言葉が、大吉ってとこかしら」
山奥の神社で、坂春とタビアゲハは互いに顔を合わせていた。
「……ナニモ、書イテイナイネ」
「ああ、白いな。印刷ミスか、何かのイタズラか……」
「デモ、ナンダカイイコトアリソウ。大吉ヨリモ、イイコトガ」
「ああ、白紙のおみくじなんて、めったに引くことなんてないからな」
ゆっくりと星を周り、各地の彼らを見守ってきた太陽。
太陽にとってはいつも通りに星を回っているだけなのに、
1年最初だというだけで人々は盛り上がる。
太陽でなくてもいいのに、人々は盛り上がる。
もしも太陽に心があるのなら、
勝手に盛り上がる人々に嫌気が差しているのだろうか。
それとも、そんな人々に愛着が湧いているだろうか。
人々の手に渡ったおみくじたちが、そんなことを考えた……かもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる