化け物バックパッカー

オロボ46

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化け物バックパッカー、蒼いジャングルを抜ける。【後編】

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 しばらくした後、坂春とタビアゲハ、そして少年とヒルの変異体は蒼いジャングルの中を進み始めた。

「しかし、さっきの腹の音はなかなかよかったぞ」
 笑う坂春に対して少年はそっぽを向き、口に付いている米粒をティッシュで拭き取った。
「長イ間、食ベテイナカッタヨウナ食ベ方ダッタケド……ナニガアッタノ?」
 足元に注意を払いつつ少年の服装を眺めるタビアゲハに対しては、少年は相談するように肩のヒルの変異体を眺めていた。
「……家出してきたの」
 ふたりの顔を見ずに、少年はそのまま答える。
「家出……変異体に対して恐怖を抱かないことから、周りに理解者がいないからか?」
「ううん、コイツがみんなに見つかって、捕まっちゃいけないって思って……」
 そこで少年は一度口を閉じ、一瞬だけタビアゲハを視界に入れる。
「おじいさんもそうでしょ?」
「? 俺がタビアゲハを庇うために旅をしてるというのか?」
 目を丸くする坂春に対して、少年は「違うの?」と眉をひそめる。
「私タチハタマタマ出会ッテ、旅ヲシタイカラ一緒ニ旅シテイルダケ」
「……」

 タビアゲハは黙った少年の肩に乗っているヒルの変異体を見てほほ笑んだ。
「ソノ変異体、君ノ知リ合イ?」
「知り合いっていうか……べ、べつに勘違いしないでよね? 僕とコイツは単に村の友達っていうか……ただのおさなじみというか……」
 再び顔を赤める少年。その表情を見て、坂春の唇が緩んでいく。
「ほお、おさなじみか」
「だから、そういう関係じゃないんだって……」

 その時、ヒルの変異体が少年の頬に頭をつけ、なで始めた。

 まるで、求愛行動のように。

「ちょ、ちょっと、すりすりしないで! 勘違いされるから!」

「わっはっはっ! それでは、このジャングルを抜けるまでこのカップルに付き添ってやるか、タビアゲハ」
「だーかーらー! 違うってばあ!!」

 豪快に笑い、先に進む坂春に、それを真っ赤な顔で否定し、後を追う少年。そしてその少年の肩で求愛行動を続けるヒルの変異体。

 彼らの後ろで、タビアゲハは首をかしげていた。

「坂春サン、ドウシテアンナニ嬉シソウナンダロウ……」





 空模様が赤みを帯びていっても、蒼いジャングルの輝きは失われなかった。

 坂春とタビアゲハ、少年とヒルの変異体は立ち止まり、ある1点を見上げていた。

 それは、天高くそびえ立つ巨大なビルだった。まだ距離はあるはずなのに、ジャングルの木よりも、高くそびえ立っていた。

「……なんとか今日中にたどり着けそうだな」
 坂春はビルに向かって一息つく。その横でタビアゲハは大きく背伸びをしていた。
「明日ハ、アノ街デオ祭リガアルンダヨネ」
「ああ、あの祭りはタビアゲハにぜひ見てもらいたいと思ってな。バスに乗り遅れた時はどうなるかと思っていたが、このジャングルを抜けたおかげで間に合いそうだ」

 ふと、坂春は少年の方を見た。
 先ほどまで期待していた表情をしていた少年は、坂春と顔を合わせると地面に目線を替える。

「僕はいいよ……なんとか逃げるから」
「まあ、俺たちには俺たちの旅があるからな。一緒についていくことはできん」

 そう言いながらも、「ちょっと待っていろ」と坂春はポケットからスマホを取り出し、調べ物を始めた。



「ねえお姉ちゃん」
 坂春が調べ物をしている間、少年はタビアゲハのフードをのぞき見る位置から話しかけた。
「あの触覚、もう一回見せてくれる?」

 タビアゲハはやや戸惑いながらも、フードをゆっくりと下ろした。

 眺めのウルフカット、影のような黒い肌とともに、触覚が現れた。
 その触覚は本来眼球が収まるべき場所から生えており、まぶたを閉じると引っ込み、開けると出てくる。
 その色は、“青い”……いや、周りのジャングルの植物とよく似ていることから、ここでは“蒼い”と表現すべきだろう。

「池に落ちようとしたときに見えた時から思っていたけど……その触覚、どうしてそんなにも蒼いの?」

 少年の問いが理解できないのか、タビアゲハは静かに首をかしげる。

「ほら、人間の舌は赤いけど、それは血の色で赤く見えるでしょ? そんな感じに、その触覚が蒼いのも、なにか理由があるでしょ?」

「ドウナンダロウ。突然変異症ニナッタカラトハ思ウケド……コレジャア答エニナッテイナイシ……」

「いつかはわかるかな。お姉ちゃんの触覚の色も、ここのジャングルの色も、突然変異症のことも」

 難しいことを考える少年に対して、タビアゲハはなにか答えようと口を開け――

「よし、出てきたぞ」

 ――ようとした時に、坂春が声を上げた。

「あの街には変異体の巣と呼ばれる、変異体たちが隠れ潜む集落があるらしい。人間であるおまえを迎え入れてくれるかどうかわからんが、行ってみたらどうだ?」

 坂春が見せたスマホの地図を確認して、少年はうなずいた。

「でも、街につくまでは一緒に行っていいよね?」

「……私モ賛成。ソコマデハイッショニイコウヨ」

「ああ、いろいろ考える前に、まずはあの街に着かないとな」

 同調するようにヒルの変異体はうなずき、彼らは街に向かって歩き始めた。





 太陽のいなくなった蒼いジャングルは、ようやく自然な空間を取り戻した。

 人の通らないジャングルの中、熱をもった風に植物たちは揺れる。



 自分たちの秘密を知らない旅人たちの話をして、笑っているように。
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