向かいの蓮くんは甘く見える

Hiiho

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「蓮くん・・・?」

「・・・ぁ」

どうすんだ、まずい。震えが止まらない。
怖いとか竦むとかじゃなくて、奏汰に見つめられることに、触れられることに、何故か体中の筋肉が身構えてる。

「なんで、来てくれたの?」

耳元で囁かれて、歯痒い擽ったさが奥歯の裏に広がる。
頬から滑り下りた手のひらが首筋を撫でて肩に乗っかって、奏汰が辿った部分が熱を持っている。

「蓮くんが答えないなら勝手に自惚れちゃうけど、いいよね?」

昨日の電話で勘違いして苛立ってこんな所まで来たのは、奏汰が誰かに盗られてしまうんじゃないかって思ったからじゃない。
奏汰が俺じゃない誰かに惹かれるかもしれない、と思ったからだ。
大きな差は無いのかもしれない。だけど、誰かの意思と本人の意思とじゃ天と地ほどの差がある。

俺は、奏汰の意思で離れてしまうことを恐れたんだ。

「自惚れても、いい、けど」

「そんなふうに言われたら自制効かなくなるんだけど! 久しぶりの蓮くんだし、素股くらいじゃ我慢できなくなりそうなんですけど!」

ぎゅうっと抱きついてくる奏汰の腕もかかる息も熱くて強くて、それだけでもう何かが溢れてしまいそうだ。

「ちょっとだけ、待てるか?」

「え、うん」

奏汰は素直に体を引く。
俺はバスルームに入り、大きく深呼吸をする。

いつまでもこのままでいいわけない。
少しでも長く、奏汰と一緒にいたい。










ベッドへ戻ると体を横たえていた奏汰が起き上がる。

「わり。遅くなった」

「ううん。・・・それより蓮くん、やっぱりなんか変だよ。ごめんね僕、もうあの人たちと食事に行ったりしないから怒んないで?」

「怒ってない」

こともなかったけど、そうじゃない。
お前がどこの誰と何をしてもどうでもいいんだ。ただその間もずっと、お前が俺のことしか考えられなくなればいい。


膝の上に跨った俺を見上げ戸惑っている奏汰。
自分から口付けたいのに、ホモでもないこいつが男からキスされて嬉しいのか、と疑問になって躊躇してしまう。

「キス、したいの?」

心を読んでくれる奏汰に頷くと、ふ、と口角を上げた唇が重なってくる。
執拗いくらい食んで吸い付いてきて、少しだけ口を開けば湿度を補うように舌先を撫でられる。

奏汰を好きになればなるほど、自分から求めることができなくなっていく。
俺が奏汰のアレが怖いと思うのと同じように、こいつに何か思われてるんじゃないかって不安になる。

求められているうちが花なんだ。
奏汰は俺みたいなマイノリティじゃなくて一般的な女性志向で、男の俺はいつかは切り捨てられる。
それが『いつ』なんてわからない。

例えば俺が理性を無くして醜い姿を晒す瞬間にそれは訪れるかもしれない。
例えば、ゲイのくせに往生際悪くセックスが怖いと言う瞬間かもしれない。


「・・・っ、・・・おぇ」

舌が抜けそうなほどに吸われ、苦しさに俺は嘔吐く。

「集中してよ。僕以外のこと考えないで」

悔しいけど、お前のことしか考えてないつーの。

「キスだけでもうぬるぬる」

「んっ、ぅうっ」

腰に巻いたバスタオルを解かれて、屹立の先を撫でられてイキかける。
いつもより何倍も敏感になってる。暫く触られていなかったのもあるけど、自分が思っていたよりも奏汰を好きなんだと自覚したせいだ。

「ビクビクしてる。イッてもいいよ」

「そ・・・な、こんなんでっ」

イッたら絶対に引かれるに決まってる!

「蓮くんのウジウジしてる顔も我慢してる顔も好きだけど、素直に気持ち良くなってくれてる顔、見たいな」

俺の背中を支えていた奏汰が、指を立てて緩く掻くように上下に滑らせる。

「ふあっ、あぁっ、や・・・」

「ラブホじゃないんだから声我慢して」

密閉するように口付けられて、背中や腰を這い回る快感と息苦しさで俺は奏汰に縋る。

「ふ・・・ぅ────」

イク、と思った時にはもう遅くて、奏汰のTシャツに思いっきり白濁をぶちまけてしまった。


「ぅぁ・・・、ご・・・め」

「いつもより早いし濃い。蓮くんひとりでしてなかったの?」

「おまっ・・・えの触り方がエグいからだろ!」

「えー、僕はいつも通りだよ」

そんなことない! どこが何がと聞かれれば答えようがないけど、着実に奏汰はそういうスキルが上がってる!
歳上なのに俺は置いてけぼりで、だからこそ焦る。

「な、最後まで、する?」

「えっでも、蓮くん・・・      いいの?」

「う、ん」

いいわけない。怖い。めちゃくちゃビビってる。
とりあえずナカは空にしてきたけど、濡らす物も持ってないしコンドームすらも無い。
俺は、奏汰のTシャツに飛んだ精液を掬って自分の後ろに塗り、勢いに任せ指を突っ込んでみる。

自分の指を入れたのは初めてだけど、痛みは無い。快感も無い。尻に少しの異物感。「俺の体内って結構温かいんだ」と中指で感じる。

「ああっ! 自分でやっちゃうのズルイよ! 仕方なくシリコン長男に譲ってたけど、本来はそれ僕の役目なのに~」

汚れたTシャツを拭って同じように俺の精液がついた奏汰の手が、挿入した自分の手に重なる。
後ろに入れている指に沿って奏汰の指先が窄まりに当たって、押し込まれる感覚に膝がガクガクと震える。

「あうっ、かな、無理っむりぃ・・・!」

「指2本で無理ならヤレないよ。大丈夫、ほら奥まで挿入った」

「ん・・・く」

指が2本中に入ってても痛くはない、異物感は増したけど。それよりも込み上げて来る覚えのある悦が、体の中を熱くする。

「指抜いてよ。僕がしたい」

「う・・・、ぅぅ、」

奏汰の指伝いに自分の指を抜こうとするけど、精液は潤滑ジェルやローションよりも滑りが悪くて指に絡み付くような内壁まで引き出してしまいそうだ。

何とか指を抜ききると脚を開いたまま仰向けに倒され、いつの間にか位置を変えて置かれていた枕で腰が高くなる。

「蓮くんのだけじゃ足りないね。僕のも足そう。もう限界だし・・・」

奏汰がボトムスと下着の履き口前部分だけを下げ、屹立した自分のそれを握る。
いつもの穏やかなアホ面とは違う、目を細めて俺を見下ろす邪心を纏った雄臭い表情。俺は直視できなくて思わず顔を背ける。

奏汰って、こんな、カッコ良かったっけ・・・?
いや違う。こいつのこんな顔がそう見えてドキドキしてる俺がおかしいんだ。


奏汰の指が入ったままの窄まりのすぐそば、会陰に屹立の先を擦りつけられる。

「僕のガマン汁と蓮くんの精子混ざってる。すご・・・やらしー」

ヤラシイって、やってんのはお前だろ! と思ったりするけど言葉にはならなくて、漏れそうになる喘ぎに手で蓋をするのが精一杯。

「・・・っ、」

動きを止めた奏汰から吐き出された生温い白濁が俺の顎まで飛んでくる。

「は・・・ぁ。    わあ・・・、僕ので汚れた蓮くんめちゃくちゃエロ! やば! 好き!」

だんだんこいつの『好き』に重みが無くなって行く気がする。
いつかたぶん俺と奏汰の『好き』が逆転して、緊張すんのもドキドキすんのも俺だけになるんじゃないかという予感すらする。


窪んだ俺の臍に溜まった白濁を掬った奏汰は、それを俺の窄まりの縁に持っていって挿入する指を増やす。
奏汰の2本の指の腹に前立腺を押され、萎えていた前がまた起き上がってくる。

「っ、んぅ・・・ッ」

ナカをこうして弄られるのは気持ちイイ。開発だと言って奏汰に何度もこうされていたから、俺はもうこの快感を既に知っている。
だけど暫くは弄られていなくて、時々 無機質で動かないシリコンで塞ぐだけだったから、こんなにも強い快感だったなんて忘れかけてた。

「わかる? 蓮くんの中でふたりの精液混ざってグチュグチュしてるの」

「ふ・・・んぅぅ」

「前よりも柔らかくなるの早いし、シリコン長男のおかげかな。ちょっとムカつくけど、あいついい仕事するなぁ」

指を3本に増やされて、圧迫感だけでまたイキそうになる。
どうして。あんなに痛みが大きかったはずなのに。

きゅんきゅんして熱くてもっと奥まで触れて擦ってほしくて、指なんかじゃなくて、怖いだけの奏汰のそれで満たしてほしくて。

「ぁ奏汰・・・、かなた、」

挿れてくれとも欲しいとも言えない代わりに名前を呼ぶと、うん、と答えて奏汰は指を抜く。

指先よりも肉々しいぬめった先が、内壁を隙間無く擦りながら押し挿ってくる。腰にぞわっと鳥肌が立ち波紋のように全身に広がって、一瞬の悪寒の後に汗が滲む。
全く痛みが無いこともないけど、それよりも遥かに勝る快感の波が押し寄せて、自分の口を塞いだ手が震えて力を無くし、溢れ出る声を抑えきれない。

「あ──、あッ、んっ」

「は・・・っ、蓮くんのナカ熱くて気持ちい。僕が好きって抱きついてきてる。嬉しい」

本能で閉めたいと入り口を窄めるけど、奏汰のものが邪魔をして窄まらなくて、ひくひくと下半身は痙攣し屹立の先から何かが滴り自分の腹を濡らす。
いま奏汰のどれくらいが自分の中に入ってるかわからないけど、この塊でナカを抉るように擦られたら・・・、と思うだけで目眩がしそうなほど感じてしまう。

「なん・・・、前は、こんなじゃなかっ    たのにぃ」

「蓮くんのお尻、大人になったんだねきっと」

「あうっ、・・・んぅ・・・んん」

ほんの少しだけさっきより深く挿入り、抜けそうな所までゆっくりと下がりまた腹の中を上がってくる奏汰の屹立。

「だめだめだめ・・・、それ、やぁ・・・ッ」

首を横に振ってみても逃げない快感が、白濁になって溢れ出てくる。

「すごい、またイッちゃった? ぎゅうぎゅうしてきて気持ちいいよぉって言ってるみたい。可愛い過ぎて、こんなの僕も持たないんだけど!」

「はあっ、は・・・、ぁはッ、」

上手く呼吸できない。意識が混濁して奏汰の声もどこか遠い。頭の中が『気持ちイイ』しか無くなる。



恋は人を成長させるんだって聞いたことがある。
もしこれが奏汰を好きだと自覚した副作用なんだとしたら効果が大き過ぎるし、どんなベクトルで俺は成長してんだよ、とツッコみたくなる。

でもあながち間違ってはいない。
恋は人を成長させてる。
奏汰がカッコ良く見えるのも、きっと俺に恋してるこいつが少し成長したからなのかも。

ああ、失敗した。
まさかこんなにも奏汰が変わってしまうなんて。これじゃ女がほっとかないに決まってる。

俺は悦楽に浸る脳みその片隅で、奏汰が離れてしまう『いつか』の風景の中に情けなく縋る自分の姿が容易に想像できた。






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