それだけは絶対にお断りします!

きんのたまご

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私は眠れぬ夜を過ごしていた。
昼間見たあの光景が瞼から離れない。
夫と妻である私よりも仲良く寄り添い合う夫の想い人…。
とてもお似合いだったわ。私と違って夫の隣に並ぶ姿が不自然では無かった。
あの方にちゃんとした貴族の身分があれば…誰も悲しむ事は無かったのに。そんないくら考えてもどうしようもない事が頭に浮かんでは消える。
私はもう眠る事を諦めいつかの夜のようにバルコニーへと出る。
…こうして一人星を眺めるのは結婚してから何度目だろう。数えきれないそんな夜を幾度と無く乗り越えて来たけれど……。
そろそろ限界ね…。私は静かに涙を流す。
溢れる涙が胸元に落ちては染み込んでゆく。この涙と一緒に旦那様への私の気持ちも流れて消えればいいのに…本当にそう思う。
……このまま一緒にいたら…私の気持ちが旦那様の負担になってしまう…。
もうここには居られないわ。
私は部屋の中に戻ると私の名前が書かれた新たな離縁状を封筒に入れる。
そしてその封筒を主のいない夫の部屋の机の上に置く。
いつか戻られた時に見て下さるでしょう、そんな願いを込めて部屋をぐるりと見回しそっと部屋を出た。
息子の寝顔を見る。寝息を立てて眠る息子に思わず笑みが零れる。
「……元気で…。全て旦那様に愛されなかった私が悪いの…」
息子のおデコにそっとキスを落とす。
溢れそうになる涙を堪えて入って来た時と同じようにそっと部屋を後にする。
出来る事ならあの子は連れて行きたい、だけどそんなことをしたら愛してもいない私を抱いて子供を作った旦那様の苦労が水の泡になる。あの子は今の所たった一人の
この家の後継者、旦那様もリアムの事は可愛がって下さる悪い様にはなさらないだろう。
自分の部屋に戻り動きやすい簡素なワンピースに袖を通す。以前から用意していた荷物を隠していた場所から引きずり出す。いつ出て行けと言われてもいいように用意だけはしていた。 
旦那様には申し訳ないがドレスや装飾品などを買うようにと頂いていたお金から少しづつ貯めたお金も荷物に入れる。
住む家は実家の領地にある屋敷の一つ。これは結婚の祝いにどうしても欲しいと両親に強請った物。こんな辺鄙な土地の屋敷をどうするのかと聞かれたが公爵家の別荘にしようと思うと言うとそれならばと快く譲ってくれた。こんな日の為にその事は旦那様には伏せてある、その屋敷の鍵を胸に抱き締めて夜が空けるのを待つ。
だんだんと空が白んでくる。そろそろいいかしら。まだみんなが寝ている時間、私はそっと玄関を開き外へ出る。
ここで私がこの屋敷を出たらもう二度とここには戻れない、そんな思いが一瞬過ぎり私の足を止まらせたが夫と彼女の顔を思い浮かべ何とか屋敷を抜け出した。   
庭を突っ切って門を抜ける。そのまま暫く走る、誰にも見つからないように早く屋敷を離れないと。そんな思いで走った。
近くの村まで走りようやく足を止める。
こんなに走ったのは何時ぶりかしら。
ハアハアハアハア。乱れる呼吸を落ち着かせる為に少し大きな岩の上に腰掛ける。
村ではまだ早い時間だと言うのに畑を耕す人や家畜の世話をする人などが動き出していた。そんな日常の風景をぼうっと眺める。夫婦で仕事をしている…そんな普通の事が私には眩しかった。
「お嬢さん、こんな朝早くに何処へ行くんだい?」
散歩途中らしいおばあさんが話し掛けてくる。
「……実家へ。家族の具合が悪いらしく様子を見に…」
「そうかい大変だね」
「おばあさん、この近くで馬車に乗れる所…ありますか?」
「この村には馬車はないよ。みんな次の街まで歩いて行くか荷物を詰んだ牛車に乗って行くね」
「…そうですか」
次の街は夫の会社がある街。出来ればそこには入りたくない。ここで馬車に乗れると良かったんだけど。そんな事を考えているとおばあさんが息子の牛車に乗って行けばいいと言ってくれた。
「本当ですか?ありがとうございます」
「まあ次の次の街までだけどね」
「十分です!助かります」
次の次の街は公爵家の屋敷とは反対側。旦那様がもし屋敷に戻られる事になっても絶対に出会わない。
牛車の荷台で揺られながら公爵家の屋敷の方を見てお辞儀をする。
そろそろ屋敷の者達も起きる頃。まだ私を起こすには早い時間だから私の不在には気付いていないだろう。
部屋にはちゃんと手紙を置いて来た。私が実家から連れて来た侍女達にも私と旦那様の離縁が成立したら実家の伯爵家へと戻るようにと書いておいた。
リアムの事は…敢えて書かなかった。子供を捨てて出て行った薄情な妻だと嫌ってくれたらいいとそう思ったから。

最後まで勝手な妻でごめんなさい。
それでも…もう、二度と会えなくても私は貴方の幸せを願います。

泣くのはこれで最後にしようと決めて私は晴れ渡る青空を見てまた泣いた。             
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