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急いで馬車へと乗り込む。
早く早く。旦那様に見つからないうちに…!
「どうされたのですか?奥様」
私の慌てようとあまりの戻りの速さに馬車を操縦して来てくれた御者が驚いていた。
「なんでもないわ」
私はそう言うので精一杯だった。
「もう屋敷に戻ります」
「……宜しいんですか?」
渡される事の無かったバスケットを見たのだろうか…御者が気遣わしげにそう聞いてくる。
「っ…ええ、いいわ。お姿を拝見したけれど…とてもお忙しそうだったから…だから、帰ります」
「分かりました…」
馬車はゆっくりと屋敷に向かい走りだす。
「おかあさま、おとうさまはどこですか?」
無邪気にそう聞いてくる何も知らない息子を私はただただ抱きしめるしか出来ない。
「ごめんなさいね」
そう言って頭を撫でた。
「奥様、随分早いお戻りですね」
屋敷に着くと、いつも冷静な執事も私達の余りに早い帰宅にびっくりしているようだった。
「ええ」
「旦那様とお話は出来ましたでしょうか?」
「……いいえ、遠目にお姿だけ拝見して帰って来ました、旦那様にはお会いしていません。なのでシェフには申し訳ないのだけれどこれは渡せなかったわ」
私は軽食の詰まったバスケットを執事に渡す。
「これは私の夕飯にして頂けたら結構です」
それだけ言うと腕の中で眠るリアムをしっかりと抱きしめて私は自分の部屋へ戻った。
私が心配しなくてもあの二人はしっかりと愛を育んでいたんだわ。
会社の人達も彼女を奥様だと思っている…私がこの家をいつ出ても問題無い。
…もしかして今日の事は全て仕組まれていたのかしら。執事と旦那様が共謀して「もう私の居場所は無い」とそう気付かせる為に………。
でも、執事のあの驚いたような心配なような顔…あれが全て演技だったのだろうか……。
疑いたくない疑いたくないけど…………………。自分ではどうしようも無い黒い疑念が心に湧き上がる。
「愛されてもいないお飾りの妻がいつまでも奥様振るな」
そう聞こえた気がした。
コンコンコン
社長室にノックが響く。
「入れ」
ノックの相手に入室を促す。
「失礼します」
そう言って入って来たのは、以前私と妻が離縁の事を話し合って?いる時にナイスなタイミングで邪魔してくれた彼。
「どうした?」
そう聞くと彼は若干言いづらそうに話し出した。
「本日奥様が息子のリアム様を連れてこちらに来られていたようなんですが……社長はお会いになってませんよね?」
「えっ?はっ?」
寝耳に水なその発言に思わず立ち上がる。
「やっぱり…」
「わざわざ来てくれたのか」
「ええ!何やら差し入れのような物も持っていらしたそうで…」
「?ならば何故私の所に来なかった?」
「それが…奥様が来られたのはその…丁度オリヴィアさんがいる時で…奥様の顔を知らない従業員が奥様にオリヴィアさんの方が社長の奥様だから帰れと言ったそうで……」
そこまで聞いた私は力が抜けたように椅子に深く腰掛けた。
ただでさえ妻から離縁を突き付けられている現状なのにこれ以上まだ拗れるのか。
そう思うと自分が思っているよりも大きく深いため息が出た。
「やっぱり不味かったですよね…」
「……そうだな」
「一度お屋敷の方にお戻りになられた方が……」
「………」
そうだろう。そうするべきである事は分かっている。しかし今は忙しい………いや、これは言い訳だな。こうして部下と話をする時間はある。屋敷に帰れない事も無い。ココ最近は屋敷と会社の往復の移動時間も勿体無いと思い会社に泊まっているが………。
要は屋敷に戻ってまた離縁状を突きつけられるのが怖いのだ。
黙り込んでしまった私に部下はオロオロしていた。
「分かった…妻の方には私から連絡しておく。オリヴィアには暫く会社の方に来るなと伝えてくれ」
「分かりました、では失礼します」
部下が出て行った後の部屋でまた一人ため息をつく。
本当はこうしている間にでも屋敷に連絡するべきだろう…しかしまたあの無表情で問題無いように言われると…想像しただけで落ち込んだ。
私はいつからこんなに情けない男になってしまったのだろうか。
屋敷には明日帰るからその時に説明する。自分にそう言い訳してその日はいつものように会社で過ごした。
問題を先送りにする物ではないと後々私は思い知る事になる、が今の私はその事にまだ気付かなかった。
早く早く。旦那様に見つからないうちに…!
「どうされたのですか?奥様」
私の慌てようとあまりの戻りの速さに馬車を操縦して来てくれた御者が驚いていた。
「なんでもないわ」
私はそう言うので精一杯だった。
「もう屋敷に戻ります」
「……宜しいんですか?」
渡される事の無かったバスケットを見たのだろうか…御者が気遣わしげにそう聞いてくる。
「っ…ええ、いいわ。お姿を拝見したけれど…とてもお忙しそうだったから…だから、帰ります」
「分かりました…」
馬車はゆっくりと屋敷に向かい走りだす。
「おかあさま、おとうさまはどこですか?」
無邪気にそう聞いてくる何も知らない息子を私はただただ抱きしめるしか出来ない。
「ごめんなさいね」
そう言って頭を撫でた。
「奥様、随分早いお戻りですね」
屋敷に着くと、いつも冷静な執事も私達の余りに早い帰宅にびっくりしているようだった。
「ええ」
「旦那様とお話は出来ましたでしょうか?」
「……いいえ、遠目にお姿だけ拝見して帰って来ました、旦那様にはお会いしていません。なのでシェフには申し訳ないのだけれどこれは渡せなかったわ」
私は軽食の詰まったバスケットを執事に渡す。
「これは私の夕飯にして頂けたら結構です」
それだけ言うと腕の中で眠るリアムをしっかりと抱きしめて私は自分の部屋へ戻った。
私が心配しなくてもあの二人はしっかりと愛を育んでいたんだわ。
会社の人達も彼女を奥様だと思っている…私がこの家をいつ出ても問題無い。
…もしかして今日の事は全て仕組まれていたのかしら。執事と旦那様が共謀して「もう私の居場所は無い」とそう気付かせる為に………。
でも、執事のあの驚いたような心配なような顔…あれが全て演技だったのだろうか……。
疑いたくない疑いたくないけど…………………。自分ではどうしようも無い黒い疑念が心に湧き上がる。
「愛されてもいないお飾りの妻がいつまでも奥様振るな」
そう聞こえた気がした。
コンコンコン
社長室にノックが響く。
「入れ」
ノックの相手に入室を促す。
「失礼します」
そう言って入って来たのは、以前私と妻が離縁の事を話し合って?いる時にナイスなタイミングで邪魔してくれた彼。
「どうした?」
そう聞くと彼は若干言いづらそうに話し出した。
「本日奥様が息子のリアム様を連れてこちらに来られていたようなんですが……社長はお会いになってませんよね?」
「えっ?はっ?」
寝耳に水なその発言に思わず立ち上がる。
「やっぱり…」
「わざわざ来てくれたのか」
「ええ!何やら差し入れのような物も持っていらしたそうで…」
「?ならば何故私の所に来なかった?」
「それが…奥様が来られたのはその…丁度オリヴィアさんがいる時で…奥様の顔を知らない従業員が奥様にオリヴィアさんの方が社長の奥様だから帰れと言ったそうで……」
そこまで聞いた私は力が抜けたように椅子に深く腰掛けた。
ただでさえ妻から離縁を突き付けられている現状なのにこれ以上まだ拗れるのか。
そう思うと自分が思っているよりも大きく深いため息が出た。
「やっぱり不味かったですよね…」
「……そうだな」
「一度お屋敷の方にお戻りになられた方が……」
「………」
そうだろう。そうするべきである事は分かっている。しかし今は忙しい………いや、これは言い訳だな。こうして部下と話をする時間はある。屋敷に帰れない事も無い。ココ最近は屋敷と会社の往復の移動時間も勿体無いと思い会社に泊まっているが………。
要は屋敷に戻ってまた離縁状を突きつけられるのが怖いのだ。
黙り込んでしまった私に部下はオロオロしていた。
「分かった…妻の方には私から連絡しておく。オリヴィアには暫く会社の方に来るなと伝えてくれ」
「分かりました、では失礼します」
部下が出て行った後の部屋でまた一人ため息をつく。
本当はこうしている間にでも屋敷に連絡するべきだろう…しかしまたあの無表情で問題無いように言われると…想像しただけで落ち込んだ。
私はいつからこんなに情けない男になってしまったのだろうか。
屋敷には明日帰るからその時に説明する。自分にそう言い訳してその日はいつものように会社で過ごした。
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