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王宮での舞踏会が終わりまた日常生活に戻る。
舞踏会の為に帰っていた夫も仕事が忙しいらしく以前言っていた通りここ暫く屋敷には帰っていない。
息子からは「おとうさまいつかえってくる?」と聞かれる事もあるが曖昧に微笑んで誤魔化している。
さっさと私と離縁してくだされば彼女をこの屋敷に呼んで3人で暮らせるのに…。
何とか話し合いをしないといけないとは思うものの夫が帰って来ない事にはどうにもしようがない。
普段なら絶対にしないけれど仕方ないかと夫の執事を呼び出す。
「お呼びでしょうか奥様」
「呼び出してしまってごめんなさいね。以前貴方からしばらくは屋敷に戻らないと聞いてはいたけれど旦那様はいつお戻りになられるかしら。…少しお話させて頂きたい事があるの…貴方の方で連絡が取れるようであれば私がそう言っていたと伝えて欲しいの」
「畏まりました…」
しかし、そう言った執事はなかなかそこから動こうとしなかった。
「どうしたの?」
「奥様…もし宜しければ差し入れなどを持って旦那様の会社の方へ伺われてはいかがでしょう」
「…私が行っては邪魔でしょう?」
「いいえ、そのような事はないかと」
「本当に?」
「はい、お1人では行きずらいようでしたらリアム様をお連れするのもよろしいかと…旦那様もきっとお2人のお顔を見たいと思っておられると思います」
「…リアムを…そうね。将来の為にもそれは良いかもしれないわ。…分かりました、では何か手軽に摘めるような差し入れをシェフにお願いして貰えるかしら」
「はい、畏まりました」
そう言うと次はすっと部屋を出ていった執事。
執事が出ていった後の扉を見て本当に大丈夫かしらと不安になったがそれでも何とか出掛ける準備をした。
「では、行って来るわ」
屋敷のもの達に見送られ私は馬車へ乗り込む。
腕に抱いているリアムはおとうさまにあえると無邪気に喜んでいるが…屋敷にも帰って来られない程忙しいのに私達が行っては邪魔だろうと思う私もいて…。
「でもここまで来てしまったのだもの…邪魔そうならばすぐに帰れば良いわね」
そして私はリアムの頭を撫でた。
暫く馬車で揺られ会社の近くに着く。
流石に会社の前に馬車を停めると邪魔になるので少し離れた場所で停めて貰う。
「さあ、行きましょうか」
私は片手にバスケットを持ち反対側の手でリアムと手を繋ぎ目的の場所へ歩きだす。
ここへ来るのは会社が出来たと夫に見せられた時に来た時振り。
忙しそうに出入りしている数人の従業員が見える。こうしていても仕方ない私は会社へと足を踏み入れる。どうしようかとその場でキョロキョロしていると1人の男の人がこちらに気付く。
「本日はどのようなご要件で?」
物腰穏やかに話し掛けてくる男性にしっかりと教育されている事が分かる。
「ええと社長の…」
私がそう夫の名前を言った途端彼は苦々しい顔になる。
「なんだ客じゃないのか」
その豹変ぶりに呆気に取られているとその男は続ける。
「社長に近づきたい女は沢山いるんだよ、子供まで連れて来るなんて…どこの誰だか知らないけど社長には美人の奥さんがいるんだからさっさと帰った方が身のためだよ」
そう言って男が視線を向けた先には夫とその隣に笑顔で並んでいる彼女…。
「…彼女はいつもここに?」
私は震える声で従業員の男に尋ねる。
「当たり前だろ。あんなに綺麗な奥様なんだから、そりゃ社長も常に側にいたいと思うだろ」
私はそこまで聞くとリアムの手を引いてその場を離れた。
「お前、この忙しい時に何してんだよ」
俺はこの忙しいのに突っ立っている従業員に声を掛ける。
「いや、また社長目当てに女が来ていて」
そう言った男の目線の先を見るとそこには後ろ姿だったが社長の奥様がいた。
以前屋敷に行った時に話を邪魔してしまったのを思い出す。息子のリアム様も連れておられるのを見て近頃屋敷に帰れていない社長に会いに来たのだろうと思う。
「なんだ奥様じゃないか」
俺がそう言うと男は「はっ?」と驚いた声を出す。
「何だ?」
俺がそう言うと男は顔色を悪くして俯いた。
「いや、あの方が奥様だと知らなかったから…」
そう言って先程この馬鹿男と奥様がしたやり取りを話し出した。
俺はその話を聞いて慌てて奥様の後を追ったが既に奥様の姿は見えなかった。
舞踏会の為に帰っていた夫も仕事が忙しいらしく以前言っていた通りここ暫く屋敷には帰っていない。
息子からは「おとうさまいつかえってくる?」と聞かれる事もあるが曖昧に微笑んで誤魔化している。
さっさと私と離縁してくだされば彼女をこの屋敷に呼んで3人で暮らせるのに…。
何とか話し合いをしないといけないとは思うものの夫が帰って来ない事にはどうにもしようがない。
普段なら絶対にしないけれど仕方ないかと夫の執事を呼び出す。
「お呼びでしょうか奥様」
「呼び出してしまってごめんなさいね。以前貴方からしばらくは屋敷に戻らないと聞いてはいたけれど旦那様はいつお戻りになられるかしら。…少しお話させて頂きたい事があるの…貴方の方で連絡が取れるようであれば私がそう言っていたと伝えて欲しいの」
「畏まりました…」
しかし、そう言った執事はなかなかそこから動こうとしなかった。
「どうしたの?」
「奥様…もし宜しければ差し入れなどを持って旦那様の会社の方へ伺われてはいかがでしょう」
「…私が行っては邪魔でしょう?」
「いいえ、そのような事はないかと」
「本当に?」
「はい、お1人では行きずらいようでしたらリアム様をお連れするのもよろしいかと…旦那様もきっとお2人のお顔を見たいと思っておられると思います」
「…リアムを…そうね。将来の為にもそれは良いかもしれないわ。…分かりました、では何か手軽に摘めるような差し入れをシェフにお願いして貰えるかしら」
「はい、畏まりました」
そう言うと次はすっと部屋を出ていった執事。
執事が出ていった後の扉を見て本当に大丈夫かしらと不安になったがそれでも何とか出掛ける準備をした。
「では、行って来るわ」
屋敷のもの達に見送られ私は馬車へ乗り込む。
腕に抱いているリアムはおとうさまにあえると無邪気に喜んでいるが…屋敷にも帰って来られない程忙しいのに私達が行っては邪魔だろうと思う私もいて…。
「でもここまで来てしまったのだもの…邪魔そうならばすぐに帰れば良いわね」
そして私はリアムの頭を撫でた。
暫く馬車で揺られ会社の近くに着く。
流石に会社の前に馬車を停めると邪魔になるので少し離れた場所で停めて貰う。
「さあ、行きましょうか」
私は片手にバスケットを持ち反対側の手でリアムと手を繋ぎ目的の場所へ歩きだす。
ここへ来るのは会社が出来たと夫に見せられた時に来た時振り。
忙しそうに出入りしている数人の従業員が見える。こうしていても仕方ない私は会社へと足を踏み入れる。どうしようかとその場でキョロキョロしていると1人の男の人がこちらに気付く。
「本日はどのようなご要件で?」
物腰穏やかに話し掛けてくる男性にしっかりと教育されている事が分かる。
「ええと社長の…」
私がそう夫の名前を言った途端彼は苦々しい顔になる。
「なんだ客じゃないのか」
その豹変ぶりに呆気に取られているとその男は続ける。
「社長に近づきたい女は沢山いるんだよ、子供まで連れて来るなんて…どこの誰だか知らないけど社長には美人の奥さんがいるんだからさっさと帰った方が身のためだよ」
そう言って男が視線を向けた先には夫とその隣に笑顔で並んでいる彼女…。
「…彼女はいつもここに?」
私は震える声で従業員の男に尋ねる。
「当たり前だろ。あんなに綺麗な奥様なんだから、そりゃ社長も常に側にいたいと思うだろ」
私はそこまで聞くとリアムの手を引いてその場を離れた。
「お前、この忙しい時に何してんだよ」
俺はこの忙しいのに突っ立っている従業員に声を掛ける。
「いや、また社長目当てに女が来ていて」
そう言った男の目線の先を見るとそこには後ろ姿だったが社長の奥様がいた。
以前屋敷に行った時に話を邪魔してしまったのを思い出す。息子のリアム様も連れておられるのを見て近頃屋敷に帰れていない社長に会いに来たのだろうと思う。
「なんだ奥様じゃないか」
俺がそう言うと男は「はっ?」と驚いた声を出す。
「何だ?」
俺がそう言うと男は顔色を悪くして俯いた。
「いや、あの方が奥様だと知らなかったから…」
そう言って先程この馬鹿男と奥様がしたやり取りを話し出した。
俺はその話を聞いて慌てて奥様の後を追ったが既に奥様の姿は見えなかった。
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