「別れて欲しい」と言われました。嫌だったので断りました。

きんのたまご

文字の大きさ
2 / 2

2

しおりを挟む
あの別れてくれ騒動から半年が経った。
私達は未だに夫婦でいる。

何故かって…それは私が断ったから。

旦那様は悪い人ではない。
寧ろ優しい部類に入るのかな?
いや、不定行為を働いておいて優しいも何も無いのかもしれないが…。兎に角暴力を振るったり生活費をケチったりそういう事をする人では無いと言うこと。
だから既に愛していない妻であっても無理矢理追い出すということはしないのだ。
いや、元々私達の間に愛は無かったので既に愛していないと言うのも違うか、初めから愛していない妻と言うのが正しいだろう。
別に悲観してそう言っている訳では無く、良くも悪くも貴族の政略結婚というやつなのでこの結婚に愛なんてものは必要が無かったのだ。
まあそうは言っても私にも、勿論旦那様にも選ぶ権利と言うやつはあったので、数多の政略結婚の相手の中からこの人とならやって行けそうという人を選んだ…そう、選んだ筈だったのに。

はぁ、こんな事になってしまうとは。

とは言えあの日から別に特段困った事は私には無い。
旦那様とも別れていないし、妻でいるうちは夫の伴侶として受け取れる色々な恩恵を貰う権利はあるので生活にも困らない。
勿論夫の伴侶としての仕事も屋敷の女主人としての仕事もやらせて貰ってるので当然と言えば当然なのだが。


コンコン


「はい」

私は屋敷の帳簿から顔を上げる。

「失礼致します」

入って来たのは私付きのメイドだった。

「奥様、お茶の時間でございます」

そう言って見事な手際でお茶の用意をして行くメイドの手元を見るとも無く見ているとあっとう間に準備が整ったらしく「こちらへ」と椅子を引かれたので執務用のテーブルから離れ招かれた椅子へと腰掛ける。

「お疲れ様で御座います」

目の前には芳醇な香りのアールグレイとシフォンケーキにクリームが添えられた物が置かれていた。
紅茶を一口含むと豊かな香りが鼻いっぱいに広がった、そのまま次はシフォンケーキに手を伸ばし一口。
程よい甘さで思わずはぁとため息が出た。

「美味しいわ」

本当に美味しい。
そうでも無いと思っていたけれど、やはり疲れていたのか甘いものが身に染みるように身体がほぐれていくようだった。

このままこの屋敷で穏やかに余生を過ごせたらそれで幸せだわ、なんてまだ少し早い未来を想像する。
やはりここでの生活は手放せないわ。

旦那様、このまま「別れて欲しい」と言った事忘れてくれないかしら。
そんな事を思っているといつもの時間になっていたらしい。
ノックと同時に執務室の扉が開かれて旦那様が入ってくる。

「お願いだ、別れて欲しい!」

入ってくるなりそう言う旦那様に向かって私は本日もこう言う。

「お断りします」と。

勿論満面の笑みで。




しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

王妃ですが都からの追放を言い渡されたので、田舎暮らしを楽しみます!

藤野ひま
ファンタジー
 わたくし王妃の身でありながら、夫から婚姻破棄と王都から出て行く事を言い渡されました。  初めての田舎暮らしは……楽しいのですが?!  夫や、かの女性は王城でお元気かしら?   わたくしは元気にしておりますので、ご心配御無用です!  〔『仮面の王と風吹く国の姫君』の続編となります。できるだけこちらだけでわかるようにしています。が、気になったら前作にも立ち寄っていただけると嬉しいです〕〔ただ、ネタバレ的要素がありますのでご了承ください〕

「君を愛することはない」と言った夫と、夫を買ったつもりの妻の一夜

有沢楓花
恋愛
「これは政略結婚だろう。君がそうであるなら、俺が君を愛することはない」  初夜にそう言った夫・オリヴァーに、妻のアリアは返す。 「愛すること『は』ない、なら、何ならしてくださいます?」  お互い、相手がやけで自分と結婚したと思っていた夫婦の一夜。 ※ふんわり設定です。 ※この話は他サイトにも公開しています。

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

reva
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

『婚約破棄はご自由に。──では、あなた方の“嘘”をすべて暴くまで、私は学園で優雅に過ごさせていただきます』

佐伯かなた
恋愛
 卒業後の社交界の場で、フォーリア・レーズワースは一方的に婚約破棄を宣告された。  理由は伯爵令嬢リリシアを“旧西校舎の階段から突き落とした”という虚偽の罪。  すでに場は整えられ、誰もが彼女を断罪するために招かれ、驚いた姿を演じていた──最初から結果だけが決まっている出来レース。  家名にも傷がつき、貴族社会からは牽制を受けるが、フォーリアは怯むことなく、王国の中央都市に存在する全寮制のコンバシオ学園へ。  しかし、そこでは婚約破棄の噂すら曖昧にぼかされ、国外から来た生徒は興味を向けるだけで侮蔑の視線はない。  ──情報が統制されている? 彼らは、何を隠したいの?  静かに観察する中で、フォーリアは気づく。  “婚約破棄を急いで既成事実にしたかった誰か”が必ずいると。  歪んだ陰謀の糸は、学園の中にも外にも伸びていた。  そしてフォーリアは決意する。  あなた方が“嘘”を事実にしたいのなら──私は“真実”で全てを焼き払う、と。  

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?

あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。 理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。 レイアは妹への処罰を伝える。 「あなたも婚約解消しなさい」

処理中です...