「別れて欲しい」と言われました。嫌だったので断りました。

きんのたまご

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あの別れてくれ騒動から半年が経った。
私達は未だに夫婦でいる。

何故かって…それは私が断ったから。

旦那様は悪い人ではない。
寧ろ優しい部類に入るのかな?
いや、不定行為を働いておいて優しいも何も無いのかもしれないが…。兎に角暴力を振るったり生活費をケチったりそういう事をする人では無いと言うこと。
だから既に愛していない妻であっても無理矢理追い出すということはしないのだ。
いや、元々私達の間に愛は無かったので既に愛していないと言うのも違うか、初めから愛していない妻と言うのが正しいだろう。
別に悲観してそう言っている訳では無く、良くも悪くも貴族の政略結婚というやつなのでこの結婚に愛なんてものは必要が無かったのだ。
まあそうは言っても私にも、勿論旦那様にも選ぶ権利と言うやつはあったので、数多の政略結婚の相手の中からこの人とならやって行けそうという人を選んだ…そう、選んだ筈だったのに。

はぁ、こんな事になってしまうとは。

とは言えあの日から別に特段困った事は私には無い。
旦那様とも別れていないし、妻でいるうちは夫の伴侶として受け取れる色々な恩恵を貰う権利はあるので生活にも困らない。
勿論夫の伴侶としての仕事も屋敷の女主人としての仕事もやらせて貰ってるので当然と言えば当然なのだが。


コンコン


「はい」

私は屋敷の帳簿から顔を上げる。

「失礼致します」

入って来たのは私付きのメイドだった。

「奥様、お茶の時間でございます」

そう言って見事な手際でお茶の用意をして行くメイドの手元を見るとも無く見ているとあっとう間に準備が整ったらしく「こちらへ」と椅子を引かれたので執務用のテーブルから離れ招かれた椅子へと腰掛ける。

「お疲れ様で御座います」

目の前には芳醇な香りのアールグレイとシフォンケーキにクリームが添えられた物が置かれていた。
紅茶を一口含むと豊かな香りが鼻いっぱいに広がった、そのまま次はシフォンケーキに手を伸ばし一口。
程よい甘さで思わずはぁとため息が出た。

「美味しいわ」

本当に美味しい。
そうでも無いと思っていたけれど、やはり疲れていたのか甘いものが身に染みるように身体がほぐれていくようだった。

このままこの屋敷で穏やかに余生を過ごせたらそれで幸せだわ、なんてまだ少し早い未来を想像する。
やはりここでの生活は手放せないわ。

旦那様、このまま「別れて欲しい」と言った事忘れてくれないかしら。
そんな事を思っているといつもの時間になっていたらしい。
ノックと同時に執務室の扉が開かれて旦那様が入ってくる。

「お願いだ、別れて欲しい!」

入ってくるなりそう言う旦那様に向かって私は本日もこう言う。

「お断りします」と。

勿論満面の笑みで。




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