私の中から貴方だけが姿を消した

きんのたまご

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「えっ?」
私はお父様の思わぬ発言にまさかと思い辺りを見回すと皆が一様に頷いていた。
「うそぉ」
「本当です」
思わず呟いた言葉をメアリーが冷静に訂正した。
どうやら私はヘクターが私の婚約者をやっている姿だけを忘れてしまったらしい。
「お前がヘクターを慕っていたようだから二人を婚約者にしたが…覚えていないのならば婚約を破棄する事も考えてもいいと思っている」
お父様のその発言に私は笑顔になった。
「そうですね!それがいいと思いますわ!ヘクター様も自分の事を覚えていないような女と結婚するなんてお嫌でしょう?」
そうね、そうしましょう!とはしゃいでいる私にヘクターは意外な言葉を言う。
「いや、私はこのまま婚約者でいたいと思います」
ん?何と?聞き間違いかな?
「事故当時忘れていた記憶も思い出したのですからこれから思い出すかも知れません」
………。うーん、なんだかなぁ…。
「あの、あえて言わずにいたんですけれど、察して頂けない様なので改めて言いますね……私は他の方とキスするような婚約者嫌です」
そう言うとヘクターの顔が凍りついた。
「そんな顔をなさらなくても宜しいのでは?この事は両親も知っていますよ?今更バレて不味いと思って頂かなくても結構です。それに私の侍女から聞いた所、ヘクター様は私のお見舞いにも月に1度程しか来なかったとか…後は目を覚ましたと報告した後も会いに来られたのは1週間後。この事からも分かるようにヘクター様の方に私を想う気持ちはありませんよね?以前の私がヘクター様の事を慕っていたのは本当なのでしょう、お父様もそう仰っていましたし。ですが今はもう貴方に対するそんな気持ちも覚えてはいないのです。好きでも無い婚約者の事などお気になさらずこの場で婚約破棄なさってあの日キスしておられた方の所にでもお行きになられた方が宜しいと思いますよ?」
私がそう言った後のヘクターの顔は何故か好きな人に振られたかのように傷付いているようだった。
「何故そのようなお顔を?折角好きでも無い婚約者との婚約を無かった事に出来るのですからもっと喜んで下さい」
私はそう言って笑った。



こんな日が来るとは思わなかった。
あの婚約者はずっと俺の事を好きだと思っていた。
俺と婚約者は完全な政略で婚約した。少なくとも俺はそうだった。政略結婚ならばどうあっても最後には結婚する事になる。好きでも無い婚約者と結婚するのだから結婚するまでは遊びたい。
婚約者の少女は俺の事を好きだと言う割には学園では俺に近付かない。あまりしつこくして嫌われたら嫌だからと言う事らしい。ラッキーとその時は思って学園では見かけたら挨拶をするぐらいの交流しかしなかった。
いつものように女の子と中庭で会う。積極的な子でキスにも応えてくれる。
あの婚約者にはこんな事出来ないななんて思っていると友人が俺を探しに来た。
「お前!こんな所で女の子と会っている場合じゃ無いぞ!お前の婚約者、馬車で事故にあったらしい」
友人のその言葉に俺は急いで婚約者の家へと向かった。
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