私の中から貴方だけが姿を消した

きんのたまご

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「あの日、あっ事故を起こした日です。あの日私はヘクター様を探していました」
私はあの日の事を話し出した。
「本当はずっと悩んでいたんです…ヘクター様との事。だからあの日、その事をヘクター様に言ったらどんな反応が帰って来るか…でもダメですねやっぱり。そんな試すような事…だからきっとあんな現場を見てしまった……」
私はヘクターの顔を見た。気まずそうに私から目を逸らすヘクター、私は続きを促すようなその場の沈黙に再び話し始める。
「私はヘクター様と女の子の決定的な場面を見て…もう婚約は解消しようとその時決めたんです。その後はこの決心が鈍らないうちに早く婚約解消しないとと思い急いで屋敷に向かって…それであんな事故を…」
「そうだったのね」
お姉様は私を抱きしめ頭を撫でてくれた。
「御者の方には申し訳無いことをしてしまいました」
「大丈夫よ。彼も大した怪我では無かったから。今も元気に働いてくれているし」
「はい」
そして私達は微笑みあった。
「ま、待ってくれ」
そこにヘクターの声が割って入る。
「今までの事は謝る!だから婚約解消だけは!」
「ヘクター様…いいえ、ヘクターもう婚約解消ではありません。私からの婚約破棄です」
「何故だ!俺はナディア、君の事を本気で…!」
「ヘクター例えそれが本当だとしても、私にはもう貴方の事を信用する事が出来ない」
「……!」
「考えてみて下さい。私が貴方の事を好きだと言いながらあんな事をしていたら…それでも貴方は私の気持ちを信用出来ますか?」
「それは…」
「無理ですよ。…そんな事誰にも無理なんです………わかって頂けましたか?私も貴方も間違えたんです。ちゃんと話し合っていれば…もっと違う結末があったかもしれません」
「ナディア…」
ヘクターがこちらを見て、私の視線と交わる。
私はそっと目を閉じた。
「これで本当にお別れです」
私は立ち上がりヘクターにお辞儀をする。
「幼い頃からずっと婚約者でしたがこれからは私達がこうして会うことは無いでしょう。今までありがとうございました」
そして私は扉へと進み向かう。どあに手を掛けた時後ろからヘクターの声がした。
「本当に今まですまなかった」
私は振り返らず部屋を出た。閉まった扉の前で座り込む。今頃は両親とお姉様そしてヘクターとで婚約破棄の詳しい話をしているのは事だろう。
「はあ、また婚約者探さないと」
そう言うのと同時に私の頬に涙が伝う。
「っ!ふぅ…うっ」
私からヘクターの手を離す日が来るとは思わなかった。
…でも後悔はしていない。泣くのは今だけ。
無くしてしまった自分の恋心の為に今だけは……。
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