元妻からの手紙

きんのたまご

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美しい花

屋敷はいつもと何ら変わらないようで……何処かが以前とは違う感じがした。
この屋敷は……いつからこんなにも静かになったのか。
ほんの一年前には両親がいて、妻がいて、楽しそうに働く使用人達がいて常に明るかった屋敷の中が……いつの間にかこんなにも静かで寂しくなっていた。

元々先代の伯爵、両親の頃から仕えてくれていた使用人達は先代が私に爵位を譲り領地へと引っ込んだ時に大半着いて行った。残りの使用人達はチュニックの事を知ると嫌がって辞めて行った。どうやら元々同じ使用人だったチュニックに仕えるのが嫌だったらしい。
チュニックがそう言いながら泣いていた。
中にはチュニックが嫌がってクビにした者達もいたがチュニックが自ら辞めさせた使用人達は
どうやら元妻フレアと共にチュニックを虐めていたらしい。
いつも明るいチュニックがあんな奴ら辞めさせてと私に向かってヒステリックに泣き叫ぶ姿は可哀想で見ていられなかった。
私はチュニックに言われるがまま、チュニックが嫌だと言った使用人達を辞めさせた。
……気付けば先代の頃からの使用人は執事だけになっていた。
新たに雇われた使用人は全てチュニックが自ら選んだ者達ばかり。
それでも楽しそうに仕事しているかと問われればそんな事は無く何処かいつもビクビクと何かの顔色を伺っているかのような…。
そこには以前の伯爵家で働いていた者達のように伸び伸びと楽しそうに仕事をする者たちは一人も居なかった。



私は執務室から枯れ果ててしまった花壇を見下ろす。
あの花壇は母がずっと気に入った季節の花を常に咲かせていた花壇だった。
その後それはフレアに引き継がれ、母とフレア、二人が毎日のように花壇の前で花を眺める姿が見られた。
そんな花壇の姿を次はチュニックの好きな花で見られるのかと心躍らせていた私だったが、どうやらチュニックは土いじりが嫌いらしかった。
しかも子供も男の子のトップス一人だから花には興味無いでしょう、無駄な花壇を作り伯爵家の資金を無駄にしてはいけないわと言ったチュニックの言う事を聞き入れ花壇の手入れはチュニックと結婚して真っ先に行われなくなった仕              事の一つだった。
…きっと必要の無い余計な仕事をチュニックは減らしてくれたのだ。
そう、フレアの侍女をやっていたチュニックだ、その仕事の大変さを知り使用人達の仕事を減らしてやったに違いない。

そう、そうなのだ。きっとそうに違いない………なのにあの枯れ果てた花壇を見てこんなにも心にぽっかりと穴が空いたような、寂しいような、虚しいような………こんなに気持ちになるのは一体何故なんだろうか……。


「チュニック……」
「はい?旦那様、どうなさいました?」
夕飯の席で私はなるべく穏やかにチュニックに話しかける。
いつものように優しく明るく微笑むチュニックに私も笑顔で続けた。
「あの花壇の事なんだが…」
「?あの花壇がどうかしましたか?」
「いや、あのままでは余りにも見た目が悪い、どうだろうかまたあの花壇に花を…」
「そうですよね!見た目が悪いなっていつも思っていたのですよ!そうだ!いっその事花壇を潰してしまってはどうでしょうか?」
………潰す?花壇を?……私はただもう一度あの花壇に花を植えれば良いと言おうと思っていただけなのに…。
「いや、あの花壇は」
「やっぱりそうしましょう?花壇なんてあってもなんの役にも立ちませんもの!無駄にお金もかかりますしね!」
そう言ってさも嬉しそうに微笑むチュニック……。
「嫌なんですよねぇ、花って。見ていて綺麗だなぁって思いますけどそれを綺麗に咲かせる為にどれほどの人の手が掛かるか…花にはきっと分からないじゃないですか?自分は美しく咲いて綺麗だ綺麗だと褒めそやされて、大切にされて、なんの苦労も知らずに…ふふっ。それに煩い虫もブンブンと群がって来るし……」
…………………何なんだ………どうしてしまったんだチュニック………………。
その笑顔はまるで花のように美しかったが微笑みながらそう言うチュニックがとてもとても怖かった。



送られ続ける元妻からの手紙に思い出される過去。

見えてきた現実。

私は初めてフレアと一緒にいた時が一番良かったのではと思ってしまった。

しかしそんな考えを振り切るように私は頭を振った。

そんなはずは無い!

私の考えが間違っているはずが無い!

私の選択が間違っているはずは無い!

そうだそうだうだ。私は間違っていない!

現に私は幸せだ。

美しい妻に可愛い息子。

元妻から手紙が届くまでは幸せだったのだ。

そうだ、だから全てフレアが悪い。

フレアがあんな手紙を送って来るからだ。

別れても尚、私を苦しめ続けるあの女。





そしてまた手紙が届く。
私は読まずに暖炉へ放り投げた。

燃える手紙に綴られた言葉。

「貴方は今幸せですか」

その言葉は私に届くこと無く、灰になった。


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