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暴かれ始める真実
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チュニックが扉に手をかけたその瞬間執務室に響くノックの音。
チュニックは慌てて身を翻し未だ項垂れるアウターの隣に膝を着く。
さも傷付いたと言わんばかりに顔を手で覆い泣くふりをしだした。
「さっさと返事をしなさいよ、グズなんだから!あと余計なことは言わない方が良いわよ。誰が来たのかは分からないけど、貴方がフレア様にした事がバレたら……どうなるでしょうね」
そう言ってアウターに囁く姿はまるで悪魔のようだった。
アウターはゴクリと喉を鳴らすとノックされた扉に向かい返事をする。
「だ、誰だ」
「私でございます」
それは執事の声だった。
「失礼致します」
継いでそう言った執事は執務室の扉を開き中へ入ってくる。
「どうしたのだ、こんな時間に」
何事も無かったかのように振る舞うだけで精一杯のアウターは気付かない……部屋に入ってきた執事が床に膝を着き泣く真似をしているチュニックを冷たい侮蔑の瞳で見詰めていたのを………。
「旦那様こそどうされたのでしょう、こんな明け方に……それに奥様も、どうなさったのですか」
「い、いや」
「夫婦喧嘩でもなさっておいででしょうか?扉の外まで声が聞こえておりましたが」
執事のその言葉にギクリと方を揺らすアウターとチュニック。
「い、いや、そんな事は…無い。それ、より、声が聞こえて、いたと言っていたが…」
「ええ、何か言い争うような声が聞こえまして。流石に内容までは聞こえませんでしたのでこうして心配になり僭越ながら様子を見に来た次第です」
「そうか」
執事のその言葉に表情には出さなくともほっと胸を撫で下ろした二人。
「で、奥様は何故そのような所で何時までも膝を着いておられるのですか」
しかしながらいつもとあまりにも違う執事の無礼な物言いに違和感を覚える。
「ど、どうしたと言うんだ?チュニックが泣いているのが見えないのか?」
勿論泣いていない事などアウターが一番分かっていたがそう言うより他に方法が無かった。
泣いているからそっとしておいて欲しい、早く部屋から出ていって欲しい、そんな願いを込めてそう言う。いつも優秀な執事はその辺の事は言われずとも察して行動してくれる筈と……。
しかしながら執事は全く部屋を出ていく家気配が無かった。
「泣いておられるのですか?私には涙なんて一滴も見受けられませんが、見間違いでしょうか?」
しかもそんな事を言い出した執事。
流石の無礼な発言にアウターも頭にカッと血が上る。
「おい!どうしたと言うんだ!いつものお前らしくないな!私が嘘を言っていると言うのか!」
と怒鳴った所で聞こえて来るこの声は………。
「こんな明け方に大声を出すな」
「本当ですよ。情けない」
「父上!母上!」
そう、今頃領地にいるはずのアウターの両親である、前カーディガン伯爵夫妻であった。
「どうされたのですか、こんな時間に!しかも何故ここに?領地にいらっしゃるはずでは?」
「「………………」」
アウターの問い掛けに二人は答えない。
そして二人は黙ったまま未だ床に膝を着くチュニックの前へ歩み寄る。
「あらあら、チュニックさん。どうしたのかしら私達が来ているのにそんな所で何時までも膝を着いて……さっさと立ち上がって挨拶でもしたらどうかしら?」
「なっ!どうしてしまったのですか母上!チュニックは泣いて居るのです!心配こそすれ挨拶しろなんて!一体どうしたのですか!母上らしくありませんよ」
自分の優しい筈の母親が泣いているように見える相手に向かいそんな事を言った事がショックだったアウターは母親の肩を掴みながらきっとそんな母を諌めてくれるだろうという思いで父親を見る。
すると父はそんなやり取りを冷めた目で見ていた。
なんだなんだなんだ!どうしたと言うんだ!
さっきのチュニックの告白。いつもと違いすぎる無礼な執事。急に現れた両親。
もう何がどうなっているのか考えも追い付かない。
そしてそんなアウターに追い打ちをかけるかのように話し出した父の言葉に呆然とするしかなかった。
「もういい。私達は全てを知っている」
そう言った父の言葉がやけにクリアに耳に届く。
全てを知っている
それは一体なんの事を言っているのか……。
「父上、……一体何を……」
私にはそう言うのが精一杯だった。
チュニックが今までしていた事が知られていると言うのか……いや、そんなはずは無い。
私だって今まで気付かなかったのだ、そんなはずは無い。
それに知っていたのならもっと何か言ってきていても不思議では無い、それを今更……。
「今更しらばっくれるのは止めろ、見苦しい。全ては全てだ。その女がやっていた事全て、そしてお前がいかに愚かな男であるか、全てだ」
その言葉にチュニックはとうとう嘘泣きをやめ憎々しげに両親を睨みつけた。
そして舌打ちをしたと思ったら勢い良く立ち上がる。
「ふん、なーんだ。ぜーんぶ知られてたの」
「チュ、チュニック、止めろ」
迂闊な事を言い出す前に私はチュニックを止めようと手を伸ばす。知られている筈が無いんだ!いらない事を言うな!
「うるさいわね!」
そんな私の気持ちも知らず止める手を思い切り振り払いチュニックは続ける。
「まぁ、元々知られていたのか最近知ったのかは分からないけど、私をこの家に招き入れたのはあんた達の馬鹿な息子よ!それにもっと反対していたら私たちを結婚させない事ぐらい出来た筈なのに後継者欲しさに何も言わなかったあんた達に私を非難する権利なんて無いわよ!」
そう言って事もあろうかチュニックは両親を馬鹿にしだした。
チュニックは慌てて身を翻し未だ項垂れるアウターの隣に膝を着く。
さも傷付いたと言わんばかりに顔を手で覆い泣くふりをしだした。
「さっさと返事をしなさいよ、グズなんだから!あと余計なことは言わない方が良いわよ。誰が来たのかは分からないけど、貴方がフレア様にした事がバレたら……どうなるでしょうね」
そう言ってアウターに囁く姿はまるで悪魔のようだった。
アウターはゴクリと喉を鳴らすとノックされた扉に向かい返事をする。
「だ、誰だ」
「私でございます」
それは執事の声だった。
「失礼致します」
継いでそう言った執事は執務室の扉を開き中へ入ってくる。
「どうしたのだ、こんな時間に」
何事も無かったかのように振る舞うだけで精一杯のアウターは気付かない……部屋に入ってきた執事が床に膝を着き泣く真似をしているチュニックを冷たい侮蔑の瞳で見詰めていたのを………。
「旦那様こそどうされたのでしょう、こんな明け方に……それに奥様も、どうなさったのですか」
「い、いや」
「夫婦喧嘩でもなさっておいででしょうか?扉の外まで声が聞こえておりましたが」
執事のその言葉にギクリと方を揺らすアウターとチュニック。
「い、いや、そんな事は…無い。それ、より、声が聞こえて、いたと言っていたが…」
「ええ、何か言い争うような声が聞こえまして。流石に内容までは聞こえませんでしたのでこうして心配になり僭越ながら様子を見に来た次第です」
「そうか」
執事のその言葉に表情には出さなくともほっと胸を撫で下ろした二人。
「で、奥様は何故そのような所で何時までも膝を着いておられるのですか」
しかしながらいつもとあまりにも違う執事の無礼な物言いに違和感を覚える。
「ど、どうしたと言うんだ?チュニックが泣いているのが見えないのか?」
勿論泣いていない事などアウターが一番分かっていたがそう言うより他に方法が無かった。
泣いているからそっとしておいて欲しい、早く部屋から出ていって欲しい、そんな願いを込めてそう言う。いつも優秀な執事はその辺の事は言われずとも察して行動してくれる筈と……。
しかしながら執事は全く部屋を出ていく家気配が無かった。
「泣いておられるのですか?私には涙なんて一滴も見受けられませんが、見間違いでしょうか?」
しかもそんな事を言い出した執事。
流石の無礼な発言にアウターも頭にカッと血が上る。
「おい!どうしたと言うんだ!いつものお前らしくないな!私が嘘を言っていると言うのか!」
と怒鳴った所で聞こえて来るこの声は………。
「こんな明け方に大声を出すな」
「本当ですよ。情けない」
「父上!母上!」
そう、今頃領地にいるはずのアウターの両親である、前カーディガン伯爵夫妻であった。
「どうされたのですか、こんな時間に!しかも何故ここに?領地にいらっしゃるはずでは?」
「「………………」」
アウターの問い掛けに二人は答えない。
そして二人は黙ったまま未だ床に膝を着くチュニックの前へ歩み寄る。
「あらあら、チュニックさん。どうしたのかしら私達が来ているのにそんな所で何時までも膝を着いて……さっさと立ち上がって挨拶でもしたらどうかしら?」
「なっ!どうしてしまったのですか母上!チュニックは泣いて居るのです!心配こそすれ挨拶しろなんて!一体どうしたのですか!母上らしくありませんよ」
自分の優しい筈の母親が泣いているように見える相手に向かいそんな事を言った事がショックだったアウターは母親の肩を掴みながらきっとそんな母を諌めてくれるだろうという思いで父親を見る。
すると父はそんなやり取りを冷めた目で見ていた。
なんだなんだなんだ!どうしたと言うんだ!
さっきのチュニックの告白。いつもと違いすぎる無礼な執事。急に現れた両親。
もう何がどうなっているのか考えも追い付かない。
そしてそんなアウターに追い打ちをかけるかのように話し出した父の言葉に呆然とするしかなかった。
「もういい。私達は全てを知っている」
そう言った父の言葉がやけにクリアに耳に届く。
全てを知っている
それは一体なんの事を言っているのか……。
「父上、……一体何を……」
私にはそう言うのが精一杯だった。
チュニックが今までしていた事が知られていると言うのか……いや、そんなはずは無い。
私だって今まで気付かなかったのだ、そんなはずは無い。
それに知っていたのならもっと何か言ってきていても不思議では無い、それを今更……。
「今更しらばっくれるのは止めろ、見苦しい。全ては全てだ。その女がやっていた事全て、そしてお前がいかに愚かな男であるか、全てだ」
その言葉にチュニックはとうとう嘘泣きをやめ憎々しげに両親を睨みつけた。
そして舌打ちをしたと思ったら勢い良く立ち上がる。
「ふん、なーんだ。ぜーんぶ知られてたの」
「チュ、チュニック、止めろ」
迂闊な事を言い出す前に私はチュニックを止めようと手を伸ばす。知られている筈が無いんだ!いらない事を言うな!
「うるさいわね!」
そんな私の気持ちも知らず止める手を思い切り振り払いチュニックは続ける。
「まぁ、元々知られていたのか最近知ったのかは分からないけど、私をこの家に招き入れたのはあんた達の馬鹿な息子よ!それにもっと反対していたら私たちを結婚させない事ぐらい出来た筈なのに後継者欲しさに何も言わなかったあんた達に私を非難する権利なんて無いわよ!」
そう言って事もあろうかチュニックは両親を馬鹿にしだした。
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