宇宙の家 ~Come and help me!~

鈴木 純一

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終章

第37話 プロジェクトの終わり

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 事の真相を受け入れるには、長い時間がかかった。今も信じられない気持ちだ。だってそれは、俺の関わってきた現実が全て嘘だって言われてるようなもんだったんだから。

 第一に、獣座衛門はちゃちなAIで動作していたロボットだった。触手部分は風船になってて細工が施されてた。本物と見まがうほどに精緻なつくりだったんだ。俺は信じることができず何度も”獣座衛門だったもの”の残骸を調べた。彼の挙動を司るという簡単なAIも見た。有名な検索エンジンにも搭載されているような代物だ。先端技術なんだろうけれども、俺には悲しくなるほどにちゃちに思えた。AIはパイロットの言語パターンを学習して反復するだけのものだ。しかし高度なコミュニケーションを可能にしたのはそれだけ多くの情報が蓄積された結果なんだろう。
 第二に、俺を閉じ込めてたロボットハウスは宇宙空間になんてなかった。それこそ米国のフロリダ州の辺境にあるオフィスビルの中の一室を改造したものだ。ブライアンがそのことに気づいたのは単純な話で、通信の電波を辿るといとも簡単に居場所を突き止めることができた。かえって、あまりにも単純すぎて灯台下暗しになってたらしい。俺の固定観念がいっそう、宇宙以外に目が行かなくなってた要因でもあるらしいことを後から聞いた。

 俺はといえば、フロリダ州近辺の精神病院に入院していた。
 入院っていってもおかしくなったわけじゃない。とりあえず安静にできる場所が欲しかったことと、念のために精神鑑定をしてほしいというブライアンのたっての要望があったからだ。入院費用は全額ブライアンが担保してくれた。これが意味するところは……たぶん言わずもがな理解できると思う。

 入院生活二日目になって、ようやく忙しそうにブライアンが見舞いに来てくれた。

「リュウタ!」
「ああ、ブライアン。二日ぶりか?」
「そうだな、どうだ、具合の方は?」
「病人じゃないんだぜ…………いや、なんともなかった。見た目どおりに」
「よかった。ただ事じゃないことは君も理解してるだろうからね」

 ブライアンはしきりに首を振って周囲を警戒している。それからパイプ椅子を持ってきて俺のすぐそばに座った。深刻な表情で話を切り出す。

「もう既にわかってると思うが……君を誘拐したNSIAなる機関のことだ」

 あの日、俺はすぐにブライアンにおぶされて病院へと連れて行かれた。だから事の真相は今はじめて聞かされる。その間にNSIAからの連絡はまったくなかった。

「連中は、ある意味での脳科学実験の違法な研究機関だったんだ。米国では割とよくある。いわゆるマッドサイエンティストってやつだ」

 ブライアンは深刻な顔つきで続けて説明する。

「宇宙人と名乗るロボットと被験者を対面させ、密室に閉じ込めて、その反応を研究していたんだと……まったくおかしな話だが」
「チャールズロペスや、ジェイクマースティンもその被害にあった?」
「ああ、そのとおりだ。しかし今となっては二人ともあの世に旅立っちまった」
「何が二人をおかしくしたのかは、神のみぞ知るってわけか」
「今うちの機関が組織の幹部のマクシミリアンって男を取り調べてるんだが」
「サラは!?」
「え?」
「ほらっ……サラだよ! あのロボットハウスで話したときもちょっと出てきたろ?」
「……ビルに突入したときにはマクシミリアンを含めた数名のスタッフがいた。全員取り押さえたけど女性の姿はなかった。恐らく騒動に乗じて逃げ出したか、もしくは元から別の場所にいたのか」
「そっか……」

 少し残念だった。サラだけは俺を騙してた人間とは思えなかった。彼女は俺にも真摯に向き合ってくれたんだ。そんな彼女にひと言だけでもお礼したかった。それだけなんだ。

「君には本当に悪いことをしたと思ってる」

 ブライアンが妙なことを言い出す。彼は気恥ずかしそうに仕切りなおしていうんだ。

「相手が犯罪組織でありながらも、君は正当な契約の元に米国にやってきたわけだ。我々は君の契約に突如割って入ったばかりか、全てのプランを台無しにしてしまった」
「やめてくれよ! 俺だって犯罪に加担したとか言われるんじゃないかって、ひやひやしてるんだから!」
「ははは! もしそうだったなら君は踏んだり蹴ったりだな!」

 ブライアンは手を叩いて笑ってる。こっちとしては、文字通り過ぎて笑い飛ばすことなんてできなかった。その時、病室にまたひとりの人影が入ってきた。

「ハロー。リュウタ。元気そうで何よりね!」

 女性の声。一瞬サラかと期待したけど、アイリーンだった。ブライアンが振り返る。

「やあ、アイリーン。あの日以降ご無沙汰だったな」
「あなたもねブライアン。調子はどう?」

 ブライアンは両手でイマイチのジェスチャーをして見せた。

「いそがしいよ。君の方は?」
「相手が国際的宇宙規模の敵じゃなくてよかった。それだけよ」

 アイリーンも俺の方に近づいてきた。何を言うのかと思った。突然しかめっ面でいう。

「だからいったでしょう? 宇宙人なんて存在しないってね?」

 そういってアイリーンはウィンクしてきた。憎たらしいけど、今だけは彼女には頭が上がらなかった。

「謝るよ、アイリーン」
「アハハ、冗談よ。それよりも具合はどうなの?」
「一応検査みたいのはやったんだ。どれも正常の数値だったよ」数値上はな。
「そう……よかった」
「しかし本当によかったよ! あのゲムギリオという組織とも交渉に失敗した。だから、いっときは君のことをもう諦めるしかないとさえ思ったんだ」

 思わずゾッとしてしまった。その事実もそうだけれど、ゲムギリオとかいう組織がいたことを今咄嗟に思い出したんだ。彼らは今どうしてるんだろう。そして、何を思って現状をどう認識してるんだろう。何の音沙汰も無いことがかえって不気味に思えた。

「大丈夫よ。リュウタ」

 俺の不安げな顔から感情を読み取ったのか、アイリーンがいう。

「貴方には関係のないこと。あとは私たちの仕事よ」

 確かにそうだ。ブライアンはCIAの工作員。アイリーンFBIの捜査官だっていう。ここ米国においても彼ら以上に頼りになる人間は他にいない。何も不安に思うことなんてないんだ。そんなことを考えていたら、ふと思いついたんだ。

「なぁ、ゲムギリオで思い出したんだけど。じゃあロボットハウスって名前が一致したのは偶然の産物だったのかな?」
「なるほど。エイムズで研究してた宇宙ステーションと連中とは何のかかわりもないことになるからな……」

 ブライアンが呻くと、アイリーンが答えた。

「単純な話よ。どちらも同じ情報元にインスパイアされてたってこと」

 俺とブライアンが理解できずアイリーンの方を見ると、彼女はハンドバックから一冊の雑誌を取り出して俺達に見せてきた。それは古い時代のSFを扱ったワンコーナーだった。あるタイトルにはロボットハウスという宇宙船が出てくる。俺達はギョッとして目を見合わせた。俺が訊ねるとアイリーンは説明する。

「要するに、この映画を親しんだ年代の人間には有り触れたものだったのよ。一方はNASAのエンジニアに、もう一方は組織の関係者に。どうりで私たちが気づかないはずよ」

 なるほど、そういうことだったんだ。ロボットハウスという名前の一致は、本当に偶然だった。けれども必然性のある偶然だ。二人の人間は幼少期の記憶を共有していた。

「ネタが知れると、案外たいしたことないもんだな」
「その映画はどういう映画なの?」
「妙なことを聞くわね……地球外生命体に侵略されるっていう有り触れたものよ。ただ宇宙人は地球にいて挟み撃ちにあうの。宇宙の敵しか見えなかった地球文明は瞬く間に滅ぼされる。だけど死んだ人はみんな別の星に転生して幸せに暮らすっていう妙なハッピーエンドのB級パニック映画ね」
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