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治る
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「……どうだ?結構ましになっただろう」
「うん…まあね、ありがとう」
…少年にしてもらった手当ては、無いよりはましと言っても…酷いものだった。
(…何でも出来そうだと思ってたけど)
「何だよ君、その間は。不満があるのか?」
「あぁ…まあ、いや無いよ」
「…まあいいさ、休んでる間には傷は治ってるだろうし」
少年がした手当ては、傷がある箇所と包帯の間に、見たことのない黄色い葉を挟むというものだった。ただ黄色いだけの葉で、とてもあの傷が治るとは思わない。だけど少年は絶対に嘘はつかない、と僕は何故か信じきっている。
これからもきっと、僕の知らないことを沢山見ることになると思う。僕は自分が思っている以上に不思議なことがあると気に留めていよう、と思った。
少年は立ち上がって、出入り口の方へ向かった。
「少し、水を汲みに行ってくるよ」
水、は多分近くに流れていた小川からだろう。あの小川も不思議だった。少し高い所から落ちてくる水は青く澄んでいるように見えるけど、穏やかに落ち着いている所では、水は緑色に反射していて、豊かさを感じた。
…味は普通の水なんだろうか…。覚悟を決めることを兼ねて、味を想像をしていたら、何故だか無性にカルピスが飲みたくなってきた。想像するだけで味が口の中に広がっていくような気がする。
どこまでの記憶を覚えているかは分からないが、よく飲んでいたんだと思う。僕が目覚めた場所では、ただただ頭が働かず、体も重くて何も考えられなかった。もしかして、しばらくしたら、少しずつ記憶を思い出すかも知れない。
「これ、飲んでおいて」
少年は出入り口まで戻ってくると、足下の畳に水を置き、今度は鳥居の方に向かって歩いていった。水はペットボトルに入っていた。
見た目は無色透明の普通の水だ。
僕の体に害がない、完全に安全だ、とは言えない。だが、少年が僕にこの水を飲ませようとしているなら大丈夫だろう、と深く考えず、勢いで一口、二口と飲んだ。
「…?」
味がある。
しかもさっき想像していたカルピスの味だ。
飲んだ後もう一度水を見てみても、無色透明なのには変わりない。
僕は、さっき強く想像しすぎて、カルピスだと感じただけかも知れない、ともう一度飲んでみる。しかし、絶対にその味なのだ、と反対に確信を持ってしまった。
「…どう?」
少年が戻ってきた。
少年は、スニーカーを脱ぎ部屋に入ると、また同じく布団の上に座った。
「これって…水なの?」
すかさず僕は質問した。
「どういうこと?」
「いや、飲んでみたら…何だかおかしいんだよ。カルピスの味がするんだ」
少年はその言葉を聞くと僕の目を見た。
「…そうか」
少年は一度僕から目を逸らすと、僕に向き直りこの事についての説明を始めた。
「この水はね、何も考えずに飲むとただの水だけど、飲む前に何か飲み物を想像すると、その味を感じられるんだ。」
「…へぇ…」
気には留めていても、その上の、更に上を行く現実を、ただただ受け止めるしかなかった。
「つまり、君はこれを飲む前にカルピスを飲みたいって、そう思ったわけだ」
少年は微笑んで言う。
「…子どもっぽいって言いたいの?」
「いやいや、そんなことは決してないよ」
すこしひねくれて言ってみた。少年は相変わらず笑いを含んで、否定はした。
「ちなみにその水、飲むとしばらく帰れないから」
…
「えっ」
じゃあ飲まなかった方が…
「ちょっと待って。言い方が悪かったかも」
「え?」
「そうだな。まず、この水を飲むと空腹が一定時間は抑えられる。あと、これから食糧を採りに行くって言っただろう?この水を飲んでおかないと、君はこの辺りのものを少しも食べられないんだ。反対に、この辺りのものを食べると、君が元の場所に帰っても、何も食べられないんだ。でも君はすぐに帰れない、ひとまずはここの食べ物を食べるしかないんだ」
「…あ、あぁ」
「…君が普段食べてたものは、ここにあるものとは違うんだよ。分かった?」
「うん…」
訳も分からず、取り敢えずで返事をしておくしかない。だが、少なくとも少年は、僕の事を考えて飲ませたんだろう。その辺りは安心して良さそうだ。
「…そうだ、これを手首につけておいて」
少年は僕の手首に、二枚の葉で出来た腕輪を通した。
葉の先には細長い赤い花がついている。手の平の方で二枚の葉が結ばれていて、手の甲の方で赤い花がねじられて、180度反対の方向に向くようになっている。
「これは、ここら辺で時計代わりになるんだ。着けておいてね。ほどけそうになったら、赤い花がついている方を何度かねじって。」
…この葉が二枚で時計代わりになるのか…。
「そうだ、傷はもう治ったんじゃない?」
「え?傷が?」
僕は疑いながらも、左腕の包帯を取ってみた。葉を取ると…傷は、さっぱり無くなっていた。
「…」
現実かどうかすらも疑ってしまうような光景を見た僕は、もう保育園児と変わらない、好奇心の塊となり、にやけが止まらなくなってしまった。
知らないことばかりだけど、戸惑うものだけじゃなくて、不思議で、惹かれるものも多くある。
僕はまた、この先のことを考え、楽しみになった。
「どうだろう、そろそろ行ってみようか」
「そうだね、早く行こう」
「食い意地が張ってるな」
僕は空腹なんて忘れて、もっと、この不思議な体験を多くしたいと、張り切っていた。
「食糧を採ったら、その後に僕の知り合いも紹介するよ」
「うん…まあね、ありがとう」
…少年にしてもらった手当ては、無いよりはましと言っても…酷いものだった。
(…何でも出来そうだと思ってたけど)
「何だよ君、その間は。不満があるのか?」
「あぁ…まあ、いや無いよ」
「…まあいいさ、休んでる間には傷は治ってるだろうし」
少年がした手当ては、傷がある箇所と包帯の間に、見たことのない黄色い葉を挟むというものだった。ただ黄色いだけの葉で、とてもあの傷が治るとは思わない。だけど少年は絶対に嘘はつかない、と僕は何故か信じきっている。
これからもきっと、僕の知らないことを沢山見ることになると思う。僕は自分が思っている以上に不思議なことがあると気に留めていよう、と思った。
少年は立ち上がって、出入り口の方へ向かった。
「少し、水を汲みに行ってくるよ」
水、は多分近くに流れていた小川からだろう。あの小川も不思議だった。少し高い所から落ちてくる水は青く澄んでいるように見えるけど、穏やかに落ち着いている所では、水は緑色に反射していて、豊かさを感じた。
…味は普通の水なんだろうか…。覚悟を決めることを兼ねて、味を想像をしていたら、何故だか無性にカルピスが飲みたくなってきた。想像するだけで味が口の中に広がっていくような気がする。
どこまでの記憶を覚えているかは分からないが、よく飲んでいたんだと思う。僕が目覚めた場所では、ただただ頭が働かず、体も重くて何も考えられなかった。もしかして、しばらくしたら、少しずつ記憶を思い出すかも知れない。
「これ、飲んでおいて」
少年は出入り口まで戻ってくると、足下の畳に水を置き、今度は鳥居の方に向かって歩いていった。水はペットボトルに入っていた。
見た目は無色透明の普通の水だ。
僕の体に害がない、完全に安全だ、とは言えない。だが、少年が僕にこの水を飲ませようとしているなら大丈夫だろう、と深く考えず、勢いで一口、二口と飲んだ。
「…?」
味がある。
しかもさっき想像していたカルピスの味だ。
飲んだ後もう一度水を見てみても、無色透明なのには変わりない。
僕は、さっき強く想像しすぎて、カルピスだと感じただけかも知れない、ともう一度飲んでみる。しかし、絶対にその味なのだ、と反対に確信を持ってしまった。
「…どう?」
少年が戻ってきた。
少年は、スニーカーを脱ぎ部屋に入ると、また同じく布団の上に座った。
「これって…水なの?」
すかさず僕は質問した。
「どういうこと?」
「いや、飲んでみたら…何だかおかしいんだよ。カルピスの味がするんだ」
少年はその言葉を聞くと僕の目を見た。
「…そうか」
少年は一度僕から目を逸らすと、僕に向き直りこの事についての説明を始めた。
「この水はね、何も考えずに飲むとただの水だけど、飲む前に何か飲み物を想像すると、その味を感じられるんだ。」
「…へぇ…」
気には留めていても、その上の、更に上を行く現実を、ただただ受け止めるしかなかった。
「つまり、君はこれを飲む前にカルピスを飲みたいって、そう思ったわけだ」
少年は微笑んで言う。
「…子どもっぽいって言いたいの?」
「いやいや、そんなことは決してないよ」
すこしひねくれて言ってみた。少年は相変わらず笑いを含んで、否定はした。
「ちなみにその水、飲むとしばらく帰れないから」
…
「えっ」
じゃあ飲まなかった方が…
「ちょっと待って。言い方が悪かったかも」
「え?」
「そうだな。まず、この水を飲むと空腹が一定時間は抑えられる。あと、これから食糧を採りに行くって言っただろう?この水を飲んでおかないと、君はこの辺りのものを少しも食べられないんだ。反対に、この辺りのものを食べると、君が元の場所に帰っても、何も食べられないんだ。でも君はすぐに帰れない、ひとまずはここの食べ物を食べるしかないんだ」
「…あ、あぁ」
「…君が普段食べてたものは、ここにあるものとは違うんだよ。分かった?」
「うん…」
訳も分からず、取り敢えずで返事をしておくしかない。だが、少なくとも少年は、僕の事を考えて飲ませたんだろう。その辺りは安心して良さそうだ。
「…そうだ、これを手首につけておいて」
少年は僕の手首に、二枚の葉で出来た腕輪を通した。
葉の先には細長い赤い花がついている。手の平の方で二枚の葉が結ばれていて、手の甲の方で赤い花がねじられて、180度反対の方向に向くようになっている。
「これは、ここら辺で時計代わりになるんだ。着けておいてね。ほどけそうになったら、赤い花がついている方を何度かねじって。」
…この葉が二枚で時計代わりになるのか…。
「そうだ、傷はもう治ったんじゃない?」
「え?傷が?」
僕は疑いながらも、左腕の包帯を取ってみた。葉を取ると…傷は、さっぱり無くなっていた。
「…」
現実かどうかすらも疑ってしまうような光景を見た僕は、もう保育園児と変わらない、好奇心の塊となり、にやけが止まらなくなってしまった。
知らないことばかりだけど、戸惑うものだけじゃなくて、不思議で、惹かれるものも多くある。
僕はまた、この先のことを考え、楽しみになった。
「どうだろう、そろそろ行ってみようか」
「そうだね、早く行こう」
「食い意地が張ってるな」
僕は空腹なんて忘れて、もっと、この不思議な体験を多くしたいと、張り切っていた。
「食糧を採ったら、その後に僕の知り合いも紹介するよ」
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