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少年は何処を目指しているのか僕には分からないけど、手入れもされていない山の中を迷わずに進んでいるから、この辺りのことはよく知っているんだと思う。
歩いていて違和感に感じたことがある。葉を踏む音、枝が折れる音。なんだか響かずに、音がその場で閉じ込められている気がする。この音が、森の雰囲気をより一層重くさせているんだと感じた。
段々と歩ける幅が広くなってきた所で、一つの木造の建物が見えてきた。
白い鳥居に黒に金で書かれた看板、名前はもう読めない。小さくて古いけどしっかりとしてる拝殿。拝殿へと続く石畳。二匹の狛犬。近くには小川が流れている。
草があちこちに生え散らかっていて、もう手入れをする人がいないことが分かった。
「…ここ、神社?」
「さあ、多分な」
少年は当然のように拝殿の中へ入っていく。僕は拝殿の中へ入るどころか神社へもあまり行かないので、少し躊躇ったが、少年に小さく思われたくないのであまり何も考えないようにして付いていった。
中に入ると普通の小さい和室だった。
布団が一組と座布団が数枚重なっていた。他に収納する場所もあるようだが、いま部屋にあるのはこれだけだ。
少年は重なっている一番上の座布団を取ると部屋の真ん中あたりに投げやった。布団の上に胡座をかき、頬杖をつくと僕の方を見た。
「…えっと、座ってもいいの?」
少年は僕から目を逸らした。
僕は少年の目の前に座布団を直し座った。
さっきまでは上手く頭が回らなかったが、この辺りは冷たく綺麗な空気で、少しずつ回復してきた。
一度、改めて少年を見ていた。
少年は簡単な、薄めの着物を来ていた。外ではスニーカーを履いていた。
少年は少し僕よりも小柄だと感じた。手足はすらっとしている。髪は少し長めで、前髪は目にかかっている、つやっとしてる黒髪。色白で睫毛が長い。目は黒いけど、深い海のような青を感じさせる。
何て言うか、二枚目のような。でも、カッコいいけど、本人は気にしてない感じがする。確かに他に人の気配が全くないから、人に見られる機会はあまりないんだろうけど、僕からすると羨ましく思う。
少年は一息ついて、少し間を置くと顔をこちらに向け話し出した。
「…どこから覚えてない?」
「どこからって…何にも、覚えてない」
「…君はここが何処だか分かる?」
「いや、見覚えもない…」
「…君は自分が何をしたか知ってる?」
「えっ?…と、何かしたの?」
少年は少し怒っているように見えた。
僕のした質問には答えずにしばらく考えている。
「……A君は君のことだよ」
「え?」
「俺の名前はB。好きなように呼んでくれて構わない。君はしばらくここにいることになる」
「…」
「いいか、よく聞くんだよ……ちょっと?」
……僕がA…?本当かどうかは分からないけど本当の名前だとして、何故僕のことを知ってるんだ?この人は、僕とどういう関係なんだ?
しばらくここにいる…?それ程大変なことを、僕はしてしまったのか?どうしたら早く帰れるんだ?僕は家に帰らないといけないのに…。
「…おい、いいか。ちゃんと聞けよ」
「…あ、う、うん」
「まず、君は今死にかけてるんだ」
「…………っえ!??」
「何を驚くことがあるんだ。覚悟の上で来たんじゃないのか」
「い、いや…そういうことじゃ…えぇ??」
今、僕はちゃんと、この通り、意識もしっかりあるのに?
「…あぁ、でも…何て言うのかな。体の調子のことではなくて…。」
「…そ、それでも…死ぬのを、覚悟するなんて…そんな…」
記憶を失くす前の自分は、そんなに追い詰められていたのだろうか…。
「…まあ、冗談だ。何があったかは知らないが、何も知らずにここに来るわけはない。何か…君がここに来るきっかけがあったはずだ」
「…」
「…いいか、君はまだ何が何だか分からないと思うが、まず君のすることは記憶を戻すことだ。いいね?」
「…うん」
きっともう考えても何も分からないし、まずは言われたことをやってみようと思った。
「次に……あー、そうだな。君は死にかけといってもまだ生きてるんだ。食糧を採ってこないといけないね」
「…あぁ」
確かに、言われてからかなりお腹がすいていることに気付いた。最後に何か食べたのはいつだ?
「そうだな…少ししたら行ってみるか」
「えっ、何処に?」
「もう少し山奥だな。昼頃には何か食べれると思うけど…」
…昼頃?そういえば、ここは太陽も見えず薄暗いからずっと夕方くらいだと思っていた。
「…今って、何時くらいなの?」
「大体…朝の7.8時くらいかな。…分からないんだろう。後で分かるようにしてやるよ」
「あ、ありがとう…」
なんだか異世界に来たみたいだ。何もかも分からないことだらけ。それともこの少年が超能力か何かがあるのかも知れない。
「とにかく、一時間くらいは休もう。ここは安全だし、手当ても必要だしな」
手当て…?
自分の手足を見てみると、擦り傷や切り傷がたくさんついていた。視認すると、今まで気付かなかったのが不思議なほどの痛みがやって来た。
「……痛っっ!」
「良かったな、俺がいて。感謝しろよ」
「う、うん…」
何も理解できてないけど、目の前ことから一つずつ頑張ろう……。
歩いていて違和感に感じたことがある。葉を踏む音、枝が折れる音。なんだか響かずに、音がその場で閉じ込められている気がする。この音が、森の雰囲気をより一層重くさせているんだと感じた。
段々と歩ける幅が広くなってきた所で、一つの木造の建物が見えてきた。
白い鳥居に黒に金で書かれた看板、名前はもう読めない。小さくて古いけどしっかりとしてる拝殿。拝殿へと続く石畳。二匹の狛犬。近くには小川が流れている。
草があちこちに生え散らかっていて、もう手入れをする人がいないことが分かった。
「…ここ、神社?」
「さあ、多分な」
少年は当然のように拝殿の中へ入っていく。僕は拝殿の中へ入るどころか神社へもあまり行かないので、少し躊躇ったが、少年に小さく思われたくないのであまり何も考えないようにして付いていった。
中に入ると普通の小さい和室だった。
布団が一組と座布団が数枚重なっていた。他に収納する場所もあるようだが、いま部屋にあるのはこれだけだ。
少年は重なっている一番上の座布団を取ると部屋の真ん中あたりに投げやった。布団の上に胡座をかき、頬杖をつくと僕の方を見た。
「…えっと、座ってもいいの?」
少年は僕から目を逸らした。
僕は少年の目の前に座布団を直し座った。
さっきまでは上手く頭が回らなかったが、この辺りは冷たく綺麗な空気で、少しずつ回復してきた。
一度、改めて少年を見ていた。
少年は簡単な、薄めの着物を来ていた。外ではスニーカーを履いていた。
少年は少し僕よりも小柄だと感じた。手足はすらっとしている。髪は少し長めで、前髪は目にかかっている、つやっとしてる黒髪。色白で睫毛が長い。目は黒いけど、深い海のような青を感じさせる。
何て言うか、二枚目のような。でも、カッコいいけど、本人は気にしてない感じがする。確かに他に人の気配が全くないから、人に見られる機会はあまりないんだろうけど、僕からすると羨ましく思う。
少年は一息ついて、少し間を置くと顔をこちらに向け話し出した。
「…どこから覚えてない?」
「どこからって…何にも、覚えてない」
「…君はここが何処だか分かる?」
「いや、見覚えもない…」
「…君は自分が何をしたか知ってる?」
「えっ?…と、何かしたの?」
少年は少し怒っているように見えた。
僕のした質問には答えずにしばらく考えている。
「……A君は君のことだよ」
「え?」
「俺の名前はB。好きなように呼んでくれて構わない。君はしばらくここにいることになる」
「…」
「いいか、よく聞くんだよ……ちょっと?」
……僕がA…?本当かどうかは分からないけど本当の名前だとして、何故僕のことを知ってるんだ?この人は、僕とどういう関係なんだ?
しばらくここにいる…?それ程大変なことを、僕はしてしまったのか?どうしたら早く帰れるんだ?僕は家に帰らないといけないのに…。
「…おい、いいか。ちゃんと聞けよ」
「…あ、う、うん」
「まず、君は今死にかけてるんだ」
「…………っえ!??」
「何を驚くことがあるんだ。覚悟の上で来たんじゃないのか」
「い、いや…そういうことじゃ…えぇ??」
今、僕はちゃんと、この通り、意識もしっかりあるのに?
「…あぁ、でも…何て言うのかな。体の調子のことではなくて…。」
「…そ、それでも…死ぬのを、覚悟するなんて…そんな…」
記憶を失くす前の自分は、そんなに追い詰められていたのだろうか…。
「…まあ、冗談だ。何があったかは知らないが、何も知らずにここに来るわけはない。何か…君がここに来るきっかけがあったはずだ」
「…」
「…いいか、君はまだ何が何だか分からないと思うが、まず君のすることは記憶を戻すことだ。いいね?」
「…うん」
きっともう考えても何も分からないし、まずは言われたことをやってみようと思った。
「次に……あー、そうだな。君は死にかけといってもまだ生きてるんだ。食糧を採ってこないといけないね」
「…あぁ」
確かに、言われてからかなりお腹がすいていることに気付いた。最後に何か食べたのはいつだ?
「そうだな…少ししたら行ってみるか」
「えっ、何処に?」
「もう少し山奥だな。昼頃には何か食べれると思うけど…」
…昼頃?そういえば、ここは太陽も見えず薄暗いからずっと夕方くらいだと思っていた。
「…今って、何時くらいなの?」
「大体…朝の7.8時くらいかな。…分からないんだろう。後で分かるようにしてやるよ」
「あ、ありがとう…」
なんだか異世界に来たみたいだ。何もかも分からないことだらけ。それともこの少年が超能力か何かがあるのかも知れない。
「とにかく、一時間くらいは休もう。ここは安全だし、手当ても必要だしな」
手当て…?
自分の手足を見てみると、擦り傷や切り傷がたくさんついていた。視認すると、今まで気付かなかったのが不思議なほどの痛みがやって来た。
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「う、うん…」
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