薬師は魔法が使えない〜弱小種族の人間は、理不尽ファンタジーにドーピングで抗います〜

ハイイロカラス

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回想 異形の街

異形の街 24

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目につく範囲のグレイアントを片端から叩き潰した後、鉱石の残骸の中で座り込む1人の青年。
緊張感皆無の顔で欠伸をしているのは、言うまでもなくシルヴァである。
装着していた音響頭角は既に外して首にかけられている。

「ふぅ~・・・あー、終わった終わった。」
『なかなか見事であったぞ。薬師には見えんかったがの。』

座り込む彼の隣で、褒め言葉か皮肉か分からない言葉をかけるアルス。
アルスもまたグレイアントの索敵や処理を金属の巨人に任せて寝そべっていた。

「あ、あはは・・・まぁ確かに、アルスは錬金術師っぽいことしてたよね。」

遠くで動く巨人を見ながら、シルヴァは感心したように言う。

『鉱物を別の鉱物に変えるのは、物質変換の中でもかなり初歩のものじゃがな。まあ、我の場合は原子レベルで別物にしておるからの。配列や結合をいじるだけのものよりは上等じゃな。』
「へぇー。何言ってるかさっぱりわかんないけど凄そうだね。」
『・・・薬学とも無関係ではない知識だと思うが。』
「そう?僕の認識だと薬っていうのは、蓄積された知識と膨大な数の試行によって無数の無価値あるいは有害な物の中からごく僅かな有益な物を見つけ出すもの・・・かな。」
『ふむ、まあそれもまた正しくはあるか。・・・となると、先程使っておったあの毒というか溶解液も原理は理解しておらんのか?かなり戦闘用に改良されているようじゃったが。』

アルスのその問いに、シルヴァは少し考える。

「・・・完璧には理解してないけど、多少はって感じかな。説明した方がいい?」
『気にはなっておるの。』
「んじゃあ簡単に。と言っても大半が人から聞いた知識の受け売りだけど・・・」

シルヴァはそう前置きして説明を始める。

「マンティコアの毒は空気・・・厳密に言えば酸素に触れることでその毒性を急速に失う。兵器として使用する上で、その特性が最も大きな問題だね。保管するだけなら割と簡単だけど。」

そう言ってシルヴァは空になった瓶を見せる。
外見は普通のガラスの瓶だが、特殊な加工が施された密封性や対腐食性の高いものである。

『む、回収していたのか。』
「大して高くないけど、仮にも毒が入っていたものだからね。管理はちゃんとしなくちゃ。・・・んで、その酸素の問題の対処だけど。これ、見える?」

シルヴァは瓶をアルスに近付ける。

『・・・ふむ、何か粉末のような物が付着しておるように見えるな。』
「さすが、目の付け所が良いね。毒の改良と言っても大したことはしてないんだ。やったのは、この粉末を毒液に混ぜただけ。まあ、この粉末自体にも対毒の加工しなきゃいけないから僕個人で作れるものじゃないけど。」
『だが、誰かの協力を得ればさほど困難な加工でもないのぅ。・・・それで、その粉末はなんなのじゃ?』
「ちょっとばかり特殊な金属の粉末だよ。酸素に反応して発熱する、ね。」

シルヴァのその答えに、アルスは少し首を傾げる。

『特殊な金属?酸化による発熱反応は普通の鉄でも起こるが・・・鉄では無いのか?』
「・・・えーっと、ごめん、僕の知識が足りなくて何が引っかかってるのかわからないや。それに、この金属が何かもわからない。そういうの聞かない約束で知り合いの賢人種ウィザードから譲ってもらってるから。ただ少なくとも、鉄では無いと思うよ。重さが違う。」

頬を書きながら、しかしよどみなくシルヴァは答える。
その様子から、アルスはこれ以上聞いても無駄だと判断した。

『むう、そうか・・・まあ、細かいことはいずれ自分で調べるか。それに、鉄の酸化熱程度ではマンティコアの毒は膨張せんしな。ともかく、大体は理解した。その金属粉のおかげで毒性の維持と膨張を可能にしているわけか。』
「さすがに理解がはやいね。この金属はすごく酸素に反応しやすいらしくて、毒液の中に粉末が残っている限りは酸素はそっちに持ってかれるから毒性を失わなくて済むんだってさ。」

そこまで説明すると、シルヴァは瓶をしまい立ち上がった。

「さて、休憩終わりっと。僕はそろそろ負傷者の救護に向かうけど・・・ここは、アルスとあの巨人達に任せて大丈夫かな?さすがに完全に空ける訳にはいかないからさ。」
『任されよう。この場に居た戦士たちに大口を叩いたのは我じゃからな。責任は果たす。』
「じゃ、ここはよろしくー。」

軽くそう言い、シルヴァはヒラヒラと手を振ってその場を離れる。

その背を少しの間見送り、アルスも伸びをして立ち上がる。

『・・・いかんな、身体がある感覚に慣れてきておる。これが終わったらこの肉体から離れるか。物理的な音を出す魔法でも用意しなくてはな・・・』

小さく呟いた後、アルスは巨人達を停止させる。
そして、1度全てをただの鉱石へと戻した。正確には、巨人の形を保ってはいるが上位元素による干渉を受けていない状態となった。

『雑に作ったから仕方ないとはいえ、命令変更の為にいちいち作り直さなければならないのは面倒じゃな。あの時作った物は・・・』

そこでアルスは何かに気づいたように小さく笑う。

『くくっ、あやつの独り言がうつったのかの。言葉など、久しく使っていなかったというに。まあ、良い刺激じゃな。』

気を取り直し、アルスは巨人に新たな命令を下す。

1体ごとで対応できるギリギリの間隔で巨人を配置し、積極的な討伐ではなく索敵からの防衛に命令を変更。

アルスはついでに、地面に落ちている新たな残骸から巨人を増やすことも考えたが、過剰な戦力は味方にも悪影響を与えると判断して却下。

万一巨人が抜かれた場合は直接自身で対処することにし、索敵範囲を拡張。
元々トウテツの外見は物理空間に鑑賞するための媒介に過ぎないため、周囲の認識に視界は関係ない。アルスのような霊体、精神体は物体の上位元素そのものを感じる事で周囲を認識する。
感知範囲内であれば全方位を同時に把握出来る上に、その感知範囲もアルスならばある程度操作できる。

『・・・そういえば、あやつが装着していたあの魔道具について聞くのを忘れておったのぅ。あれをつけた瞬間、動きが明らかに変わったが・・・全く、底の見えん男じゃ。まぁ、少なくとも今は薬師らしいことをしておるようじゃが。』

アルスはそう言って楽しそうに笑う。

『というか、初めて見るかもしれんな。どれ、少し覗いてやるかの。』

その言葉と共に、アルスの近くで浮く立方体から水晶と拳大の羽虫のような物がが現れる。水晶の方は先程シルヴァに見せたものよりだいぶ小さく、透明度が高い。

これらの道具の効果は実に単純で、羽虫型の道具が見た映像をそのまま水晶に投影する、というものである。
特定の相手を追跡する道具も存在するが、上位元素を持たないシルヴァはその対象にならない。そのため、アルスは最も単純なこの道具を選択した。


アルスは羽虫に命令を下すと、そのまま水晶を覗き込んだ。
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