弱小種族による、危険な世界の歩き方。

ハイイロカラス

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第二章

1人寝の夜にさよなら。いや、別に変な意味じゃなくて

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僕とヒルダは、宿の一室で休んでいた。それなりに広く綺麗で、鍵がかかる。悪くない宿だ。
もう外は暗く、一日でかいた汗も宿の風呂で流してきた。ちなみにシャクシャラは水が豊富らしく、湯船にお湯を張るタイプのお風呂で僕としても満足だ。

「いやー、無事に証明書を発行してもらえることになって良かったよ。良い宿も見つかったし、色々順調って言っていいね。」

宿の寝台に足を投げ出して座る。普段は寝る時でも決して脱がない上着も、滅多に外さない音響頭角も壁にかけている。
だってヒルダがいるんだしね。そこまで警戒する必要も無い。

「そうですね。いくつか良さそうな依頼もありましたし、しばらくはやることに困らなそうです。」

気が緩みきった僕を見ながらヒルダは笑う。やったことないこと、知らないことができるのが嬉しいのかな。

・・・あ、ちなみにグイーラさんには普通に勝った。
いつも通り見てから避けて、近付いて短刀を首に押し当てた。
多分強かったんだろうけど・・・どれくらい強いのかは例のごとくわからなかったです。
僕としてはヒルダにいい所を見せられた・・・と、思うので満足だ。

「それにしても、今日は流石に疲れたよ。でも、考えうる限り最もいいペースで色々出来たと思うな。」
「私は、よくわかりませんが・・・でも、シルヴァが楽しそうでなによりです。」
「あはは・・・ところで。」

僕は、顔を少し真面目なものにしてヒルダを見つめる。

「な、なんですか?急にそんな顔をして・・・」
「いや、いつまでそんな部屋の隅に立ってるのかなーって。」

そう、ヒルダはさっきからずっと部屋の隅から動かないのである。
・・・まあ、気持ちもわかる。この宿に入った時間が遅かったせいか、残っていた部屋がひとつしかなかった。しかも、ベッドは大きいものがひとつ・・・いわゆるダブルベッドだけだ。

「そんなに怖がらなくても、ヒルダが嫌がることはしないよ?」

ていうかそんな大層こと出来ない。僕にそこまでの度胸はない。

「わ、私は別に・・・」

そういうヒルダだけど、顔は真っ赤だ。わかりやすいなぁ。
・・・しかし、こういうとあれだけど、やはり時々随分と子供っぽい。
僕とて緊張はしてるけども、ヒルダを見ていると逆に落ち着く。
よし、いい機会だから気になってたことを聞いてしまおう。

「今更こんなこと聞くのもなんだけどさ。」
「な、なんですか?」
「ヒルダって実際のところ何歳なの?」

そう、僕は未だにそこを知らないのだ。まあ、別に知らなくて大きな問題があるかって言われたらそんなこと無いんだけど・・・

まあ、気になるものは気になるのだ。だって外見じゃわかんないし・・・

そんな感じの疑問を直接ぶつけてみる。
さて、答えはいかに?

「私の年齢、ですか?確か・・・17になりましたね。」
「じゅうしち!?」
「な、なんですか急に大声出して!」

ま、まさかとは思ってたけどほんとに年下だったとは・・・

「いやぁ、ごめんごめん、年下だったとは思わなくて。『確か・・・』っていった時はてっきり200歳とか言われるかと思ったから余計驚いちゃったよ。」
「なっ、失礼ですね!」

む、確かにそうだ。

「ごめん、少し配慮にかけてたね。」
「あ、いや、そんなかしこまられても・・・」

たじろぐヒルダ。こういうところに人の良さ出てるよなあ。

「そ、そうです!シルヴァはどうなのですか?」
「どうって何が?」
「年齢です!あなたが話すことと言えば薬についてのことばかりじゃないですか。少しくらい、あなたのことについて教えてください。」

ふむ。そういえば『ナンバーズ』だの番外試薬だのについては話してたけど、僕自身のことを話したことはなかったかもしれない。

「そう・・・だね。うん、わかった。全部話すと長くなるから、詳しいことはこれから少しずつ、になるけど。」
「ええ。構いません。」

少し緊張した面持ちのヒルダ。そんなに大層な話はしないよ?

「まず年齢だけど・・・今年で21歳になるね。まだ誕生日来てないけど。」
「・・・シルヴァ、年上だったんですか。なんというか、あまりそんな感じしませんね。」

まあ日常はゆるーくやってるからね。それは単純に僕の性格だけど。

「僕もヒルダが年下だとは思わなかったよ。・・・あ、でも素が出てる時は年相応かな?」

むしろより幼くすら見える。

「私のことは良いんですっ!」
「あはは、からかってるわけじゃないって。・・・で、あと他の基本的な事だけど。僕の『フォーリス』という家名は産まれた時からのものじゃない。師匠から貰ったものなんだ。」
「師匠、ですか?」

まあ、僕が勝手に呼んでるだけなんだけど。

「そう。家名もそうだし、僕の薬の名前とかは師匠から教えて貰った話が元になってる物が結構あるんだよ。」

神殺権とか鬼殺権とかね。

「まあ、その師匠にも『私にはお前を強くすることは出来ない』って言われちゃったし、仕方ないから旅に出ることにしたんだよ。その頃にもいくつかのナンバーズはできてたし。」
「え、師匠って薬学の師匠じゃないのですか?」

あ、確かにそっちだと思うか。

「違う違う。師匠は武術・・・っていうか戦闘の師匠だよ。力を制するにはやっぱり技術かなって思ったから、最初はそっち方面を鍛えてたんだよ。全く身にならなかったけど。」
「・・・ん?ではシルヴァは特に武術が完成したわけでもない状態で旅を始めたのですか?」
「まあ、そうなるね。」
「危険すぎる、と思うのですが・・・」

そうだね。僕もそう思います。

「あの時は意地になってたからなぁ。師匠はここに居ても良いって言ってくれてたけど、いつまでも師匠の庇護下にあるのは嫌だったし。」

とはいえ、冷静に考えると。

「今思えば、擬似悪魔化も完成してなければ五感の訓練も終わってなかった段階で旅に出たのは控えめに言って無謀だったなぁ。よく生きてたよ、我ながら。」

本当にささやかな効果しか持たないナンバーズと番外試薬だけで無茶をしたものだ。

「まあ、そんな感じで旅に出たあとは色々な所に行ったんだ。機械を求めて巧人種ドワーフの技術大国にいったり、僕でも使える魔道具を探して賢人種ウィザードの里に行ったり・・・ほんとに色んなところに行ったよ。歩いて。」

転移が使えないからね。
とはいえ、転移が苦手な人も一定数いるから陸路の交通手段も結構確立されてたから、移動自体はそこまで大変ではなかったけど。

「でも、旅をしていた関係上、あまり友達とかは出来なくてね。顔見知りは多いけど・・・」
「え、そうなのですか?なんというか、シルヴァは色々な言語が話せると言っていたので友人も多いのかと思っていました。」

ふむ、そう言われると・・・

「うーん、改めて考えるとどうなんだろ。それなりに仲良くなった人もいると言えばいるけど、それを友達と言っていいものか・・・」
「・・・意外とそういうの気にするんですね。」

あ、なんかそこはかとなく呆れられた気がする。

「ぼ、僕の友達の話はいいんだよ。まあ、だいたい基本的なところはこんな感じかな。」

あと語ることと言えば旅の内容とかだけど・・・

「旅については、おいおいね。話が長くなりすぎちゃうし。」
「わかりました。少しは、あなたの事を知れた気がします。」

それは良かった。

「じゃあ、今日はもう寝よう。昨日はキャンプも張らないで野宿だったし、まだヒルダも万全じゃないはずだからね。」

ヒルダは鬼神種なので、万全の状態だったら僕とは比べ物にならないくらい連続で活動できるけど・・・
『神成り』の影響で、まだ体に疲れが残っているはずだ。
その疲れを癒すには、しっかり食べてゆっくり寝るのが1番だ。

食べるのはもう十分だろうから、あとは寝るだけなんだけど・・・

ヒルダは相変わらず、部屋の隅から動こうとしない。

「・・・仕方ないなぁ。」

僕はベッドから立ち上がると、ヒルダに近づく。
ビクッ!っとあからさまに肩を震わせるヒルダ。
僕はそのヒルダの手を握ると、ベッドに向かって引っ張る。

「ちょ、ちょっとシルヴァ!?」

狼狽するヒルダだけど、抵抗はしてない。彼女が本気で嫌がってたら僕がどんなに全力を出しても微動だにしないだろうからね。
 
「ほいっ」

そのままヒルダと一緒にベッドに倒れ込む。うーん、やはり柔らかいベッドはいい。

僕はそのまま、ガチガチに固まっているヒルダに笑いかける。

「とりあえず、今日は寝よう。色々考えることも、話すこともあるけど・・・時間は、沢山あるんだ。」

ヒルダのサラサラの髪を撫でる。
彼女は一瞬だけ更に身を強ばらせたけど、すぐに体から力が抜けた。

昨日の様子から思ってはいたけど、ヒルダは触れ合いに飢えてるところがある気がする。
まあ、あの里でヒルダが甘えられるような相手はいなかったろうし、居たとしてもヒルダの立場があった。
普段のあの口調や態度は、そういった願望を押し殺すためのものなのかな。
彼女を撫でながら、そんなことを考える。

「大丈夫。だから、今日はもう寝よう。」
「・・・そう、だね。」

そう言ってヒルダは目を閉じる。
と、思ったらまた目を開けて僕を見る。

「・・・ねえ、シルヴァ。」
「ん、どうしたの?」

ヒルダはすこし遠慮した様子を見せていたが、意を決して口を開く。

「その・・・抱きしめて、欲しい、な・・・」

ヒルダは真っ赤になって小さくそう言う。
お易い御用だ。なんならこっちからお願いしたいまである。

僕は寝転がったままのヒルダの体に腕を回す。うわっ、柔らかい・・・
変なとこ触らないようにしないと。興味がないと言えば嘘になるけど、今日のところはヒルダに休んで貰うのが目的だし。

僕は内心の緊張をおくびにも出さず・・・正確には出さないよう気をつけながら彼女を腕に抱く。

「ん・・・」

ヒルダは最初こそ体に力が入っていたが、小さく声をあげたかと思うと全身の力を抜きリラックスする。

「ありがとう、シルヴァ・・・」
「うん。おやすみ、ヒルダ。」

程なくして、穏やかな寝息がヒルダから聞こえてくる。
その姿に、僕も凄まじい眠気に襲われる。

ああ、そういえば僕、昨日徹夜だったなぁ・・・

今更ながらにそんなことを思い出し。
僕もまた、眠りに落ちていった。
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