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第二章
未知は最高のエッセンス。なお安全が保証されている場合に限る
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・・・恋愛物語、というのは初めて見たけれど。
「すっっっっごく、良かったですね!!」
「うん、そうだね!演劇っていうか、物語ってものがあんなに面白い物だとは思ってなかったよ!」
控えめにいって、すごく楽しかった。
細かい部分はよくわからなくもあったけど、役者さんの演技と壮大な音楽で無条件に感動してしまった。
「え、えっと、二人とも?・・・ほ、本当に今まで物語に触れてきてなかった、みたい、だね。」
「恥ずかしながらね。」
っと、確かに周りを見ても僕達ほど興奮してる人はいない・・・けど、知らん!
周りに遠慮してこの感情を押さえつけるようなもったいないことはできないね!
「ミレイユも演劇は初めてだったんでしょ?どうだった?」
「そ、それは・・・その、すごく、感動した、よ?」
その言葉に嘘は無さそうだけど、僕達ほど興奮してもいないようだ。
「・・・えっと、演劇は初めてだったけど、あのお話は知ってた、から。」
「あ、そうなんだ。有名なお話なの?」
たしかタイトルは・・・
「『灰の祈り』、だったよね。」
「う、うん。もとは有名な童話で、原題は『命無き者達への哀歌』、っていうお話。」
お、おお、随分と変わってるんだなぁ。
「わ、わたしが初めて読んだお話で、物によって結末が違うの。こ、この劇で使われていたのはそのなかでも一番のハッピーエンドっていわれてるストーリー、だと、思う。」
「へぇー、そうなんだ!詳しいね、ミレイユ。」
「えへへ・・・このお話、大好きなの。」
そう言って照れたように笑うミレイユ。
よしよし、随分リラックスしてきたみたいだ。
今回僕達が見た演劇は、先ほど言った通り『灰の祈り』というタイトルの恋愛物語だった。
簡単にまとめると、見たものを灰に変えてしまう目を持った少女と世捨て人の男が出会い、恋をする、という感じだ。
大分思いきってまとめたけど。
「少女の、『私が見ることができるのは夜の星だけ。あなたの顔も、その目の色も、私は永遠に知ることはできない。』というセリフはとてもこう、なんというか、胸に来るものがありました。」
「あー、わかる、わかるよヒルダ。ちょっと僕の語彙じゃあうまく言い表せないんだけどすごい良かったよね!」
「そうです、良かったです!」
どんな言葉がこの感情に相応しいのかわからないので、とりあえず良かった、という感想に帰結する。
語彙力には多少自信があったんだけど、残念ながら全然だったみたいだ。本当に一個も良い感じの言葉が出てこないんだよね。
「最後には少女の目も普通になって、男の顔を見ることができて・・・文句無しのハッピーエンドでしたね。」
「うんうん、そうだね。なんかもう、あの最後のシーンを見ちゃったら細かい理由とかどうでも良くなっちゃったよ。」
少し急展開すぎる気もしたけど、そこを突っ込むのは野暮が過ぎるってものだろう。
「こうなると元になった話も知りたくなってきたなぁ。・・・後回しにし続けてきたけど、そろそろ文字を勉強しよう。」
「文字、ですか・・・私はそもそも今まで余り文字を使ってこなかったので、難しそうです。」
あ、そうなんだ。
まあ多分文字そのものは存在していたんだろうけど、文書を作る文化がなかったのかもしれない。
「本とか読めると知識習得の効率も上がるし、いくつかの魔法や呪法は契約書を媒介にすることもあるから知っとかないと危ないかもね。」
「ああ、確かに母から聞いたことがあります。これからはずっと里にいるわけではないのですし、私も勉強します!」
その僕達の様子に、ミレイユが小首を傾げる。
「え、えっと・・・二人は、この辺りの人じゃない、の?」
「あー・・・」
そういえば、ミレイユに僕達のことについてはあまり話していなかったっけ。
「うん、僕達はだいぶ遠くからここに来たんだ。ちょっとした事故で転移しちゃってさ、この辺りのことについては全然詳しくないんだよね。」
経緯を全部離すとかなり長くなるのでざっくりと。
詳しいことはまあ、いずれね。
「転移、かぁ・・・わたし、やったことないからよくわからない、けど・・・そんな遠くに行けるって、すごいなぁ。」
確かに転移はすごいものだよね。もう一回やりたいかって言われたら全くそんなことはないけど。
「一度経験してみても良いかもね。僕はついていけないけど、使えるのと使えないのじゃ大違いだろうし。」
少なくとも、任意改変クラスの権能がないと僕が転移することはできないし。
そんな感じになんでもないことのように言った僕に、しかしミレイユは不思議そうな顔をする。
「ど、どうしてシルヴァは使えない、の?」
「あー・・・そういえば、言ってなかったね。僕、上位元素の適性が全く無いんだ。」
「そ、そうなんだ。・・・えっと、それと転移できないことに、どういう関係があるの?」
ふむ。上位元素の適性が全く無い、ということに対する反応が思いの外薄い。この近辺に詳しくない僕が言うのもなんだけど、やはりミレイユは常識・・・もっというなら、誰もが知っているような、あるいは意識すらしていない当たり前の知識が欠如しているようだ。
どんな環境で育ってきたのかは知らないけど・・・やっぱり、ろくな環境じゃないことだけはたしか、なのかな。
とはいえ、その辺は考えても仕方ない。
どうせ精霊種の里に乗り込む予定だったんだし、その時に色々わかるんじゃないかな。
我ながらだいぶざっくりとした予測だけど、もし全然違ったらその時に考えれば良い。
「転移の仕組みは僕もよく知らないから、ちゃんとした説明はできないんだけど・・・簡単に言うと、僕の体自体が、上位元素による直接的な干渉を受けないんだよ。いや、受けられないって言った方がいいかな。」
適性が全く無いっていうのは、使えないって意味じゃない。
「だから転移に限らず、直接的に体に作用するもの・・・例えば、回復魔法や法術も効果がないし、翻訳魔法とかも使えないんだよね。まあでも、悪いことばかりじゃないよ?精神干渉みたいな攻撃とかも効かないからね。」
呪力による弱体も直接的には効かない。ただまあ、攻撃魔法とかは基本的に間接的な攻撃だから普通にくらっちゃうんだけど。
あと弱体も、一定範囲の重力を増加するような呪法を受けると僕自身はともかく身に付けている物が重くなって結果的に行動が阻害されたりはする。
「とまあ、そういう感じで僕は転移ができないんだよ。」
「そ、そうなんだ。・・・よく、わかってない、けど。」
「あはは、まあ気にしなくても問題ないよ。少なくとも、僕はこれまで生きてきて上位元素の適性が無い人なんて他に見たこと無いからそうそう役に立たない知識だし。」
例外とかそういうレベルじゃない。
「あ、でもそういえば一つ気になってたんだけどさ。ミレイユが言ってた魂の色?ってのはどういうことなの?」
さっきミレイユに説明した通り、僕は上位元素の影響を受けない・・・正確に言えば、異能や権能も含めた超常的な事象に干渉できない。
霊視ができなかったことからも、観測自体できないものだと思ってたんだけど・・・
「今まで精霊種の知り合いとかいなかったからよくわからないんだけど、魂って上位元素とかが関わるものじゃないの?」
「わ、わたしも詳しくは知らない、けど・・・その、なんとなく見えるの。その人をじっと見ると、まわりにぼや~って。」
ふむ・・・精霊種は精神が実態を持った特殊な生命体だし、僕達の理屈や法則が通用しない部分もあるのかもしれない。
少なくとも、精霊種について書いてある文献には魂の色、何てものは存在すら記述されていなかった。
ていうか、そもそも魂というものが解釈の余地がありすぎる。
「恐らく、私が上位元素を視認する時と同じようなものなのだと思いますが・・・」
「僕のも見えてるってことは上位元素に関わるものでは無いんだろうね。ま、考えてもわからないだろうしいいか。いずれ機会があったら検証しよう。」
ヒルダにもわからないんならもうしょうがないよね。
「とりあえず、お腹空いたし何か食べようか。」
こんなところで立ち話もなんだし。
「せっかくだし、屋台じゃなくて落ち着いたお店にしよ・・・」
そう二人に言おうとした瞬間。
ーーじわり。
そうとしか言い表せないような感覚で、僕の真後ろに突然温度が現れた。
「っ、ミレイユ、ちょっとごめんね・・・!」
「ふぇ・・・!?」
僕はその温度を感じた瞬間、ミレイユを抱えあげて距離を取る。驚かせてしまったみたいだけど、勘弁してほしい。
「なっ・・・」
僕の突然の行動にヒルダも一瞬固まったけど、すぐに我に返りミレイユを守るような位置に動く。
「ふ、二人ともどうしたの・・・?」
「ミレイユ、さっきまで僕達が居た場所の後ろを見てみて。」
「え・・・」
僕の言葉に従って視線を動かすミレイユ。
「な、なに、あのモヤモヤ・・・?」
その視線の先には、絶えず色が変化していく煙のようなものがある。
「僕も初めて見るけど、あれは恐らく次元異相の権能・・・で、ずらした存在次元を元に戻してる状態だと思うよ。」
次元をずらすのは時間がかかることは知っていたけど、あんな感じになるんだなぁ。
ゆっくりと現れていく過程で、少しずつこちらに干渉できるようになっていくらしい。
だからさっきは体温を突然、まるで染み出るように感じたんだろう。
温度は最も隠蔽が難しい情報の一つだから、体温くらいなら感知できるよう鍛えている。たとそれが少しずつであっても、突然虚空から温度が現れれば僕は気付けるのだ。
・・・精霊種の体温は代謝からくるものじゃないから、少し感じるのは難しかったけど。
「にしても、まさかこんなところで仕掛けてくるとはなぁ。」
「し、シルヴァ、ヒルダ、逃げないと!」
焦った表情で僕達を引っ張るミレイユ。どうにも心当たりがあるらしい。
しかし、今まで尻尾を掴ませなかった相手が堂々と目の前にやってきたのだ。これはチャンスだろう。
・・・まあ、隠れる必要が無くなったのだとしたら、結構タイムリミットが近いのかもしれないけど。
「大丈夫、僕とヒルダなら大抵のことには対応できる。」
「ええ、そうですね。この機会を逃す手はありません」
僕の言葉に頷くヒルダ。うん、頼もしい。
そうこうしている間にも、煙は徐々に形を変えて人のような形になった。
「・・・一人ってことは、権能持ち本人か。」
となれば、この相手を捕まえられれば大きく前進することになる。
そして、ついに煙の中から相手が姿をあらわす。
「やっぱり、精霊種か。」
緑色の髪を短く切り揃えた、男のような姿をしている。見た目は細いけど、精霊種だしそれは戦闘力とは関係ないだろう。
「ヒルダ、彼の適性わかる?」
「魔力及び呪力ですね。特に、魔力は凄まじいものがあります。恐らく、私と同等以上かと。」
「へぇ、さすが権能持ち・・・ってところかな。」
その程度は想定内だ。この前の鬼神もそうだったけど、権能持ちは総じて素の能力が高い。
「ヒルダ、ミレイユをお願い。」
「わかりました。・・・くれぐれも、気をつけて。」
「うん、もちろん。」
僕は、無言でこちらを見つめるその精霊種に近づく。
周りが不自然なほどこちらを気にしていないのは、恐らく相手の魔法か呪法だろう。
さて、交渉、となるかはわからないけど。
少し、会話といこう。少なくとも、向こうにはその気があるみたいだし、ね。
「すっっっっごく、良かったですね!!」
「うん、そうだね!演劇っていうか、物語ってものがあんなに面白い物だとは思ってなかったよ!」
控えめにいって、すごく楽しかった。
細かい部分はよくわからなくもあったけど、役者さんの演技と壮大な音楽で無条件に感動してしまった。
「え、えっと、二人とも?・・・ほ、本当に今まで物語に触れてきてなかった、みたい、だね。」
「恥ずかしながらね。」
っと、確かに周りを見ても僕達ほど興奮してる人はいない・・・けど、知らん!
周りに遠慮してこの感情を押さえつけるようなもったいないことはできないね!
「ミレイユも演劇は初めてだったんでしょ?どうだった?」
「そ、それは・・・その、すごく、感動した、よ?」
その言葉に嘘は無さそうだけど、僕達ほど興奮してもいないようだ。
「・・・えっと、演劇は初めてだったけど、あのお話は知ってた、から。」
「あ、そうなんだ。有名なお話なの?」
たしかタイトルは・・・
「『灰の祈り』、だったよね。」
「う、うん。もとは有名な童話で、原題は『命無き者達への哀歌』、っていうお話。」
お、おお、随分と変わってるんだなぁ。
「わ、わたしが初めて読んだお話で、物によって結末が違うの。こ、この劇で使われていたのはそのなかでも一番のハッピーエンドっていわれてるストーリー、だと、思う。」
「へぇー、そうなんだ!詳しいね、ミレイユ。」
「えへへ・・・このお話、大好きなの。」
そう言って照れたように笑うミレイユ。
よしよし、随分リラックスしてきたみたいだ。
今回僕達が見た演劇は、先ほど言った通り『灰の祈り』というタイトルの恋愛物語だった。
簡単にまとめると、見たものを灰に変えてしまう目を持った少女と世捨て人の男が出会い、恋をする、という感じだ。
大分思いきってまとめたけど。
「少女の、『私が見ることができるのは夜の星だけ。あなたの顔も、その目の色も、私は永遠に知ることはできない。』というセリフはとてもこう、なんというか、胸に来るものがありました。」
「あー、わかる、わかるよヒルダ。ちょっと僕の語彙じゃあうまく言い表せないんだけどすごい良かったよね!」
「そうです、良かったです!」
どんな言葉がこの感情に相応しいのかわからないので、とりあえず良かった、という感想に帰結する。
語彙力には多少自信があったんだけど、残念ながら全然だったみたいだ。本当に一個も良い感じの言葉が出てこないんだよね。
「最後には少女の目も普通になって、男の顔を見ることができて・・・文句無しのハッピーエンドでしたね。」
「うんうん、そうだね。なんかもう、あの最後のシーンを見ちゃったら細かい理由とかどうでも良くなっちゃったよ。」
少し急展開すぎる気もしたけど、そこを突っ込むのは野暮が過ぎるってものだろう。
「こうなると元になった話も知りたくなってきたなぁ。・・・後回しにし続けてきたけど、そろそろ文字を勉強しよう。」
「文字、ですか・・・私はそもそも今まで余り文字を使ってこなかったので、難しそうです。」
あ、そうなんだ。
まあ多分文字そのものは存在していたんだろうけど、文書を作る文化がなかったのかもしれない。
「本とか読めると知識習得の効率も上がるし、いくつかの魔法や呪法は契約書を媒介にすることもあるから知っとかないと危ないかもね。」
「ああ、確かに母から聞いたことがあります。これからはずっと里にいるわけではないのですし、私も勉強します!」
その僕達の様子に、ミレイユが小首を傾げる。
「え、えっと・・・二人は、この辺りの人じゃない、の?」
「あー・・・」
そういえば、ミレイユに僕達のことについてはあまり話していなかったっけ。
「うん、僕達はだいぶ遠くからここに来たんだ。ちょっとした事故で転移しちゃってさ、この辺りのことについては全然詳しくないんだよね。」
経緯を全部離すとかなり長くなるのでざっくりと。
詳しいことはまあ、いずれね。
「転移、かぁ・・・わたし、やったことないからよくわからない、けど・・・そんな遠くに行けるって、すごいなぁ。」
確かに転移はすごいものだよね。もう一回やりたいかって言われたら全くそんなことはないけど。
「一度経験してみても良いかもね。僕はついていけないけど、使えるのと使えないのじゃ大違いだろうし。」
少なくとも、任意改変クラスの権能がないと僕が転移することはできないし。
そんな感じになんでもないことのように言った僕に、しかしミレイユは不思議そうな顔をする。
「ど、どうしてシルヴァは使えない、の?」
「あー・・・そういえば、言ってなかったね。僕、上位元素の適性が全く無いんだ。」
「そ、そうなんだ。・・・えっと、それと転移できないことに、どういう関係があるの?」
ふむ。上位元素の適性が全く無い、ということに対する反応が思いの外薄い。この近辺に詳しくない僕が言うのもなんだけど、やはりミレイユは常識・・・もっというなら、誰もが知っているような、あるいは意識すらしていない当たり前の知識が欠如しているようだ。
どんな環境で育ってきたのかは知らないけど・・・やっぱり、ろくな環境じゃないことだけはたしか、なのかな。
とはいえ、その辺は考えても仕方ない。
どうせ精霊種の里に乗り込む予定だったんだし、その時に色々わかるんじゃないかな。
我ながらだいぶざっくりとした予測だけど、もし全然違ったらその時に考えれば良い。
「転移の仕組みは僕もよく知らないから、ちゃんとした説明はできないんだけど・・・簡単に言うと、僕の体自体が、上位元素による直接的な干渉を受けないんだよ。いや、受けられないって言った方がいいかな。」
適性が全く無いっていうのは、使えないって意味じゃない。
「だから転移に限らず、直接的に体に作用するもの・・・例えば、回復魔法や法術も効果がないし、翻訳魔法とかも使えないんだよね。まあでも、悪いことばかりじゃないよ?精神干渉みたいな攻撃とかも効かないからね。」
呪力による弱体も直接的には効かない。ただまあ、攻撃魔法とかは基本的に間接的な攻撃だから普通にくらっちゃうんだけど。
あと弱体も、一定範囲の重力を増加するような呪法を受けると僕自身はともかく身に付けている物が重くなって結果的に行動が阻害されたりはする。
「とまあ、そういう感じで僕は転移ができないんだよ。」
「そ、そうなんだ。・・・よく、わかってない、けど。」
「あはは、まあ気にしなくても問題ないよ。少なくとも、僕はこれまで生きてきて上位元素の適性が無い人なんて他に見たこと無いからそうそう役に立たない知識だし。」
例外とかそういうレベルじゃない。
「あ、でもそういえば一つ気になってたんだけどさ。ミレイユが言ってた魂の色?ってのはどういうことなの?」
さっきミレイユに説明した通り、僕は上位元素の影響を受けない・・・正確に言えば、異能や権能も含めた超常的な事象に干渉できない。
霊視ができなかったことからも、観測自体できないものだと思ってたんだけど・・・
「今まで精霊種の知り合いとかいなかったからよくわからないんだけど、魂って上位元素とかが関わるものじゃないの?」
「わ、わたしも詳しくは知らない、けど・・・その、なんとなく見えるの。その人をじっと見ると、まわりにぼや~って。」
ふむ・・・精霊種は精神が実態を持った特殊な生命体だし、僕達の理屈や法則が通用しない部分もあるのかもしれない。
少なくとも、精霊種について書いてある文献には魂の色、何てものは存在すら記述されていなかった。
ていうか、そもそも魂というものが解釈の余地がありすぎる。
「恐らく、私が上位元素を視認する時と同じようなものなのだと思いますが・・・」
「僕のも見えてるってことは上位元素に関わるものでは無いんだろうね。ま、考えてもわからないだろうしいいか。いずれ機会があったら検証しよう。」
ヒルダにもわからないんならもうしょうがないよね。
「とりあえず、お腹空いたし何か食べようか。」
こんなところで立ち話もなんだし。
「せっかくだし、屋台じゃなくて落ち着いたお店にしよ・・・」
そう二人に言おうとした瞬間。
ーーじわり。
そうとしか言い表せないような感覚で、僕の真後ろに突然温度が現れた。
「っ、ミレイユ、ちょっとごめんね・・・!」
「ふぇ・・・!?」
僕はその温度を感じた瞬間、ミレイユを抱えあげて距離を取る。驚かせてしまったみたいだけど、勘弁してほしい。
「なっ・・・」
僕の突然の行動にヒルダも一瞬固まったけど、すぐに我に返りミレイユを守るような位置に動く。
「ふ、二人ともどうしたの・・・?」
「ミレイユ、さっきまで僕達が居た場所の後ろを見てみて。」
「え・・・」
僕の言葉に従って視線を動かすミレイユ。
「な、なに、あのモヤモヤ・・・?」
その視線の先には、絶えず色が変化していく煙のようなものがある。
「僕も初めて見るけど、あれは恐らく次元異相の権能・・・で、ずらした存在次元を元に戻してる状態だと思うよ。」
次元をずらすのは時間がかかることは知っていたけど、あんな感じになるんだなぁ。
ゆっくりと現れていく過程で、少しずつこちらに干渉できるようになっていくらしい。
だからさっきは体温を突然、まるで染み出るように感じたんだろう。
温度は最も隠蔽が難しい情報の一つだから、体温くらいなら感知できるよう鍛えている。たとそれが少しずつであっても、突然虚空から温度が現れれば僕は気付けるのだ。
・・・精霊種の体温は代謝からくるものじゃないから、少し感じるのは難しかったけど。
「にしても、まさかこんなところで仕掛けてくるとはなぁ。」
「し、シルヴァ、ヒルダ、逃げないと!」
焦った表情で僕達を引っ張るミレイユ。どうにも心当たりがあるらしい。
しかし、今まで尻尾を掴ませなかった相手が堂々と目の前にやってきたのだ。これはチャンスだろう。
・・・まあ、隠れる必要が無くなったのだとしたら、結構タイムリミットが近いのかもしれないけど。
「大丈夫、僕とヒルダなら大抵のことには対応できる。」
「ええ、そうですね。この機会を逃す手はありません」
僕の言葉に頷くヒルダ。うん、頼もしい。
そうこうしている間にも、煙は徐々に形を変えて人のような形になった。
「・・・一人ってことは、権能持ち本人か。」
となれば、この相手を捕まえられれば大きく前進することになる。
そして、ついに煙の中から相手が姿をあらわす。
「やっぱり、精霊種か。」
緑色の髪を短く切り揃えた、男のような姿をしている。見た目は細いけど、精霊種だしそれは戦闘力とは関係ないだろう。
「ヒルダ、彼の適性わかる?」
「魔力及び呪力ですね。特に、魔力は凄まじいものがあります。恐らく、私と同等以上かと。」
「へぇ、さすが権能持ち・・・ってところかな。」
その程度は想定内だ。この前の鬼神もそうだったけど、権能持ちは総じて素の能力が高い。
「ヒルダ、ミレイユをお願い。」
「わかりました。・・・くれぐれも、気をつけて。」
「うん、もちろん。」
僕は、無言でこちらを見つめるその精霊種に近づく。
周りが不自然なほどこちらを気にしていないのは、恐らく相手の魔法か呪法だろう。
さて、交渉、となるかはわからないけど。
少し、会話といこう。少なくとも、向こうにはその気があるみたいだし、ね。
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