弱小種族による、危険な世界の歩き方。

ハイイロカラス

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第二章

双雄

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陽もすっかり落ちた夜の駐留軍詰所、その執務室。
そこでは、獅子人の男が紅茶を片手に書類を片付けていた。

駐留軍重装歩兵隊隊長、レオニール。

その役職とはまた別に、彼は駐留軍の書類仕事を統括する立場にもあった。

目の前にうずたかく積まれた様々な書類を見て、彼は1人苦笑する。

と、その時。執務室の扉がノックもなく開かれる。
そこから現れたのは、大柄な虎人の男。  

駐留軍軽装歩兵隊隊長、グイーラ。

軍や街の中では突撃隊長の名でも親しまれている、この駐留軍の最高責任者の1人である。

「・・・すまない、レオ。細かい仕事を、全て任せ切りにしてしまっている。」
「ふっ、気にするな。適材適所・・・とはなかなか行かないのが組織の長の常。なればこそ、それができるのならばするべきだろう。」

仏頂面のグイーラに、レオニールは小さく笑う。

「しかし、そろそろお前は秘書の一人でも付けたらどうだ?毎度毎度私のところに来るのも面倒だろう。」
「・・・仕事を増やして心苦しくはある。」 
「別に嫌味を言っている訳じゃないさ。ただ、私もあまり手が回らなくなってきたのでな。」
「例の件か。・・・解決の目処は立ったか?俺の隊でも独自に調査を続けさせてはいるが目立った成果は出せていない。こうなると、お前に頼らざるを得ない。」

グイーラは慣れた足取りでソファに座りながら、レオニールに視線を向ける。

「奴らの本拠地は、見つかっていないか?」
「残念だが、私の方でも全て空振りだ。本国の方にも応援を頼んだが・・・まあ、期待は出来ないな。向こうも向こうで、少し問題が起きているらしい。」
「間が悪いな・・・」

ため息混じりに呟くグイーラ。
難しい顔をしている友人に、レオニールはしかし小さく笑みを見せる。

「だが、それも今朝までの話だ。」
「なに・・・?」

レオニールは机の端に置いてあった1枚の紙を手渡す。

「これは・・・手紙、のようだが。ろくに読めんぞ?」
「ああ、確かにな。文字は汚く、文章も拙い。辛うじて読めるのは店の名前と時間くらいだ。」
「差出人の名前も無い。これが、一体なんの役に・・・」
「いや、その手紙の主は分かっている。シルヴァ・フォーリス。例の薬師の青年だ。」

レオニールの口から出た名前に、グイーラは瞠目する。

「あの男か・・・。レオとも面識が会ったのか?」
「まあ、奇縁があってな。というより、お前が直接闘ったから出来た縁か。」
「俺の部下が、世話を掛けたな。・・・それで、何か見えた・・・のか?」

グイーラの言葉に、レオニールは首を縦に振る。

「この手紙自体に新しい情報は何も無い。さっきも言ったが、まず読めん。が・・・それでも、この手紙は値千金の情報源だ。」

そう言って、レオニールは机の上に大きな水晶玉を置く。

「少なくとも、これを用意する程度にはな。」
「それは霊視水晶・・・しかも、オリジナルか?」
「手続きは面倒だったが、なんとか申請が通った。私の人望の賜物だな。」

レオニールの言葉に、グイーラは真面目な顔で頷く。

「ああ、流石だな、レオ。」
「・・・冗談のつもりだったのだがな。まあ、いずれにしろこの手紙はそれだけの因果を持っている。優先順位はかなり高いな。そこでギル、明日お前に私の部隊を任せたい。」

突然の依頼。しかし、グイーラはそれに迷いなく答える。

「任せておけ。お前の部隊の者達は命令に忠実な優秀な者ばかりだ、大して負担にはならん。」
「ギルの部下も忠誠心は素晴らしいじゃないか」
「・・・それは嫌味だな?流石に俺でもわかる。」

先にも増して仏頂面になる友人に、レオニールは可笑しそうに笑う。

「すまんすまん。」
「まったく・・・それにしても、あの男は一体何者なのだ?戦闘能力もそうだが、旅の者が数日で精霊種の情報を得るなど・・・」
「いや、恐らくだが彼自身はまだなんの情報も得ていないな。ここまでの流れもほとんどが偶然だろう。まあ、直接的にはなんの因果も見られないからなんとも言えんがな。」

レオニールは小さくため息をつく。

「上位元素の適性を全く持たない人種か。身につけているものなどから、多少は事象を読み取れたが・・・彼自身からは、なんの情報も得られなかった。」
「レオの『断片フラグメント』でも、か。」
「ああ。この手紙からも彼の因果は感じられん。だが、それ以外の情報なら多少は得られた。それ以上のことは・・・霊視の結果次第だな。」

レオニールはそう言って立ち上がると、グイーラの前に霊視水晶を置く。

「ギルはオリジナルの霊視水晶についてどれくらい知っている?」
「いや、正直に言って何も知らん。」
「まあ使わんしな。オリジナルの霊視水晶は、文字によるものだけでなく映像による情報も得られる。それに、本人の記憶にないことであっても関わってさえいればある程度は知ることができる、という優れものだ。」

言いながら、レオニールはグイーラの目の前で霊視水晶を起動する。
すると、水晶が虚空に映像を投影した。

「これは・・・私たちが初めて出会った時の記録か。ほほう、やはりギルが若いな。」
「・・・まあ、子供の頃だしな。若いと言うより、幼いだろう。」
「私の中でもかなり曖昧な記憶を投影してみたが・・・なるほど、こうもはっきりと映るか。」

レオニールは感心したように唸る。

「ただ、かなり魔力が吸われるな。ギル、お前は使うなよ?卒倒するぞ。」
「言われずとも試さん。大切なことなら自分で覚えている。」

グイーラの言葉に、レオニールは違いない、と笑う。

「そういえば、ギルは何か用事があったのでは無いか?」
「む・・・いや、別に用事は特に無いな。お前の顔を見に来ただけだ。」
「ふっ、そうか。まあ、任された仕事もちゃんとやっておくから心配するな。」
「頼む。・・・終わったらまた、酒でも飲もう。もう長いこと、宴会もしていなくて部下たちも寂しがっている。」

言いながら、グイーラは立ち上がる。

「では、邪魔したな。部隊の件、承知した。」
「ああ、任せた。・・・近いうちにギルの部隊にも出てもらうことになるかもしれん。精霊種の対策についてもまた資料を用意する。」

レオニールも霊視水晶を片付けて席に戻る。

「これで解決出来ればいいのだが、な。さて、仕事を再開するか。」
「・・・ちゃんと家にも帰れよ。娘に顔を忘れられても知らんからな。」

呆れた表情のグイーラに、レオニールはわかっていると言いたげに苦笑を返した。

そして、今度こそグイーラは部屋を立ち去る。



「・・・次帰る時は、何かプレゼントでも買っておくか。」

一人になった部屋で、レオニールは小さくそう呟くのであった。
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