弱小種族による、危険な世界の歩き方。

ハイイロカラス

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第二章

何事も、最初が一番大変

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やはり、気軽に肉が食べられないのは由々しき事態だ。この状況を改善するという意味でも、今回の事件を解決する意義がある。

そんなことを、目の前の料理を見ながらぼんやりと思った。
よく言えば素朴、悪く言えば・・・うん、やめておこう。

肉が少なくなり、相対的にそれ以外の食材の需要が高まり魚ですら品薄になってきている。ていうか、これ肉が主食の獣人とかかなり厳しい状況なのでは?

野菜や穀物だって元々安いわけじゃない。
それがさらに高騰しているのだから、状況は僕たちの認識以上に逼迫しているのかもしれない。

「二人とも、足りてる?ごめんね、大したものを用意できなくて・・・。」
「いえ、大丈夫ですよ。十分すぎる程です。」
「う、うん。おいしい、よ?」

僕の問いに、二人は当たり前のように頷いてくれる。

昨日は結局薬を作って一日が終わってしまった。そのせいで食材を揃えるのをすっかり忘れていた。

「ここまで食材が入手し難くなってるとは思わなかったよ。はやいとこどうにかしないとね。」
「ええ、そうですね。・・・そういえば、今日が素材を持っていく予定の日でしたね。霊視水晶の件ですが、どうしますか?」

うーん、そうだなぁ・・・

「とりあえずこの前集めた素材は納品しに行くよ。その時に、依頼主・・・レオニールさんに手紙か何かで状況を伝えるつもり。」
「読んで貰えるでしょうか・・・?」
「あの人なら、大丈夫だと思うよ。」

この状況で、僕からの情報を無視することはしないだろう。駐留軍が既に有力な情報を掴んでいたら分からないが、この数日でそこまでの進展はしないと思う。

「まあ、その辺は僕に任せて。助けが必要な時はちゃんと言うから。」
「ええ、お願いします。・・・それで、里に向かう時の話なのですが。」
「うん、どうかしたの?」

改まった表情でこちらを見るヒルダ。

「ミレイユは、一緒に行きたいそうです。」
「・・・そっか。うん、じゃあ、一緒に里に行こう。」

ヒルダの言葉に迷わず答える。

「ほ、ほんとに、いいの?わ、わたし、絶対に足手まといになる、よ?」

不安そうにそう言うミレイユの頭を、僕は笑ってなるべく優しく撫でる。

「気にしなくてもいい・・・って言っても難しいかな。」

ミレイユには、ちゃんと理由を話す事が大事だろう。

「実は、今回の件をどう解決するかはまだ決められてなくてね。っていうのも、精霊種もかなり大規模に行動を起こしているけど、まだ人的被害は出ていないんだ。」
「う、うん。」
「つまり、まだ説得による解決の可能性も残っているんだよ。」

これで負傷者や、死者が出ていれば問答無用で戦争だろう。シャクシャラも、容赦はしないはずだ。

「でも、説得するには相手が話を聞いてくれないとどうしようもない。僕一人で行った場合、結局強硬策になると思う。」
「そ、それは・・・」

ミレイユが困ったような表情でくちごもる。
強硬策。すなわち、力ずくで精霊種の企てを止める。
そうなった場合、僕に相手の無力化は出来ないから殺すことになる。
あるいは、シャクシャラの駐留軍に丸投げするかだけど、それでも精霊種の里は滅ぼされかねない。

「正直、僕はそれでも構わない。でも、ミレイユはどう?」
「ど、どう、って言われても・・・」

少々漠然としすぎている自覚はあるが、はっきり言うのもなぁ。

例えば、家族としての情から殺すことは避けたいという考えもあるだろう。
逆に、強い恨みがあるが故に他人に決着を委ねたくないこともあるかもしれない。

その辺りの感覚はミレイユ次第だけど、ここで僕が口をだしたらその意見に引っ張られてしまう可能性は高い。
だから、漠然とした聞き方にせざるを得ない。

「まあいずれにしろ、ミレイユが来てくれればそれだけ取れる選択肢が増えるってことだよ。選択肢が少ないと、不測の事態に対応しずらくなるからね。」
「そ、そうなんだ・・・」

とりあえず納得してくれたのかな?
これ以上のことは、最悪土壇場でも構わない。
決断を急がせる気は全く無い。

「というわけで、ミレイユがついて行きたいと言うのなら断る理由なんてないってこと。」
「う、うん。わ、わかった。」

頷くミレイユ。

さて、それじゃあお昼くらいになったら仲介所に行かないと。
その前に手紙を書かない・・・あ。

「文字・・・まだ覚えてなかった。」
「ああ、そういえばそうでしたね。誰かに代筆を頼みますか?」
「うーん、それでも良いけど、そうすると書けることが限られちゃうしなぁ。」

元々手紙の中にそこまで具体的な事を書く気はなかったけど・・・
流石にあまりに曖昧では、向こうとしても優先度を下げてしまうだろう。

レオニールさんに直接渡せるのなら、かなり直接的な事が書ける。そこは前もってある程度話しておいた利点かな。
完全にたまたまだけど。

「そうは言っても、今から文字を覚えるのは現実的ではないでしょう?私も、文字を翻訳するような魔法は知りませんし・・・」
「だよねぇ。まあ、他に手段もないし、仲介所のお姉さんにでも・・・」

と、そこで。
控えめに、服の袖が引かれる。
そちらに視線を向けると、いつの間にかミレイユが僕の隣に来ていた。

「ん、ミレイユ、どうしたの?」
「え、えっと・・・わ、わたし、文字、わかるよ?」
「そうなの!?ああ、いや、昔からこの辺りに住んでるなら当たり前なのかな?」
「そ、その、本をたくさん、読んでたから・・・」

ああ、そういえば演劇を見に行った時もそんなことを言っていたな。

「じゃあ、代筆お願いできる?なるべく簡潔な文にするからさ。」
「う、うん。できるだけ、頑張ってみる。」

正直、非常に助かる。
もちろん、ミレイユの書いた文章・・・というか文字そのものがレオニールさんにとって読めるものでは無いかもしれない、という懸念もある。だからといって書いた文章を誰かに確認してもらうのでは本末転倒だ。

幸い、数字は覚えているし、例の店の名前であれば僕でも書ける。

最悪、そこさえわかればなんとかなる、はず。

「よし、それじゃご飯を食べ終わったら早速書こうか。」

僕は手早く食事を済ませる。・・・というか、少ないからゆっくり食べていただけで、普通に食べたらすぐ無くなるんだけど。

僕はミレイユにゆっくり食べていいと告げてから席を立ち、自分は紙と書くものを用意する。
薬包紙などを買う関係上、紙の目利きにはそれなりに自信がある。・・・まあ、シャクシャラには紙を作る魔導遺産でもあるのか、全体的に質が良くて安いからあんまり関係なかったけど。

さて、肝心の文章だけど・・・
なるべく、簡単なやつにしないと。あ、あと固有名詞もなるべく避けないと。ミレイユがそこまで対応できるとも限らないし。

そこを意識して、文面を考える。

「え、えっと・・・シルヴァ、わたしは、準備できた、よ?」

ミレイユが僕の隣に来る。
いつものように少しおどおどしているけど、役に立てる事が嬉しいのかこころなしか表情が明るい。

「よし、まあとりあえず書いてみようか。幸い、紙は沢山あるし。あ、でもちょっとこの部屋暗いかな。えーと、ランタンはこの前買ったはず・・・」

そう言って立ち上がろうとする僕を、ヒルダが制する。

「シルヴァ、ちょっと待って貰えますか?」
「ん、どうしたの、ヒルダ?」

食器を片付けてくれていたヒルダは、1度手を止める。そして、壁に立て掛けられていたデュランダル・レプリカをミレイユに手渡した。

「ほら、ミレイユ。いい機会ですから、練習の成果を見せてあげましょう?」
「え、ええ!?そ、そんないきなり・・・」
「大丈夫、自信を持ってください。」

慌てるミレイユに、ヒルダが優しく微笑みかける。

ふむ・・・?
ヒルダの言葉から察するに、もしや・・・

「ミレイユ、魔法が使えるようになったの?」
「そ、その・・・ひ、一つだけ。」
「へえ、凄いね!たった1日で出来るようになるなんて。」

僕には魔法のことはよくわからないけど、それでも今まで出来なかった事が出来るようになるのは凄いことだ。

「え、えへへ・・・じゃ、じゃあ、やってみる、ね?」

ミレイユはデュランダル・レプリカを構えて、真剣な表情を浮かべる。
そして、呼吸を整えると。

「・・・『ホワイトダスト』」

緊張気味の声で、しかししっかりとそう呟く。
すると、次の瞬間。ミレイユの周りに、まるで雪のようにふわふわと光が浮いた。
一つ一つの光量は控えめだが、数が多く広範囲に分布しており十分明るい。それに、チカチカしていない優しい光だ。

「おお・・・綺麗だねぇ。」
「ふふっ、そうですね。素晴らしいですよ、ミレイユ。」

思わず感嘆の声を上げる僕。
その様子に小さく笑いながら、ヒルダは優しくミレイユを撫でる。

「実は、昨日はシルヴァが寝た後もしばらく練習していたのですよ。」
「うん、そうみたいだね。」

純人種の僕と違って、二人は毎日しっかり睡眠をとる必要は無い。魔法とかを沢山使ったのならその限りでは無いけど・・・練習だけだったら、そんなに消耗もしていないのだろう。

「それで、最初はどうにも上手くいかなかったので・・・少し記憶を遡ってみたのです。」
「ああ、ヒルダは魔法をお母さんに教えて貰ったんだっけ。」
「ええ。それで、思い出しました。魔法とは、現在の事象に無理やり意図的な事象をねじ込むものだと。故に、当然ながら発動の瞬間が最もむずかしいのです。」

ほほう。

「逆に言えば、発動さえ出来れば出力の調整は比較的容易です。そこで、1つ作戦を考えました。すなわち、『魔法の名前』です。」
「えーっと、さっきのホワイトダスト、ってやつ?」
「その通りです。私は大体の魔法を感覚で使っているので実演は出来なかったのですが・・・」

そこでヒルダはミレイユに視線を向ける。
ミレイユは既にデュランダル・レプリカを構えてはいないが、光は今もしっかりと浮いている。

「試しにミレイユに何かイメージして名前を言ってみてもらったら、1度で成功しました。」
「へぇ、そうなんだ。確かにヒルダは探知魔法は探知魔法って言うし、身体強化魔法も気合いで発動してた感じあるもんね。」

言われてみれば、魔法にも名前があった方がわかりやすいのかもしれない。探知魔法とかならともかく、攻撃魔法や回復魔法はとても種類が多いし。

「イメージして、ってことは、その名前はミレイユが考えたの?」
「わ、私が考えた、っていうわけじゃない、かな・・・その、昔読んだ本に出てきた魔法の名前、なの。そ、その本では氷で攻撃する魔法だったけど。」

おお、なるほど。モチーフがあればよりイメージしやすいだろう。

ともあれ、ミレイユのおかげで明るさは確保出来た。
手紙の内容は・・・うん、ある程度は固まったかな。

「ミレイユ、魔法使ったままで難しいかもしれないけど、このまま手紙書ける?」 
「う、うん。この魔法なら、そんなに集中しなくてもつかえる、から。」

本当に一日で・・・というか一晩で凄い進歩だ。

僕はミレイユに座るよう促して、その横に立つ。

「えっと、最初は・・・」

そのままミレイユに頼んで手紙を書いてもらう。

少し難しい言葉に苦戦しつつも、ミレイユは僕の言う通りに文字を書いてくれる。
このペースなら、そんなに慌てる必要も無さそうだ。

僕はミレイユの様子を見ながら少しずつ簡単な文章に変えるなどして、手紙を完成させていく。

・・・いや、ほんとミレイユがいてくれて良かった。

難しい顔をしながら紙とにらめっこするミレイユを見ながら、僕は心からそう思った。
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