弱小種族による、危険な世界の歩き方。

ハイイロカラス

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第二章

消去法で考える時は視野狭窄に気をつけるべし

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空中に浮かび上がった映像を見ながら、僕は感嘆の息を吐く。

「これがオリジナルの霊視水晶の力・・・僕にも見えるってことは、実際に光を映し出してるのかな。どうやってかはわかんないけど。」

映像で見える、と聞いた時にすこし心配していたけど、僕でも問題なく見えて安心した。

改めて投影された映像を見る。

「これは・・・森の中を走ってる、のでしょうか?」
「みたいだね。これは、ミレイユの視点なのかな?」

鬱蒼とした木々の生い茂る森が、どんどん後方に消えていく。
誰かの視界をそのまま見ている気分だ。

「・・・ですが、このような森あの平原にありましたか?私の記憶では、ここまで木々が密集している場所はなかったと思うのですが・・・」

ヒルダのつぶやきにレオニールさんも頷く。

「我々が調査した限りでも、ここまでの森林は存在しないはずだ。」
「確かに、僕が買った地図には森なんてなかったです。・・・もう少し見てみましょうか。」

映像に視線を戻す。
視界の主・・・ミレイユは何度か転びそうになりながらも、森の中を駆けていく。

よく見てみると、森の植生自体はシャクシャクら周辺の気候に対応したものだ。
やはり、この近辺に里が存在していることは確かみたいだ。

「・・・ミレイユ、今の映っている場所がどこかとか覚えてる?」
「う、ううん・・・。あの時は必死で、ただ走ってたことしかおぼえてない・・・」

首を横に振るミレイユ。まあ仕方ないだろう。今まで閉じ込められていた所から出て、どこに行けばいいのかも分からず走っていたんだ。
余裕なんて全くなかったんじゃないかな。

しばらく、森の中の映像が続く・・・
と、その時。前ぶれなく、映像の情景が大きく変わった。

「なっ・・・」

先程まで出口の見えない森の中を走っていたはずなのに、今は見晴らしの良い平原に居る。

「ここは、沈黙の平原・・・?それに、この景色は確か・・・」
「ええ。私たちが、ミレイユを見つけた所の近くですね。」

僕の言葉に、ヒルダが頷きながら言う。
映像では、景色が変わったことにも気づいていないようにミレイユが走り続けている。

しかし、すぐにゴーレムと接敵し攻撃を受けてしまう。危険地帯ではないためさほど強くないゴーレムだが、ミレイユにとっては十分な脅威だ。

ゴーレムの攻撃に、ミレイユは悲鳴を上げて吹き飛ばされ・・・そして、そこから先は僕達も知っていることだ。

「うん、ここまでで大丈夫かな。止めるのは・・・手を離せば良いのかな?」
「ああ、それで止まるよう設定してある。」

僕に視線を向けてきたミレイユに1度頷くと、彼女はそのまま手を離す。
そして、映像が消えたことをかくにんすると大きく息を吐いて肩の力を抜いた。

「つ、疲れた・・・」
「沢山の魔力を使うことに慣れていないのですから仕方ありませんよ。ほら、こちらに来てください。」

ヒルダはミレイユを椅子に座らせると、彼女の額に自らの額を合わせる。
・・・なんだろう、あれ。はたから見ていると、ヒルダの角がミレイユに刺さりそうで気が気じゃないんだけど・・・

「少し、魔力を送りますね。力を抜いてください。」
「う、うん。」

ヒルダがそう言うと、彼女の角が淡い光を放つ。魔力を送るって、そんなことも出来るんだ・・・

「・・・このくらいで大丈夫そうですね。」
「あ、ありがとう、ヒルダ。」
「ふふっ、気にしなくて大丈夫ですよ。私にとっては微々たる量ですし・・・それに、ミレイユも少し扱いに慣れればこの程度ではなんとも感じなくなるはずです。ともかく、お疲れ様でした。」

そう言って彼女はミレイユを撫でる。
やはり、魔法のことになると僕の知識はヒルダに及ばないなぁ。僕は対抗策とかしか知らないし。
僕はミレイユの事をヒルダに任せて、レオニールさんと視線を合わせる。

「さっきの映像からして、やはり突然景色が切り替わった場所が怪しいと思いますね。」
「ふむ・・・先程、場所に心当たりがあるようだったが、それは地図だとどの辺りだ?」
「えーっと・・・だいたい、ここですね。」

レオニールさんが広げた地図をみて、僕はその場所を指さす。
ミレイユを助けたところ・・・正確には、ミレイユが少し走っていたことを考えるとその近くが怪しい。

「そこか・・・過去に調査をした場所だが、精霊種の痕跡など無かったが・・・」
「何らかの手段で隠蔽されているのは確かですね。」
「方法に心当たりは?」

方法、か。

「そうですね・・・これ、といったものはありませんが、状況から絞り込むことはできます。」

例えば。

「この手の隠蔽でよく使われるのは、近づいた者に幻覚を見せたりする方法ですね。ですが、僕は精神に作用する魔法などは効かないので、恐らくそれはないでしょう。」
「ふむ、なるほど・・・」

もしそうだったら、あれほどの森を僕が見落とすわけが無い。

「次に考えられるのは転移ですが・・・映像を見た感じ、植物などはシャクシャク周辺と変わりません。それだけの近距離で転移を使うのは無駄・・・というより、不自然ですね。」
「今の映像からそんなこともわかるのか?」
「あはは。まあ、これでも薬師ですからね。」

幻覚でも、転移でもない。

「ともかく、その2つでないことを考えると・・・恐らく、隠蔽魔法と同じように無理やり別の景色を映し出して森を隠しているんじゃないですかね。」
「つまり、実際にその場に行けば入ることができる、と?」
「そのはずです。まあ多分何重にも魔法がかかってて見つけづらいとは思いますけど。」

それに、あの場にいたヒルダにも見抜けなかったとなれば、単純な隠蔽魔法では無いと思う。

「それに、シャクシャクからはそれなりに距離がありますね。危険地帯を避けるとなると、より時間がかかります。」
「それは・・・そうだな。」
「多人数でポイントに向かっても、恐らく警戒されるでしょうし・・・」

僕はそこまで言って、自信ありげに笑う。

「ここは、先に僕達に任せて貰えませんか?」
「ほう・・・?」
「簡単に言えば斥候です。今回の霊視である程度当たりはついたとは思いますが、まだ確定はしていませんし・・・かと言って、放置していても状況は好転しません。」

それにわざわざ言わないけど、レオニールさんやグイーラさん以外の駐留軍の兵士では、目標地点に到達することすら困難だろう。

「そこで、僕たちの出番というわけです。ここまで協力して頂いたわけですし、その位はしますよ。」
「・・・ふっ、よく言う。初めからそのつもりだったろうに。」
「あはは、なんのことでしょう」

まあその通りだけど。

「・・・駐留軍として動くには、確かに時間がかかるな。部隊に作戦行動を取らせるには、様々な制限もある。」

そりゃそうだろうね。

「とはいえ、外部の者を作戦に組み込むわけにもいかない。・・・故に。」

レオニールさんは立ち上がる。

「我々は我々として事態の解決を図る。その間、君たちの行動には関与しない。」
「流石、話が分かりますね。」
「調査や本国への報告などの、こちらの準備が済み次第駐留軍として強襲を仕掛けることになるだろう。」

つまり、それまでは僕たちは好きに動いて良いというわけだ。

もちろん、僕達はシャクシャクの民でもないし、レオニールさんの指揮下にある訳でもない。だから、行動に対して彼らに制限されるいわれはないんだけど。
武力を持つ治安維持組織がある場合、その仕事を奪うことは関係悪化の理由になりかねない。

そして、もっと直接的な理由として。
ミレイユの存在がある。精霊種を連れた集団が怪しい動きをしているとなれば、駐留軍も黙ってはいないだろう。
下手をすれば、完全に敵に回すことになる。

ここでしっかりと僕達が行動することを認めて貰えば、そのリスクを限りなく低くできる。

「・・・でもまあ、一通り手続きを済ませてしまった後にその必要が無くなったら無駄な手間になってしまいますよね。そうなったら申し訳ないですし、早いうちに良い報告が出来ると思うのでそんなに急いで準備しなくて大丈夫ですよ?」
「随分と自信があるようだな。」
「まあ、場所さえわかれば何とかなると思うので。」

そこが1番の問題だったし、長期戦は僕の趣味じゃない・・・っていうか、出来ない。

ここからは、もうさっさと動いて終わらせるだけだ。

「そうか・・・ならば、期待していよう。」
「ええ、任せてください。・・・よし、ヒルダ、ミレイユ、1回帰ろうか。大丈夫?」 

椅子に座って休憩していたミレイユとヒルダは、僕の言葉に頷いて立ち上がる。

「ええ、ミレイユもある程度疲れが取れたようですし大丈夫です。」
「そっか、それは良かった。それじゃあレオニールさん、何から何までありがとうございました。」

僕はしっかりと頭を下げる。ここまでやってもらったんだし、礼は尽くすべきだろう。

「なに、我々としても事態が解決できるなら願ったりだ。有力な情報も得られたしな。もしまた私にようがある時は、駐留軍の詰所に来るといい。門番には話を通しておく。」
「助かります。では、僕達は失礼します。」
 
次に会う時には、解決の報告が出来るよう頑張ろう。
ヒルダとミレイユもレオニールさんに軽く会釈をしてから、僕達は部屋を出る。

日はまだ高い。今から最後の準備をすれば、余裕を持って明日の朝には出発できるだろう。

それに、僕の予想が正しければ間違いなく戦闘になる。今日のうちにしっかりと体を休めておこう。

僕達はそのまま霊視水晶の感想など取り留めのないことを話しながら、ゆっくりと宿へと戻った。

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