弱小種族による、危険な世界の歩き方。

ハイイロカラス

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第二章

成果はいつだって危険の中にある

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森歩きは嫌いだ。というか、体を動かすこと自体好きじゃないんだけど。

慣れてるとはいえ、木の根がごつごつとしている道を歩くのはやはり疲れる。
直射日光は無いけど、湿度が高くて蒸し暑い。

おかしい。この近辺の気候的に、こんなに暑いはずないんだけど・・・

「あー・・・暑い・・・上着が蒸れるー・・・」

かといって、これを脱ぐ選択肢はない。いくらヒルダがいるからって、僕が油断していい理由にはならない。

「だ、大丈夫ですか、シルヴァ?」
「まあ、なんとか。今まで旅してた時は冷風を出す魔道具とか使ってたんだけど・・・シャクシャラは割と涼しいから、ここではまだ買ってなかったんだよね。」

あれだけ準備に時間をかけたのに、こんな所に抜けがあるとは・・・
探せば絶対魔道具より質のいい魔導遺産とかあっただろうになぁ。 

ちなみに、ヒルダとミレイユは特に問題無さそうだ。
まあ、根本的に体の作りが違うし当然か。
鬼神種なんて、場合によっては溶岩にも耐えると聞いた事あるし。

「ぼやいても仕方ないし、今回は我慢するよ。」
「・・・いえ、良い機会ですし少し試したいことがあります。」

ヒルダはそういうと、鞄からデュランダル・レプリカを取り出しミレイユに渡す。

「ミレイユ、少し応用編です。この前の光を出す要領で、冷気を出してみましょう。」
「えぇっ!?そ、そんな急に言われても・・・」
「大丈夫です。魔法はあくまで事象改変。その属性などといったものは、調整次第でなんとでもなるものです。」
「う、うぅ・・・わ、わかった、やってみる、よ?」

ミレイユは自信なさげな表情で、しかししっかりとデュランダル・レプリカを構える。

「え、えいっ!・・・あ、あれ?な、なにも出ない?」
「ふむ、やはりイメージを固着させる為に言葉を発した方が良いみたいですね。・・・何か、思いつく名前はありますか?」
「な、なまえ・・・えっと、じゃあ・・・」

ミレイユはしばらく考えた後に、再び剣を構える。

「だ、『ダイヤモンドダスト』!」

その言葉の直後。
ミレイユの周囲に、青い粒子が現れ光を反射しキラキラと瞬く。
そして、その光と共に気温が下がっていく。

「おお・・・!新しい魔法だね。凄い、どんどん涼しく・・・」

思わず感嘆の息を吐く。
そして。漏れたその吐息は白く広がった。

「・・・す、涼しいっていうか、寒いくらいだね。」
「え、えへへ・・・昔読んだ本にあった氷の魔法の名前なの。」

こ、氷の魔法かぁ・・・それはこんなに寒くなるのも納得だなぁ。
でも、新しい魔法を成功させて嬉しそうにしているミレイユに寒いから止めてとは言いにくい。

うん、暑いよりかは我慢できるしこのまま行こう。
幸い、温度に左右される薬は持っていない。

「よ、良し・・・そ、それじゃあ行こう」

若干口が回りにくいけど・・・だからこそ体を動かさないと。

「多分、もうすぐそこだよ。」

鬼人の里の時ほどあからさまじゃないけど、それでも少しづつ生活の痕跡が見受けられる。

コソコソ入るのも良いけど・・・
せっかくだし、ドカンとかましていこうかな。

ここまで目立たないように来たのは、相手がミレイユだけを奪う準備をしてきたら面倒だからだ。
特に、森は彼らのフィールド。

僕は自身の身を守ることには慣れていても、誰かを守るのは得意じゃないし。

だけど、ここまで来たらその必要もない。

「さて、ヒルダ。今の状態なら、もう気づいたんじゃない?」
「ええ、そうですね。明らかに、自然のものでない音が前方から聞こえてきます。」
「うん、間違いなく精霊種の里だね。入り口とかはないみたいだから、適当にこのまままっすぐ行こう。」

僕は2人の先に立って歩く。見た感じ罠とかはないけど、念の為だ。
ついでに、擬似悪魔化を用意しておく。

そのまま、僕は進んで行く。
姿は見えないけど、音はどんどんはっきりしていく。

そして、しばらく進んだ先に。

精霊種の里はあった。

「おお・・・」

外からは見にくかったけど、1歩中に入ると意外と開放感がある。
例えば、高い木が沢山あるけど適度に剪定されているのか陽の光が地面まで届いている。
一部の木をよく見ると、枝などを利用して小さな家が建てられている。
あれが精霊種の住居なんだろう。

そして何よりも目を引くのが、中心部にそびえ立つ尋常ではないほどの大樹。

「あれが、ミレイユの言っていた里の神木?」
「う、うん。・・・それに、あそこには、お母さんがいるの。」
「ミレイユのお母さんってことは、精霊種の女王か。つまり、神木は城でもあるわけだ。」

なるほどなるほど。

「しかし、全然外を歩いている人がいないなぁ。」
「誰かが居ることは、確かなのですが・・・」
「ふむ・・・じゃあ、とりあえず挨拶しとこうか。」
「・・・え?」

ゴソゴソとバックパックを漁る。そして、奥の方から目的の物を取り出す。
ふう、あんまり使うつもりなかったから大分奥に入れていたんだった。
完全に思いつきだし、他の薬のついでに作っただけの物だし。

「ヒルダ、ミレイユ。ちょっと耳を塞いでてね。」
「ちょ、シルヴァ、あなたまさか・・・」

目を見張るヒルダ。だいじょーぶだいじょーぶ、そこまで刺激はしないよ。

「コソコソするより、多分よっぽどいい結果になるはずだから。」
「ああもう、あなたはこういう時大胆ですね・・・!」

僕はヒルダとミレイユが耳を塞いだのを確認し、取り出した薬を服用する。見た目はほとんど【鳥魔叫奏】と同じだけど、こちらの方が少し粘度が高い。

もったいぶる程の物でもないのでさくっと紹介すると、これは番外試薬アウトナンバーイエローラベル【空響咆哮ハウルホール】だ。
効果は単純、声が大きくなる。以上。
番外試薬にしている理由は、ただただ効果が微妙だから。

普通に使ってもろくな効果のない薬。
しかし、何事も工夫だ。
今の僕は追跡鋭化を使用している。だから、普段以上に聴覚と嗅覚が鋭敏になっている。

その強化された感覚を持って、空気の流れを含めた空間の全てを認識する。
そして、風向き、雑音、そういったここにある全ての要素が『整った』瞬間。

大きく息を吸い込んで叫ぶ。
 

「たぁのもぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」


ビリビリと森が振動・・・したような錯覚を覚える程の大声が響き渡る。

耳を塞いでいたミレイユも肩をビクッと震わせていた。驚かせてごめんね?

「よし、完璧!」
「な、なに、いまの・・・?」
「ちょっとした遊び心の賜物かな。」

混乱した様子のミレイユに冗談めかして答える。

「まったく、こういうことをするならもっと早く教えてください・・・!」 
「いやーごめんごめん、この方法に関しては思いつきだったからさ。」

まあ、何らかの方法で注目を集めるつもりではあったけど。

「さて・・・ともかく、目標通り気づいて貰えたみたいだ。」

視線を里に向けると、先程まで誰もいなかった場所に、数人の男女が現れていた。
外見的特徴から、全員精霊種だ。

誰も彼も、少し混乱した表情ではあるがこちらを見る目には敵意が滲み出ている。
ここもシャクシャラがピリピリしているのと同様に、いやそれ以上に余所者には敏感だろう。


ちらりと見ると、明らかにミレイユが緊張している。その肩を、ヒルダが優しく抱き寄せる。
今回も、ミレイユはヒルダにお願いするとして。

僕はいつも通り、敵意を見せない笑みを浮かべる。

「驚かせて申し訳ありません、精霊種の紳士淑女の皆さん。僕は旅の薬師、シルヴァと言います。回りくどく言っても仕方ないので単刀直入に。僕達はあなた方の女王にお会いしたくてここまでやって来ました。」

どう見ても人畜無害なにこやかさで。
しかし、決して譲歩しないという意志を瞳に込めて。

「どうか、案内して貰えませんか?」

僕の言葉に、精霊種はいよいよたじろぐ。
流石に判断しかねているんだろう。

まあ、拒否するならするで構わない。ここに居る程度の人数ならヒルダの力を借りるまでもなく制圧できるし、方針が強硬策に変わるだけだ。

しばしの膠着状態。問答無用で襲われるかとも思ってたけど・・・
みんな、遠巻きにこちらを見るだけだ。

ふむ、このまま見つめあってても仕方がない。
平和的に案内されるのは諦めて、勝手に神木まで行かせてもらおうかな・・・

僕が内心でそう考え始めた時。

「チッ・・・こんなに考え無しな野郎だったとはな。」

どこか厭世的な声と共に、里の奥から一人の男が現れる。

「おや、あなたはあの時の。その節はどうも。」
「思った以上に巫山戯た奴だな。・・・おい、お前らは散れ。こいつらは俺が対応する。細かいことは追って通達してやる。」

舌打ち混じりに毒づき、周りの精霊種を立ち去らせる。
やはり、かなりの立場の者のようだ。

「以外と話し合いの余地があるみたいですね?」
「余計なことを喋るな。・・・仕方ねえ、着いてこい。」
「というと?」
「女王に合わせてやる。そこの鬼神に暴れられてもかなわねえし、一応はここまでその娘を連れてきてもいる。・・・大人しく引き渡す気がねえのは百も承知だがな。」

話をしてみた感じ、彼はミレイユを連れてきて欲しくなかったのかな?
この辺り、後々突つけるかもしれない。

「じゃあ、お言葉に甘えさせて貰いますかね。」
「あまり不自然な動きをするんじゃねえぞ。ここは俺たちの里。強力な敵に対抗する術くらい準備してある。」
「肝に銘じておきますよ。さ、二人とも行こうか。」

緊張した様子で頷くミレイユと、特に気負った様子のないヒルダ。うんうん、実に頼もしいね。

さて、じゃあ行こうか。
ここは既に敵地なれど。全てを解決する最善の一手というのは、得てしてそういう場所にあるものだ。

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