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第二章
勝てるなら、多少の毒は安いもの
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薬の効果で体の反応が微妙に悪い。
しかし、この反応の悪さが攻撃を通すために必要なものなのだから仕方ない。
「っ、あちちち!」
「ぐぅっ!」
炎弾の熱で肌を灼かれながらも、トンファーで胴を打ち抜く。
その攻撃も弾かれることなく、彼を勢いよく吹き飛ばす。
「やっぱり、あなたも軽いですね。追撃しにくいことこの上ないですよ。」
「精霊種だから、な・・・にしても、ほんとにどんな手品を使ってやがる?」
「終わったら、教えてあげますよ!」
距離を詰める。権能持ちとはいえ、彼も精霊種だ。そこまで耐久力は高くないはず。
一度でも連撃を成功させられれば、それで勝てると思うけど・・・
その為には、彼の予想を超える一手が必要だ。でも、そんな都合の良い物あったかなぁ・・・
攻撃をしながら辺りを見渡してみる。
玉座の間は、度重なる戦闘でもうボロボロだ。こんな状態の場所で、役に立つ物なんて・・・
「・・・あ、あった。」
ボロボロの部屋の中で、僕はそれを見つける。・・・っていうか、さっきからずっと視界の隅でチカチカしてたから気になってはいた。
さて、あれをどう使おうかな。
僕はもう一度トンファーを打ち込み彼を吹き飛ばす。やはり、微妙に勢いを殺されているせいで大した威力になっていない。
一旦距離を取ったまま、僕は背中のミレイユに話しかける。
「ミレイユ、ちょっと協力してくれる?」
「へ・・・わ、わたし!?な、何か出来る事があるなんて思えない、けど・・・」
「大丈夫だよ。基本は僕がやる。」
話しながら移動して場所を調整する。
上手く行けば儲けもの、って所かな。
「で、でも・・・協力って言われても、何をすればいいの?」
「そうだなぁ・・・」
やって欲しいことは決まってるけど、あんまり具体的に言って彼に聞かれては意味が無い。
ということで、少し回りくどく伝えることにした。
「少し暑いからさ。涼しくしてくれない?」
「・・・それ、って、そういう、こと?」
うんうん、ちゃんと伝わったみたいだ。
「よし、じゃあ行くよ!」
「う、うん!」
こちらから接近する。位置は調整したから、あとは相手の動きを上手く誘導しないとならない。そうなると、僕から動かないとどうしようもないだろう。
「チッ・・・猛れ、迅風!」
その言葉と共に襲い来る暴風。そして、その風に巻き上げられた砂粒が視界を遮る。ここに来て、彼もまた間接的な攻撃手段を用いてきた。
「っ、なんの!」
トンファーの握り手を緩め、高速で回転させ砂を散らす。目は閉じないで済んだけど、体の各所に小さい裂傷が出来る。
「ミレイユ、大丈夫?」
「う、うん。で、でもシルヴァが怪我を・・・」
「へーきへーき、このくらいなら問題ないよ。」
まあ、後でしっかり消毒しないといけないとは思うけど。
減速することなく間合いを詰める。
トンファーを振り下ろす。その攻撃は拳でいなされるけど、その瞬間には既に反対の手のトンファーを突き出している。
「ぐっ・・・!」
僕の攻撃を受け、彼は少しだけ後ずさる。
突きは勢いが乗せにくくて、僕では大した威力を出せない。だから彼も吹き飛ぶという程では無い。
でも、ここでこのまま追撃しても先程と同じ展開だ。
位置取りは既に完了しており、今の彼は体勢を崩している。
ここが好機だ。
周囲の状況も申し分ない。彼が放った魔法の影響で、空気中の水分が多くなっているのがわかる。まあ、あれだけ水だの氷だの出して、更にそれを炎で蒸発させまくっていれば湿気が凄いことになるのは当然だろう。
「こんなもんか!?」
「もちろん、本番はこれからですよ!」
僕は直線では無く、回り込むように後退した彼に近づく。側面からの攻撃を仕掛ける・・・ように見せかけて。
一瞬だけ、ほんの少し躓き意図的に隙を作る。
我ながらわざとらしいかとも思ったけど・・・
「っ、そこだ!」
彼は釣られてくれた。当然、勝算があっての誘いだったけど、上手くいったようで何よりだ。
心臓を狙う貫手。魔法を使われたらまたやり直しだったけど・・・これなら、行ける。
僕は即座に姿勢を戻し、足元に落ちていた『それ』を蹴りあげる。
そして貫手を躱しながら掴み取り、ミレイユに渡し・・・
「ミレイユ、今!」
「っ、『ダイヤモンドダスト』!」
合図の声を上げる。直後、僕からそれ・・・デュランダル・レプリカを受け取ったミレイユが、魔法を発動した。
周囲の空間が凄まじい速度で極低温になる。
「な、に!?」
空気中の水分が凍結し互いの体に霜が降りる。もちろん、これだけでは僕の方が不利になる。元々、精霊種は温度変化に強いし。
だけど。意表を突くことには成功した。これ以上無いほどに。
「魔法、だと・・・!?」
「ミレイユ、光を!」
さあ、仕上げだ。周囲には温度低下により空気に含まれきらなくなった水分が氷となってキラキラと光っている。
・・・まあ、この氷は自然現象と言うよりは、ミレイユの魔法によって発生したもののような気もするけど。
しかし、小さな氷が沢山生まれたことは事実であり。
この状態で、光を発すれば。
「えっと、『ホワイトダスト』!」
「くっ!?」
光は反射し、予想もつかない刺激となる。そして、周囲を目だけで見てるわけではない精霊種と言えど、少しなら動きが止まる。
一瞬でも、明確な隙が出来れば。
「はぁっ!」
吹き飛ばさないように方向を計算しながら、連撃を加えることができる!
右肩に叩き下ろすような一撃。左の脇腹に打ち上げる軌道にもう一撃。右足、背中、水月に回転しながら連撃。
そして、最後に。
「ぐ、おおっ!?」
「これで、終わりです!」
脳天から地面に叩きつけるように、両のトンファーを打ち下ろした。
「がっ・・・!?」
短く呻き、遂に彼が崩れ落ちる。その体には傷は無いが、今まで倒した精霊種同様に少し霞んでいる。
「ふぅ・・・ミレイユ、ありがとうね。」
「う、うん!えへへ、どういたしまして!」
「ほんとに助かっ・・・っくしょん!あ、ごめんミレイユ、魔法解いてくれる・・・?」
戦闘の高揚も引き、動きを止めると寒さが襲ってくる。かなり思い切って魔法を使ったのか、さっきとは比べ物にならないくらい温度が下がっている。
ついでに、ホワイトダストの光も凄かったし。
「あ、えっと・・・こう、かな?」
「・・・ふう、元に戻ったね。まだ寒いことは寒いけど。とりあえず、降りていいよ?」
「う、うん。えへへ、ちょっと楽しかった、かも?」
僕の背中から降りると、そういって少し興奮した様子で笑うミレイユ。多分、一種の高揚状態にあるんだろう。れが魔法の出力にも関わってきてたのかも。
ミレイユの頭を労うように少し撫でて、僕は倒れた彼を確認する。
「・・・流石に、意識を失っているみたいだ。」
死んではいないけど、すぐに回復はしないだろう。
「よし、じゃあヒルダの方を手伝いにいこうか。」
「て、手伝うって言っても・・・」
困惑した表情で、ヒルダの方を見るミレイユ。まあ、その気持ちもわかるろ。だってもうあそこで起きてる戦いは・・・
ほとんど災害だ。
「弾けよ、劫炎!」
「っ、はあっ!」
女王が放った蒼い炎を、ヒルダは瓦礫を操ってかき消す。そして飛び散った破片を、風を用いて両者が吹き飛ばす。
礫《つぶて》を巻き込みながら荒れ狂う暴風。ただでさえ傷だらけの部屋が更にボロボロになっていく。
「うーん、凄まじいなぁ。」
「ど、どど、どうするの?」
「そうだねぇ・・・」
この状態で、僕がヒルダに加勢したとして。状況が悪化する以外の未来が見えない。
となれば。
「よし、話し合いだね。」
「え・・・い、いまさら?」
うーんド正論。
ミレイユに信じられないモノを見る目を向けられている。
「い、言いたいことはわかるよ?でも、元々この戦いは精霊種側がミレイユを奪おうとして始まったものだからさ。その目的の達成が困難になった今なら、こっちの提案で話し合いに持って行ける可能性は高いと思うんだ。」
「そ、そういうもの、なの?」
「そういうもの・・・な時もある。」
僕の交渉は第一段階から上手くいかない事がままあるので断言はできない。
まあ、もし上手くいかなかったらミレイユを連れてさっさと逃げて、この場所をレオニールさんに伝えてシャクシャラを離れるだけだ。
「さて、問題はどうやってあそこに割り込むか、だけど・・・」
遠巻きに戦闘を見つめる。適当に【空響咆哮】とか【鳥魔叫奏】をつかって注意を引いても良いけど・・・ヒルダを驚かせてしまっても困る。
そんな感じで考え込んでいたら。
「はぁ・・・仕方ないのう。」
突然、女王が手を止める。
「そこの人種の言う通りじゃな。もはや、この状況で目的を果たすことは叶わぬじゃろう。」
「・・・これはまた諦めが良いですね。それに、ここまでも随分と簡単に兵を引いていましたし。出来れば色々と話を聞かせて貰いたいものですが・・・」
「そちらこそ良いのか?ぬしとてわかっておるじゃろうが、今の拮抗はそこの鬼神の甘さがあって初めて成立しておるものじゃ。その気になれば、妾など相手にもなるまいて。 」
女王の言葉に、ヒルダは微妙な表情になる。まあ、ある意味で女王の言っていることは真実だし。
単純に殲滅したいだけなら、このまま戦闘を継続しても構わない訳ではあるんだけど・・・
「先程も言った通り、色々と聞かせて貰いたいですからね。それに、僕たちがミレイユをここに連れてきたのは、あなた達と話をするべきだと思ったからですし。」
・・・本当は一人で来るつもりだったけど。そこは方便というやつだ。
「・・・まあ、ぬしらがそれで良いなら、妾が断る理由はないのう。これ以上、徒《いたずら》に戦士を傷つけされたくはない故にな。」
「先に強硬手段に出たのはそっちですけどね。口火を切ったのは僕ですけど・・・」
って、あれ?僕が先に殴りかかったわけだからあまり気にしてなかったけど。
「そういえば、この戦いは精霊種が始めたものだってさっき言いましたけど。よく考えたら、そもそもそれが変じゃないですか?」
だって、大前提として。
「精霊種は、他種族に危害を加えられない。この誓約は絶対のはず。だからあの時、僕が攻撃を仕掛けなければ、そちらは何も出来なかったってことになる。」
そうなったら、実に間抜けなにらめっこが始まるだけだ。
当然、ミレイユを手に入れることなんて出来ない。もしかしたら精霊種同士ってことでミレイユに直接攻撃することは出来たかもしれないけど・・・
僕らに全く触れずにミレイユだけを攫うなんて、非現実的にも程がある。
「あなたがたには、どんな勝算があったんですか?」
「む、何を言っておるんじゃ?勝算など、初めからあるわけがなかろう。」
「・・・・・・・・は?」
当然のような顔で、さらっと言われたその言葉に、僕は気の抜けた声を漏らしてしまった。
僕のその反応に、女王は呆れたようにため息を吐く。
「・・・はぁ、当然じゃろう?精霊種《われら》が他種族に対して勝てる可能性があるようでは、かの誓約の意味など無くなるであろうに。」
「いやまあ、それはそうですけど。」
「傀儡の兵は、苦肉の策であったが・・・一定以上の実力者相手には、時間稼ぎにもならなかったわ。」
えーっと、情報がいきなり出てきて整理が追いつかない。
例の自我の薄い戦士たちは、何か企んでたわけじゃなくてそうするしか無かったってこと?
どういうこと・・・あ、もしかして。
「誓約が具体的にどう効力を発揮するのかは知らないんですけど・・・察するに、害意に反応してるってことですか?」
「まあ、その認識で問題ないであろうな。」
なるほど、やはりか。
「えっと、シルヴァ?納得してるところ申しわけ無いのですが、どういうことなんですか?というか、流れで私も戦いましたけど・・・よく分かってないことがたくさんあって混乱しているのです。」
「あー・・・うん、そうだね。ヒルダの言うことももっともだ。」
話し合いをする前に、色々と整理した方がいいかもしれない。
確かに、かなり過程を端折っている気がするし。
「まず、大前提として。精霊種側の目的は、家畜を盗むことじゃなかった。」
「・・・どういうこと、ですか?」
「あくまで、家畜を攫ったのは手段でしかない。最大の目的は、駐留軍を誘い込むこと。つまり、多くの生命体を・・・秘術に使う触媒を沢山手に入れること。それが最大の目的だった。」
女王に視線を送る。
「で、あってます?」
「・・・まあ、概ねはそうじゃな。正確には、この場で乱戦を起こし多量の血を流す必要があった。我らには、出来ぬことゆえな。」
「血を、流す必要があった?それはまたどうして?」
あれ、なんかちょっと思ってたのと違う・・・?
僕の目の前で、先程同様に気怠げな表情となった女王が口を開く。
「・・・事の発端は、一つの魔導遺産じゃった。」
そして、女王は語り始める。
精霊種の凶行の理由と、彼らの直面している問題についてを。
しかし、この反応の悪さが攻撃を通すために必要なものなのだから仕方ない。
「っ、あちちち!」
「ぐぅっ!」
炎弾の熱で肌を灼かれながらも、トンファーで胴を打ち抜く。
その攻撃も弾かれることなく、彼を勢いよく吹き飛ばす。
「やっぱり、あなたも軽いですね。追撃しにくいことこの上ないですよ。」
「精霊種だから、な・・・にしても、ほんとにどんな手品を使ってやがる?」
「終わったら、教えてあげますよ!」
距離を詰める。権能持ちとはいえ、彼も精霊種だ。そこまで耐久力は高くないはず。
一度でも連撃を成功させられれば、それで勝てると思うけど・・・
その為には、彼の予想を超える一手が必要だ。でも、そんな都合の良い物あったかなぁ・・・
攻撃をしながら辺りを見渡してみる。
玉座の間は、度重なる戦闘でもうボロボロだ。こんな状態の場所で、役に立つ物なんて・・・
「・・・あ、あった。」
ボロボロの部屋の中で、僕はそれを見つける。・・・っていうか、さっきからずっと視界の隅でチカチカしてたから気になってはいた。
さて、あれをどう使おうかな。
僕はもう一度トンファーを打ち込み彼を吹き飛ばす。やはり、微妙に勢いを殺されているせいで大した威力になっていない。
一旦距離を取ったまま、僕は背中のミレイユに話しかける。
「ミレイユ、ちょっと協力してくれる?」
「へ・・・わ、わたし!?な、何か出来る事があるなんて思えない、けど・・・」
「大丈夫だよ。基本は僕がやる。」
話しながら移動して場所を調整する。
上手く行けば儲けもの、って所かな。
「で、でも・・・協力って言われても、何をすればいいの?」
「そうだなぁ・・・」
やって欲しいことは決まってるけど、あんまり具体的に言って彼に聞かれては意味が無い。
ということで、少し回りくどく伝えることにした。
「少し暑いからさ。涼しくしてくれない?」
「・・・それ、って、そういう、こと?」
うんうん、ちゃんと伝わったみたいだ。
「よし、じゃあ行くよ!」
「う、うん!」
こちらから接近する。位置は調整したから、あとは相手の動きを上手く誘導しないとならない。そうなると、僕から動かないとどうしようもないだろう。
「チッ・・・猛れ、迅風!」
その言葉と共に襲い来る暴風。そして、その風に巻き上げられた砂粒が視界を遮る。ここに来て、彼もまた間接的な攻撃手段を用いてきた。
「っ、なんの!」
トンファーの握り手を緩め、高速で回転させ砂を散らす。目は閉じないで済んだけど、体の各所に小さい裂傷が出来る。
「ミレイユ、大丈夫?」
「う、うん。で、でもシルヴァが怪我を・・・」
「へーきへーき、このくらいなら問題ないよ。」
まあ、後でしっかり消毒しないといけないとは思うけど。
減速することなく間合いを詰める。
トンファーを振り下ろす。その攻撃は拳でいなされるけど、その瞬間には既に反対の手のトンファーを突き出している。
「ぐっ・・・!」
僕の攻撃を受け、彼は少しだけ後ずさる。
突きは勢いが乗せにくくて、僕では大した威力を出せない。だから彼も吹き飛ぶという程では無い。
でも、ここでこのまま追撃しても先程と同じ展開だ。
位置取りは既に完了しており、今の彼は体勢を崩している。
ここが好機だ。
周囲の状況も申し分ない。彼が放った魔法の影響で、空気中の水分が多くなっているのがわかる。まあ、あれだけ水だの氷だの出して、更にそれを炎で蒸発させまくっていれば湿気が凄いことになるのは当然だろう。
「こんなもんか!?」
「もちろん、本番はこれからですよ!」
僕は直線では無く、回り込むように後退した彼に近づく。側面からの攻撃を仕掛ける・・・ように見せかけて。
一瞬だけ、ほんの少し躓き意図的に隙を作る。
我ながらわざとらしいかとも思ったけど・・・
「っ、そこだ!」
彼は釣られてくれた。当然、勝算があっての誘いだったけど、上手くいったようで何よりだ。
心臓を狙う貫手。魔法を使われたらまたやり直しだったけど・・・これなら、行ける。
僕は即座に姿勢を戻し、足元に落ちていた『それ』を蹴りあげる。
そして貫手を躱しながら掴み取り、ミレイユに渡し・・・
「ミレイユ、今!」
「っ、『ダイヤモンドダスト』!」
合図の声を上げる。直後、僕からそれ・・・デュランダル・レプリカを受け取ったミレイユが、魔法を発動した。
周囲の空間が凄まじい速度で極低温になる。
「な、に!?」
空気中の水分が凍結し互いの体に霜が降りる。もちろん、これだけでは僕の方が不利になる。元々、精霊種は温度変化に強いし。
だけど。意表を突くことには成功した。これ以上無いほどに。
「魔法、だと・・・!?」
「ミレイユ、光を!」
さあ、仕上げだ。周囲には温度低下により空気に含まれきらなくなった水分が氷となってキラキラと光っている。
・・・まあ、この氷は自然現象と言うよりは、ミレイユの魔法によって発生したもののような気もするけど。
しかし、小さな氷が沢山生まれたことは事実であり。
この状態で、光を発すれば。
「えっと、『ホワイトダスト』!」
「くっ!?」
光は反射し、予想もつかない刺激となる。そして、周囲を目だけで見てるわけではない精霊種と言えど、少しなら動きが止まる。
一瞬でも、明確な隙が出来れば。
「はぁっ!」
吹き飛ばさないように方向を計算しながら、連撃を加えることができる!
右肩に叩き下ろすような一撃。左の脇腹に打ち上げる軌道にもう一撃。右足、背中、水月に回転しながら連撃。
そして、最後に。
「ぐ、おおっ!?」
「これで、終わりです!」
脳天から地面に叩きつけるように、両のトンファーを打ち下ろした。
「がっ・・・!?」
短く呻き、遂に彼が崩れ落ちる。その体には傷は無いが、今まで倒した精霊種同様に少し霞んでいる。
「ふぅ・・・ミレイユ、ありがとうね。」
「う、うん!えへへ、どういたしまして!」
「ほんとに助かっ・・・っくしょん!あ、ごめんミレイユ、魔法解いてくれる・・・?」
戦闘の高揚も引き、動きを止めると寒さが襲ってくる。かなり思い切って魔法を使ったのか、さっきとは比べ物にならないくらい温度が下がっている。
ついでに、ホワイトダストの光も凄かったし。
「あ、えっと・・・こう、かな?」
「・・・ふう、元に戻ったね。まだ寒いことは寒いけど。とりあえず、降りていいよ?」
「う、うん。えへへ、ちょっと楽しかった、かも?」
僕の背中から降りると、そういって少し興奮した様子で笑うミレイユ。多分、一種の高揚状態にあるんだろう。れが魔法の出力にも関わってきてたのかも。
ミレイユの頭を労うように少し撫でて、僕は倒れた彼を確認する。
「・・・流石に、意識を失っているみたいだ。」
死んではいないけど、すぐに回復はしないだろう。
「よし、じゃあヒルダの方を手伝いにいこうか。」
「て、手伝うって言っても・・・」
困惑した表情で、ヒルダの方を見るミレイユ。まあ、その気持ちもわかるろ。だってもうあそこで起きてる戦いは・・・
ほとんど災害だ。
「弾けよ、劫炎!」
「っ、はあっ!」
女王が放った蒼い炎を、ヒルダは瓦礫を操ってかき消す。そして飛び散った破片を、風を用いて両者が吹き飛ばす。
礫《つぶて》を巻き込みながら荒れ狂う暴風。ただでさえ傷だらけの部屋が更にボロボロになっていく。
「うーん、凄まじいなぁ。」
「ど、どど、どうするの?」
「そうだねぇ・・・」
この状態で、僕がヒルダに加勢したとして。状況が悪化する以外の未来が見えない。
となれば。
「よし、話し合いだね。」
「え・・・い、いまさら?」
うーんド正論。
ミレイユに信じられないモノを見る目を向けられている。
「い、言いたいことはわかるよ?でも、元々この戦いは精霊種側がミレイユを奪おうとして始まったものだからさ。その目的の達成が困難になった今なら、こっちの提案で話し合いに持って行ける可能性は高いと思うんだ。」
「そ、そういうもの、なの?」
「そういうもの・・・な時もある。」
僕の交渉は第一段階から上手くいかない事がままあるので断言はできない。
まあ、もし上手くいかなかったらミレイユを連れてさっさと逃げて、この場所をレオニールさんに伝えてシャクシャラを離れるだけだ。
「さて、問題はどうやってあそこに割り込むか、だけど・・・」
遠巻きに戦闘を見つめる。適当に【空響咆哮】とか【鳥魔叫奏】をつかって注意を引いても良いけど・・・ヒルダを驚かせてしまっても困る。
そんな感じで考え込んでいたら。
「はぁ・・・仕方ないのう。」
突然、女王が手を止める。
「そこの人種の言う通りじゃな。もはや、この状況で目的を果たすことは叶わぬじゃろう。」
「・・・これはまた諦めが良いですね。それに、ここまでも随分と簡単に兵を引いていましたし。出来れば色々と話を聞かせて貰いたいものですが・・・」
「そちらこそ良いのか?ぬしとてわかっておるじゃろうが、今の拮抗はそこの鬼神の甘さがあって初めて成立しておるものじゃ。その気になれば、妾など相手にもなるまいて。 」
女王の言葉に、ヒルダは微妙な表情になる。まあ、ある意味で女王の言っていることは真実だし。
単純に殲滅したいだけなら、このまま戦闘を継続しても構わない訳ではあるんだけど・・・
「先程も言った通り、色々と聞かせて貰いたいですからね。それに、僕たちがミレイユをここに連れてきたのは、あなた達と話をするべきだと思ったからですし。」
・・・本当は一人で来るつもりだったけど。そこは方便というやつだ。
「・・・まあ、ぬしらがそれで良いなら、妾が断る理由はないのう。これ以上、徒《いたずら》に戦士を傷つけされたくはない故にな。」
「先に強硬手段に出たのはそっちですけどね。口火を切ったのは僕ですけど・・・」
って、あれ?僕が先に殴りかかったわけだからあまり気にしてなかったけど。
「そういえば、この戦いは精霊種が始めたものだってさっき言いましたけど。よく考えたら、そもそもそれが変じゃないですか?」
だって、大前提として。
「精霊種は、他種族に危害を加えられない。この誓約は絶対のはず。だからあの時、僕が攻撃を仕掛けなければ、そちらは何も出来なかったってことになる。」
そうなったら、実に間抜けなにらめっこが始まるだけだ。
当然、ミレイユを手に入れることなんて出来ない。もしかしたら精霊種同士ってことでミレイユに直接攻撃することは出来たかもしれないけど・・・
僕らに全く触れずにミレイユだけを攫うなんて、非現実的にも程がある。
「あなたがたには、どんな勝算があったんですか?」
「む、何を言っておるんじゃ?勝算など、初めからあるわけがなかろう。」
「・・・・・・・・は?」
当然のような顔で、さらっと言われたその言葉に、僕は気の抜けた声を漏らしてしまった。
僕のその反応に、女王は呆れたようにため息を吐く。
「・・・はぁ、当然じゃろう?精霊種《われら》が他種族に対して勝てる可能性があるようでは、かの誓約の意味など無くなるであろうに。」
「いやまあ、それはそうですけど。」
「傀儡の兵は、苦肉の策であったが・・・一定以上の実力者相手には、時間稼ぎにもならなかったわ。」
えーっと、情報がいきなり出てきて整理が追いつかない。
例の自我の薄い戦士たちは、何か企んでたわけじゃなくてそうするしか無かったってこと?
どういうこと・・・あ、もしかして。
「誓約が具体的にどう効力を発揮するのかは知らないんですけど・・・察するに、害意に反応してるってことですか?」
「まあ、その認識で問題ないであろうな。」
なるほど、やはりか。
「えっと、シルヴァ?納得してるところ申しわけ無いのですが、どういうことなんですか?というか、流れで私も戦いましたけど・・・よく分かってないことがたくさんあって混乱しているのです。」
「あー・・・うん、そうだね。ヒルダの言うことももっともだ。」
話し合いをする前に、色々と整理した方がいいかもしれない。
確かに、かなり過程を端折っている気がするし。
「まず、大前提として。精霊種側の目的は、家畜を盗むことじゃなかった。」
「・・・どういうこと、ですか?」
「あくまで、家畜を攫ったのは手段でしかない。最大の目的は、駐留軍を誘い込むこと。つまり、多くの生命体を・・・秘術に使う触媒を沢山手に入れること。それが最大の目的だった。」
女王に視線を送る。
「で、あってます?」
「・・・まあ、概ねはそうじゃな。正確には、この場で乱戦を起こし多量の血を流す必要があった。我らには、出来ぬことゆえな。」
「血を、流す必要があった?それはまたどうして?」
あれ、なんかちょっと思ってたのと違う・・・?
僕の目の前で、先程同様に気怠げな表情となった女王が口を開く。
「・・・事の発端は、一つの魔導遺産じゃった。」
そして、女王は語り始める。
精霊種の凶行の理由と、彼らの直面している問題についてを。
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