66 / 69
第二章
重要かどうかは、いつも後になってからわかる
しおりを挟む
その森の奥で生きる精霊種は、基本的に外界に興味が無かった。
彼らを突き動かすものは、新しい知識への欲求のみで、本質的に他者に強い興味を持つことは無い。
そしてその知的好奇心を満たす物は、彼らの近くにあった。
太古に滅びた、魔導国家。
沈黙の平原を跋扈するゴーレムを筆頭に、その遺産は種族を問わず研究者にとって正しく垂涎の代物だった。
研究対象の質もさることながら、特筆すべきは何よりもその量。
いくら採掘しようと尽きる気配を見せない絶対的な数。そして、ゴーレムという守護者の存在により、他種族の無粋な盗人からも護られていた。
精霊種とて、ゴーレムと敵対しないわけではない。だが、ゴーレムは種族では無いため精霊種を縛る誓約は効力を発揮しない。
そして、精霊種は本来、数多の種族と真っ向から戦争を成立させることが出来る程に強力な種族だ。
近接攻撃しか出来ない木偶など、彼らの敵にはならない。
およそ尽きることの無い、多種多様な魔導遺産。それらの研究をしているだけで、精霊種は満足だった。それによって、いくつかの新しい兵器等を生み出しはしたが、それを使う機会を求めることは無かった。
正確には、その力を確認したいという欲求が無いわけではなかったが。まだまだ無数にある未知の魔導遺産の研究が出来なくなるリスクを考えれば、必要の無い戦いを起こすべきでは無いと考えていた。
その停滞が崩れ去ったのは、ある精霊種がその魔導遺産を発掘した時だった。
見た目は、薄汚れた王冠。大した呪力も魔力も無く、何か特殊な細工がされている訳でもない。
どんな能力を持った物なのかはおろか、どうやって起動させるかも不明。
『それ』を採掘した精霊種も、持ち帰られた『それ』を研究した精霊種もみな、『それ』が無価値なガラクタであると判断した。
本来であれば、『それ』は確かにその評価の通りガラクタだった。
『それ』に宿るモノも、その邪《よこしま》なる意思も、形を成すことなく薄れて消えていくはずだった。
『それ』が必要としていたのは、消えゆく運命さえもねじ伏せる膨大な魔力と、黒に染め上げることの出来る無垢な魂。
前者はともかく、後者は精霊種の里では到底得られるものではないはずだった。
しかし、何の因果か宿命か。その時、里には居たのである。上位種さえも超越した魔力適性と、精霊種らしからぬ純粋な精神を持つ者が。
当代の女王の娘。名をミレイユというその精霊種は、『それ』が求める要素を完璧に満たしていた。
『それ』の放つ特殊な何かに引き寄せられたのか、はたまたただの偶然か。
ミレイユは、里の倉庫に打ち捨てられていた『それ』を見つけた。見つけてしまった。
呪われた魔導遺産。
『強欲なる愚王の偽冠』を。
そこまで語り、女王は一息つく。
「ふぅ・・・これほど長く話したのはいつぶりじゃろうか。」
「強欲なる愚王の偽冠・・・それが、あなた達が平穏を捨ててまでシャクシャラに手を出すことになった原因ですか。」
「まあ、そうなるのう。少なくともそれ以前は300年近く、他種族の領域を侵してはおらぬ」
なるほど。となると、その強欲なる愚王の偽冠・・・長いな、偽冠でいいや。
その偽冠のもつ力は、精霊種が長きに渡る安寧を失ってまで勝ち目の薄い侵攻をする程に異常なものなのだろう。
「その偽冠というのは、一体どういう力を持っている物なんですか?」
「・・・説明するより、見せた方が早いじゃろう。」
そう言うと、女王は歩き出す。
見せた方が早い・・・?そんな、見てわかる特徴があるものなのだろうか。
ちらりとミレイユを見る。
「・・・・・?」
「ああいや、なんでもないよ。」
きょとんとした顔で見返された。
・・・なんか、思ったより随分と落ち着いている。何かトラウマの様なものがあったみたいだし、女王を前にした時にどうなるか心配だったんだけど・・・
まあ、元気ならいいか。
気を取り直して、女王の後を追う。
ボロボロになった部屋を抜け、過剰に存在感を発している巨大な水晶を通り過ぎ、隠されていた階段を降りた。
そしてその先で。
質素だが神秘的な雰囲気を感じる部屋で。
僕たちは、それを目にする。
「・・・・・・・・・・・・え?」
「こ、これは一体・・・どういう、こと、ですか?」
絶句する僕と、驚愕するヒルダ。
しかし、僕たちのこの反応を責められる者は居ないだろう。
僕たちの目の前には、大きなベットに横たわる精霊種が居た。
見た目は、12.3歳の少女で。艶のある髪は、多少は遊ばせているが肩口でしっかりと揃えられている。
そこまではいい。そこまでは、精霊種として普通の特徴だ。
問題があるとすれば。
「なん、で・・・ミレイユが、そこに?」
その精霊種の外見が、僕たちの知るミレイユそのものだということか。
あの時の権能持ちの彼のように、魔法で見た目を変えている訳では無いだろう。そんなことをする意味が無い。
やはり、この状況を簡潔に言葉にするなら。
「ミレイユが、ふたり・・・!?」
ヒルダが言ったその言葉が適切だろう。
そう、僕たちの目の前で眠る精霊種は紛れも無くミレイユで。
僕たちの後ろに居るのも、間違いなくミレイユだった。
混乱する僕たちの後ろでは。
ミレイユが、変わらずきょとんとした顔で・・・何もおかしなことは起きていないというような顔で、そこに立っていた。
ああ、そういえば。
今更、僕は思い至る。
今日ここで、精霊種と戦って。権能持ちの彼と、女王と会話して。
その間、何か違和感を感じていた。
その違和感。それは些細なもので、意味なんて無いと思っていたけど。そこで眠る精霊種を見て、急速に意味を持ち始める。
彼らは、今此処に至るまで一度も。
僕たちが連れてきた精霊種の少女を。
『ミレイユ』、とは呼んでいない。
彼らを突き動かすものは、新しい知識への欲求のみで、本質的に他者に強い興味を持つことは無い。
そしてその知的好奇心を満たす物は、彼らの近くにあった。
太古に滅びた、魔導国家。
沈黙の平原を跋扈するゴーレムを筆頭に、その遺産は種族を問わず研究者にとって正しく垂涎の代物だった。
研究対象の質もさることながら、特筆すべきは何よりもその量。
いくら採掘しようと尽きる気配を見せない絶対的な数。そして、ゴーレムという守護者の存在により、他種族の無粋な盗人からも護られていた。
精霊種とて、ゴーレムと敵対しないわけではない。だが、ゴーレムは種族では無いため精霊種を縛る誓約は効力を発揮しない。
そして、精霊種は本来、数多の種族と真っ向から戦争を成立させることが出来る程に強力な種族だ。
近接攻撃しか出来ない木偶など、彼らの敵にはならない。
およそ尽きることの無い、多種多様な魔導遺産。それらの研究をしているだけで、精霊種は満足だった。それによって、いくつかの新しい兵器等を生み出しはしたが、それを使う機会を求めることは無かった。
正確には、その力を確認したいという欲求が無いわけではなかったが。まだまだ無数にある未知の魔導遺産の研究が出来なくなるリスクを考えれば、必要の無い戦いを起こすべきでは無いと考えていた。
その停滞が崩れ去ったのは、ある精霊種がその魔導遺産を発掘した時だった。
見た目は、薄汚れた王冠。大した呪力も魔力も無く、何か特殊な細工がされている訳でもない。
どんな能力を持った物なのかはおろか、どうやって起動させるかも不明。
『それ』を採掘した精霊種も、持ち帰られた『それ』を研究した精霊種もみな、『それ』が無価値なガラクタであると判断した。
本来であれば、『それ』は確かにその評価の通りガラクタだった。
『それ』に宿るモノも、その邪《よこしま》なる意思も、形を成すことなく薄れて消えていくはずだった。
『それ』が必要としていたのは、消えゆく運命さえもねじ伏せる膨大な魔力と、黒に染め上げることの出来る無垢な魂。
前者はともかく、後者は精霊種の里では到底得られるものではないはずだった。
しかし、何の因果か宿命か。その時、里には居たのである。上位種さえも超越した魔力適性と、精霊種らしからぬ純粋な精神を持つ者が。
当代の女王の娘。名をミレイユというその精霊種は、『それ』が求める要素を完璧に満たしていた。
『それ』の放つ特殊な何かに引き寄せられたのか、はたまたただの偶然か。
ミレイユは、里の倉庫に打ち捨てられていた『それ』を見つけた。見つけてしまった。
呪われた魔導遺産。
『強欲なる愚王の偽冠』を。
そこまで語り、女王は一息つく。
「ふぅ・・・これほど長く話したのはいつぶりじゃろうか。」
「強欲なる愚王の偽冠・・・それが、あなた達が平穏を捨ててまでシャクシャラに手を出すことになった原因ですか。」
「まあ、そうなるのう。少なくともそれ以前は300年近く、他種族の領域を侵してはおらぬ」
なるほど。となると、その強欲なる愚王の偽冠・・・長いな、偽冠でいいや。
その偽冠のもつ力は、精霊種が長きに渡る安寧を失ってまで勝ち目の薄い侵攻をする程に異常なものなのだろう。
「その偽冠というのは、一体どういう力を持っている物なんですか?」
「・・・説明するより、見せた方が早いじゃろう。」
そう言うと、女王は歩き出す。
見せた方が早い・・・?そんな、見てわかる特徴があるものなのだろうか。
ちらりとミレイユを見る。
「・・・・・?」
「ああいや、なんでもないよ。」
きょとんとした顔で見返された。
・・・なんか、思ったより随分と落ち着いている。何かトラウマの様なものがあったみたいだし、女王を前にした時にどうなるか心配だったんだけど・・・
まあ、元気ならいいか。
気を取り直して、女王の後を追う。
ボロボロになった部屋を抜け、過剰に存在感を発している巨大な水晶を通り過ぎ、隠されていた階段を降りた。
そしてその先で。
質素だが神秘的な雰囲気を感じる部屋で。
僕たちは、それを目にする。
「・・・・・・・・・・・・え?」
「こ、これは一体・・・どういう、こと、ですか?」
絶句する僕と、驚愕するヒルダ。
しかし、僕たちのこの反応を責められる者は居ないだろう。
僕たちの目の前には、大きなベットに横たわる精霊種が居た。
見た目は、12.3歳の少女で。艶のある髪は、多少は遊ばせているが肩口でしっかりと揃えられている。
そこまではいい。そこまでは、精霊種として普通の特徴だ。
問題があるとすれば。
「なん、で・・・ミレイユが、そこに?」
その精霊種の外見が、僕たちの知るミレイユそのものだということか。
あの時の権能持ちの彼のように、魔法で見た目を変えている訳では無いだろう。そんなことをする意味が無い。
やはり、この状況を簡潔に言葉にするなら。
「ミレイユが、ふたり・・・!?」
ヒルダが言ったその言葉が適切だろう。
そう、僕たちの目の前で眠る精霊種は紛れも無くミレイユで。
僕たちの後ろに居るのも、間違いなくミレイユだった。
混乱する僕たちの後ろでは。
ミレイユが、変わらずきょとんとした顔で・・・何もおかしなことは起きていないというような顔で、そこに立っていた。
ああ、そういえば。
今更、僕は思い至る。
今日ここで、精霊種と戦って。権能持ちの彼と、女王と会話して。
その間、何か違和感を感じていた。
その違和感。それは些細なもので、意味なんて無いと思っていたけど。そこで眠る精霊種を見て、急速に意味を持ち始める。
彼らは、今此処に至るまで一度も。
僕たちが連れてきた精霊種の少女を。
『ミレイユ』、とは呼んでいない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる