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29 作戦会議と情報開示

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二人は、里のリリィの家に戻っていた。

リリィは荒野周辺の詳細な地図を机に広げ、レイジに説明をする。

「ここが、私たちが会った神殿で・・・この荒野と草原の境界部に、人間達の砦があるの。さっき見せた地図よりはわかりやすいかな?」
「ああ・・・それにしても、今度は随分と詳細な地図だな。」
「あの荒野には、結構前から人が住んでたからね。流石に調査はされきってるよ。」
「ほう・・・なるほどな。」

レイジは、神殿の位置と森の入口までの距離を確認する。

「意外と、あの神殿は草原の方ににあるんだな。何となく中心にあるもんだと思ってたが・・・」
「その認識はそこまで間違って無いかな。ここの荒野は元々隣の草原と同じくらい緑が豊かだったんだ。というより、一つの草原だったって言った方がいいかな?」
「ん、ああ、なるほど。そう考えれば、だいたい中心部か。」

地図を改めて見て納得するレイジ。
東西に長い荒野と草原は、少しだけ荒野の方が広い。

その差を考慮すれば、神殿の位置は確かに中心近くにあった。

「さて・・・こうやって見ると、例の砦は本当に神殿の近くにあるんだな。」
「うん。私は潜入前の最後の休憩をしようと思って、あそこの神殿にいたんだ。」
「休憩できるような場所か、あそこ・・・?」
「結構居心地良いんだよ。小さい頃から何度も行ってたからかもしれないけどね。それに・・・」

リリィは更に何か言葉を続けようとしたが、途中で首を横に振って言葉を切った。

「・・・いや、とりあえずまあ、そんな感じだよ。」
「ん・・・?」

レイジはその不自然な区切り方に、リリィが何を言おうとしたのか気になったが追求はしないことにした。

「それで、例の砦にはどう近づけば潜入できる?」
「荒野側からは無理だね。身を隠せるようなものも無いし、四六時中見張りが居るから。でも、草原側まで回り込めば監視網は合ってないようなものだから・・・」
「そこまで行けば簡単に入り込めるってわけか。」

リリィは頷く。

「根本的に、奴らは私たちを何も警戒していないの。草原側に回るのも難しくないし、現に偵察だけなら私ももう何回もやってる。」
「なるほどな。ただ、奥深くまで潜り込むとなると、リスクは跳ね上がるか。 」
「そうだね。アイツら、無駄に数と装備だけは揃ってるから。」

そしてリリィは地図の一点を指さす。そこは砦のある位置から大きく南に逸れた場所である。
荒野と草原、そしてその南にある山岳地帯の境目だ。

「あとは・・・ここを通れば、カインとルルアでもバレないと思うよ。」
「ふむ、その理由は?」
「単純に遠くて見つかりにくいし、万一見られても山だとワイバーンがそこまで珍しくないからね。というより、アイツらが使ってるワイバーンはここの山で捕まえたものだと思う。」
「それだと、捕獲に来た奴らと出くわしたりしないか?ただでさえ、アイツら最近二頭のワイバーンを失ってるわけだしな。」

レイジの問いに、リリィは首を横に振る。

「ありえない。あいつらは手間をかけてまでこれ以上に戦力を増強しようなんて考えないし、ワイバーン二頭くらいなら諦めた方がコスト的に安く済むって考えるから。」
「随分と詳しいな。その情報も何度かの調査でわかったのか?」
「まあ・・・うん。」

少し歯切れの悪いリリィ。
そこでレイジはセシリアの言葉を思い出す。

「そういえば・・・セシリアから聞いたが、リリィは召喚者とか、人間側の事情をかなり良く知ってるらしいが、これまでも一人で調査したりしていたのか?」
「えっと、まあ、そうとも言えるかな?」
「はっきりしねぇな。言えない事情があるなら別に良いが・・・」
「いや、そういう訳じゃ・・・」

リリィはしばらく考え込む。
そして、何かを決めたように頷くと、レイジの顔を見る。

「そうだね、レイジには言っていいかな。そもそも、レイジも私と同じ・・・・だったしね。」
「俺と、同じ・・・?」
「どういう事だって言いたい顔してるね。」

リリィはレイジの表情がおかしかったのか、小さく笑う。
そして一度咳払いをして表情を真面目なものにした。

「私もね、声が聞こえるの。姿は見えないけど・・・確かに誰かの声が。」
「なに・・・?」

レイジはそれを聞いて思い出す。
リリィに管理者の声の事を説明した時に、彼女の理解が妙に早かったことを。

「・・・ああ、だからあの時俺の簡単な説明でも納得出来たのか。」
「うん。聞こえてくる声っていうのがどういうものだか、私もよく知ってたから。」

リリィはレイジの言葉に頷く。

「その声がね。私を助けてくれるの。召喚者の情報を得る方法を教えてくれたり、アイツらの警備の穴を教えてくれたり。直接的に情報を教えてくれる訳じゃ無いけど・・・それのお陰で、私は一人でも調査することが出来たの。」
「ふむ・・・それは今でも聞こえるのか?」

首を横に振るリリィ。

「それが、レイジと会った後あたりから聞こえないんだよね。たまたま話しかけて来てないだけかもしれないけど・・・」
「そうなのか。まぁ、いずれまた聞こえるかもな。」

レイジはとりあえず相槌をうつ。

「俺も後でおっさんにその声の心当たりが無いか聞いてみるか。・・・さて、とりあえずはリリィが言ったルートで良いだろう。」
「カインとルルアが本気で飛べば、すぐにつくと思うよ。」
「そうか。まあ、いずれにしろ、後は現地に行って調査しないとわからないな。砦周辺の案内は頼むぜ、リリィ。」
「うん、任せて。」
「よし、じゃあ念の為日が落ちるのを待ってから出発するか。少しでも見つかる可能性は削りたいしな。」

立ち上がるレイジ。

「出来れば防寒具が欲しい。死なないとはいえ、寒さがきついのはもうよく分かったからな。」
「わかった、少し探してくるね。あ、レイジはこの部屋を好きに使っていいから。」
「悪いな、助かる。」

そして、リリィは防寒具を探しに部屋を出ていく。
その足音が聞こえなくなった事を確認し、レイジは管理者の男に話しかける。

「なぁ、おっさん。さっきリリィが言ってた声について、なにか心当たりがあるか?」
『・・・ない、訳では無いな。確証はないが。』
「まぁ、恐らくはおっさんと同じような存在だろうな。確か、信仰心とかが強いものは管理者とかと『近く』なるんだろ?」
『ああ、その通りだ。私も、その可能性が高いと考えている。・・・それで、異能の件なのだが。』

レイジは眉をあげる。

「何かわかったのか?」
『ああ。・・・もっとも、汝に簒奪の異能が与えられていないことがハッキリしただけだが。』
「それはそうだろうな。何か力を持ってる感じ全然しねぇし。」
『それで、一つ頼みたいのだが・・・汝が目覚めた神殿に、もう一度行ってみてくれないか?』

管理者の言葉に、レイジは疑問を漏らす。

「それは、別に構わねぇが・・・あんただったら、わざわざ行かなくたってどこだって調べられるんじゃねぇのか?いや、知らねぇけど。」
『それは、そうなのだが。汝が行くことに意味があるのだ。』
「まぁ、そこまで言うなら行ってやるよ。」
『頼む。』

その言葉を最後に、管理者の声は聞こえなくなる。

特にやることも無くなったレイジは、リリィが来るまで地図を眺めながら地形を覚えていた。
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