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第10章
80 雨間 ② ☆
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chairman's office
「──長い期間、本当にお疲れ様」
「代表もお疲れ様でした」
「付き合わせて悪かったね。大変だったでしょう?」
「いえいえ。お役に立てましたかね」
「ふふ、大いに」
「それは何よりです」
「これも君の貢献あってのことだね、ベリアルくん」
「どうぞお気遣いなく。仕事ですから」
「しかし、君ほどの能力があれば、アジア支部の支部長も十分務まりそうだけれど」
「はは、過分なお言葉です。私には華も野心もないので、裏方が性に合っているんですよ。今の立場が一番楽で気に入っています」
「相変わらず、謙虚だね」
「恐縮です。ああ、そうだ、こちらをお返ししないと」
「おっと、そうだった! はい、確かに受け取りましたよ」
「それで、こちらが“今回の収穫”です」
「どうもありがとう。とても助かる。確認してすぐ使ってみるよ。じゃ、詳細はまた後で」
「畏まりました。これから方々に顔を出して来ようと思うんですが、よろしければご一緒にいかがですか?」
「うん。その前に、まずは彼に会っておこうと思って。これも渡したいし」
「ああ、副代表ですね。それがよろしいかと思います。例の如くお疲れでしょうから、喜ばれるのではないでしょうか」
「そうだね。さてと──」
-----------------
executive room
「──ただいま。戻ったよ」
「お疲れ様です……」
「君もお疲れ。昨日話したばかりだから、あまり久々という感じはしないね」
「……いえ、久しぶりにお会いできて嬉しいです」
「そう言ってもらえると、帰って来た甲斐があるなあ。留守中、いろいろと手間を取らせたね。はい、お土産!」
「えっ、いただいてよろしいんですか……恐れ入ります……」
「気にしないで。君に無理をさせた罪滅ぼしも兼ねているんだから。さあ、開けてごらん」
「ありがとうございます。それじゃ、失礼して……」
ガサガサ
「……! バエルさん……これ、パンダグッズやないですか」
「そうそう。成都に行った時、取引先の厚意で、ジャイアントパンダの繁殖研究基地に招待されたんだ。君が好きだったなと思って、目に付いたものを片っ端から買ってきた。外国人には制限が多いと聞いていたけど、周りが融通をきかせてくれて助かったよ」
「…………」
(表情は変わらないけれど、いつもより目が輝いている。わかりやすいね……)
「気に入りそうなものはあったかな?」
「……! すみません……テンション上がり過ぎて、完全に我を忘れてました……全部、家宝にします……」
「あはは、よかった。少しは君の労をねぎらえたかな。ところで、××の進捗についてなんだけど──」
「…………」
「──ふふ、今はそれどころじゃなさそうだね」
「……! あ……うあ……俺、また……っ、面目ないです……一旦、しまっときます……」
「いいんだよ。そんなに喜んでくれて何よりだ。君は本当にパンダに目がないんだな」
「……はい。タバコとコーヒーと甘いもんと……猫とパンダとバエルさんに支えられて、どうにか生きてます……」
「思いのほか、支えになるものが多いんだね。最後、さらっと交ぜてくれてありがとう。素直に嬉しかった」
「アホみたいな情報垂れ流しただけやのに……身に余るお言葉、痛み入ります……」
「じゃあ、まずは土産話でも聞いてくれるかな」
「はい、喜んで。コーヒー淹れましょか……?」
「ああ、いいね! 頼むよ。それにしても……」
「……はい?」
「前々から思っていたんだが、君のその、敬語と関西弁とくだけた言い回しが交ざった喋り方、好きだなあ」
「……っ、申し訳ありません。緊張感が足りず……気を引き締めます」
「いいんだよ、無理に直そうとしなくても。きっと、こちらが君の“素”なんだろう」
「……そう、なんでしょうか。電話とか、他の人間と会話してる時は、こんなことならへんのですが……」
「あはは、それだけ気を許してくれているということかな。嬉しいなあ。気にしないで、君のペースで話してくれ。ずっと聞いていたいから」
「……そう言っていただけると、楽になりますね……」
(あー……めっちゃ嬉しい……疲れ、消えてく気ぃする……)
「ところで、体調はどうかな。また無理をさせたようだから気になってね」
「大丈夫です。特に問題ありません」
(嘘やん、頭痛も消えた……もはや、バエルさんの御利益としか思われへん。一生ついて行かせて欲しい……)
「そうか。何だか、さっきより顔色がいいみたいだ。パンダのパワーかも知れないね」
「いえ、むしろバエルさんのおかげやと思います」
「ははは、そんな大層なものじゃないんだけど。でもよかった」
「──長い期間、本当にお疲れ様」
「代表もお疲れ様でした」
「付き合わせて悪かったね。大変だったでしょう?」
「いえいえ。お役に立てましたかね」
「ふふ、大いに」
「それは何よりです」
「これも君の貢献あってのことだね、ベリアルくん」
「どうぞお気遣いなく。仕事ですから」
「しかし、君ほどの能力があれば、アジア支部の支部長も十分務まりそうだけれど」
「はは、過分なお言葉です。私には華も野心もないので、裏方が性に合っているんですよ。今の立場が一番楽で気に入っています」
「相変わらず、謙虚だね」
「恐縮です。ああ、そうだ、こちらをお返ししないと」
「おっと、そうだった! はい、確かに受け取りましたよ」
「それで、こちらが“今回の収穫”です」
「どうもありがとう。とても助かる。確認してすぐ使ってみるよ。じゃ、詳細はまた後で」
「畏まりました。これから方々に顔を出して来ようと思うんですが、よろしければご一緒にいかがですか?」
「うん。その前に、まずは彼に会っておこうと思って。これも渡したいし」
「ああ、副代表ですね。それがよろしいかと思います。例の如くお疲れでしょうから、喜ばれるのではないでしょうか」
「そうだね。さてと──」
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executive room
「──ただいま。戻ったよ」
「お疲れ様です……」
「君もお疲れ。昨日話したばかりだから、あまり久々という感じはしないね」
「……いえ、久しぶりにお会いできて嬉しいです」
「そう言ってもらえると、帰って来た甲斐があるなあ。留守中、いろいろと手間を取らせたね。はい、お土産!」
「えっ、いただいてよろしいんですか……恐れ入ります……」
「気にしないで。君に無理をさせた罪滅ぼしも兼ねているんだから。さあ、開けてごらん」
「ありがとうございます。それじゃ、失礼して……」
ガサガサ
「……! バエルさん……これ、パンダグッズやないですか」
「そうそう。成都に行った時、取引先の厚意で、ジャイアントパンダの繁殖研究基地に招待されたんだ。君が好きだったなと思って、目に付いたものを片っ端から買ってきた。外国人には制限が多いと聞いていたけど、周りが融通をきかせてくれて助かったよ」
「…………」
(表情は変わらないけれど、いつもより目が輝いている。わかりやすいね……)
「気に入りそうなものはあったかな?」
「……! すみません……テンション上がり過ぎて、完全に我を忘れてました……全部、家宝にします……」
「あはは、よかった。少しは君の労をねぎらえたかな。ところで、××の進捗についてなんだけど──」
「…………」
「──ふふ、今はそれどころじゃなさそうだね」
「……! あ……うあ……俺、また……っ、面目ないです……一旦、しまっときます……」
「いいんだよ。そんなに喜んでくれて何よりだ。君は本当にパンダに目がないんだな」
「……はい。タバコとコーヒーと甘いもんと……猫とパンダとバエルさんに支えられて、どうにか生きてます……」
「思いのほか、支えになるものが多いんだね。最後、さらっと交ぜてくれてありがとう。素直に嬉しかった」
「アホみたいな情報垂れ流しただけやのに……身に余るお言葉、痛み入ります……」
「じゃあ、まずは土産話でも聞いてくれるかな」
「はい、喜んで。コーヒー淹れましょか……?」
「ああ、いいね! 頼むよ。それにしても……」
「……はい?」
「前々から思っていたんだが、君のその、敬語と関西弁とくだけた言い回しが交ざった喋り方、好きだなあ」
「……っ、申し訳ありません。緊張感が足りず……気を引き締めます」
「いいんだよ、無理に直そうとしなくても。きっと、こちらが君の“素”なんだろう」
「……そう、なんでしょうか。電話とか、他の人間と会話してる時は、こんなことならへんのですが……」
「あはは、それだけ気を許してくれているということかな。嬉しいなあ。気にしないで、君のペースで話してくれ。ずっと聞いていたいから」
「……そう言っていただけると、楽になりますね……」
(あー……めっちゃ嬉しい……疲れ、消えてく気ぃする……)
「ところで、体調はどうかな。また無理をさせたようだから気になってね」
「大丈夫です。特に問題ありません」
(嘘やん、頭痛も消えた……もはや、バエルさんの御利益としか思われへん。一生ついて行かせて欲しい……)
「そうか。何だか、さっきより顔色がいいみたいだ。パンダのパワーかも知れないね」
「いえ、むしろバエルさんのおかげやと思います」
「ははは、そんな大層なものじゃないんだけど。でもよかった」
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