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3、まずは作戦を立てましょうか①
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「れ、レイ。私、上手く話せてたかしら……」
「ええ、マリア様。むしろ上手く話せすぎております。私は見ていて歯痒い想いでありました」
「そう。なら良かった」
ほっと息をついて、胸を抑えた。さも安心したように見せかけながら、内心はだらだらと汗をかいている感じといえば分かるだろうか。平静を装ってレイに声を掛けた。
「この後、なにか予定はあったかしら」
「いえ。本日はお茶会に一日掛りの予定でしたので、特にはございません。ゆっくりお体を休めてください」
「ええ。ではそうさせてもらうわ。あなたも無理をしないで、早く休んでね」
それだけ言うと、レイは恭しく頭を下げて「お休みなさいませ」と囁いて戸を閉めた。
大人びた硬い靴音に耳をそばだてて、それが遠くなって聞こえなくなる頃、マリアは思い切り良くため息をついた。
「……生まれた時から、わたくしがわたくしである記憶は残っている。わたくし、と言うとややこしいわね、マリアの記憶……」
おもむろに書き物机へと腰掛けて一枚紙を引き抜いた。ペンや紙を掴む体はむちむちとしてまだ幼い。それもそのはずだ、どれほど大人びていようとマリアは七歳ぽっちの少女であるのだから。こん、とペンの頭で机を叩いた。
「だけど、私はマリアじゃない」
なんと言えばいいのだろう。このもやもやとした感覚を。単純な転生とは違う、言うなればそう、体の中に二人の人生が宿っているような。
だけど、では別人格としてマリアが存在するのかといえばそうではない。ではあきらが別人格なのかというのもなんだか違う。
「んん……なんだこれ……」
どうすべきか。先駆者でもいればいいが、探す時間も存在する保証もないものに縋る訳にはいかない。
思いつきでペンを片手にさらさらと「マリア」としてのこの世界の記憶と、「あきら」としての現実世界の記憶を書き起こしていく。と、思いの外これが功を奏して、紐組みのノート1冊をほとんど使い切った頃にはあきらとしての記憶もマリアとしての記憶も平等に覚えていることが証明されていた。
「……つまり」
人格の分離や単純な成り代わりではなく、恐らくは何らかの要因で、世界線すら違う赤の他人であるマリアとあきらがリンクしたのだということだ。少女はため息をついた。今日のうちで50は幸せが逃げていそうだ。
しかしこうなった以上はいつまでも悲観している訳にもいかない。しかもマリアが生きているこの世界はヒノセンであると言うのだ。となると、悪役令嬢としてキャスティングされていたこの少女に振り掛かる未来というのは自ずと限られてくる。というか、よくわかっている以外の何物でもない。何せあきらはヒノセンに関してだけはクラスタと名乗れるほどのヘビープレイヤーだったんだから。 セリフを一語一句覚えているレベルで繰り返しプレイした。あほらしいと言われてもそれが真実だ。
では、マリアに残された未来の可能性とは何か?簡単な二択である。すなわち追放か、死か。ため息を落としそうになって、やめた。
「悩んでいても仕方ありませんわ。先代の悪役令嬢もの主人公達に倣って、わたくしも行動しませんと」
書き留めたノートを照らし合わせながら、数人の男の名前の頭に丸をつけていく。それは俗に言う、ゲームの攻略キャラという人物らの名前だった。
「今のところ、出てきているのはレイのみかしら。残りはあと5人よね」
呟いて、サラサラと書きつけていく。先程まで話していたマリアの従者であるレイ、ランドルフ殿下の義弟ルカ。 王国騎士のアレン、その主君である王子リオン。元暗殺者のヨルに、情報屋のクロエ。どれもこれも見なれた名前だが、実際会ったことのある人物は現状レイのみしかいない。
「く……スピンオフにもDLCにもない時間軸すぎてどこで突如会うとも分からないなんて……!本編時間軸であれば登場月なんて楽勝で覚えていますのに!」
すすす、とペンを滑らせて拳を握る。それから眉をしかめて名前を細めで眺めると、ひとつの名前の上にとんと先を置いた。
「今のところ、早い段階で出会う確率が高いのは彼よね」
そこには流麗な文字で「ルカ」と書かれていた。
ルカ・エルドラド。多大なる白魔法の才を持ちながら、黒魔法が主流となる帝国王家からは疎まれていた不遇の子。自己肯定感の低い、幸の薄い青年で間違いはなかったはずだ。
「ルカは義姉となるはずのマリアからも冷遇されていた。だけどルカとフィオナがくっついてくれたらマリアは追放エンドになったはず。逆にアレンとリオくんはダメ。確かヨルも、ダメ」
懐かしい呼びながらノートに今後の方針を記していく。
「とにかく死にたくない。命あっての物種だもの。となると必然的にルカかリオン王子をフィオナとくっつけなくてはいけない」
あらかた行動予定が纏まった辺りで小さな音を立て、ランプの火が消えた。マリアはそれを区切りにグッと背伸びする。
「……よし。ならこんな感じでいきましょう」
椅子から降りてベッドサイドに向かう途中でふっと机を振り返った。沈黙の末、そそくさと机の引き出しにそのノートをしまう。見つかったら面倒だわ、と、無駄にドキドキして胸を抑えた。
「……二重底とか、作りたいわね」
「ええ、マリア様。むしろ上手く話せすぎております。私は見ていて歯痒い想いでありました」
「そう。なら良かった」
ほっと息をついて、胸を抑えた。さも安心したように見せかけながら、内心はだらだらと汗をかいている感じといえば分かるだろうか。平静を装ってレイに声を掛けた。
「この後、なにか予定はあったかしら」
「いえ。本日はお茶会に一日掛りの予定でしたので、特にはございません。ゆっくりお体を休めてください」
「ええ。ではそうさせてもらうわ。あなたも無理をしないで、早く休んでね」
それだけ言うと、レイは恭しく頭を下げて「お休みなさいませ」と囁いて戸を閉めた。
大人びた硬い靴音に耳をそばだてて、それが遠くなって聞こえなくなる頃、マリアは思い切り良くため息をついた。
「……生まれた時から、わたくしがわたくしである記憶は残っている。わたくし、と言うとややこしいわね、マリアの記憶……」
おもむろに書き物机へと腰掛けて一枚紙を引き抜いた。ペンや紙を掴む体はむちむちとしてまだ幼い。それもそのはずだ、どれほど大人びていようとマリアは七歳ぽっちの少女であるのだから。こん、とペンの頭で机を叩いた。
「だけど、私はマリアじゃない」
なんと言えばいいのだろう。このもやもやとした感覚を。単純な転生とは違う、言うなればそう、体の中に二人の人生が宿っているような。
だけど、では別人格としてマリアが存在するのかといえばそうではない。ではあきらが別人格なのかというのもなんだか違う。
「んん……なんだこれ……」
どうすべきか。先駆者でもいればいいが、探す時間も存在する保証もないものに縋る訳にはいかない。
思いつきでペンを片手にさらさらと「マリア」としてのこの世界の記憶と、「あきら」としての現実世界の記憶を書き起こしていく。と、思いの外これが功を奏して、紐組みのノート1冊をほとんど使い切った頃にはあきらとしての記憶もマリアとしての記憶も平等に覚えていることが証明されていた。
「……つまり」
人格の分離や単純な成り代わりではなく、恐らくは何らかの要因で、世界線すら違う赤の他人であるマリアとあきらがリンクしたのだということだ。少女はため息をついた。今日のうちで50は幸せが逃げていそうだ。
しかしこうなった以上はいつまでも悲観している訳にもいかない。しかもマリアが生きているこの世界はヒノセンであると言うのだ。となると、悪役令嬢としてキャスティングされていたこの少女に振り掛かる未来というのは自ずと限られてくる。というか、よくわかっている以外の何物でもない。何せあきらはヒノセンに関してだけはクラスタと名乗れるほどのヘビープレイヤーだったんだから。 セリフを一語一句覚えているレベルで繰り返しプレイした。あほらしいと言われてもそれが真実だ。
では、マリアに残された未来の可能性とは何か?簡単な二択である。すなわち追放か、死か。ため息を落としそうになって、やめた。
「悩んでいても仕方ありませんわ。先代の悪役令嬢もの主人公達に倣って、わたくしも行動しませんと」
書き留めたノートを照らし合わせながら、数人の男の名前の頭に丸をつけていく。それは俗に言う、ゲームの攻略キャラという人物らの名前だった。
「今のところ、出てきているのはレイのみかしら。残りはあと5人よね」
呟いて、サラサラと書きつけていく。先程まで話していたマリアの従者であるレイ、ランドルフ殿下の義弟ルカ。 王国騎士のアレン、その主君である王子リオン。元暗殺者のヨルに、情報屋のクロエ。どれもこれも見なれた名前だが、実際会ったことのある人物は現状レイのみしかいない。
「く……スピンオフにもDLCにもない時間軸すぎてどこで突如会うとも分からないなんて……!本編時間軸であれば登場月なんて楽勝で覚えていますのに!」
すすす、とペンを滑らせて拳を握る。それから眉をしかめて名前を細めで眺めると、ひとつの名前の上にとんと先を置いた。
「今のところ、早い段階で出会う確率が高いのは彼よね」
そこには流麗な文字で「ルカ」と書かれていた。
ルカ・エルドラド。多大なる白魔法の才を持ちながら、黒魔法が主流となる帝国王家からは疎まれていた不遇の子。自己肯定感の低い、幸の薄い青年で間違いはなかったはずだ。
「ルカは義姉となるはずのマリアからも冷遇されていた。だけどルカとフィオナがくっついてくれたらマリアは追放エンドになったはず。逆にアレンとリオくんはダメ。確かヨルも、ダメ」
懐かしい呼びながらノートに今後の方針を記していく。
「とにかく死にたくない。命あっての物種だもの。となると必然的にルカかリオン王子をフィオナとくっつけなくてはいけない」
あらかた行動予定が纏まった辺りで小さな音を立て、ランプの火が消えた。マリアはそれを区切りにグッと背伸びする。
「……よし。ならこんな感じでいきましょう」
椅子から降りてベッドサイドに向かう途中でふっと机を振り返った。沈黙の末、そそくさと机の引き出しにそのノートをしまう。見つかったら面倒だわ、と、無駄にドキドキして胸を抑えた。
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