悪役令嬢に転生したので死亡フラグは拳で叩き折らせて頂きますわ!

依田まりん

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5、新キャラクター様でいらっしゃいますわ

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「………この帝国きっての恥晒しめが俺の叔父だ」
「こんにちは~」
「え、ええと。こんにちは……じゃなくて、お目にかかれて光栄ですわ、ヘミングウェイ様」
「わあ凄い。ランディキミってばこんないい子どこで拾ってきたの?」 
「ランディ?」
「その名で呼ぶな阿呆。拾ってきたも何も、貴様の兄君が計画した茶会でだと伝えたろうが」
「あえ?そうだっけ。なんだい、『茶会で妃選びなど低俗極まりない……』とか言ってたのにちゃっかりしちゃって~!」
「よせ馬鹿!!余計なことを言うな!!」
「えっ何、……ごめんもしかしてマリアちゃんの前だからカッコつけてた?叔父さん痛恨のミス」
「もういい貴様いい加減口を閉ざせ!!」
「ランディ……」
「貴様はいつまでその呼び方に戸惑っている!!」
「だ、だってあの殿下がランディだなんて……」
「そうだよ、ちっちゃい頃から呼んでるのさ。なんなら昔は自分でもランディって言ってたんだ」
「まあ!ご自身をランディと?」
「そうそう!結婚したら呼んであげてね」
「ええい煩いたわけ共!!いい加減にしろ!!」
声高に叫ぶと、ランドルフはぜえぜえとらしくもなく息を切らしながら何やら思いもよらない方向で意気投合した二人を睨みつけた。ヘミングウェイはそんな彼の様子をさも楽しげに眺めては、マリアだけに見えるよう茶目っ気たっぷりに舌を出す。思わず小さく吹き出して、マリアはランドルフへ向き直った。
「申し訳ありませんわ、殿下。他意はありませんの。ただ、昔の殿下があまりに可愛らしかったものですから、つい。ご不快にさせたかしら」
「自覚があるなら貴様も控えろ阿呆。揃って鬼の首でも取ったように騒ぎ立てよって。これだから此奴に会うのは面倒で堪らん」
舌打ちひとつ、ランドルフは話すことはないとばかりにくるりと叔父に背を向ける。
「ランドルフ殿下、」
声を掛けるも、聞く耳を持たない。慌ててヘミングウェイを振り返れば、彼はまるで気にしないとばかりに欠伸を見せつけただマリアへ大きく手を振った。マリアは拍子抜けしたように暫し瞳を瞬かせ、それから思い出したように膝を折ってその部屋を後にした。数秒の後、重い扉が軋んで閉じる。ランドルフはちらりと背後を仰ぎ、そのまま前を向いた。
「……あの、殿下」
「何だ。文句なら聞かんぞ」
「いえ、文句などでは。ただ、ヘミングウェイ様は随分面白い方でいらっしゃいますのね」
「面白いのははじめだけだろうよ。直に相手をするのも疎ましくなる」
「そうでしょうか」 
ぼそりとマリアが呟いた言葉にランドルフはまた溜息をついて、横柄に向き直った。
「……何が言いたい」
言ってみろとばかりに顎をしゃくられる。何かにつけて尊大ではあるものの、そんな姿も少しは心を許してくれたように思えて、マリアはくすりと笑みをこぼした。
「いいえ。ただ、ヘミングウェイ様と言葉を交わすランドルフ殿下は、年相応に見えましたわ、と」
「……ふん。戯言を」  
独りごちて、長い廊下を先へ行くランドルフを小走りに追いかけて、マリアは悪戯に微笑んだ。

「ねえ、殿下。今後、もし籍を入れましたら、その時はランディと呼ばせて頂いてもよろしくて?」
「……随分物好きな女だな。この俺を見てそう呼びたいなどと言うのか」
「ええ。わたくしが貴方に求めるのは、至って普通の、夫婦としての関係ですもの」
まだ幼さの残る声で答えると、ランドルフはまたもや急に足を止めた。ぶつかりかけて慌てて足を止めるマリアだが、その手を他でもないランドルフが強く引いた。よろめくような形で前につんのめると、ランドルフが強引にマリアの細い腰を寄せる。一瞬で数倍近くなった距離に、静かに心拍数が上昇しているようだった。「え、」と顔を上げると、ランドルフの冷たい鈍色の瞳の中に、マリアが映る。
「……夫婦としての関係を求める等とほざくのであれば、俺が貴様に求めるのは、こういった事だ。分かるな」
「──、こういった、こと、」
「ああ。男が女に求めるのは、何も安らぎや安息などと言う甘ったれたものばかりではない。それとも、まだ10そこそこの貴様では分からんか」
「…………」
案外に熱っぽく言い募られれば、か、と、マリアが俯いて反射的に頬を染めた。そういえば以前もこんな景色を見た、と、ランドルフは口元に楽しそうな笑みを浮かべた。
「そうか。貴様はその点、"早熟"なのだったか。
……くく、随分としおらしい顔だな。まるで市井の生娘の様で、──中々唆る」
「っからかわないで下さいませ。ご気分を害したようなら謝りますわ」
突っぱねるようにそう言えば、ランドルフは一瞬目を見開いてから気が抜けたように息を吐く。それから何事もなかったように両手を離して、数度払った。
「……分かれば良い。全く、砂塵姫なぞを懐に招いたせいで屋敷中埃臭くて敵わん。下女を呼びつけて掃除させるか」
「なっ、人がしおらしくして差し上げたと思えば!」
「ふん。貴様も呆けていないでさっさと湯浴みでもして、あの狐男と城下でも見てくればどうだ」
城下と聞いて、ぱっとマリアの顔が明るく花開く。
「殿下は行きませんの?」
「行かん。俺は未だ公務も残っているしな」
「まあ。随分お忙しいんですのね」
「無論だ。俺は腐っても一国の皇子なのだから。むしろ今日は貴様に時間を割き過ぎた」
「あ、……それもそうですわね。感謝致します」
「さっさと行け。見送りはいらん」
しっし、と、子猫でも払うように指先を動かすと、ランドルフはそれきり動かない。マリアは少々迷ったのち、軽く一礼して廊下を下っていった。
その背中を見つめ、ランドルフは人知れず溜息を零した。
「……俺も幾分、酔狂人らしい」
数年もすれば、この手に訪れる宝玉であるのに。
並び立つ二人の姿を見て、僅かだけであろうとも、傍に居させてやりたくなったのだ、などと。
或いは、そのまま恋愛歌劇の様に、彼らが共立って逃げ仰せてしまうならそれもまた、など、と。
 甘い、甘い言葉を、懐に隠して。
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