悪役令嬢に転生したので死亡フラグは拳で叩き折らせて頂きますわ!

依田まりん

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7、海辺の町をご覧あそばせ③

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「!」
女娼の子、という言葉に、マリアは思わず目を見開いた。いくら皇帝の血が通っているといえど、安宿の女娼婦の子であったとすれば、それは粗雑に扱われること必須だと言えるだろう。さらにルカは次男坊。長男に血筋も能力も問題ないランドルフがいるのだから。

「なんでも以前、皇帝が囲っていた気に入りの娼婦を孕ませたとか。使いの者からは腹の子も堕胎させるよう進言されていたようですが、陛下はそれに従わず、彼を女の腹から手ずから取り上げたそうです。
名も呼ばれぬ娼婦の命と引き換えに、ね」
「じゃあ、その子供というのが……」
「ええ。ルカ・エルドラド様、その方です」
「そう。それなら、彼のお母様は、もう」
レイは静かに首を横に振る。マリアはなんとなく俯いた。肉親の死という話題は、あまりに重い。平民どころか被差別階級の女性の子であり、かつ、既に後ろ盾は居ないのだ。畢竟彼の現在だって決して良いものではないのだろう。タイミングを見てレイが言葉を続けた。
「陛下はどうやらその娼婦を心より愛していたそうで。今日こそルカ様は日の目を見ぬよう隠されておりますが、いずれ彼の側仕えの者が下った暁には、再度皇位継承権を持つものとして召し抱えるつもりだ、などという噂も奉公人内にはございました」
「ランドルフ殿下のお母様はそれを知っているの?」
「おそらくは。ただ、御母堂は幸か不幸かあまり実子にも夫にも、更にはご自身の地位にすら興味のないご様子ですので、例えルカ様がもうひとりの継承者として公表されたとて、騒ぎ立てることはないでしょう」
「そう」
「……彼は現在、とある場所に軟禁されている模様です。その場所は彼によほど近しい下女のみにだけ知らされ、ヘミングウェイ様にも、ましてやランドルフ殿下にも知らされてはいない、とか」
それからレイは悪戯っ子のようにチラリとこちらを伺って、綺麗な顔に試すような笑みを浮かべた。高名なマジシャンの如き手つきでぱっと懐にその手を隠す。そうして、そこから、何やら黒のインクで走り書かれた短いメモ書きを一枚取り出してみせた。それを受けて、マリアは思わずはっとする。まったくこの執事、いかにしてこれほどの成果を残してくるのだろう。もはや脱帽の一言に尽きる。
「如何されますか、マリア様?」
人差し指と中指の間に切れ端を摘んだレイが問い掛ける。マリアは行儀悪くとろりと溶けた氷菓子を掻き込んで硝子の器を卓に下ろすと勢いよく立ち上がり、レイの細い指から端書きを引ったくって、ニヤリと口角を上げてみせた。

「決まっているでしょう。──突撃ですわ!」
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