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第2話 自己紹介

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 僕が唯ちゃんと話していると、突然ドアが開いた。


 「さあ、みんな席に着いて下さい。」


 おそらくというか間違いなくこのクラスの担任から指示が飛んだので、唯ちゃんはなんだかまだ話し足りない感じだったが、別れてすぐに席に着いた。


 「おはようございます。今日から一年間このNー1を担当させていいただく、日熊 祥子です。短い間ではありますが、よろしくお願いします。」


 陽の感性からすれば、随分と普通の黒髪黒目で眼鏡をかけた、20代くらいの若い先生だった。


 「(良かった、担任は普通そうだ。)」


 そんな感慨にも似た想いを感じていると、横の席に座っている、栗色のポニーテールの女子が話しかけてきた」


 「しかし、偶然ってよく起きるんだね~。陽君の隣の席になれるなんて思わなかったよ。」


 「あ、うん。そうだね。(何が偶然だよ。そんな偶然あってたまるか。)」


 そんな明らか唯を敵視したことを考えていると、担任が再び僕らに向けて喋り出した。


 「取り敢えず皆さん、自己紹介をしましょう。」


 その瞬間、それまで少しばかり騒がしかったクラスが一気に静まり返った。


 「(改めて思ったけど、なんだこのクラス....。)」


 陽がそう思うのも無理はない。なぜなら、周りのクラスメイトをみると、誰も彼もがだんまりを決め込んでいた。更に、普通のクラスよりも人数が圧倒的に人数が少ないことに気づかされる。


 「(だから、こんなクラス来たくなかったんだよ。もう既に、おかしい感じがするし。)」


 陽がやっぱりかって思って、ため息を吐きそうになったとき、それを遮る担任の声がした。


 「それでは、出席番号順に朝倉 唯さんからお願いします。」


 「ハイ!」


 そう言って、立ち上がった唯は、陽に小声で行ってくるね。と言ってから、黒板の目の前に行った。


 「それじゃあ、名前と出身中学、趣味や好きなことを教えてもらおうかな?」


 「分かりました。オホンッ。朝倉 唯です。中学は窪田中学校で、趣味は好きなものを見たり、調べたりすることです。好きなものは・・・・・秘密ですっ。一年間よろしくお願いします!」


 実に模範的な?自己紹介を完璧にこなした唯は足早に席へと戻って行った。


 「(さっき、好きなものの件で明らかにこっちを見ていたよな....。)」
 「はい、ありがとう。朝倉さん。じゃあ、次は高城 深雪さん」


 「はい。」


 そう言って、黒板の目の前に立ったのは、金髪で縦ロール状の髪型、いわゆるツインドリルヘアーの女の子だった。


 「私、高城 深雪と申すものですわ。以後お見知り置きを。中学は青葉中学、趣味は競馬ですわ。一年間よろしくですわ。以上ですわ。」


 「(ですわだとっ!?)」


 陽にしては珍しく興奮した面持ちで、現実にですわ口調の人間がいることに衝撃を受けていると、言いたいことを言い終えたのか、そそくさと高城 深雪は席に戻っていった。


 「あ、ありがとう高城さん。次は、鷺沼 秦灼君。」


 「フッ、時が満ちたようだな。いいだろう。」


 そんな意味が分からないことを口走りながら、黒板の目の前に立った男は、言った。


 「我は悠久なる時を生き、地獄の門を開く真の覇者。アストラル・グラビティ・ケルベロスである。我は過去、鷹月中を敵からの隠れ蓑にしていた。我が習慣は、幾つもの敵を滅ぼすこと、我が嗜好は、我が眷属を愛でることだ。貴様らと共にする運命の刻限(とき)、愉しませてもらおう。」


 鷺沼は、終始意味が分からないことを、正確には末期の中二病患者がいいそうなことを喋るだけ喋った後、気が済んだのか自分の席に戻っていった。


 「(うわーー。あー、ダメだこいつ。早くなんとかしないと。)」


 鷺沼が最早救えないのではないかと思うほどに重症だった為、陽は呆れていた。


 「え、あ、ああ、ありがとう。鷺沼君。それでは次は、玻座間 陽君。」


 「あ、はい。(順番おかしくね?)」


  予想外のタイミングで呼び出されたため、思わず気の抜けた返事になってしまった陽は、黒板に前に立った。


 「頑張ってね、陽君。」


 「あ、うん。」


 唯にエールを贈られながら、陽は事前に用意していた言葉をツラツラと述べていく。


 「玻座間 陽です。中学は西条中学校です。えーと、趣味は読書。好きなことは貯金です。一年間よろしくお願いします。」


 THE・無難と言われても仕方のないような、なんともつまらない自己紹介をして、普通に席へ戻っていった。


 「ありがとう、玻座間君。じゃあ次は・・・。」


 「(なんかすぐに終わったな。周りが衝撃的過ぎて、そう感じるだけか?)」


 「おかえり、陽君。すっごく良かったよー。」


 「ありがとう。でも、唯ちゃんも良かったよ。(それにしても、唯は今のところ何をしてくるわけでもないな。少しばかり、考えすぎだったか?)」


 「えへへ、あ、ありがとう。」


 そんなことを話していたら、あのロリ校長よりは背が高いが、余り背が高くない黒髪で、眼の色が少し青みがかかっているショートボブの女子生徒が、黒板の目の前に立った。


 「鉄杖 佳菜です。中学は、阿波中学。趣味も好きなことも特にないし、何に関しても興味ありません。一年よろしく。」


 とても毒々しい感じで、すごくコンパクトに自己紹介をした鉄杖はすぐに席に戻っていった。


 「(毒舌家って感じの匂いがプンプンするな。ていうか、校長が小学生位だとしたら、こいつは中学生位か。)」


 そんな明らか失礼な言葉を吐きながら、自己紹介が進んでいき、遂に最後の一人になった。


 「じゃあ、最後に東雲咲さん。」


 「は~~い。了解しましたぁ~~。」


 すっごくゆる~~い感じで黒板の目の前に立ったピンク色のセミロングの髪型の東雲は僕をチラッと見た気がした。
 

 「?(何だ?今、見られたような.......。)」


 「東雲 咲で~~す。中学は、詩句中で~~す。趣味と好きなことは、可愛いものを見ることでぇ~~~す。生徒会に入るつもりで~~す。一年間よろしくお願いしまぁ~~す。」


 「(一緒にいると気が緩みそうで、やりづらそうだなぁ。)」


 「ありがとう、東雲さん。これで全員ですね。改めて、一年間よろしくお願いします。」


 こうして、都合N-1の自己紹介が終わった。しかし・・・


 「(ですわに、中二病に、毒舌に、気がゆるゆる女か、まともな奴がまるでいないな。それに...。)」


 「陽君、どうしたの?」


 「いや、何でもないよ。唯ちゃん。」


 「そう?変な陽君っ。」


 「(一応、唯も気をつけておかないとな。)」

陽がそう意識した途端、陽の唯に対する警戒レベルが1から2に上がった。


 「(陽君は私が必ず守る。何があっても、陽君は私のモノだ。)」


 唯の陽に対する独占レベルが、100万から1000万に急上昇した。



 



 
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