老舗あやかし和菓子店 小洗屋

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座敷童のサチヨちゃん編

小洗屋のシラタマと座敷童のサチヨちゃん 3話

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「私のチカラって知ってる?」

 お茶をずずっとすすってサチヨちゃんはいう。
 シラタマは「知ってるよ」そういって胸を張って、言葉を続けた。

「座敷童一族は人間に幸福をもたらす妖怪って聞いてる! 素敵よね」
「そう。表向きは、ね」

 サチヨちゃんの声が少し暗い。
 表向き、とはどういうことだろう?

 シラタマは首をかしげつつ、甘納豆を口にふくんだとき、サチヨちゃんがゆっくりと話し出す。

「……その、お願いする人にとって良いことって、他の人にとって悪いことだったり、することもあるってこと」

 その言葉に、シラタマはハッとした。

 みんながみんな幸せになれる願いばかりじゃない──

 例えば、誰か1人が選ばれるものがあったなら、選ばれなかった人もいるってことになる。
 選ばれたい、と言う願いなら、選ばれなかった人にとっては悪いことって意味だ。
 お願い事は、平等じゃないんだ……

 シラタマの毛がしょぼんと沈んだのを見て、サチヨちゃんは額をなでる。

「シラタマちゃんは優しいのね」

 小脇に抱えていた鞠を床に転がしながら、サチヨちゃんは天井をみる。

「私はね、天気の願いを叶えられるの。雨が続いて晴れてほしいって願われたら、さっきみたいに晴れたり、晴ればかりで大変。雨がほしいって願われたら、雨を降らせたり」

 それを聞いたシラタマの顔が、パッと明るくなった。

「それなら、みんなの願いにもなるよ!」
「確かに、そうなの。でもね……」

 サチヨちゃんは、鞠をくるくると回し、ため息をついた。

「……私が憑いてるお家の子がね、運動会に雨を降らせて! ってお願いしだして……」

 もう一度ため息をつく。
 シラタマは首をかしげる。

「うんどうかい、ってなーに?」

 サチヨちゃんはぽんと手をたたく。
 妖怪には学校がない。
 だから、運動会もないのだ。

「えっと、運動会っていうのは、人間の子どもがかけっこしたり、玉入れしたりして、親にこれだけ運動ができるようになったよって、見せるお祭り、みたいな感じ」
「へんなの」
「へんよね」

 ふたりでクスクス笑いながら、シラタマは熱いお茶を注ぎ足すが、

「降らせたらいいんじゃないの?」

 別に雨が降ってもできるんじゃないかと思ったのだ。

「運動会はね、お外でやるの。だから雨が降ったら延期になるの」
「延期……」
「そ。結局は、絶対にやるのよ、運動会は。それに、なにより運動会を楽しみにしてる子の方が多いと思う。……でも私、憑いてる家の子のいう通りにしかチカラが使えない。だから、逃げてきたの。私、その子の運動会が終わるまで帰らないつもり」

 固い決意だ。
 シラタマは自分の力を使わせない、という選択ができるサチヨちゃんがかっこいいと思う。
 きっと自分なら仕方がなく雨を降らせていたと思ってしまう。

「サチヨちゃん、すごいね」

 ふわふわになった肉球で口元をかくして、シラタマはサチヨちゃんを見る。
 年は近いはずなのに、すごくお姉さんに見えてくる。
 でも一方で、どうして雨を降らせたいのか、気になってしまう。

「……ね、サチヨちゃん、どうしてその子は雨を降らせたいの?」
「運動会、したくないから、じゃないの?」
「かけっことか、嫌いな子なの?」
「ううん。運動は得意よ、その子」
「……じゃあ、なんで、運動会、その日にしたくないのかな……?」

 シラタマの疑問に、サチヨちゃんは答えられない。
 お互いに、どうしてだろうと、首を傾げることに。
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