老舗あやかし和菓子店 小洗屋

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座敷童のサチヨちゃん編

小洗屋のシラタマと座敷童のサチヨちゃん 4話

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 サチヨちゃんは、淹れたてのお茶を飲み、うんと頷く。

「どうしてかしら。私、みんながやりたいことを延長させるなんて、なんて意地悪な子なんだろう、自分勝手な子なんだろうって思っちゃったの……シラタマちゃんのいうとおりだわ。理由、知らないでダメだなんて、私、座敷童失格!」

 小皿にあった甘納豆を一気にかっこむと、サチヨちゃんはむっと顔を引き締めた。
 そして、鞠をてんてんとつきだす。

「ウチの子の願いを見せておくれ……ウチの子の願いを見せておくれ……ウチの子の願いを見せておくれ……」

 鞠は床を跳ねる。
 跳ねるたびに、色が黒く染まっていく。
 10回はついただろうか。
 テンテンというかわいい音から、ぼよんぼよんという音にかわったとき、鞠は透き通る球になっていた。
 それをサチヨちゃんが手のひらに乗せ、覗き込む。
 シラタマも便乗でぐっと覗き込むと、そこには、男の子がいる。

『……運動会、あと1週間伸びれば……絶対、飛べるのに……!』

 ぼやく男の子の手には長い縄が握られている。

『はぁ……週末は晴れかぁ……もう少しだったのにな……』

 振り返った少年には小さく首をふる女の子がいる。

『ごめんね、あたしがどんくさいから』
『ちがうって! タイミング、だいぶわかったじゃん。できるんだって!』

 みんなで小柄な女の子を励ます姿が浮かび上がる。
 何が起こっているのか、さっぱりなシラタマだが、サチヨちゃんの顔は驚きに満ちている。
 ガバッと顔を上げると、鞠はいつものかわいい鞠に戻ったが、サチヨちゃんが急に落ち着きがなくなる。

「どどどどうしたの、サチヨちゃん」
「シラタマちゃん、さっきのは大縄跳びっていう、運動会で行う種目なの。クラスのみんなで縄跳びを飛ぶの。……あの、小柄な女の子と、クラスのみんなが飛びたいから、ウチの子は雨を降らせたかったのよ!」

 なんてこと! そう叫んで、サチヨちゃんは小屋を飛び出していく。

「……あ、シラタマちゃん、ありがと! 本当にありがと! お礼、絶対するから!」

 大雨のなか走り出したサチヨちゃんだけど、力がみなぎっているのか、彼女の周りだけ雨が降らない。
 便利だなぁとシラタマはのんびり思って、サチヨちゃんに肉球の手を振る。

 大きく振り返してくれたサチヨちゃんは瞬く間に小さくなって、消えていった。
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