老舗あやかし和菓子店 小洗屋

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ぬらりひょんの孫・セイヤくん編

小洗屋のシラタマとぬらりひょんの息子・セイヤくん編 2話

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 今日はシラタマはお休みの日。
 理由は簡単だ。
 父と母が隣町まで仕入れにでかけたからだ。

 仕入れに一緒に行くこともあるが、今日は色々と打合せもあるそうで、シラタマは留守番となった。
 今日の帰りは夕方だと聞いている。
 こういう日は作ってくれたおにぎりをもって、読書をしにいくのがシラタマの過ごし方になる。

 今日は少しにぎやかな駅前の公園にいくことにした。
 たくさんの人の声を聞きながら本を読むのも楽しいのだ。

 駅前には商店街が並び、昨日会ったぬらりひょんの賢造爺けんぞうじいちゃんの駄菓子屋もある。
 隣はお茶屋さん。これは、セイヤくんのお父さんが商いをしていると聞く。
 この公園でセイヤくんに会ったことはなかったが、シラタマは昨日のアッカンベーを思い出してしまった。

 場所をかえようかな。

 ちょうどいい木陰のベンチから立ちあがろうとしたとき「よいしょ」と声がする。

「シラタマちゃんがこの公園くるの、めずらしいねぇ」

 豆腐小僧のヨツロウくんだ。

「見てぇ、シラタマちゃん。お豆腐の皿、2つ乗せて、絵が描けるようになったよぉ!」

 そういうヨツロウくんは立ったり座ったりしてみせるが、豆腐はふるんと揺れる程度で、落ちる様子がない。

「ヨツロウくん、すごいじゃない!」
「うん! あれからいっぱい練習したんだぁ。それに、これ、便利なんだ。紙、しっかりおさえてくれるし」
「絵を描くのも、ものすごくはやくなってる」
「そうかも。お豆腐がなるだけ乾かないうちに、って思って」

 ふんと胸を張るヨツロウくんだが、手の動きは止まらない。
 座って公園の噴水を描くヨツロウくんに、シラタマは尋ねる。

「乾かないうちにってなんのこと?」
「描き終わったら、このお豆腐、食べるからねぇ」

 着物の袖からだしたのは、お弁当用の醤油入れだ。魚型に赤い蓋のついた定番のものだ。
 それが5個、出てくる。

「あ、あとお塩もあるよ。お塩はね、絵の具を塗るとき使えるし、お豆腐でも使えて、便利だよねぇ」
「……そう、だね」

 自分の家のお豆腐が大好きなのは知っていたが、まさかこれほどとは。
 でも、シラタマだって自分の家の餡子は、誰よりも大好き!

 すぐにヨツロウくんは真剣な目で噴水を見つめ出した。
 絵を描くことに集中しはじめたのだ。
 シラタマもヨツロウくんにつられるように、持ってきた本を読み始める──


 正午を指すサイレンが響く。
 お昼にさしかかり、ヨツロウくんは画板の上のお豆腐を下ろし、懐から竹の葉で包まれたお稲荷さんを取り出した。

「もうお昼なのね」

 シラタマも膝にのせていた風呂敷から笹の葉につつまれたおにぎりをとりだす。
 今日は母ちゃん特製のサンマ甘露煮おにぎりだ。
 少し小さめのご飯に、サンマの甘露煮をのせ、笹の葉でくるりと巻く。
 煮汁がご飯に染み込み、まるで炊き込みご飯のようなおにぎりに!
 さらに甘露煮は骨までしっかり柔らかくて、とろけてしまう。
 今日はそれに大福が3つある。
 大福が3つ、の意味は、友だちといっしょなら、分けて食べなさい。という意味だ。

「今日ね、大福があるの。ヨツロウくんも食べない?」
「いいの? ぼく、小洗さんの大福も大好き」

 サンマの甘露煮おにぎりと、お稲荷さんを交換しつつ、お昼を楽しんだあと、大福は3時のサイレンのときに食べようと決まった。

 お互いの席の間に大福の包みを置き、再びのんびり時間を過ごそうとしたとき、


「ここはー、おれ様のー、陣地だー!」


 とても大きな声だ。
 噴水の向こう側から、騒ぐ声もする。

 シラタマは驚いて顔を上げると、あのセイヤくんが、そこにいた。
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