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第2章 カフェから巡る四季

第116話 新玉ねぎのまるごと焼き

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 春めいてきたのもあり、日中は少なからず温かい。
 新しいことを始める人も増え、新しい場所に身をおく人も多い。

 そんな時期だが、変わらない人たちもいる。

 三井と連藤だ。

「莉子ぉー、なんか1品ぁー」

 今日はロゼワインでスパイシーな料理というリクエストがあり、グリーンカレーやら、トムヤンクンやらと、手作りと市販の素を使って、料理を出していたのだが、まだ食い足りないと言い出すとは。

「まだロゼワインが残っているしな。何ができるだろう?」

 もうやめておけ、っていったのに、3本目のロゼを開けたからだ!

 と莉子は言いたくなるのをぐっと飲み込み、冷蔵庫の中身を思い出す。

「あー、新玉があるので、それで1品作りますね」

 莉子は厨房へと潜っていく。

 野菜室から新玉ねぎを2つ取り出す。
 玉ねぎの頭とお尻を切り落とし、皮を向いて、十字に切り込みを入れる。
 さらにバターを一欠片乗せて、ラップをふんわりかけてからレンジにかけていく。

 大きさにもよるが5分~7分で完成するのが、この丸ごと新玉ねぎ焼きだ。

 オーブンで火を入れるのなら20分ぐらいは見たほうがいい。
 莉子はいつも電子レンジを3分ほどかけてから、オリーブオイルと塩をまぶして、アルミホイルで包み、オーブンで焼いていくが、今日はその時間はないと判断。

「ちゃんとできるかなぁ……」

 合図があがるまで、ぬるくなったロゼを飲みながら、莉子は待つ。

「私の分も作ればよかったな」

 眺めているうちに、時間が減り、メロディーが流れた。
 莉子はさっとラップを外し、突いてみる。

「おー……いい感じのしゃきトロ」

 玉ねぎをひっくり返して、バターを両面になじませてから、乾燥パセリを散らせば、それっぽい1品だ。

 莉子は2人の前に熱々を運び、となりに醤油差しを添える。

「はい、新玉ねぎの丸ごと焼き。醤油はお好みでどーぞ」

 三井はさっそくと箸を刺し、ぺろりと1枚、むいていく。

「おー、とろとろとしゃきっとしたのと、いい感じ」

 連藤の分は莉子が適宜に切り、差し出すと、1枚、箸でつまみあげる。

 2人は醤油をかけずに、そのまま玉ねぎを口に含んだ。

「「……甘い」」

 新玉ねぎの魅力だ。
 甘みが強い!
 そして、水分がたっぷり含んでいて、ジューシーなのである。

「うまいぞ、これ」
「莉子さん、これなら1つを簡単に食べれてしまう……」

 有塩バターを使ったのがよかったのか、醤油はいらなそうだ。
 ほんのりとしたバターの塩味と玉ねぎの甘みでロゼがするすると進んでいく。
 莉子はそんな2人を眺めて、ナッツを口に放り込む。

 店内の時計を見ると、夜の11時を回っている。
 今日はこれでお開きになりそうだ。

 〆の甘みに、新玉ねぎもいいな。
 莉子は頭の中に、メモをした。
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