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第48話 式典の夜
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2人で楽しくお風呂を上がると、下の店から騒がしい声が……
「……リコ、いっぱい人がいる……」
「だよね……どうなってんの……?」
2人は慌てて服を着替え、濡れた髪のまま、カーレン先頭に厨房へと降りていく。
莉子の武器はスマホだ。警察署への番号は入力済み。もう押すだけである。
カーレンは右手に氷の球を浮かばせ、そろりそろりと階段を降りていく。
隙間を覗くようにドアを開けるが、その扉が勢いよく引き開けられた。
転がるように2人は厨房へと飛び出すが、すぐに体勢を整え直そうとしたとき、莉子の体は不意に浮いた。
「……よかったリコ、無事でよかった……」
泣きそうなイウォールの顔がすぐそばにある。
頭を抱えるように抱きしめられ、莉子はうまく動けない。
そっと横を見ると、わんわん泣きながらカーレンに抱きつくエリシャがいる。
「わぁぁぁぁカーレン、怪我なかった? 私のせいだあぁぁぁワァァァあぁぁぁぁ」
イウォールたちと店に出ると、そこにはトゥーマとアキラ、ケレヴもいる。
だが、いつもと違う。
みんなエルフの民族衣装だ。
トゥーマは黒いチュニックをベースに、銀色の刺繍が施されたマントや肩章など、あちこちの装飾が光る。莉子の目から見ても、貴族! という、出で立ちだ。
アキラは紫のチュニックがベースだが、マントはなく、胸の前に下がる半透明の布が印象的。だがそれでもとても上の位の人間なのが雰囲気でわかる。
アキラのとなりに立つケレヴはなんと、簡易的な甲冑姿だ!
朱色のチュニックを着ているが、革ベルトに腰に剣が下がり、肩と胸には金属の防具が備え付けられている。背にはマントがあり、よく見るファンタジーの騎士様、という姿そのもの──
「かっこいい……」
莉子が思わず呟くが、そっと髪をなでるイウォールを見ると、イウォールは銀色の衣装を身にまとっていた。よくみればいつものメガネはない。髪の毛の編み込みは幾重にもほどこされ、三つ編みにも紐がからむ。その紐には何やら文字が見えることから、正式な髪型のようだ。
服は光沢のある布で銀色。シワのより方で白にも見え、それが銀髪と相まって似合っている。
だがそれ以上に、彼が高貴な存在であることが衣装からよくわかる。
莉子の頭をなでる。そんなことはしてはいけない相手に見えてくる。
……そう、格が違いすぎる───
「リコの驚いた顔もかわいいな」
目を細めながら、イウォールは莉子の頬を指でなでてくるが、莉子には別人としか思えない状況だ。
思わずイウォールの手を莉子は取り上げたが、彼は変わらずいつもどおり。
「ついに私の気持ちを受け取って」
「ちちちちがいます!」
思わずどもった莉子を、イウォールは可愛らしいと優しく抱きしめた。
いつもならここで足払いが決まるはずなのだが、今日はそうはならなかった。
「本当に、何もなくてよかった……」
心の奥からの安堵の声だ。
耳元にそっと囁かれたそれは、莉子を本気で思ってくれての声だけに、ぞんざいに扱うことなどできない。
「さ、婚姻の印に、口づけを……!」
莉子の足払いが決まった。
よくよく話を聞くと、2人がお風呂を出たあたりで、みんなが到着したことまでは理解した。
ただ、ここへ戻ってきた理由は、
「私の魔石が異様な反応をしたから!」
と、エリシャ談。
店の鍵はイウォールが持っていたため、それでみんなで入ったそうだ。
だが、肝心の2人の姿がない……!
さらには、昼食の食器が出されたままだったため、何か急なことが起きたと判断。
あたりを捜索しようかと動き出したとき、2階から降りてくる足音がして……
からの、さっきの流れへ───
「なるほど。ご心配、おかけしました……」
「……ごめん、みんな……」
謝る2人だが、特にカーレンの落ち込み方はひどい。
そんなカーレンの頭を、トゥーマがわしゃわしゃとかきあげた。
「そんな落ち込むなって! みんな無事ならいいんだよ、それで」
トゥーマの声にゆっくり頷いたカーレンを見て、莉子は少し安堵する。
その折、たまたま店内の時計を見た莉子だが、まばたきを数回した。
「……えっと、まだ式典、続いてません?」
今日は15時まで式典。そのあと、会食があるとテレビで言っていた。
タイムスケジュールの公表はこういうときに役に立つ。
ちなみに現在は14時。すでにアイスショーは終わり、エルフ歌舞伎が行われる時間だ。
「あー、それな。国王が仕事にならねぇからって、イウォールとエリシャ、強制送還」
ケレヴが肩をすくめて、莉子へ言った。
それに合わせてアキラとトゥーマも肩をすくめるが、原因となったエリシャとイウォールは涼しい顔だ。
「だってしょうがないじゃない。カーレンとリコの危機だったんだもん! 私の魔法陣は近くの映像も見せてくれるの。本当にびっくりしたんだから!」
「それをエリシャから聞いて、私も居ても立ってもいられず。だって私は莉子の夫となる男だぞ!」
「……はいはい。じゃあ、なんで3人もこちらに?」
莉子の質問に3人は顔を見合わせるが、口を開いたのはトゥーマだ。
「式典、座ってるだけで面倒だったから、イウォール口実に抜けてきた。2人じゃ危ないしーとかなんか言って。エスガルも来たそうにしてたけど、あいつ、無理だしな」
「さすがにエスガル様は国王だもん、抜けてこれないよ」
ケラケラとしゃべっているが、莉子には不安が襲ってくる。
「あああああの、それって大丈夫なんですか!?」
「僕ら以外にもその役割ができる人は、いっぱいいますから」
「そうそう、俺たちいなくても回るんだよ、世界は」
「職務怠慢というか、任務放棄というか……」
莉子が頭を抱えたとき、イウォールのスマホが震えた。
民族衣装にスマホのミスマッチさはすごいが、イウォールの顔がすぐに引きしまる。
「……はい。ガンディア様、……はい、もう大丈夫です……はい、はい、問題ありません……はぁ……じゃがいも料理、ですか……まあ、聞いてみますけど……はい、はい、……はい」
イウォールがすっと莉子へスマホを差し出した。
「第一国王のガンディア様だ。話がしたいそうだ。かわれるだろうか?」
莉子は戸惑いながらもそれを受け取り、スマホを耳に当てる。
「は、はははい、あの、」
『あ、君がリコ、だね。私は第一国王のガンディアだ。チュウニと呼んで欲しい』
「……はぁ」
『ケガはなかったと聞いたが、エルフのことに何やら巻き込んでいるようで、これは早急に対応しようと動いている』
「あ、はい、ありがとうございます」
『で、ひとつお願いがあるんだ。明日のディナーでジャガイモの料理を2品以上つく……』
小さなうめき声と、ガサゴソという布ずれの音がしたあと、
『……あ、もしもし、俺はコンダクターの至っていうんだけど、ジャガイモの料理はどうでもいいや。とりあえず、君が無事ならよかった。明日はよろしく頼むね。またイウォールにかわってもらえるかな』
一体何が起きているのかとスマホをにらみながら、イウォールに返すが、イウォールは莉子に眉を上げて、どうだと言わんばかりの表情で通話を続けている。
「……エルフって、なんなんですか……?」
「いいからいいから! 今日は日本の警備も厚くて、ほぼパレードで私たちの出番終わってたの。安心してね、リコ。……それよりも」
エリシャは莉子の姿を見て、ふんと鼻で息をつく。
「なんですか……?」
「ね、せっかくなら、エルフの衣装、着てみない?」
そう言ったエリシャの動きは早かった。
それこそ、疾風の如く!
「10分、家に帰るけど、待っててよ! 衣装持ってくるだけだから!」
言う通り、彼女は一旦、異世界の自宅へ。莉子とカーレンに似合うであろう色合いと、ちょうど良さそうな丈の民族衣装を旅行鞄いっぱいに詰め、本当に10分で戻ってきた。
「さ、式典の続き、ここでもしましょ? 男性陣は夕食の手配をしてよ。ちょうどテーブル組まれてるから、ケータリングでも頼んでおいて。1時間後には、可愛いカーレンとリコを、私が連れてくるわーーーー!!!」
なぜかプチ式典がお店で始まる流れに!
「……リコ、いっぱい人がいる……」
「だよね……どうなってんの……?」
2人は慌てて服を着替え、濡れた髪のまま、カーレン先頭に厨房へと降りていく。
莉子の武器はスマホだ。警察署への番号は入力済み。もう押すだけである。
カーレンは右手に氷の球を浮かばせ、そろりそろりと階段を降りていく。
隙間を覗くようにドアを開けるが、その扉が勢いよく引き開けられた。
転がるように2人は厨房へと飛び出すが、すぐに体勢を整え直そうとしたとき、莉子の体は不意に浮いた。
「……よかったリコ、無事でよかった……」
泣きそうなイウォールの顔がすぐそばにある。
頭を抱えるように抱きしめられ、莉子はうまく動けない。
そっと横を見ると、わんわん泣きながらカーレンに抱きつくエリシャがいる。
「わぁぁぁぁカーレン、怪我なかった? 私のせいだあぁぁぁワァァァあぁぁぁぁ」
イウォールたちと店に出ると、そこにはトゥーマとアキラ、ケレヴもいる。
だが、いつもと違う。
みんなエルフの民族衣装だ。
トゥーマは黒いチュニックをベースに、銀色の刺繍が施されたマントや肩章など、あちこちの装飾が光る。莉子の目から見ても、貴族! という、出で立ちだ。
アキラは紫のチュニックがベースだが、マントはなく、胸の前に下がる半透明の布が印象的。だがそれでもとても上の位の人間なのが雰囲気でわかる。
アキラのとなりに立つケレヴはなんと、簡易的な甲冑姿だ!
朱色のチュニックを着ているが、革ベルトに腰に剣が下がり、肩と胸には金属の防具が備え付けられている。背にはマントがあり、よく見るファンタジーの騎士様、という姿そのもの──
「かっこいい……」
莉子が思わず呟くが、そっと髪をなでるイウォールを見ると、イウォールは銀色の衣装を身にまとっていた。よくみればいつものメガネはない。髪の毛の編み込みは幾重にもほどこされ、三つ編みにも紐がからむ。その紐には何やら文字が見えることから、正式な髪型のようだ。
服は光沢のある布で銀色。シワのより方で白にも見え、それが銀髪と相まって似合っている。
だがそれ以上に、彼が高貴な存在であることが衣装からよくわかる。
莉子の頭をなでる。そんなことはしてはいけない相手に見えてくる。
……そう、格が違いすぎる───
「リコの驚いた顔もかわいいな」
目を細めながら、イウォールは莉子の頬を指でなでてくるが、莉子には別人としか思えない状況だ。
思わずイウォールの手を莉子は取り上げたが、彼は変わらずいつもどおり。
「ついに私の気持ちを受け取って」
「ちちちちがいます!」
思わずどもった莉子を、イウォールは可愛らしいと優しく抱きしめた。
いつもならここで足払いが決まるはずなのだが、今日はそうはならなかった。
「本当に、何もなくてよかった……」
心の奥からの安堵の声だ。
耳元にそっと囁かれたそれは、莉子を本気で思ってくれての声だけに、ぞんざいに扱うことなどできない。
「さ、婚姻の印に、口づけを……!」
莉子の足払いが決まった。
よくよく話を聞くと、2人がお風呂を出たあたりで、みんなが到着したことまでは理解した。
ただ、ここへ戻ってきた理由は、
「私の魔石が異様な反応をしたから!」
と、エリシャ談。
店の鍵はイウォールが持っていたため、それでみんなで入ったそうだ。
だが、肝心の2人の姿がない……!
さらには、昼食の食器が出されたままだったため、何か急なことが起きたと判断。
あたりを捜索しようかと動き出したとき、2階から降りてくる足音がして……
からの、さっきの流れへ───
「なるほど。ご心配、おかけしました……」
「……ごめん、みんな……」
謝る2人だが、特にカーレンの落ち込み方はひどい。
そんなカーレンの頭を、トゥーマがわしゃわしゃとかきあげた。
「そんな落ち込むなって! みんな無事ならいいんだよ、それで」
トゥーマの声にゆっくり頷いたカーレンを見て、莉子は少し安堵する。
その折、たまたま店内の時計を見た莉子だが、まばたきを数回した。
「……えっと、まだ式典、続いてません?」
今日は15時まで式典。そのあと、会食があるとテレビで言っていた。
タイムスケジュールの公表はこういうときに役に立つ。
ちなみに現在は14時。すでにアイスショーは終わり、エルフ歌舞伎が行われる時間だ。
「あー、それな。国王が仕事にならねぇからって、イウォールとエリシャ、強制送還」
ケレヴが肩をすくめて、莉子へ言った。
それに合わせてアキラとトゥーマも肩をすくめるが、原因となったエリシャとイウォールは涼しい顔だ。
「だってしょうがないじゃない。カーレンとリコの危機だったんだもん! 私の魔法陣は近くの映像も見せてくれるの。本当にびっくりしたんだから!」
「それをエリシャから聞いて、私も居ても立ってもいられず。だって私は莉子の夫となる男だぞ!」
「……はいはい。じゃあ、なんで3人もこちらに?」
莉子の質問に3人は顔を見合わせるが、口を開いたのはトゥーマだ。
「式典、座ってるだけで面倒だったから、イウォール口実に抜けてきた。2人じゃ危ないしーとかなんか言って。エスガルも来たそうにしてたけど、あいつ、無理だしな」
「さすがにエスガル様は国王だもん、抜けてこれないよ」
ケラケラとしゃべっているが、莉子には不安が襲ってくる。
「あああああの、それって大丈夫なんですか!?」
「僕ら以外にもその役割ができる人は、いっぱいいますから」
「そうそう、俺たちいなくても回るんだよ、世界は」
「職務怠慢というか、任務放棄というか……」
莉子が頭を抱えたとき、イウォールのスマホが震えた。
民族衣装にスマホのミスマッチさはすごいが、イウォールの顔がすぐに引きしまる。
「……はい。ガンディア様、……はい、もう大丈夫です……はい、はい、問題ありません……はぁ……じゃがいも料理、ですか……まあ、聞いてみますけど……はい、はい、……はい」
イウォールがすっと莉子へスマホを差し出した。
「第一国王のガンディア様だ。話がしたいそうだ。かわれるだろうか?」
莉子は戸惑いながらもそれを受け取り、スマホを耳に当てる。
「は、はははい、あの、」
『あ、君がリコ、だね。私は第一国王のガンディアだ。チュウニと呼んで欲しい』
「……はぁ」
『ケガはなかったと聞いたが、エルフのことに何やら巻き込んでいるようで、これは早急に対応しようと動いている』
「あ、はい、ありがとうございます」
『で、ひとつお願いがあるんだ。明日のディナーでジャガイモの料理を2品以上つく……』
小さなうめき声と、ガサゴソという布ずれの音がしたあと、
『……あ、もしもし、俺はコンダクターの至っていうんだけど、ジャガイモの料理はどうでもいいや。とりあえず、君が無事ならよかった。明日はよろしく頼むね。またイウォールにかわってもらえるかな』
一体何が起きているのかとスマホをにらみながら、イウォールに返すが、イウォールは莉子に眉を上げて、どうだと言わんばかりの表情で通話を続けている。
「……エルフって、なんなんですか……?」
「いいからいいから! 今日は日本の警備も厚くて、ほぼパレードで私たちの出番終わってたの。安心してね、リコ。……それよりも」
エリシャは莉子の姿を見て、ふんと鼻で息をつく。
「なんですか……?」
「ね、せっかくなら、エルフの衣装、着てみない?」
そう言ったエリシャの動きは早かった。
それこそ、疾風の如く!
「10分、家に帰るけど、待っててよ! 衣装持ってくるだけだから!」
言う通り、彼女は一旦、異世界の自宅へ。莉子とカーレンに似合うであろう色合いと、ちょうど良さそうな丈の民族衣装を旅行鞄いっぱいに詰め、本当に10分で戻ってきた。
「さ、式典の続き、ここでもしましょ? 男性陣は夕食の手配をしてよ。ちょうどテーブル組まれてるから、ケータリングでも頼んでおいて。1時間後には、可愛いカーレンとリコを、私が連れてくるわーーーー!!!」
なぜかプチ式典がお店で始まる流れに!
応援ありがとうございます!
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